【 願い事 】跡部×ヒロイン


「景吾ってさ・・・。」
「?」
「願い事とか、そう言うのなさそうだよね。」

レギュラー専用の部室に、女子部の部長である私と男子部の部長である跡部景吾はいた。部活が終わり、部誌に今日の出来事を記載している時・・・。
視線は、部誌に向けた状態で景吾に聞いた。
シーン・・・と静まり返る部室。
あまりにも反応がない景吾に、私は視線をあげた。
どこで購入してきたんだが・・・ヒョウ柄のソファーに王様よろしく、偉そうに座っている景吾様。
しかし、その顔は呆れた・・・と物語ってる感じだった。
そんな顔を見て、私の目も半目になった。


「・・・何よ。」
「くだらねぇ。」

くだらない・・・か。
私はまた部誌の方に視線を落とした。
確かに、景吾ほどの実力だったら、なんでも願う前になんでも叶える力がある。
それは財力でも、容姿でも・・・全てにおいて。
でも、そう言った天性の物がない人は、願わずにはいられない。
願う事によって、目標が出来て「頑張ろう」って気にもなる。
「願う」と言う行為自体・・・出来ない人が思う思考なんだと思う。
だから、きっと景吾はそんな私のような気持ちはわからない。
私がどんな願いを胸に秘めてるか・・・なんて、絶対に分からない。




そう、思いこんでいた。



「勝手に決めつけんな。」

景吾の言葉に、驚いて顔を上げると・・・
いつのまにか景吾の顔は目の前に。
あと数ミリでキス出来てしまう程の距離。
景吾の吐息が私にかかる。
すると景吾は何を思ったのか、ペロッ・・・と私の唇を嘗めた。
猫みたいに。

「!!」

あまりの事に私は、顔が真っ赤になり思考がぷっつり・・・と停止した。
そんな私の顔をまた、呆れたように見つめる景吾。
少し私から距離を取ると、ポン・・・と私の頭に景吾の大きな手が乗せられた。

「願い事がねぇ奴なんかいねぇだろ。」
「でも。」
「大方、お前の事だから、俺様ほどの実力があれば、願わずとも手に入る・・・とでも思ったんじゃねぇーのか?」

当たってる・・・。
悔しいけど、些細な私の気持ちまでも気づいてくれている景吾。
愛されてるなぁ・・・と実感する時。
景吾の目は、学校にいる時でも、屋敷にいる時でも、部活をしてる時でも、友達といる時とも違う、とっても優しい表情になる。
この目が見えるのは私の特権。
今は、私だけの・・・。

「願いなんて物は、生きる上での人それぞれの糧になる物だ。願うから、それを手に入れようと努力する。」


確かに。
欲しいと願うからこそ、自分の手に入るように動くんだ。
ははは・・・。
なんでそんな簡単な事に気づかなかったんだろう。
やっぱり景吾は凄い。

逆立ちしたって、何をしても叶う相手じゃない。

「それに俺にだって、願い事くらいなら・・・ある。」
「へ?景吾に願い事なんかあるの!?何?何?」
「てめぇ・・・俺の事をなんだと思っていやがる。」

呆れたような顔の景吾が、だんだんと何かを企むかのような笑みが浮かんでくる。
景吾がこんな顔した時は危ない。
心の中で危険信号が点滅しだしだ。

「言ったら叶えてくれるのか?アーン?」

クイ・・・と顎を上に向かされて、キスをする合図。
ジ・・・と互いを見合って数秒。

「俺の願いは神に願う程のモンじゃねぇ。だが・・・。」

愛おしそうに頬を親指で撫でられて、熱い視線を受けて、こんな情熱的な景吾を見るのは珍しい。
だんだんと景吾の顔が近づいたと思い・・・ギュっと目を閉じても、唇には落ちてこない。
そのかわり、私の耳に景吾の吐息が吹きかけられた。
そして、いつも以上に低い声で囁いた。

「お前を永遠に俺の物にしたい。お前の全てが欲しい。叶えてくれるのか?」