『 嫉 妬 』
※こちらは長編「もう一つの話し」に付属する短編になります。
NG方はご遠慮下さいませ。








外は雨。
確かに梅雨の時期だとは思うが・・・いくらなんでも雨が降りすぎ。
どんよりした空に、一人でため息をついて、窓の外をぼんやりと眺めていた。
ふと横目に入ったのは、携帯。
ゆっくりとした動作で携帯を手に取っては開いてみる・・・。
誰からも着信はない。
だが、ゆっくりとアドレス帳を開き、K行を開く。


工藤新一



黒羽快斗




並んで書かれている名前をジッと見つめてしまう。
私は・・・。
ふと頭に浮かんだ快斗の顔を思う浮かべて、携帯を閉じた。
前に見せてもらった、青子ちゃんと言う女の子の写真。
快斗の幼馴染みだったと聞いた。
彼氏もいると。
だが・・・。


数日前


園子が珍しく学校を休んだ。
だから、一緒に帰る事もなかったから・・・なんとなく待ち合わせの場所へでなく、快斗
の高校へと足が向いていた。
驚いた顔が見たかったのもあるんだけど・・・。
校門で待ってれば、やはり他校生がいるってだけで、かなりの注目度。
心地が悪くて、やっぱり待ち合わせの場所にいようと、その場を離れた。
少しして、後ろで聞いたことのある声が聞こえた。

「もう、快斗ったら、突然走らないでよ!」
「るせーな。おめーは、白馬の所にでも行ってろよ。」
「いやだ。今日は快斗と帰るって決めたんだもん。」
「おめぇーなぁ・・・。」

呆れたような物言い。
それでも青子ちゃんに歩幅を合わせている快斗。
まんざらでもないその笑顔に、咄嗟に身を隠してしまった。
自分の脇を、楽しそうに学校であった話しで盛り上がって通り過ぎていく。
私の知らない名前。
私の知らない事。
だが、青子ちゃんからはスラスラと言葉が出てくる。
その言葉に快斗が、本当に面白そうに笑ってる。
その笑みは、私の前では決して見せない・・・年相応の笑顔。
きっと、こっちが本当の「快斗」なんだって思った。
その時、胸に小さな痛みを感じた。
その痛みの意味を、知らないわけじゃない。
うそ・・・。
そんなはずはない。
自分はずっと、工藤君を好きで・・・工藤君の帰りを待つって決めていたのだ。
こんなの嘘。
ギュっと胸に手を合わせて、そこから走った。
ずっとずっと走った。
その日・・・結局、待ち合わせの場所には行けなかった。
携帯も電源を切って、連絡を取れないようにした。
そしたら、青子ちゃんと一緒にいた快斗を見た以上に、胸が痛かった。
認めなくなかった。
絶対に違うと・・・事務所の電話から、工藤君の携帯に連絡した。
声が聞きたくて。
でも、工藤君の携帯はつながらなくて・・・留守電にメッセージを入れる事もせずに
電話を切ってしまった。
その日の夜遅くに、工藤君から電話がかかってきたけど・・・まともに話す事が出来な
かった・・・。
ただ一言・・・「早く帰って来て・・・工藤君。」って呟いた。
工藤君の困った沈黙が痛いほどに分かって、笑って誤魔化してしまった。
次の日の朝・・・携帯の電源を入れるのが怖かった。
快斗になんて言おうって。
きっとあの人なら連絡してくるって思ってたから。
だから、電源は切ったままにしてあった。


「はぁ。」
「蘭姉ーちゃん、大丈夫?」

遠慮がちに声を掛けてきたのは、コナン君。
コナン君にまで心配かけちゃって・・・本当に駄目ね。
私は苦笑するしかできなかった。

「何かあったの?新一兄ちゃんも、心配してたよ?」
「ううん、大丈夫。私、御夕飯の買い物に行ってくるね。」

近くにあったお財布だけを掴んで、逃げ出すように家を出た。
扉に背中をもたれて、天井を見つめた。

「何やってんだろ・・・私。」
「本当だよ。」

返って来るはずのない声。
でも、待っていた声。
私は反射的に階段の方を向いた。

「工藤君!・・・あ。」
「工藤じゃなくて、悪かったな。」

工藤君じゃ・・・ない・・・。
そこには・・・少しだけ怒った表情の快斗が立っていた。
一歩づつ、一歩づつ、階段を昇ってくる快斗。
私は逃げるように上の階段へ駆け上がろうとしたが・・・それは叶わなかった。
快斗に腕を取られていたから。

「いたっ!」
「すっげぇ心配したんだぞ。全然連絡も取れなくて!俺、何か蘭を怒らすような事した?」

何も言えずに首を横にふる事しか出来なかった。

「…蘭、俺の学校に来たよな?」

コクン。

「俺が行った時は、いなかった。すぐに待ち合わせ場所に行ったけど、いなかった。随分と待ったんだぜ?」
「・・・ごめんなさい。」

俯いた私。
手首を掴んだままの快斗の手は、少しだけ力が込められていて、痛かった。
でも、痛いなんて言えなかった。
それ以上に快斗の目が真剣で・・・それに捕まってはいけないって思った。

「俺・・・蘭に嫌われた?」
「・・・そんな事。」

小さく否定をすれば、突然快斗が大きな声を出した。

「じゃ、なんで!!!」

その声に、さすがに家の中からコナン君が出て来た。
コナン君の声も、いつもと違って少しだけ低かった。

「そこまででよしなよ、快斗兄ちゃん。」

快斗は、一瞬コナン君の事を睨んでから、私の手首を離した。
赤くなってる手首。
コナン君は、私の側までくると手首を持ち上げた。

「大丈夫?蘭姉ーちゃん。」
「う・・・うん。」
「夕飯の買い物に行かないといけないんでしょ?快斗兄ちゃんは、ボクが話すからお買い物に行っておいでよ。」

私は逃げるように快斗の脇をすり抜けた。

「蘭っ」

小さく呟かれた私の名前。
とっさに出された手を振り払うように、夢中で走った。





俺は黒羽快斗と共に屋上へと上った。
蘭の様子がおかしくなったのは、コイツに逢ってからだ。
手すりの近くまで来て、俺は振り返った。

「蘭姉ーちゃんの事、これ以上」
「・・・蘭に何かあったのか?坊主」

先程までの切羽詰まった感じの余裕のない黒羽ではなかった。
睨むと言うよりも、少しでも見抜こうとする、痛い程の視線。
この視線・・・誰かに似ている。

「知らないよ。」

ニッコリと子供らしい笑顔を向けた。
だが、黒羽はピクリとも表情を変える事もなく、ただジッと黙ったままだった。
俺はポケットに手を入れて、眼鏡を外した。
夕日が眩しくビルの屋上を照らしていた。
手すりギリギリまで近づいた。

「蘭は、オメーなんかに渡さない。」

まだまだ子供の時の声。
そう言えば、こんな台詞・・・何度、蘭に言い寄って来た野郎どもに言った事か。
何か反論して来ると思っていたが、予想に反して黒羽は黙って聞いていた。
俺はゆっくりと、黒羽を振り返った。
互いの間を、少し強い風がすり抜けて行く。

「聞いてんのかよ、オイ。」
「・・・フッ。」

瞬間、黒羽は顔を俯いたままで口もとだけ上げた。
それはまるで・・・あの白い怪盗を思わせるような仕草だった。
黒羽はゆっくりと俺に近づくと、膝を折って、俺の頭にポンと手を乗せた。
完全な子供扱い。
だが・・・目は違っていた。

「坊主、一つだけ良い事を教えてやるよ。女の子って言うのは「物」じゃない。渡すとか渡さねぇとか、そんな事は関係ないんだよ。決めるのは、一つ。蘭の「心(ここ)」だ。」

トントンと、軽く握った拳で叩いてきた。
黒羽は立ち上がると、俺の事を黙って見下ろした。

「まだ、戦いは始まったばっかだぜ。坊主。工藤新一にもそう伝えておけよ。」

それだけ言うと、黒羽は背を向けた。
軽く手を上げて、そのまま扉の向こう側へと姿を消して行った。
俺は崩れ落ちるようにその場に腰をおろした。
思い切り、地面を拳で何度かたたき付けた。
わかってる。
昔の過ちとは言え、蘭を離してしまったのは俺。
だが、俺は誰よりも蘭の事を側で見て来た。
誰よりも蘭を守ってきた。
誰よりも蘭を好きなんだ。
昨日の蘭の声を聞いて、心臓が止まったかと思った。
あんな淋しそうな蘭の声は・・・10年前の、「工藤君」と呼ぶように言った・・・
あの時以来だったから。
何かあったんだろうとは推測が出来る。
蘭のあの言葉は・・・
まるで、縋るような、必死離さないようにしてるような・・・
そんな声だった。


黒羽 快斗


奴の高校にまで、なんで蘭が行く必要があった?
なんで蘭はそんな事を考えたんだろう。

「!!」

まさか・・・
あり得ない。
認めたくない。
だが、答えは一つを示している。
自分の小さな手を見つめた。

「くっそ!!!」

俺がこんな姿にならなければ・・・!!!
今頃、俺は蘭にちゃんと自分の気持ちを・・・!!!


くそっ!




くそっ!


後書き 〜 言い訳 〜
 
こちらは短編になりますので、ほぼ読み切りです。
ごく希に続きのような形で書く場合もあるかもしれませんが・・・ 
 
ここまで読んでくださり
心より深くお礼申し上げます。



これにこりず、また読んで頂けますと幸いです。
 
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
 

掲載日2010.11.25
制作/吹 雪 冬 牙


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