『 お 前 だ け を … 』
久しぶりに部活が休みになり、溜まっていた本を自室で読んでいた跡部。
軽やかに流れるクラシックは、外から入る午後の木漏れ日にあっている。
ただただ穏やかな午後の休日を楽しんでいたのだったが・・・
そこにけたたましく扉を叩く音が聞こえた。
外で何やら揉めてるような声まで聞こえる。
跡部は軽く溜め息をつくと、仕方なく座っていたソファーから立ち上がり扉を勢い良く開け放った。
「あ!景ちゃん!!」
嬉しそうにあどけない笑顔を向けたのは、幼馴染みの だった。
親同士が親友と言う事もあってか、二人は生まれた時から婚約していたのである。
跡部「、てめぇ何度言ったらわかるんだ?あ?」
少し眉を上げながら、迷惑そうに言うとすぐ側にいた執事が慌てて頭を下げてきた。
執事「申し訳ございません、景吾ぼっちゃま。」
「景ちゃん、執事さん悪くないんだよ!?私がここまで無理に上がって来たんだもん!」
そう必死に執事を庇おうとするの頭に跡部は軽く手を乗せた。
跡部「自覚があんならやってんじゃねーよ。もうここはいい。」
そう言うと執事は深く頭を下げると跡部達の前から下がって行った。
は階段をおりる執事の姿をみつめていたが、跡部はそんな事も気にする事もなく部屋の中に入っていった。
しかしはしばらく入ろうとしない。
怪訝そうに跡部が振り返ると、が何か言いたそうにみつめていた。
また、跡部から溜め息が零れた。
入りたければ入ってくればいいのだ。
玄関からここまではズカズカと入り込んでいるくせに。
跡部「用事があって来たんだろ?入れよ。」
そう言うと、は嬉しそうに部屋に足を踏み入れた。
そう言えば・・・。
跡部はソファーに座りながらの後ろ姿を見つめていた。
大画面のテレビの前に来ると迷わずテレビをつける所を見ると、どうやら何か見たいものがあってきたらしい。
アチョー!などと、突然奇声がテレビから飛び出す。
またかよ。
は中国物の映画がとくに好きだ。
聖剣伝説やら風雲やら・・・ここに来て必ず見るものだから跡部も知らずにその筋の映画には強くなっていた。
跡部「おい。」
「何?」
跡部の顔を見ずに答える所を見ると、よほど熱中しているのだろう。
しかしこれもいつものことだ。
たまに休日に遊びには来るが、お互いに好きな事をやっているので、特に会話もない。
あっても適当に返事をしている時の方が多い。
だから特に跡部は気にしていなかった。
跡部「お前、なんで部屋にはすぐに入らない?」
するとはチラリと跡部の方を見ると、何を言ってるんだか・・・と言った感じの顔付きでまたテレビに視線を戻した。
「だって部屋は景ちゃんの物でしょ?」
跡部「この家全体が俺のもんだろーが。」
「違うもん。家はみんなが出入りしているもん。でも景ちゃんの部屋は景ちゃんしかはいらないもん。だから景ちゃんの。」
跡部はクッと口元を上げた。
時には面白い意見を言う。
それが飽きない理由の一つでもあるし、手放したくないと思う一面でもある。
しかし、それ以降は声をかけてもテレビの音に負けてしまうため、跡部はそのままテレビを一緒に見る事にした。
跡部「おい、そこにいたら見ねぇーだろ。」
「あ、ごめん。」
そう言うとは、画面から少し離れた場所に再度腰を降ろした。
跡部「ここに座ればいいだろ。」
そう言うと跡部は自分の隣りをさした。
それもそうだ。
テレビの正面になるようにソファーを設置されている。
音もそこに集中するように作られているのだ。
は少し迷ってから、跡部から離れるようにソファーの端に座った。
なんだ?
いつもだとそんな事はしないのだが、今日はやたらとがよそよそしい感じがした。
聞いても「別に」と繰り返すだけだった。
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次の日学校に行って、衝撃的な事を耳にした。
忍足「なんや、何も知らんのかいな。ちゃん随分と派手に苛めにあってるで?」
向日「そうそう。オレタチがいても関係なくやってるもんな。あれって跡部のファンの奴等だろ?」
そう言われて跡部は、コートを出ようとした。
隣のコートで練習しているの元に行こうとしたのだ。
しかしそれは忍足の手によって遮られてしまった。
忍足「お前が出て行ったら、ちゃんの虐めもっと酷くなるで?」
跡部「なんで虐めにあってる?」
忍足「そんなん答えは簡単や。ミクスドの相手やからだろ。」
それを言われた瞬間、跡部は握り拳に力をいれた。
確かにの実力は凄い。
昔から一緒に打ち合って来た跡部が言うのだ。
間違いない。
レギュラーの全てをは15分以内に全勝してしまった実力もある。
ミクスドでは去年と一昨年と跡部達が優勝している。
jr選抜でも頂点を極めているのは言うまでもない。
全国から皆二人を目指して練習しているのだ。
そんな相手を潰されても困る・・・。
いや。
跡部は顔を上げると何かを決心したかのようにの事を見つめた。
部活が終わった後、跡部はが更衣室に行く後をつけた。
すると更衣室の前で待ち伏せしていた女子数人が突然の肩を掴んで、更衣室に突き飛ばしたのだ。
「あんた今日はどんな手をつかって跡部様の視線を向けさせたのよ!」
しかしは何も反論もせずにだまっていた。
バシッ!と手を上げた女子。
打たれた頬がじんわりと痛み、は唇を噛み締めた。
もしここで反撃してしまえば、試合に出場出来なくなる。
自分はいいが今まで頑張ってきた景ちゃんに申し訳ない。
自分が我慢するだけでいいのであればお安いご用である。
はじっと耐えていた。
すると突然更衣室の扉が開いた。
ゆっくりとそちらを見るとそこには、テニス部のメンバーが仁王立ちしていた。
「け・・・跡部部長・・・」
特に跡部はが今まで見たことのないような冷たい視線を投げかけてきた。
その視線に思わずの目に涙が溜まってしまった。
忍足「あーあ。うちの女王になんて事するんやろなぁ。」
「こ。これは!!」
向日「そんな事してるからオマエ等跡部に見向きもされないんだよ。」
直情形の向日は、神経を逆撫でするような事を平気で言う。
一瞬、女達はを睨みつけた。
その中のリーダー格の女に跡部が無言で近付いた。
「あ、跡部君・・・。」
跡部「俺の女に文句があんなら、俺に直接言って来い。」
「跡部君だってウザイって言ってたじゃない。今更そんなこと・・・。」
跡部はふっと口元を上げた。
すると跡部はの方を見下ろした。
跡部「おい、。いつものように呼んで見ろ。」
「え・・・。」
とまどうようには跡部と女生徒を見比べた。
跡部「言え。」
絶対的な圧力には、静かに呟いた。
「け・・・景・・・ちゃん・・・。」
その言葉にその場にいた全員が驚いた表情をした。
そして跡部は腰を抜かしているに手を差し伸べた。
跡部「俺とは婚約してんだよ。これで気がすんだか?」
「そんな・・・だって・・・。」
信じられない光景にその女は壁に背をついた。
すると跡部はの首に掛かっているネックレスを取り出し、自分の首にかけているものと会わせた。
そこには同じ指輪が着いていたのである。
「!?」
それが決定的な証拠だと判断したんだろう。
女は泣きながらその場を後にした。
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数日後、を苛めていた生徒達は一人残らず退学していた。
は隣りで心地よく昼寝をしている跡部を見つめた。
一体どんな手をつかったのか・・・。
屋上は静かで心地よい風が頬を撫でていく。
はふっと微笑んだ。
「ありがと、景ちゃん。」
跡部「・・・別に。」
その言葉には瞬時に顔を赤くした。
「な!?起きてたの!?」
跡部「おめーがうるせぇーんだよ。ったくウザイやつだな。」
そう言うと跡部はの頭に手を添えると、グイっと力を入れた。
の顔が跡部の顔に近付く。
今までにないほど、の顔は真っ赤になっていた。
それを面白がるように跡部はニヤリと笑みを作った。
跡部「おもしれぇ女。」
「な!?」
反論しようとしたの口を跡部は自分の口で塞いだ。
終わり
後書き 〜 言い訳 〜
ここまで読んで下さり
心より深くお礼申し上げます。
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
執筆日 2010.10.29
制作/吹 雪 冬 牙
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