【 願い事 】ヒノエ×望
「願い事・・・?」
可愛らしい瞳で、「そう!」と顔を輝かせて言う神子姫。
なんでこんな質問が・・・。
遡れば、怨霊を倒す旅にも疲れが見え隠れした頃。
俺たち八葉と二人の神子姫とでしばしの休息を取る事にした。
宿屋に入れば、他の者達は街に散策に出たり、部屋で仮眠を取ったり、思い思い事をしていた。
俺は、何となく白龍の神子姫が気になって、部屋に行ってみれば・・・
神子姫は、何かを考えるように青い空をジっと見つめていた。
きっと、遠い自分の故郷を思い描いているのだろうと・・・たやすく想像出来るほど。
儚く消えてしまいそうな神子姫を繋ぎ止めたくて、俺は声をかけた。
「ヒノエくん。」
と先程までの顔とはうって変わって笑顔を向けてくれる神子姫。
神子姫の隣に座って、たわいもない話をしている時だった。
ふと神子姫が俺にそんな質問をしてきた。
願い事・・・ねぇ。
チラリと彼女の事を見れば、キラキラと綺麗な瞳の中に俺だけを映している。
フッと笑みを向けると、俺は神子姫の頬に触れた。
「願わくば、その瞳に俺だけを映して貰いたいね。今みたいに。」
少し低い声で囁けば、神子姫の顔はみるみる紅くなる。
本当に、見ていて飽きない。
しかし、そんな顔をしながらも、強気な彼女の言葉が返ってくる。
「そうじゃなくて!ヒノエ君、個人のお願い事を聞きたいのに!」
「神子姫様は、そんなに俺の事が知りたいの?」
片目を閉じて、ニヤリと笑みを向ければ、神子姫はふいと顔を逸らした。
少しからかい過ぎたかな?
俺は顔から笑みを取り払い、ふと目の前の桜の木を見つめた。
今は青い葉を付けたその大木。
きっとこの木も、春には美しい桜の花をつけるだろう。
来年には・・・。
来年・・・か・・・。
「願いがない訳じゃないぜ。」
これ以上、からかえばケンカになってしまう。
短い期間ながらに彼女の性格を知った俺は、ふと呟いた。
俺にしては珍しいまじめな声。
彼女がこちらを見たのがわかる。
でも、俺は視線を前に向けたまま続けた。
「でも、その願いは決して口にはしては駄目だからね。」
「なんで?」
不思議そうに首を傾ける。
ほんとうに・・・おまえって女は・・・。
どこまでお前に溺れさせるつもりなのかね。
本当に可愛い神子姫の長い髪を俺は一房、手に取った。
綺麗に手入れされている髪。
俺はその髪に口づけを落とした。
「言ったら戻れなくなるけど・・・それでもいいのかい?」
フイと見上げて神子姫の表情を伺えば、彼女はこれ以上ないくらいに顔を真っ赤にしていた。
「また、そうやってからかう!!」
彼女が怒って手を振り上げるものだから、俺はその場から素早く立ち上がって外へと出た。
「ヒノエ君!」
怒るお前の顔もいいけどね。
俺は軽く手を挙げるとお前の前から姿を消した。
願い・・・か。
願いはある。
たった一つ。
でも、それはお前を不幸にする。
俺の最大の我が儘な願いだから・・・。
だから・・・一生言えない。
いや、言わない。
そんな俺の願いよりも、お前の幸せを先に願ってしまうから。