『 嫉 妬 』

たまに不思議に思うことがある。

なんで俺とお前は、別々なんだろう・・・って。



「三番隊三席  です。書類お持ちしました。」
「入れ。」


そろりと顔を除かせるのは、三番隊で三席を貼ってる実力のある
どうもコイツには謎ばかりが存在する。
一番の謎は・・・その年齢にある。
何せ、あの四番隊の卯ノ花を黙らせる事が出来るくらいの奴なんだからな。

「日番谷隊長、こちらに印をお願い致します。」
「わかった。そこに座って待っててくれ。」
「了解です。」

の顔を見る事もなく、書類へと視線を走らせる。
視界の隅には、彼女の顔。
ほんわかしていて・・・心地よい。
書類に目を通し終わり、印を押す頃を見計らったように、が席を立った。

「ありがとうございます。」

ふわりと笑みを向ける
俺は書類を渡しながらやっとと視線を合わせた。

「市丸の野郎は、またサボリか?」

それには苦笑で答える
確かに、市丸は仕事をせずにどこかにトンズラする・・・
そう言う意味では、同期である松本の同じなんだが・・・。
市丸が逃げれば、その下にいる吉良に負担がかかるし、吉良に負担がかかれば、このにだってかかる。
俺はそっとの頬に手を添えた。

。」
「っ!今、仕事っ・・・」

スリ・・・と心地よい肌さわり。
俺の表情は自然と優しいものへと変わっていた。

「今は誰もいねぇ。」
「・・・うん。」

紅くなって視線をそらす
常に沈着冷静で、何事にも肝が据わってると言われるあのが・・・俺の前で唯一魅せる女の表情。





そう。




は俺の女だ。








初めて好きになって、初めて欲しいと思った女。

「無理・・・してねぇか?クマできてるぞ。」
「イズル君ほどじゃないから。」

吉良ほどのクマが出来るくらいだったら、隊長権限で十番隊に異動させてる。
いまだそれをしないのは、何故かが市丸にご執心って事だけだ。

「あのな、吉良みたいになったら、俺は市丸を殺してる。」
「もう、すぐに殺すとか言うんだから。良くないよ、そう言うの。」

本当のことだから仕方ない。
俺はポンとの頭に手を乗せた。

「その状態じゃ、今日も定時は無理ぽいな。」
「ごめんね・・・乱菊とかに謝っておいて。」
「まぁ、飲み会なんて朝方までやってんだろうから、顔出せよ。」
せや、が来てくれへんと、ボク寂しくて死んでしまうんねん。

言葉だけが後ろから飛んでくる。
日番谷とは、同時に後ろを振り返った。
いつの間にか市丸隊長の姿。
腕を組み、扉に体をもたらせてこちらを見つめている。
いつものような笑みなのに、そこに怒りを感じる。

「市丸、入室の許可した覚えはねぇぞ。」
「いややわぁ、十番隊長さん。そないに喧嘩腰で。」
「出てけ。」
「ボクのちゃんの帰りが遅いから、心配して来ただけやのに。」

そう言われて、俺はに視線を向けた。
は苦笑混じりに、軽く会釈するとスルリと俺の前から遠ざかっていく。

「市丸隊長、帰ろ。イズル君のヒステリーもう聞き飽きた。」
「なんや、イズルはまた癇癪おこしとるん?そら、も大変やったなぁ。」
「だから・・・市丸隊長が」

は言葉を紡ごうとした時、市丸はの唇を指で押さえた。
訳がわからず見上げる

、十番隊長さんの前やからと、そんな言い方せんでええで?いつもの通り呼び。」
「え。」

はちらりと俺に視線を向けた。
いつもの通り?
俺が黙って二人の会話を見ていると、は仕方ないと言うようにため息を零した。

「ギンが仕事してくれれば、いいの。」
「!!」





ギン・・・。



市丸を下の名前で呼んだ事実に愕然とした。
俺だって名前で呼ばれた事ねーのに。
市丸はニヤリと勝ち誇った笑みを浮かべると、の肩に手を置いた。
その瞬間、俺の霊圧が高まったのは言うまでもない。
霊圧の高まりに、驚きは日番谷の方を振り返った。

「日番谷隊長?どうなさったんですか!?」
「・・・なんでもねぇ。」
「でも」
さっさと出てけ!!

思わず叫んでしまった。
叫んだ瞬間にしまったと思った。
の悲しそうな顔。
俺はふいに視線をそらした。

「そないに怒鳴る事ないやろ。イヤ〜、こないに震えて。」

そう言いながら、市丸はの事を自分の胸へとしまい込む。
隊長の霊圧をまともに浴びれば、冷や汗もかく。
立ってられるところが、の謎の一つでもある。

「十番隊長さん、ボクのに何かあったら・・・殺すで?

すっと開かれる紅い目。

「それは俺の方だぜ、市丸。」
「雛森ちゃんに血ィ流させた時だけやろ?十番隊長さんは、雛森ちゃんをしっかり見張っとかなあかんでぇ?
は・・・」

クイとをさらに抱きしめる

「ボクがちゃーんと守りますわ。ボクの隊員でもあるし・・・な、?」
「な?って言われても・・・。」
「イズルもまっとるやろし、ほな、いこか。」

市丸はの肩を軽く押して、日番谷の執務室を出るようにし向けた。
部屋を一歩出たとたんに、市丸はまた立ち止まった。

「そや。」

ふいと振り向かれる市丸の顔。
ニヤリと口角を上げた、得意の表情。

「十番隊長さん、二兎追う者は一兎も得られへんよ。



終わり

後書き 〜 言い訳 〜
 
 
ここまで読んで下さり
心より深くお礼申し上げます。
 
 

 
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
 

再掲載 2010.11.02
制作/吹 雪 冬 牙


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