『〜 きっとこんな日常も 〜 終 』
は首を横に振った。
まさか、土方さんが朝言ってたから!?
どうしよう・・・土方さん呼んできた方が・・・
そう思い、が後ろを振り向いた瞬間。
ドン!
何かに思いっきり鼻をぶつけたは、はじき飛ばされた。
だが、いつまでも締めに尻餅つく感覚が襲ってこなかった。
ぎゅっとつぶった目を恐る恐る開くと、目の前には寝ていたはずの土方が立っていた。
しかも、の腰にしっかりと手を回して転ばないようにしていたのだ。
「ひ!?」
土方さん!?と叫ぼうとした瞬間、土方はの口元を押さえた。
じょじょに顔が真っ赤になる。
あまりに恥ずかしいのと、酸欠状態になっていくのでは土方の手を軽くたたいた。
「おっと、すまないな。」
それに気がついたのか。土方は両手をどかしてポケットに手を突っ込んだ。
「なんで、土方さんがここに?!」
「女が出歩く時間にしては早すぎると思ってな。」
やっぱり起こしてしまったのだ。
は肩を落として小さく「すみません。」とつぶやいた。
土方は軽く肩を竦めてみせた。
実際は、の事が心配だったとは言えない。
の部屋を自分の部屋の前にしてほしいと頼んだのは、土方の方だった。
近藤は、との部屋を同室にするつもりだった。
だがそれを反対したのは土方だ。
土方はガラにもなくに一目惚れしていた。
愛くるしい程の目。
純粋な心。
だが、その一方で人を切り捨てる残忍さも持ち合わせている。
その苦しみを一生懸命、克服しようとしている姿。
全てに惹かれた。
実際、隊士の中でもに好意を持つ者は少なくない。
隙あれば、と話しをしようともくろんでる奴らがいる。
それを副長と言う立場を利用しながら、今まで阻止してきたのだ。
自分の右腕として常に共に行動させた。
夜這いなどおそわれないように、部屋も目の前にした。
いや、それだけじゃない。
何かあった時にすぐに助けられるように。
好きな女を守りたい・・・どこが悪いと局長に言ったら、滝のような涙を流しながら「愛
はすばらしい!!妙さーん!!!!」とか言いながら、どこぞに走って行った。
だから、土方はの部屋を自分の目の前においた。
その隣にの部屋にすれば良いと考えていたのだが・・・。
これまた沖田に、反対された。
副長は常に隊長の側にいるのが筋だ・・・と言ってきやがった。
それでもやはりの命を狙う奴が多くいる現状、それを許可するのは難しかった。
そしたら沖田の奴は、俺にこう言って来た。
「副長を守るのも、隊長の勤めでさァ。」
「だが、お前こそに命を狙われてるんだぞ?」
「女に追いかけられるなんざ、良い男の証拠ですぜイ?それにの剣になら、この俺の
命取られても・・・。」
「総悟・・・。」
「なんて言うと思いやしたか? 」
「なっ・・・!!」
「まぁ、ともかく、それでよろしくお願いしますぜィ。」
クスクスと笑いながらそう言って去って行った部屋には、沖田が置いていった局長の許可
証だ。
沖田は最初からわかっていて、局長に約束を取り付けていた。
だから、はみんなの部屋から一番離れている沖田の部屋の隣となったのだ。
「土方さん?」
「・・・見届けてやるのも、友達のつとめだ。」
それだけ言うと土方は、建物から顔を出して二人を見つめた。
その横顔が何故か辛そうに見えた。
はただ、土方の事を見つめいた。
「それでも・・・こんなの・・・可笑しいです。死闘をくぐり抜けて来た二人が、刃を交
えるなんて・・・。」
涙を貯めて見つめてくるに、土方は目を見開いた。
女の涙は厄介としか思っていなかった。
だが、こんなにも美しく泣ける女性がいたのだろうか。
土方はに近づくと、親指での瞳にたまった涙を拭い取った。
「お前を泣かせる奴は、許せない。」
「え?」
「おまえには・・・・しい。」
顔を真っ赤にしながら小さくつぶやいた土方の言葉。
の耳にまで届かなかった。
はただ不思議そうに土方の事を見ていた。
「朝からお熱いですねぇィ、ご・両・人。」
「ホント。」
と土方を見上げるようにしゃがんでいると沖田。
「「なっ!?」」
先ほどまで、あんな互いを殺すような殺気を出していた二人。
今はと土方をしゃがみながら、ニヤニヤとした笑みを向けている。
それこそ、二人して同じような笑顔だ。
「お前ら!?決闘してたんじゃないのか!?」
「「決闘?」」
互いに顔を見合わせる。
「、誰かと決闘するんですかィ?」
「総悟こそ。」
沖田は考え込むように腕を組んで、うーむ・・・とうなってから「予定はないですねィ。」
といつもの笑顔で話していた。
「だって・・・今・・・」
「「今?」」
これほど仲が良いのか?と思わせる程二人の息はぴったりあっていた。
また互いに顔を見合わせると、は立ち上がっての前に立った。
「ごめんね、心配かけちゃったね。決闘じゃなくて、練習に付き合ってもらってたのよ、
総悟に。」
「練習?」
は罰が悪そうに舌をぺろりとだすと、沖田の方に軽く視線を投げた。
「総悟ってさ、人前で本気出さないでしょ?私もそうだけど・・・でもやっぱり少しは力
加減なく練習したいから・・・。」
「だから一月に一度は、朝早く起きて付き合ってた訳でさア。」
は困ったように笑顔をつくると「本気の所見ると。みんな引くから。」と付け加えた。
同意を聞くように沖田に話しかけるは、毎朝沖田と喧嘩をしてるように見えなかった。
あれ?
は不思議そうに沖田との事を見つめた。
その疑問は土方も思ったらしく、今まで黙って聞いていた土方が初めて口を開いた。
「・・・お前いつから総悟って呼ぶようになった?」
「あ・・・。」
やっと気がついたのか、は慌てて口元を手でかくした。
「なんだ、てっきりもうバラしていいのかと思ってたんですけどねィ。」
おもしろそうに見つめる沖田の視線の先には、これまでにないほど赤面したの姿だった。
これには土方も驚いたらしい。
と土方は互いに見つめ合って、沖田との事を見た。
「もう隠せないですぜィ?ってな訳で、俺たちこう言う仲なんで。」
言った瞬間、沖田はの口を自分の口で塞いだ。
「!?!?!?」
何が起きてるかわからないは目を見開き、沖田の胸をしきりにたたいていた。
しばらくして沖田はを解放すると、ニヤリと意地悪い笑みを浮かべた。
「あのねっっ!!」
「おっ・・・お前ら・・・そう言う関係なのか・・・?」
信じられないものでも見るように、土方は沖田とを交互に見た。
そして、一言信じられない言葉を言った。
「。お前を一番隊からはずれてもらう。」
「土方さん!?なんで!!」
「そう言う関係になった二人が、いざと言う時に見捨てる事が出来ない。互いを庇い合い
死ぬ事だってありうる。」
しかしは納得しないのか、珍しくと沖田の前に立ちはだかった。
土方からすれば、初めてのの反抗だった。
「二人なら、絶対に大丈夫です!鬼のように強いし、さんは戦乙女と言われる程の人
ですよ!?」
「それで一番隊全員が壊滅する可能性がある。お前はそれでも良いと言うのか?」
「それは・・・。」
が唇を噛みしめてうつむいた。
土方の言ってるコトは間違っていない。
でも・・・だからと言って、愛し合ってる者同士を離すなんて・・・。
沖田は、ポンとの肩に手を乗せた。
それに驚いては沖田の方を見る。
「大丈夫でさぁ。そんな顔しないでくだせィ。」
すると沖田の顔がふっとまじめな顔つきになった。
そしていつもよりもワントーン低い声でささやいた。
「お前には、いつも笑顔でいて欲しい。」
「ぷっ!」
「なっ!?」
その瞬間、土方の顔がゆでタコのように赤くなった。
はクスクスと声を押し殺して笑っている。
「お、沖田さん!?」
驚くに、沖田はいつも通りの笑顔を浮かべた。
「・・・って、さっき言ってたんでさァ。ね?土方さん。」
「総悟・・・キサマ・・・。」
「さーて、邪魔者は退散しますぜィ、。」
「そうね。ヒジ、ちゃんの事泣かしたら、シバクからね。」
「誰が肘だ!土方だ!!」
ニッコリとした聖母のような笑み。
だが、瞳は阿修羅の如く。
「?!」
土方はその場に凍りついた。
・・・と言うか、泣かしたのはおまえだろ。
心の叫びも空しく、二人きりにされた土方と。
互いにどうしたら良いものかと・・・視線をさまよわせていた。
「ま、まだ・・・早い。散歩でもどうだ?」
真っ赤な顔のまま、視線を空に向けて半ばヤケクソのように言った土方。
最初は驚いていただったが、ニッコリと嬉しそうに笑みを浮かべた。
「はい。お供します。」
そう言うと二人はゆっくりと歩き出した。
そんな二人を物陰から見つめる、沖田と。
「なんとかくっついたんじゃない?」
「それにしても、二人とも互いに惚れてるのがバレバレだと・・・気づかないものですかねィ。」
「いいじゃないの。初初しくて。」
「俺たちは初々しくないんですかィ?」
「・・・あんたね、もう何年付き合ってると思ってるのよ、私たち。」
「そうですねぇィ。の知らない所なんて、もうどこもないですからねィ。」
瞬間にの顔が赤く染まる。
そんなを満足そうに見つめる沖田。
は「知らない!」と怒りながら自分の部屋へと戻って行った。
そんな後ろ姿を、沖田はにも見せた事のない優しい視線で見つめていた。
「しかし、俺との関係・・・バレてなかったんですねィ。あからさまだと思ってたんですけど・・・。」
ふと見上げた空。
青く澄み渡った空に、沖田はニッコリと笑いかけた。
「になら、この命・・・あげたくなるくらい惚れてるなんて言ったら、
もっと赤くなってくれるんですかねィ?」
クスクス。
沖田の笑い声が、ずっと聞こえていた。
UP 2007/12/09
再録 2010/10/28
作/吹 雪 冬 牙
back top