『ち ょ っ と し た 日 常 』

十番隊三席でもあり、裏では零番隊隊長である 
確かに、今は十番隊隊長である日番谷隊長はいない。
久しぶりの非番だと言っていたから、こちらには来ない事は決定。




それにしても・・・





この有様はどうだろうか・・・。






「松本副隊長、お仕事・・・しましょうよ。」

隊長室に置いてあるソファーに寝そべって、「現世の哲学」と称して、占い本を読んでいる我が十番隊の副隊長、松本乱菊。
全くと言って良いほどに、書類の山は無くならない。
ちらりと、横目で見ては常日頃から日番谷隊長が「さぼりの常習」として頭を悩ませていると言うのが分かる。

「んーもう、少しは肩の力抜いた方がいいわよー?今日は隊長もいないんだし。」
「いないからこそ、抜けないんでしょうが。」

そう言っても、せんべいを食べながら、雑誌から顔を上げない。
ある意味、これが日常なのかもしれない。
諦めて、零番隊に来てる書類と、日番谷隊長に来てる書類を裁いていると・・・

「ねぇ、日番谷隊長って口づけ好きなの?」
「はぁ?」

唐突な質問。
は瞬時に顔が真っ赤になった。

「な、な、な、」
「何言ってるの…じゃなくて、ホラこれ見てよ。酸素取られるのが嫌だからって、口づけ拒む男がいるみたいなのよ。」

酸素を取られるって・・・どんだけ。
乱菊に雑誌を目の前に出されて、ソレを手に取ると・・・
確かにそう書いてある。
それにしても、くだらない雑誌ね・・・コレ。

「昔に窒息しそうになった事であるんじゃないんですか?」
「あーもう!隊長いないんだから、口調もいつも通りにしてよー。」

ぶうと頬を膨らます乱菊。
仕方ないとため息を零すと、私は書類を持ち、乱菊の前へと移動した。

「で?隊長ってどうなの?」
「どうって言われても、普通なんじゃないの?」
「ちゃんと大人の口づけ出来るの?」
「・・・。」

すでに好奇心が勝ってる乱菊。
何を言っても仕事などしないだろう。
も諦めたのか、手にいていた筆を離した。

「あ、やっと休憩する気になった!?」
「乱菊、お茶。」
「はーい、ただ今〜♪」

給湯室へ鼻歌交じりで向かう。
あーあ。
冬獅郎に頼まれていたのになぁ。
乱菊がさぼらないように、監督頼むって・・・これじゃ、共犯ね。

先輩、お茶でーす♪」
「ありがと。で?冬獅郎の何を知りたいのよ。」
「だって、隊長ってお子様でしょ?先輩クラスじゃ物足りないんじゃいかと思って。」

先輩。
そう、は乱菊の先輩に当たる。
と言うか卯ノ花隊長よりも上なのだから、実年齢はいかほどなのか・・・。
見た目は、乱菊よりも若いと言うのに。
熱いお茶をすすり、は半目になって乱菊の事を見た。

「ギンに何言われたの?」
「え!?」

ドキンとした顔をした乱菊は、明後日の方角へと視線をそらした。
こんな事言うなんて、どう考えても市丸ギンしか考えつかない。
は、グイと乱菊に詰め寄った。

「乱菊?」
「うーわかりました。白状します。ギンに頼まれたんですよ。先輩と隊長ってどんな仲なのか。
色々と上手いのか・・・とか。」

はぁ。
ギンの奴・・・何考えてるんだか。
呆れたと言うように、さらにお茶をすする
乱菊はパンと目の前で手を合わせて頭を下げた。

お願いです!教えてください!!でないと、私、
ギンに7日分の食事をおごらないといけないの!!!


ほおーまた嫌な×ゲームな事。
ってか、私と冬獅郎の間の話が、たった食事7日分なのかねぇ。
さてと・・・どうしたもんか。

先輩!」

うるうるとした目。
この目に何人の奴が騙されて来てるか。

「さすがは天才って事よ。」
「へ?それってどういう・・・。」
「あのね、私だって初めておつきあいした人が冬獅郎なんだから。」

と告白した瞬間。
乱菊の絶叫が隊舎に響きわたった。
キーンとする耳を塞いで、乱菊を見れば、それは信じられないと顔全面に書かれていた。

先輩、初めてなんですか!?」
「当たり前でしょ。零番隊で頭はってて、そんなヒマないわよ。それに好きな人なんて作っていけないって
総隊長からの命令もあったしね。」
「でも、どうして?」
「どうしてって言われても・・・気持ちには嘘はつけないからね。」

そう。
気が付けば冬獅郎が心に住んでいた。
だから、それが恋だと気づくのも遅れた。
今まで通りに、数多くの死神を鍛えて、それ相応の席次に尽かせて来たのだ。
誰もが教え子。
それと同じだと思っていたのだ。
なのに、冬獅郎だけは違った。
だた、それだけ。

「へぇ、それって隊長知ってるんですか?」
「知らないわよ。それにこんだけ長い間生きてるのに、初めてなんて言えないわよ。」

そこの部分が在る意味、のプライドなのだろうか。
乱菊はプ!と吹き出した。
隊長が悩んでいた事・・・が今までどれほどの男と出会い、別れてきたかと言う事。
自分はそれを越えられるのかと・・・。
の噂は、かなりあった。
どれもガセが多かったようだが。
それでも、見えない相手に嫉妬する隊長が、面白くもあり、暖かくも見守っていた。
それが蓋を開けてみれば・・・。

「隊長に言ったら、喜びますよ?」
「喜んでいたわよ。」
「へ?言ってないんですよね?」

思いっきりな疑問符に、はさらにため息をついた。

「そう言う時になれば、わかるでしょ、いくらお子様でも。」

のサラリとした回答に、乱菊の方が顔を赤くなった。
そう言う時・・・つまりは、とっくにこの二人は深い関係って事なのだ。
見た目は、ほのぼのして、暖かい感じだと言うのに・・・。
見た目ほど信じてはいけないのかもしれない。

先輩って・・・やっぱり肝が据わってますね。」
「何よ、いきなり。」
「いや、最初は恥ずかしがってたのに…。」

そりゃ、ここまで来たら。
乱菊の性格を熟知してるからこそ、これ以上恥ずかしがれば、余計に面白がられ、最悪の場合、冬獅郎にまで発展する可能性がある。



もし、そんな事になろうもんなら・・・。




想像出来る冬獅郎の罰に、思わず首を振った。

先輩?」
「でも、ギンの方が口づけは上手いかもね。」
「へ!?」

これまた、爆弾発言。
乱菊は目をこれ以上開けないと言う程に、見開いていた。



それは・・・つまり・・・?




乱菊が無言で聞くと、はニッコリとした笑みを作った。
これぞ、「最恐笑み」と言われる・・・背筋が凍り付くような笑みだ。

「私の初めての口づけは、ギンよ。」
「あの・・・それって・・・どう言う・・・?」

乱菊が聞いた瞬間。
ダン!っと勢いよくお茶を机にたたき付けるように、置く。
湯飲みを握るの手に、どれほどの力が入ってるいるのか・・・ぷるぷると震えている。

「アイツ・・・私の寝込みを襲ったのよ。この私の!!」
「・・・うわぁ・・・ギンもやりますね。」

あれは忘れもしない、冬獅郎とまだ想いを交わしていない時代。
そう、片思いの時だ・・・。
冬獅郎の言葉で一喜一憂し、そして悩んでいた頃・・・。
しかも、冬獅郎の夢を見ていた時にされた口づけ。
未だに、自分を許せない事だが、それを冬獅郎の口づけと思って、応えてしまった。
頭のシンが痺れるような口づけだった。

「なんか思い出したら、腹立って来た。」
「え?」
考えてみたら、あの時は驚きやら、羞恥やら、自分が許せない事が先立って、
仕返しするのをすーーーっかり忘れていたわ。あんの、クソガキ!!



パリン・・・
とうとう湯飲みを握力のみで割ってしまった。
そこら中にお茶がぶち巻かれる。
当然、近くにあった書類にもお茶の被害は出る。
それを無言で見つめるの目が、すでに据わっている。

「あ、あの・・・先輩?書類が・・・お茶まみれで・・・。」
「これも全部ギンの所為よね?そうよね?乱菊!!!!????
はぃぃぃぃぃぃ。

すでに乱菊ですら逆らえない。
半泣き状態で、ソファーの背もたれに必死にしがみついていると・・・
スパーーーン
と襖が許可もなく開け放たれた。

ー!おるんやろー。遊ぼー。」

タイミングが悪いと言うのか、良いと言うのか。
は一瞬、もの凄い殺気をだすが、すぐに消してしまう。
だが、ギンとて隊長。
一瞬の殺気に気づかない訳ではない。
そのまま振り返り、無言で執務室を後にしようとした時だった。

「ギ・ン・ちゃ・ん?どこに行くおつもり?」

いつの間にやらギンの真後ろに行った
目の前にいた乱菊でさえも、その行動は追えない程。
ガッチリ、ギンの肩を捕まえる
肩には、メキメキと音がするほどにの爪が食い込んでいる。

!つっ…爪っ!爪が食い込んでるん!!痛いでェ!!」
「何か言ったかしたら?市丸ギン。」
「ひっ!!」

あのギンがここまで恐怖におののいてる姿を今まで見たことがあろうか。
いや、ない。
しかも恐怖のあまり開眼までしている。
グイと顔を近づける
その顔は、先程以上にニッコリとした笑みをたたえている。
そんなの様子に、ギンはやっとの思いで乱菊の方へと顔を向けた。
さすがのギンも生命の危機を感じたに違いない。

「乱菊!!何がどうなってんのや!?」
「えっと…ギンが悪いみたい。」
「なんの事や!?」

その瞬間。
ガン!・・・とギンの耳元で何かを殴り飛ばしたかのような音。
ゆっくりとの伸ばされた腕を見れば・・・
壁に穴を開ける程の威力で、拳をたたき付けたの姿。
パラパラ・・・と壁が壊れている。

「そう・・・あんたにとっては、その程度の物なのね。」

ブツブツと独り言のように呟く
ますますわけが分からないギンは、命乞いすかのように、乱菊の事を再び見た。

「乱菊〜!!!!」
私の初めてを返せーーーーーー!!!!!!

瞬間にの拳がギンに向かって放たれた。
寸での所で、ギンはその拳を交わす事が出来た。
だが、勢いで尻餅をついてしまった。
ボキボキ・・・と拳をならすが、ゆっくりとギンに近づいた。
さすがのギンも、後ずさるしか道は残っていない。

返せぇぇぇぇぇ!!!!!
「ちょ、ちょぉ待ち!返せって…の初めてって…何の話やの!?」
「あんたが、私の初めての口づけを奪ったでしょうがぁ!!!!」

が再びギンに殴りかかろうと、一歩足を踏み込んだ。
さすがのギンも逃れられないと、これから襲う痛みに耐えるように歯を食いしばった。
だが、いつまで経っても痛みは来ない。
ゆっくりと目を開けると、はその場に立ちつくしている。

なんや?

の視線を辿るように、自分の後ろへと視線を移した。
そこには・・・日番谷隊長の姿。
手には、おそらくは差し入れだろう・・・何かを持って。
も日番谷も同じように固まっていた。

「ひ・・・日番谷・・・隊・・・長・・・。」
「今の話は本当か?」

いつも以上に低い日番谷の声に、の体は一瞬ビクンと震えた。
もちろん、日番谷の霊圧がどんどん上がるのは無理もない。
いくらなんでも、あの松本に仕事をさせるのは、さすがのでも大変だろうと思い、お茶請けを持って、様子を見に来て見れば・・・。
の異様な霊圧。
そして市丸の霊圧。
何かあったのかと瞬歩で隊舎まで来て、扉を開ければ・・・。
『初めての口づけを奪った』
その事実が耳に入って、瞬時に固まった。

「答えろ、。」

いつもより当社比8.5倍以上の眉間の皺。
そして、すでに手は斬魂刀へと添えられている。
すでに乱菊は立ってるのもやっとの状態。
は、乱菊を自分の背に隠すように立った。
それ故、若干楽になったのは言うまでもない。
ただ、隊舎にいた隊員ですら、バタバタと倒れる始末。
ギンはやっと状況が飲み込めたのか、尻餅を付いていた自分をヒョイッっと起きあがらせた。
そして、いつも通りの笑みを日番谷隊長へと向けた。

「いややわぁ。そないに霊圧あげてええの?十番隊長さん。みなさん、遣いもんにならんようになるで?」
「俺の隊の事は、テメェに関係ねぇ事だ。それよりも、答えろ市丸。今の話は本当か?」
「さぁ・・・本当と言えば本当。嘘と言えば嘘になる。なぁ?。」

は日番谷から視線をそらした。
ばれた。
決してばれてはいけないと思っていたのに。
はギュっと唇をかみしめた。
そんなにギンは近づき、顎を持ち上げた。

「そないにキツク噛みしめたら、あかん。傷ついてしまう。」
「・・・。」

チャキ。
市丸の肩越しに、日番谷の斬魂刀。
その切っ先は、ギンの顔のすぐ近くを指している。

にテメェの汚い手で触るな。」
「ええの?十番隊長さん。ここでそないなモン抜いたら、ボクが抜くしかないやないの?」
「構やしねぇよ。その前にテメェを殺せば、問題ねぇ。」
「それはも道連れって事になるやろうけど、わかってるん?」

市丸に言われて、日番谷は渋々と刀をおろした。
一触即発のその状態から、はほっと息を吐いた。
その瞬間。

「!?」

ギンのみぞおちに、の懇親のグーパンチが炸裂した。
さすがのギンも、白目をむいて倒れてしまった。
そんなギンを見下ろすに、微塵も情け容赦などと言う言葉はなかった。
さすがの日番谷も、一瞬で頭の熱が下がる程だ。
しばらくそんなギンを見つめるは、ニッコリと日番谷へと笑みを向けた。

「ごめんね、隠してて。でも、あんなの犬に舐められたようなもんだから。」
「犬って・・・酷いわ・・・。」

ハラハラと涙を流すギン。
すぐに復活するのは、さすがは隊長と言う所だろう。
だが、次にギンは肝を冷やす事をなる。
ザクっと目の前に斬魂刀が突き立てられる。
もちろん、の持つ火輪丸だ。

「ギン。罰として向こう1ヶ月、乱菊に食事をおごりなさい。」
「へ?」

いきなり自分の名前を出されて、乱菊は我に返ったようにの事を見た。
はニッコリと乱菊を見て笑った。
そして、机に散乱している書類を見つめると、さらに笑み深めた。

「それと、このお茶まみれの書類、すべて作り直して、今日中に私に提出。イズルに頼んだら…
どうなるか分かってるわよね?ギン。」
ヒィィィィィィ!!

これ以上ない程にギンを冷たく見下ろす視線。

「返事は?ギン。」
「わ…分かった。」

その返事を聞いて、は斬魂刀を引き抜いた。
そして、ギンを立たせる。

「やっぱりは優しいんやね。」
「さっそく、乱菊の休憩に付き合ってね。ほら、乱菊!この間言っていた甘味屋のお菓子を買って来て。」
「りょ、了解。」
「ギンはさっさと書類を持って行く!」
「は、はいっ!!!」

その場を逃げるように走りさる、ギンと乱菊。
そんな二人をは、懐かしむような、そんな優しい面差しで見つめていた。



(後日談)

冬獅郎「松本。はお前の先輩だったな?」
松本「はい。ギンも私も、に強くしてもらったようなものですから。」
冬獅郎「・・・の年齢って一体いくつなんだ?」

松本は突然、冬獅郎の口を塞ぐ。

松本「たっ隊長っ!!!!!!」
冬獅郎「わんわよ(な、なんだよ。)」
松本「それは聞いては駄目なんです。暗黙の了解で。」

やっと解放されて、日番谷はほっと一息つく。

冬獅郎「なんでだ?」
松本「前にギンがに聞いて、ギン…2週間部屋から出て来なかったんですよ。」
冬獅郎「・・・。」
「おっはようーございまーす。」
冬獅郎「あ、ああ。おはよう。」
松本「おっおはよう、。」

二人の挙動不審に、キョトンとする

「何か?」
松本&冬獅郎「「な、なんでもない。」」

この後の昼休み、冬獅郎はに追求されて、逃げまくったのは、また別のお話し。



終わり


後書き 〜 言い訳 〜
 
 
ここまで読んで下さり
心より深くお礼申し上げます。
 
 

 
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
 

再掲載 2010.11.02
制作/吹 雪 冬 牙


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