タイトル 「寂しい?・・・おいで」


一仕事を終えて
カラカラ・・・と隠れ家の一つであるマンションの窓から戻った。

「ふぅ・・・。今日もハズレだったなぁ。」

また返却しないとな・・・と考えながら、窓を閉めた。
暗い部屋の中。
月明かりだけで照らされる、ガランと広い部屋。

必要最低限しか家具を置いてないから余計に
生活感がないのかもしれない。


蘭ちゃん、もう寝ちゃってるよな。


ふと携帯を開いて、確認した時間はすでに3時を回っていた。
明日も学校だし、起こすの悪りぃしな。
声聞きたいのは、俺の我が儘だし・・・。

声が聞きたい。
顔が見たい。
彼女の温もりを感じたい。

数日前まで、共にした狂ったような熱い夜を思い出すと
勝手に体が疼く。
これでは寝れない。
体の熱を冷ます為にも、お風呂に入ろうと帽子を脱ぎ、マントと手袋をソファーへと
かけた時だった。


カタン・・・


え?
物音がして、ゆっくりとリビングの扉へと視線を向けた。


「!!」

思わず息を飲み込んだ。
扉に立っていたのは、いるはずのない人物だったから。
声なんて出なかった。

「・・・お帰りなさい。」

か細い声。
俺は体制を戻して、ニカッ!と笑みを向けた。

「魔法使いを驚かすなよー蘭ちゃん♪」
「・・・ごめんね。」

いつもと反応が違う。
俺はゆっくりと蘭ちゃんへ近づいた。
近づけば気付く、涙の後。
俺の顔から笑みが消えたのは言うまでもない。

「工藤に何か言われたのか?」

フルフルと横に振る蘭ちゃん。
何も話そうとしないが、扉を持つ手に力が入っている。
それはやっと立ってるって感じで・・・。

まさか・・・
いや、でもな・・・。
だったら嬉しいけど・・・。

ふと思い浮かんだ一つの事に、必死に顔がニヤけるのを我慢する。
はずしたら、めっちゃ恥ずかしいしなぁ・・・。
でも、もしかしたら、蘭ちゃんも俺と同じ事を思ってくれてるかもしんない。

ある程度の距離で、俺は足を止めた。
それに気付いた蘭ちゃんは、さらに俯いた。
こんな時間に、しかも無断でマンションにいる事に対して
罪悪感があるのかもしれない。

「蘭。」
「!」

俺は手を差し伸べた。

「寂しいの?・・・おいで。」

瞬時に蘭ちゃんの顔は真っ赤。

「おいで、蘭。」

作った笑みでない。
自然と出た、愛しくて堪らない・・・そんな俺の顔が、扉のガラスに映る。
俺ってこんな顔出来るんだ。
そんな事を頭の片隅で考えていた時・・・蘭ちゃんが少しだけ動いた。
でも、まだ迷ってるみたいで。

「蘭。」

もう一度だけ、呼んだ。
その瞬間、弾かれたように顔を上げて蘭ちゃんが俺に抱きついて来た。
何があったかわからない。
でも・・・。

俺は蘭ちゃんの背に手を回して、肩口に顔を埋めた。
蘭ちゃんの匂い。
蘭ちゃんの温もり。
蘭ちゃんが腕の中にいる。

ああ、本当に俺は手遅れなんだな。
もう手放せないくらい、蘭ちゃんに夢中なんだ。

しばらく抱き合って・・・
ポンポンと背中を軽く叩いた。
それが合図かのように、蘭ちゃんは少しだけ体を離して、俺の事を見つめた。
その瞳に、涙の後があって
俺は自然と目元を拭った。

「何かあった?」

やっぱり首を横に振るだけ。
俺は額に優しくキスを一つだけ落とした。

「ごめんなさい、快斗君。連絡もなく、勝手に入って。」
「別にいいって。好きな時に来てよ。その為に合い鍵渡したんだからさ。」
「でも・・・こんな時間に、迷惑だよね。」

コツンと額に指を弾いた。

「バーロ。んな事、気にしてんじゃねぇよ。」
「でも。」
「俺だって、さっきまで寝てるかもしれない、蘭ちゃんを携帯で起こしちまおうかって
思っていたんだからさ。」

俺の言葉に、蘭ちゃんは少しだけ目を見開いて
凄く嬉しそうに笑みを浮かべてくれた。
俺の大好きな表情。

「急にね・・・逢いたくなって。我慢しようって思ったんだけど・・・我慢出来なくて
少しでも快斗君を感じていたくて・・・来ちゃったの。」

うわぁ・・・嬉しすぎる。
どうしよう、もうニヤける顔を押さえられない。
俺は手で口元を隠して、顔をそらした。

「快斗君?」
「いや・・・蘭ちゃん、それ殺し文句。」
「え?」

意味がわかっていない天然なお嬢さん。
ど、どうしよう。
キスしてぇ・・・。
チラリと蘭ちゃんの唇へと視線が自然と向いてしまう。
何か言いたそうな、少しだけ開かれた口元。
誘われてるとしか思えない。

でも、きっとキスしたら自分を抑えられる自信は皆無。
が、我慢。
明日は、お互いに学校だし。
なんとか理性を総動員して、俺は蘭ちゃんの肩にポンと手を置いた。

「泊まって行きなよ。俺、風呂入ってくるから、先に寝てていいよ。」

そう言って、蘭ちゃんから離れようとしたが、蘭ちゃんが服の裾を瞬間的に
握ってきた。
え?
俺は驚きと共に、その手元へと視線を向けた。

「待っててもいい?」

エ・・・マジデスカ?
いやいや、蘭ちゃん事だから、誘い文句なんて思ってない。
寂しいから、言ってるだけ。

俺の無言をどう勘違いしたのか、蘭ちゃんはそっと手を外し手
あの無理をしてる笑みを浮かべた。

「ごめん、私なんだから変だね。ベット、借りるね。」

そう言って、俺の横を通過ぎようとした時
今度は俺が蘭ちゃんの手首を掴む事となった。
グイと引いて、蘭ちゃんの耳元で囁いた。


「待ってて。」
「え。」

良い逃げするように、俺は風呂へと向かった。


なんだろう。
なんの苦行だろ。
ともかく・・・我慢しねぇと・・・。
明日、お互いに学校に行かなかったら、ヤバイし。
早めに、蘭ちゃんを家まで送らないと行けないし。
あ・・・でも寝たら起きられないから、起きてた方がいいのか?

じゃぁ・・・


いやいや、駄目だ。


もんもんと風呂の中で考えを堂々巡りさせていた俺。
風呂から出て、部屋に行った時は
すでに御姫様は、眠りの国へ旅立っていた。


「ははは・・・そんなもんだよなぁ(^_^;)」

蘭ちゃんを抱きかかえて、ベットへと寝かせて
その横に体を滑りこませる。
蘭ちゃんをしっかりと抱きしめると、自然とまぶたが閉じて行った。




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マスター 冬牙