【 願い事 】幸村×ヒロイン
「え?願い事?」
突然、幸村にそんな事を聞かれて、私は目を何回か瞬いた。
男女共同で部活をしていた最中。
後輩の素振りの面倒を見ていたら、急に私の名前を呼ばれた。
振り返れば、テニス部にその人あり・・・と言われる幸村精一の姿。
「なに?」と近寄れば、冒頭の質問をされたのである。
「そうだなぁ。」
沢山あるよなぁ。
まず一つは痩せたいでしょ。
次ぎは、今年も全国優勝したいでしょ。
次ぎは、テストのヤマが当たって欲しいでしょ。
この間のお店に展示してあった、かわいいワンピースも欲しいし。
やっぱし・・・
ピ!っと人差し指をたてて、背の高い幸村を見上げた。
「お金が欲しい。」
真剣に言えば、幸村は最初は面食らっていたが、直後
「あはははははは・・・。」
爆笑された。
そんなに幸村の壺に入りました?
・・・つーか、コイツの壺って・・・。
ピーンと空気が張りつめたのに気が付いて、私は周りを見た。
案の定、全ての部活動は機能停止されていた。
あの真田でさえも、手に持っていたテニスボールを落としてしまう程。
シーンと静まり返るテニスコートに幸村の笑い声だけが、響いていた。
「ちょっと、なんで笑うのよ!」
「いや、さすがは仁王だと思ってね。」
それを言われて、私は仁王の方を振り返った。
仁王も苦笑して、肩を竦めるだけ。
あの野郎・・・後で覚えてやがれ。
そう心で堅く誓うが、とりあえず、今は目の前の幸村を何とかしないと。
コレじゃ、部活出来なくなる。
「詐欺師に何言われたか知らないけど、部活中に何やってんのよ。幸村。」
「いや・・・はー面白かった。」
どこが面白いんだか。
幸村って元々つかみ所がない奴だとは思っていたけど・・・
笑いの壺ですらつかめない奴とは。
本当、いろんな意味で最強だよね、幸村って。
「さて、少し休憩にしようと思ってね。」
最初からそう言え。
私はため息をつくと、素振りを再開した後輩の方へと足を向けた。
幸村もレギュラーの方へと足を向けるのが分かる。
少しづつ距離が遠くなる。
私は幸村を振り返った。
「幸村!」
私が名前を呼べば、幸村も私の事を振り返った。
「幸村の願い事は?」
そう叫べば、幸村はニッコリと笑みを浮かべた。
「君との甘い時間が欲しい・・・かな?」
「なっ・・・!!」
赤面する訳でもなく、サラリと言ってのける幸村。
それとは対照的に、私の顔は真っ赤になっていた。
口を金魚のようにパクパクさせていると、幸村は私へとまた近づいてきた。
ポン・・・と頭に手を乗せると、私の顔を覗きこむように視線を合わせて来た。
「それで、願い事は叶えてくれるのかな?俺の女神は。」
もちろん、部活はそのまま機能停止。
真田の「たるんどる!」って怒鳴り声と、「さすがは立海の部長ぜよ。」って言葉。
耳に入ってはきてはいたが・・・
私の思考は、そのまま完全に思考停止になったのは、言うまでもない。