『 嫉 妬 』

きゃぁー!!!







大声の黄色い声援。
相変わらずのうるささに私は、レギュラーが練習しているコートに視線を送った。
今日は練習試合するって言ってたっけ?
だからかな?
軽く溜め息を零すと、私は目の前の準レギュラーの子達に視線を戻した。
私、 
氷帝学園3年で、いちよう女子テニス部の部長。
なぜ、いちようかって?
うちは男女混合で練習するから、全ての指導権はやっぱり榊監督に信頼されている男子部部長が握ってる。
まぁ、言わずとしれた景ちゃんこと、跡部 景吾。
俺様主義のわがまま男。
でもテニスははっきり言って美味い。
それにはそれ相応の努力をしているからなんだけどね。
景ちゃんがレギュラーの実力の向上に勤めて、私はこれから氷帝を背負っていく準レギュラーの子達の教育指導に当たっている。
今日もレギュラー陣は男女共に練習試合をしているが、私だけは準レギュラーのいるコートでひたすらに監督に専念。
ああ、私も試合したいよなぁ・・・。
そんな事を思いながらぼんやりと眺めていると、次期部長候補の日吉君が私の所に走ってきた。

「どった?若。」
日吉「全員メニューが終わったんですが・・・。」

ありゃま。
ぼけっとしていたから気が付かなかった。
私は立ち上がって20人前後いる準レギュラーを見つめた。

「それじゃ、10分休憩。その後こっちも試合やるから。」

そう言うと全員コートから出て行き、水飲み場へと歩いていく。
誰もいなくなったコートを眺めていると、ふと人の気配を感じて後ろを振り返った。

忍足「なんや、溜め息ついて。不景気やなぁ。」

試合が終わったのか、汗をかいているオッシーが立っていた。
顔からさっするに負けたのかな?
私は自分の肩にかけてあったタオルをオッシーに投げた。

忍足「おおきに。」

すかさずそれを受け取ると。オッシーは私の横に座り、顔の汗を拭った。
黙って見つめる私に。オッシーは怪訝そうな顔つきで私を見返した。

忍足「、そう言えばなんで出るか決まったん?」

そう。
私はミクスドの選手でもありながら、女子部の代表選手でもある。
どちらも出るのだが、ミクスドの場合はペア決めが大変。
去年はみんなとジャンケンで決めたんだっけね。
今年はどうなる事か。

「まだ。」
忍足「そうか。もし決めるんやら、俺にしとき。中学最後のテニス、一緒にやりたいわ。」

にっこりと普段みせない笑顔をみせるオッシーに、私は不用意にも顔が赤くなってしまった。
反則だ・・・こんなの。

「考えとく。」

小さな声で言うのが精一杯だった。

忍足「ほな、頼むな。」

それだけ言うとオッシーはタオルを私の頭の上にかけてコートへと戻って行った。



確かに試合は今年が最後。






でも・・・。








私には不安があった。
ここの所、私は準レギュラーばかりの面倒を見ていて、自分の練習と言うものを部活中に出来た試しがない。
部活が終わってから家にあるコートで練習しても限りがあるし・・・。
今の実力。
みんなの実力もわからなかった。
何せここからじゃ、レギュラーの試合は見れないからね。




はぁ。



再び溜め息が出ちゃうな。

日吉「先輩、試合ってどうやるんですか?」

そう言われて私は景ちゃんから渡された試合表を見つめた。
おいおい・・・。
そこには私対日吉のシングルの他、ほとんどが私対男子の試合になっていた。
これは一体・・・。
マネージャーを呼んで、近くに張り出して貰うと一瞬にしてコート内がざわついた。
そりゃそーだろうとも。
私がみんなと試合する事って少ないからね。
景ちゃんも何考えているんだか。

はぁ。

またもや溜め息。
しかし準レギュラーの子達は、実力が試せるチャンスとあってか活気ついていた。
特に、日吉なんてすでに戦闘モードに入って私を睨みまくってる。
まぁ、こんな空気嫌いじゃないけどね。
ラケットを手にすると、私は立ち上がった。
静かにコートに入ると、相手コートに日吉が入っていた。

日吉「先輩、練習しますか?」

必要ないな。
私は首を横に振った。
ワンマッチポイントの試合だから、そんなに時間がかからない。
書かれている試合を次々に消化していきながら、後輩達に適切なアドバイスをつけていく。
結局、自分の力を出せる事はない。
それにしても・・・。
すでに暗くなり、コートでぶっ倒れている準レギュラー陣。
私一人がコートに立って、そんな彼らを見つめていた。
あと少しで私達が卒業すると言うのに・・・女子部にしても男子部にしてもこれと言う逸材がいない。
青学はいいよね。
柱となるべき1年がいる。
でもうちには・・・確かに他に比べれば格段の力の差だろけど。
今のままでは帝王氷帝が下に墜落するのも時間の問題だ。
それだけは絶対に避けなければならない。
それが私の責任でもあるし。

はぁ。

私が溜め息をついてコートを出ようとしたとき、始めて視線に気が付いた。
いつのまにか終わったレギュラー陣が、コートの観覧席に座っていたのだ。
もちろん景ちゃんもいる。
私は黙ってコートの扉を出ようとした。

跡部「おい、どこに行こうってんだ?。」
「跡部部長。部活は終了です。あとはみんなで後片づけをしてもらうだけです。私は着替えに。」

それだけ言うと私は扉を閉めた。
黙って私の背中を見つめる景ちゃんの視線が痛かった。
情けない。
あんな弱い所を見せてしまうなんて・・・。
情けない。
後輩を育てる事も出来ない私・・・。
部長になんて向いてないのかもしれないよね。
景ちゃんはやっぱりすごいや。
帝王としての資質が備わっているんだろうな。
そんな事を考えながら、女子更衣室の中に入った。
もうすでに女子部はみんな帰っている。
お疲れ様ですと書かれたメモの上には一本のドリンク。
くす。
いつもみんな気を遣ってくれるんだよね。
申し訳ないな・・・なんて思いながら。私はのそのドリンクを鞄の中に閉まった。
部活の日誌と消灯を全て確認して、私は更衣室の扉を開けた。

「!?」

開けた途端、脇にすでに帰ったと思っていた景ちゃんがいた。
相当遅くなっていると言うのに。
腕を組みながらじっと目を閉じている。

「跡部・・・部長・・・?」

私の声で景ちゃんはゆっくりと目を開いた。

跡部「おせーんだよ。外に車を用意してある、乗ってけ。」

それだけ言うと景ちゃんはゆっくりと歩きだした。
私の歩幅に合うように。
私も隣りを歩き出すと、チラリと景ちゃんの顔を見つめた。

跡部「なんだよ?」
「跡部部長、あの・・・。」

ふと景ちゃんは私の唇に人差し指を押さえつけた。




へ?





私が疑問符を飛ばしてると景ちゃんは呆れたように口元を軽く上げた。
勝ち気な笑顔。
でも部活中に、いや学校では決して見せない優しい笑顔。

跡部「もう学校は終わってんだろ?。」
「うん。」

にっこりと微笑むと景ちゃんは顔をそらして歩き出した。
そう。
私と景ちゃんは幼馴染み。
親同士がとっても仲が良くて、すでに婚約も済んでる。
まぁ、生まれた時に親同士が勝手にやったことだから、手続きやら何やらってのは一切してないんだけどね。
ともかく、外部に知られると色々と厄介だからって、景ちゃんは婚約している事を隠している。
だから学校内では互いに跡部部長にと呼び捨て。
でも、学校が終わればいつも通りの呼び方に戻るんだよね。

跡部「、ウチに寄ってくか?今日ケーキ焼くって言ってたぞ。」
「え!?本当に!!行く行く!!!!」
跡部「ったく、現金な奴だな。おら、早く乗れよ。」

景チャンは車の扉を開けると、私を先に車へといざなった。
こういうところが貴族的な雰囲気なんだよね。
車に乗り込むと、続いて景ちゃんも乗り込んで来た。

跡部「出せ。」

静かに車が走りだす。
私は携帯を取り出して家に電話をかけた。
他の友達の家だと絶対に許してもらえないのだが、景ちゃんの家の場合はどんな場合でも許可が取れる。
泊まっても別に怒られない。
まぁ婚約者だからかもしれないけど。
軽く話すと、景ちゃんは必ず電話を変われと言ってくる。
そして私のお父さんやらお母さんに挨拶をして電話を切ってしまう。
家にツクまでの間、景ちゃんは私の肩を枕がわりに居眠りしていた。
これもいつもの事。
家に付くとトントンと肩を叩いて起こす。
その時の無防備な顔がまぁー学校の子が見たら絶叫物。
景ちゃんの後に続いて、私は景ちゃんの部屋へと入って行った。
どこに何があるかなんてもうわかる。
景ちゃんは別の部屋へ着替えに行ってしまい、広い部屋にポツン・・・と残されてしまった。
メイドがお茶を運んでくれたが、すぐにいなくなってしまう。


つまらん。


私は景ちゃんの勉強机の前にくると、椅子を引いて腰をおろした。
難しい本が並ぶ中、古びた一冊のノートをみつけた。
ふと見つめて私は微笑んでしまった。
小学校の頃の交換日記。
私が憧れて始めたものだったんだけど、景ちゃんは嫌な顔一つしないで付き合ってくれたんだよね。




カチャ。




ラフな格好に着替えた景ちゃんが手に洋服を持って現れた。
スカート・・・私のか。

跡部「これに着替えろ。夕食に親父が来るらしい。」







げ・・・。





景ちゃんのお父さんか。
見た目が怖いから私は苦手。
景ちゃんも一言も話さないし・・・。
嫌な空気が流れないといいんだけど。
景ちゃんに用意されたドレスを持って、いつもの着替える部屋へ。
メイドを数人いて、髪型やらなにやらと世話を焼いてくれる。
しばらくして私は景ちゃんの前に姿をあらわした。
景ちゃんは私の腰に手を廻して額に口づけを一つ落とした。

跡部「さすがはだな。」
「変じゃない?」
跡部「んなわけねぇーだろ。この俺が選んだんだぜ?」

そっか。
それでサイズがピッタリ・・・って、なんでサイズまでわかるのよ。
私が顔をあげると景ちゃんはまた優しく微笑んだ。
この顔に惚れたんだよね・・・。
景ちゃんにエスコートされて食堂へ。
すでにおじさまはいて、私と景ちゃんを待っていたらしい。
「お待たせしました。」と景ちゃんの言葉におじさまは黙って頷くだけ。

はぁ。

この空気が重い。

父「さんはいつ跡部家に来てくれるのかね?」

いつって・・・。どう考えても18才までは結婚出来ないでしょ。
黙っていると脇から景チャンが口出しした。

跡部「卒業と同時に俺の家に一緒に住む予定です。の両親には既に話しを通してあります。」




へ?!



そんなの初耳なんですけど。
私が目を白黒させながら景ちゃんの事を見ると。景ちゃんはクスリと笑みを作って食事を再会する。
私の知らない処で・・・なんか。

父「そうか。ならあと少しだなぁ、景吾。」
跡部「はい。」

はいって・・・おいおい。
予想外の出来事に私はオロオロしてしまった。
食事会をなんとか終えて景ちゃんの部屋に戻って来た私。
はぁっと溜め息をついて景ちゃんのベットに横になった。
その隣りに越しを降ろして優雅にコーヒーを飲む景ちゃん。

「景ちゃん、さっきの話し本当?」
跡部「あ?一緒に暮らす話しか?」

私は黙って首を縦に振った。
すると景ちゃんはコーヒーをテーブルに乗せてじっと私の事を見つめた。
何もかも見透かしたようなあの瞳で。

跡部「嫌か?」
「嫌とかじゃなくて・・・なんか突然で・・・。」
跡部「俺はすぐにでも一緒に暮らしたいんだけどな、オマエ等の両親がそれを許してくれなかったんだよ。卒業まで待てってさ。」

そりゃそーだろ。
中学で同棲なんて聞いたことない。

跡部「お前が他の男と話してると・・・不安になんだよ。」

おりょりょ。
景ちゃんの弱音。
珍しいなぁ。

「景ちゃん、大丈夫だよ?私が好きなのは景ちゃんなんだから。」
跡部「ああ。」

それだけ言うと景ちゃんは私の隣りに体を横にして目をとじた。
私も並ぶように横になった。

「景ちゃん。」
跡部「んあ?」
「私のミクスドの相手・・・景ちゃんがいい。」

その言葉に景ちゃんは体を起こし上げた。

跡部「お前、シングルじゃなくていいのか?」

真剣な目。
テニスの話しとなるといつもこう。

「うん。」
跡部「俺の話、先に取るんじゃねーよ。」


え?


そっか・・・。



その話しをするために家に呼んだのか。


なんだ、よかった。


私が微笑むと、景ちゃんは私の頭に大きな手をのせた。
そして優しく撫でる。

跡部「。お前を見晴らしのいい地位まで連れて行ってやるよ。」
「あら、ソレを言うなら私が・・・だもん!」
跡部「クッ!そうこないとな。」




そう。
二人で作っていく道。
中学の最後はやっぱし全国制覇でしょ。
絶対に叶えて見せる。
私が景ちゃんに相応しい女性と言わせるように。
頑張るもん!

跡部「俺の女はお前しかいねぇーよ。」

全てをわかっているように景ちゃんは、ニッコリと微笑んだ。
私だけの特権。


終わり。

後書き 〜 言い訳 〜
 
 
ここまで読んで下さり
心より深くお礼申し上げます。
 
 
 
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
 

再掲載 2010.10.29
制作/吹 雪 冬 牙


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