『 誕 生 日 』
はぁ。
いつもなら執務室の自分の机で、書類を捌いてると言うのに・・・
今の自分の現状はどうだろうか。
なんで隊長の俺が、自隊の貴賓室になんざいなけりゃなんねぇんだ。
「はぁ。」
「隊長、ため息つき過ぎですよ。」
「誰のせいだ、誰の。」
ったく。
俺は貴賓室に入ってきた松本に一瞥してから、また目の前の書類へと視線を落とした。
コトン・・・と暖かいお茶が斜め前に置かれた。
「お茶です。それと、隊長印の必要な書類です。」
「ああ、すまないな。」
「ところで、隊長室なんですけど・・・もの凄い量になってますよ。」
はぁ〜・・・勘弁してくれ。
俺は頭を抱えて、机に伏した。
こんな場所にいなくちゃならねぇのも、隊長室を見たくない現状したのも・・・
全ては・・・
俺はジロリと松本の事を睨み上げた。
「お前の所為だな。」
「いやだな、隊長。悩んでる、かわいい後輩にちょーっと助言しただけじゃないですか。」
「なら、そのかわいい後輩とやらに、もっとまともな助言とやらをしやがれ。」
「お祝い物あげるちょっとの時間ならいいじゃないかって言っただけですよ?」
そう。
松本のこの一言が、元凶。
確かに一人二人なら、別に問題はない。
だがそれが・・・十人、二十人単位で来てみがれ。
れっきとした、職務妨害だ。
それもこれも、今日と言う日が良いのか悪いのか。
氷月二十日。
流魂街出身の者にとって、「誕生日」なんて概念はあってないようなもの。
本当にその日に生まれたのか…なんて誰にもわからねぇ。
しかも流魂街にいた頃なんざ、誕生日でお祝いなんてしたこともなかった。
全ては、隊に入って…席官が上がっていく内に、だんだんと祝いされるようになったと言うだけだ。
俺にとっては、何ら大切な日ではない。
「あ、そうでした。隊長!」
「なんだ。」
あからさまに面白がっている松本の顔。
この顔の時は、とんでもない事を言うのが常だ。
「隊長が、執務室にいらしてるんでした!」
「な!?」
それを早く言え!!
俺は、松本の脇をすり抜けて、思い切り扉を開けた。
あんな執務室・・・見せたくなかったのに!!
松本の野郎。
ガラッ!
「び・・っくりしたぁ。」
心底驚いているの姿。
そして、隊長机の周りの贈り物の山。
は苦笑ながらも、机の上の贈り物を一つ手に取った。
「相変わらず、人気者だねぇ。日番谷隊長は。」
「松本が持って来るだけだ。」
そう言いながら、に近づくと手に持った贈り物を、俺は机へと置いた。
よく見れば、零番隊の隊長羽織を着ている。
まさか・・・
は少し哀しそうな笑みを浮かべた。
「ごめんね、これから現世に行くんだけど…多分、帰りは日付が変わる頃だろうと思ったから・・・
おめでとうだけ、言いに来たんだ。」
「そんなに大物なのか?」
「うん。私から5席まで連れてくから、結構な数でね。一応、上との共同戦線だけど。」
また、が危険な仕事に行く。
俺はそれを止める権利はない。
自然とにぎった拳に力が加わった。
「日番谷隊長、お誕生日おめでとうございます。」
「あ・・・ああ。」
「じゃー、行ってきます。あ、乱菊〜ちゃんと片づけておきなさいよ〜。」
ひょこっと扉から顔を出せば、はポンと軽く松本の頭をたたいた。
「いた。は〜い。」
背中を向けたまま、軽く手を挙げて颯爽と去っていく。
そんなの背中を見つめていた。
「松本。」
「はい?」
「これ、全部返してこい。」
明らかに、何時間かかかるコース。
松本はうんざりしたように、贈り物の山を見つめた。
「えーいいじゃないですか。別に貰っても。なんなら、私が貰いますけど?」
「松本。」
俺は松本に向き合い、じっと目を見つめた。
「俺は、からの贈り物しか、欲しくねぇ。・・・頼む。」
「隊長・・・はぁ・・・わかりました。」
松本はイヤそうに、でも少しだけ嬉しそうな声だった。
部下を数人呼び、両手に贈り物を抱える。
俺は、貴賓室に戻ろうとした時だった。
ふと・・・数多くの贈り物が置かれているソファー。
その一角に、小さな箱。
だがあきらかにそれは主張していた。
からの物だと。
俺は、そっとその箱の一つを手に取った。
「隊長、それも返してきます。」
「これはいい。」
手に持ったまま、貴賓室へと向かった。
リボンをとき、箱を開けると、中には小さな紙が入っていた。
そこには
『
招待状 零番隊 隊長室 午前零時 』
と書かれていた。
フッ・・・
俺はその紙を懐にしまうと、書類を持って、執務室へと戻った。
机の上の贈り物を全て、ソファーへと移動させ、机の引き出しに、からの箱だけの
贈り物を大事にしまった。
「ところで隊長。」
グイと俺の前に顔を出す松本。
さすがに俺は少しだけあとづさった。
「なんだ。」
「今年は、料亭での誕生日会はなしですねぇ。」
「は?」
毎年、松本主催の飲み会が行われる。
それもかなり高い金額で有名な料亭でだ。
沢山の隊長格も来るから、平気だと・・・俺は支払った事がないのだが・・・。
「あれ?もしかして隊長、マジで知らなかったんですか?」
「何をだ。」
「あの料亭の支払い全額・・・姉が出してたんですよ。隊長への贈り物にって。」
「!?」
たしかに料亭にしては、俺の好みの食べ物が出ていた。
それは雛森が松本に言って、そう取りはからったのかと思っていた。
俺は・・・今まで・・・。
ふと、の言葉を思い出した。
『
普段、ありがとうって言えない分、言える時に言わないと。』
つまりは・・・。
料亭の全額がの贈り物じゃねぇ。
いつも言えない俺に「ありがとう」を言える場所を、作ってくれた。
それが・・・贈り物。
俺は懐に手を置いた。
ふわり・・・と暖かい感じがする。
贈り物は目に見える物ばかりじゃねぇんだな。
さすがは、だ。
「あらいやだ、隊長が笑ってる。思い出し笑いですか?エッチ。」
「・・・松本・・・その他に、書類もやりてぇか。」
「嘘!冗談やめてください!!!松本、返品に行ってきまーす!!」
執務室にあった贈り物の全ては、台車に乗せて撤去。
いつも通りの執務室に戻った。
さて、あとは夜中を待つばかりだな。
仕事の速さが、いつもより早いのは・・・きっと気のせいじゃない。
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夜中になり、俺は零番隊の隊舎を見上げた。
一番隊のさらに奥深くにある零番隊。
すでに門は閉まっており、俺は屋根を見上げた。
グッ!と足に力を入れて跳躍して、屋根へと昇った。
今日は良い月夜だ。
その分、星がなりを潜めているが・・・。
「冬獅郎?」
「・・・ああ。」
窓が開いた音を確認し、俺は窓から隊長室へと入った。
フワリと暖かい部屋。
落ち着くの匂い。
俺は迷わず、を包み込んだ。
「ありがと、。」
「へ?」
「毎年…俺に場所を提供してくれて。やっぱり、お前には叶わない。」
は今まで見た中で、一番嬉しそうな微笑みをむけていた。
そして、の方から顔を近づけてきた。
「冬獅郎、大好き。」
ちゅっ・・・
とかわいい音をたてて離れていく唇。
俺は、唖然とを見上げていた。
「一日遅れだけど…これから朝まで一緒にいてくれる?」
「え・・・おまっ・・・それはっ・・・」
まだ早いと言おうとしたのだが・・・
いきなり扉が全開にされた瞬間に、頭を覆いたくなる光景が。
「ジャーン!!隊長!!!いよっ色男!!」
「何、姉に抱きついてんの!?いくらなんでも、それはアカン!!」
言われた瞬間、俺とがまだ抱き合っていた事を思いだし、俺は慌てて手を離した。
「もう、ギン!余計な事を!!!」
「イタタタ。十番隊長サン、おめでとうサン。」
松本から市丸や京楽・・・十三番隊の隊長と副隊長全員が集結している。
あの山本総隊長までもが、いるのだ。
「なっなっなっ・・・」
「へへ、驚いた?」
悪戯が成功したかのような、の笑み。
その瞬間、俺は全身から力が抜けたように脱力した。
そうだよな。
がまさか・・・そんな事言う訳ないよな。
だもんな。
分かってたけど・・・
少し期待した、俺の気持ちはどうなる・・・。
は、俺の手を握った。
「今日は、ずっと隣にいさせてください。」
耳元で囁くような声。
俺もギュっと手を握り返した。
「今夜は、寝かさねぇぜ?」
「望む所!」
ポカーン
はっ・・・はぁーーーーー。
ぜってぇ、意味が分かってねぇ。
終わり
後書き 〜 言い訳 〜
ここまで読んで下さり
心より深くお礼申し上げます。
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
再掲載 2010.11.02
制作/吹 雪 冬 牙
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