『 忘 れ ら れ な い 人 』
それはたった一度だけだった。
でも、そのフォームや表情が目に焼き付いて離れなかった。
それは中学一年の今になっても変わらない。
全米Jr選抜の会場に行った時、会場の横でひたすら壁打ちしている女がいた。
周りの歓声など関係なく、ひたすらに撃ち込む姿。
壁の一点のみを打ち込み、左足を軸にその場から動かない。
俺はその子から目が離せなかった。
名前も知らない。
選抜で会えると思っていたが・・・その子はいなかった。
どの試合にも。
決勝戦の時、視界の端に彼女の視線を捕らえた。
思わず視線をそちらに向けると、もうその子はいなかった。
残像かと・・・その時は思った。
そして4月。
まさか再会するとは思わなかった・・・この青学で・・・。
手塚「レギュラーは全員集合!」
部長の手塚先輩の号令で、レギュラージャージを着た7名集まった。
3年の副部長の大石先輩とゴールデンコンビの異名を持つ菊丸先輩。
部活一背の高い乾先輩にラケットを握った途端に性格が変わる河村先輩。
2年のマムシと呼ばれる海堂先輩に、一番仲が良い桃先輩。
そして1年で唯一のレギュラーである、俺 越前リョーマ。
手塚部長は、レギュラーを一通り見渡してから、入口の方を振り返った。
手塚「入って来い、。」
そう言われて透き通るような声と共にコートに入って来た人。
髪の長い女。
どう見ても1年ではない。
下からずっと視線を上げて、顔を見た瞬間・・・俺の思考は完全に閉ざされた。
忘れもしない、あの時の人。
ずっと会いたいと思っていた人。
俺はただただその人の事を凝視してしまった。
手塚「今日からミクスド1の練習に入る。本来ならはシングル専門だったのだが、竜崎先生の強い要望
により、ミクスドに変更になった。、自己紹介をしてくれ。」
「はい。」
ニッコリと笑うと、その人はすっと全員を見つめた。
その視線は全てを見透かすような・・・そんな瞳だった。
「2年のです。よろしくお願いします。」
ぺこりと頭を下げると、桃先輩と目が会ってにっこりと微笑みあっていた。
どうやら顔見知りのようだ。
手塚「のペアは練習を見ながら決めていく。以上だ。では練習を開始する。」
手塚部長の声と共に、一瞬にして先輩の周りを3年の先輩達が取り囲んでいた。
不二「まさかちゃんがミクスドに来るとは思わなかったよ。」
「うーん・・・私もさんざん断ったんだけどねぇ。」
苦笑しがらも答えるのだが・・・何故か3年の先輩にタメ語。
大石「でもならすぐにメンバーとも出来るんじゃないか?」
「どうだろうね?私、結構個性強いからダブルス向いてないし。」
そう良いながらクルクルと菊丸先輩と同じようにラケットを回し始めた。
器用だな・・・やっぱり。
乾「だが、はオールラウンダーだろ?なんとかなるんじゃないか?」
「国光がダブルスやるようなものだよ?」
その言葉で全員が部長の方に視線を向けた。
竜崎先生から貰ったプリントを眺めて、練習の確認をしているようである。
こちらの話しは耳に入ってない。
菊丸「そう考えると、怖いかもしれないにゃー。でも、ちゃんが相手なら、俺いっつでもokだからねん!」
「ゴールデンペアの仲を裂くようなマネはしませんよ。」
一人一人と話すのだが・・・なんでこんなに仲が良いのだか・・・。
今までこの人の事なんか話題に上がった事なんてないのに。
この人は一体・・・。
そう俺が思いながら先輩を見ていると、先輩が俺に気付き手を伸ばしてきた。
ニッコリとした笑顔付きで。
『Hello Ryorma Echizen. Should I say after a long time?
(こんにちわ、越前リョーマ君。久しぶりって言った方がいいのかな?)』
突然英語で話しかけられて、俺は瞳を見開いた。
それもそのハズだ。
まさか英語で挨拶されるのも驚きだが、久しぶりって事は・・・先輩も俺の事を覚えていてくれたと言う事なのかな?
越前『Hi. What thing is from it after a long time?Though there is no remembrance.
(どーも。それより久しぶりって何の事?覚えがないんだけど。)』
わざと質問をしてみた。
すると先輩はクスリと笑みを作った。
『Lie. To the face habit of be more than others surprised when I enter.
Is understood a selection all Americans jr if you say then or
(嘘。私が入って来たとき、人一倍驚いた顔してた癖に。じゃ、全米jr選抜って言えばわかるかしら?)』
やっぱり・・・。
俺は暫く黙って先輩の顔を見ていた。
話しもしなく、ただ群衆の中から見ていただけなのに・・・。
そんな二人だけの会話に菊丸先輩が眉を顰めながら割り込んできた。
菊丸「なになに?二人して英会話なんてして。なんて話してんのかわっかんないじゃん。」
「(くす。)周助はわかった?」
不二「うん、なんとなくだけどね。でもまさか越前と知り合いだったとは思わなかったよ。」
そう言いながら俺を見る不二先輩の目は、いつも以上に怖かった。
試合以外では見れない程の、冷徹さを持っていた。
俺はなんとなく身震いしてしまった。
手塚「交流はその辺でいいだろう。ハーフコートのシングルスの試合を行う。まずは不二と入れ。」
名前を上げられた時、シーン・・・と静まり返った。
俺は訳がわからず二人を交互に見た。
するとあの不二先輩の目が開眼しているし、先輩の顔がさっきとは人が変わったようにニヤリと不敵な笑みを浮かべたままだった。
桃城「こりゃー、また荒れるなぁ。」
越前「なんでですか?」
大石「まぁ、不二が青学一の天才と呼ばれるなら、は青学一の秀才だろうな。」
乾「見てればわかるよ。」
そう言うやいなや、乾先輩をノートを開いて何やら書き込み始めた。
そんな仕草をチラリと視線を流す先輩。
「貞ちゃん、簡単にデータは取らせないよ。」
不二「僕も。」
それだけ言うと二人はコートの中に入って行った。
いつも以上にコートが静かになった。
周りにいた歓声を上げていた女子でさえも・・・。
一体何事なんだろうか・・・?
だが、その疑問はすぐに解決した。
先輩から始まったサービス・・・それは俺がもっとも得意とするツイストサーブだった。
それも俺よりも数段に威力が大きい。
あの不二先輩が返すのがやっとなのだから。
対角線上にリターンを返した不二先輩だったが、そこにはすでに先輩が構えていた。
あまりのダッシュ力にただ目が点になるばかりだった。
10分以上続くラリーでも両者はひけを取る事を知らず、またアウトになる事もない。
その凄まじい気合いと技術力に俺は視線が釘ツケになった。
あの時見た、あのフォーム。
一段と美しくなっていたフォームに素直に俺はテニスがうまい・・・と思った。
不二先輩と戦った時にも感じた・・・いやそれ以上の感情。
菊丸「そー言えば、不二の奴今回はどーすんのかね?」
乾「不二のトリプルカウンターの全てを封じ込めたのもだけだからな。」
越前「え・・・。」
その会話に思わず俺は乾先輩を見上げてしまった。
俺でさえヒグマ落とししか試合中出される事はなかった。
しかもあの技をなんとか封じ込めたものの、ネットにひっかけるような付け焼き刃ではあの不二先輩にすぐに修正されて終わりだった。
一体どうやって・・・。
手塚「アウト!」
今日始めて聞いた「アウト」と言う声。
それは先輩が出したものだった。
不二先輩は相変わらずニッコリとしたままだが、少しの息の乱れを見せていた。
だが・・・先輩はまったく息が乱れていなかった。
ふと先輩がラケットを見つめて呟いた。
「相変わらず嫌なスピンかけるねぇ、周助は。」
そう言うと、ギュッと再度グリップを握り直して不二先輩を見据えた。
不二「、技の一つくらい見せてあげれば?」
「見たいなら私を追い詰めてね。」
可愛くウィンクすると、不二もファンの子達が悩殺される程のうっとりするような笑みを先輩に向けた。
しかしそんな笑みは先輩には効かないようだった。
あれから5分後・・・互いに技を出す事もなく、先輩の圧勝だった。
しかし、試合を終わらした不二先輩は不満そうに先輩に近付いた。
不二「、なんで利き手を遣わないの?」
その言葉に驚いた。
ずっと右手で打っていた・・・利き手と言う事は・・・。
俺は先輩の左をマジマジと見つめてしまった。
すると先輩はニッコリと笑いながら言った。
「これは大会まで温存しておくの。」
不二「でも残念だな、の技が見れないのは。」
負けたのにも関わらず不二先輩はさっぱりした表情だった。
それ以降の試合は全て先輩対レギュラー陣。
そして全勝してしまった。
あの部長にも。
確かにやっていて本気を出していないのはわかった。
どこか遊ばれている様な感じ。
それでも嫌所ばかりを打ってくる。
特に苦手と言う場所はないのだが、ほんの0コンマ何秒か反応の遅れる場所を攻められた。
そして部活の終わりを告げる集合かかけられた。
手塚「今日、とやった試合を各々反省し明日からの練習に生かすように。以上だ、解散!」
?
それって故意的に苦手な箇所を攻められたってこと?
それにしても他の先輩達は、苦手なようには見えなかったが・・・。
1年はコートの片づけに入ると、俺も一緒に片づけ始めた。
すると脇で一緒に先輩が片づけを手伝ってくれた。
「決勝戦の時も思ったけど、綺麗なフォームね。」
越前「そうっすか?」
「うん。」
先程とは変わって優しい笑み。
俺はずっと疑問に思っていた事を口に出した。
越前「なんで試合最後まで見なかったんすか?」
「だって越前君が勝つと分かったから。」
越前「じゃ、なんで先輩は試合に出なかったんですか?」
「面白くないから。」
越前「じゃ、俺と試合してよ。練習じゃなくて本気で。俺も左使うから。」
「・・・手塚を倒したらね。」
ポンと軽く頭に手を乗せると、先輩は他の1年の方に走って行った。
俺は触られた部分を、何度か撫でた。
何故かその部分が熱かったから・・・。
終わり
後書き 〜 言い訳 〜
ここまで読んで下さり
心より深くお礼申し上げます。
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
再掲載 2010.10.30
制作/吹 雪 冬 牙
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