【 願い事 】蔵馬×ぼたん
「願い事・・・ですか?」
久しぶりにお互いの休日が重なり、蔵馬の家でまったりとした時間を過ごしていた。
最初はお互いの近況報告をして、その内に幽助の話になり、桑原君の話になり、飛影の話
になり、雪菜ちゃんの話なった時に事は起こった。
雪菜ちゃんの願い事・・・。
自分の兄に会いたい事が一番。
みんながいつも笑って暮らせる日常が二番。
そんな話をぼたんと雪菜ちゃんの間でしたと言う。
話が一区切り着いた所で、ぼたんは首を傾げて俺に聞いてきた。
「蔵馬の願い事ってあるのかい?」
願い事・・・。
そう言われて、興味津々で俺の事を見つめてくるぼたんをチラリと見た。
願い事なら叶ってる。
そう・・・。
俺の大好きな笑顔で
俺の大好きな声で
俺の隣で
「蔵馬」と
俺の名を呼んでくれる事。
「ないですね。」
「やっぱりねぇ。」
俺の答えが分かっていたかのように、ぼたんはしみじみと言うと、お茶に手を伸ばした。
ズズズ・・・とお年寄りが飲むように音をたてると、「はぁ・・・。」と一息ついた。
「蔵馬なら、願いなんてないと思ったんだよねぇ。」
「何故です?」
「だって、蔵馬なら願う前に、自分でどうにかするだろう?」
ドクン・・・
一瞬、心臓が止まったような感じがした。
俺は嬉しくて、自分の口が自然と笑みを形作って行くのがわかる。
いつものポーカーフェイスはどこかへ・・・。
「ぼたん。」
俺はぼたんの名を口にすると同時に、彼女の手を自分の方へと引いた。
何の抵抗もなく、俺の胸に入るぼたん。
キュッ・・・と抱きしめて、耳元に自分の口を持って行った。
熱い吐息が掛かるように。
そして低い声で囁いた。
「どうにかさせてもらった。」
いつもの敬語はどこへやら。
本当の俺を見せる事が出来る・・・唯一の愛しい人。
こうすれば、恋愛事に不慣れな彼女の事。
動けなくなるのは計算済み。
俺は、石像と化している彼女の顔を、そっと覗き見た。
案の定、ぼたんの顔は、真っ赤。
クス・・・。
誰にも見せられない。
俺だけが見る事を許される・・・
そんなぼたんの顔。