【 願い事 】幸村VS跡部
「跡部、君って願い事とか無さそうだよね。」
「はぁ?」
近くのスポーツショップに行ってみれば、立海大部長の幸村精一と氷帝学園部長の跡部景吾がレジを前に、固まっていた。
まさか、出会うなんて思ってもみなかったのだろう。
しかも手を見れば・・・お互いに同じグリップテープを持って。
滅多に見れない異色ツーショット。
ファンが見れば、大変な光景だろう。
しかも、どんな話の成り行き上か・・・二人は喫茶店に入り、コーヒーを飲んでいた。
互いに全国のテニスプレイヤーの話をし、青学の話をしてる内に、ふいに幸村がそんな事を口にした。
質問の意図が分からない跡部は、何が言いたいのかと、肩眉をあげた。
「何が言いたいんだ、テメェは。」
「ウチの女子部の部長がね。」
立海大女子部部長。
言わずと知れた跡部の思い人。
そして、幸村の思い人。
そう、二人はテニスだけではなく、恋愛上でもライバルなのである。
「あいつがどうした。」
「俺に願い事はないかって聞かれてね。とっさに思い浮かばなかったから、「ない」って答えたんだけど・・・。」
ふと幸村はその時の光景を思い出した。
部活が終わり、1年達に片づけをさせている時だった。
「ねぇ、幸村って願い事ってある?」
「願い事?・・・うーん、ないかな。」
「あ〜やっぱりね。そうだと思った。」
一人で納得して、彼女は更衣室へと消えて行った。
「・・・てな事があってね。」
「ほう・・・その質問なら、俺も電話でされたな。」
「跡部もかい?」
お風呂から出て、髪を乾かして音楽を聴こうと思った時、携帯が突然鳴り出した。
ふと時間を見れば、日付は次の日に変わってる。
こんな時間に誰かと、ディスプレイを見れば・・・。
彼女の名前。
すぐに通話ボタンを押して、少しテニスの事で相談された。
俺は彼女に、俺の知りうる知識の中でアドバイスをしたのだが・・・。
唐突に質問された。
「そう言えば、景吾って願い事ってある?」
「願い?そんな物、思わなくても全て手に入るから必要ねぇ。」
「・・・だよね。聞いた私がバカでした。」
冷めた感じの彼女の声が未だに耳に残っている。
「ふーん。彼女、テニスの事で君に相談するんだ。初めて聞いたな。」
「いや、つっこむ場所は、そこじゃねぇだろ。」
「まったく。どこまで俺に遠慮するのかな・・・。今度、注意しておかないと。」
クスリと笑みを作る幸村を見て、跡部は背中に悪寒が走ったのを感じた。
「幸村。」
「なんだい、跡部。」
「・・・ほどほどにしろ。」
「大丈夫だよ。俺が彼女に乱暴するわけないだろう?みんなのとは違うさ。」
願い・・・。
ふと幸村と跡部は口をつぐんだ。
何故、そんな質問をしてきたのだろうか?
願う事は、ただ一つだけ。
全国優勝でも
受験合格でも
身体健全でもない。
願うのは・・・
ただ
君の心が欲しい
それだけ。