『 奪って逃げるよ。 』
※こちらの話しは、怪盗キッドと蘭ちゃんが出会った時間軸は
無視して書いておりますので、予めご了承下さいませ。
もしもワールドなので、ご了承頂けない方はご遠慮下さい。








毛利蘭。
高校生探偵、工藤新一の一番大事な宝。
そして・・・
知らずに俺にとっても、『一番欲しい宝』になってしまった。
最初は、あまり気にしてなかったのに。
あの瞳が。
あの仕草が。
あの笑顔が。
全てが俺を惹き付けた。
盗むのが商売なのに、盗まれたのは俺の方。
だから、絶対にあの探偵から彼女を盗もうと決心していた。
けど、彼女の工藤新一への気持ちは、自分の気持ちが大きくなれば成る程に、嫌と言う程に目の当たりにされる。
どうして、いつ帰って来るかもわからない相手を待ち続けていられるのだろうか。
たまにしか電話しかしてこないような相手に。
そこまで想う、その理由はなんなのだろうか。
気になった。
俺が彼女を、初めて「好き」と自覚したのは、ちょっとした悪戯心からの事だった。
工藤新一が東の名探偵と呼ばれるのならば、服部平次は同じく西の名探偵と呼ばれる。
毛利蘭の父親が、とある山奥へと招待された日。
無論、毛利蘭と探偵坊主も一緒に付いて着ていた。
俺はその後をそっとついて回った。
蜘蛛屋敷なんてあだ名のつく程の有名な名家。
そこへ奇妙な形で、必然がいくつも組み合わさった。
西の高校生探偵までもが、集結した。
誰かが巧妙に仕組んだものと理解した俺は、一番身近にいた遠山和葉にすり替わった。
彼女には、食事の後にちょっとばかり寝てもらった。
この巧妙な罠に、あの探偵坊主は気付いているのか。
それ以上に、彼女に危害が及ばないか、ジェントルマンな俺としては、気になるところだった。
そう思っていたんだよな。
最初は。
寝る為の部屋を用意された時だ。

「え?ウチと蘭ちゃんが同じ部屋なんかで、ええの?」
「一人じゃ怖いもの。和葉ちゃん、同じ部屋じゃいや?」

不安げな彼女の目。
でも、マズイだろう。
健康な男・・・今は変装してるから女だが・・・同じ部屋って。
いやいや、それはマズイ。

「なんや?けったいなやっちゃなぁ。お前、一人だって怖いくせして。」

服部平次が意地悪そうな顔で、文句を言ってきた。
偶然に俺はコナンと視線が合ってしまった。
やべぇ。
俺はとっさに蘭ちゃんの腕に手を絡めた。

「いや、ほら!工藤君に悪いかなぁって思うて♪」
「なっ!?」

言った瞬間に、蘭ちゃんとコナンの顔が一瞬にして真っ赤になった。
必死に違うと反論してくる蘭ちゃんが可愛くて、ついつい虐めたくなってしまう。
服部平次もコナンの態度が余程面白かったのか「どないなんや?」なんてヒソヒソ聞いている。
無論、コナンも否定していたようだが。

「冗談やって。ほな、蘭ちゃん部屋に行こうか。」
「うん。おやすみコナン君、服部君。」

部屋を出るときに、毛利探偵に「部屋から出るな」と言われた。
どんなに酔っ払っていても、父親なんだなぁ・・・と少し蘭ちゃんが羨ましく思った。
部屋に入ると、布団が並べて二つ。
ガタガタっ!っと障子にへばりついた。

「和葉ちゃん?どうしたの?」
「どないしたって、これはアカンのちゃうん!?」
「へ?別に女の子同士なんだから、問題ないと思うけど。」

いやいや、大ありなんですよ。
タラ~と冷や汗が流れた。
こんな所で命を落としたくない。
俺は仕方なく、部屋の端に座って、ため息をついた。
何やってんだろ・・・俺。
チラリと彼女の事を見れば、何かを必死に探してるようだった。

「どないしたん?」

スーツケースをひっくり返している蘭ちゃんを後から見れば、今にも泣きそうな顔の蘭ちゃん。
げ。
なんだよ、なんだよ、次は。
俺は内心焦りながらも、蘭ちゃんの返答を待った。

「ないの。」
「へ?」
「ないの!ポーチに付けていた大事なマスコットが!」

その必死な蘭ちゃん。
ポーチ。
ああ、そう言えばさっき外に出た時に持ってたあれか。
マスコットなんか付いてたっけかな?
うーん・・・大抵の事は記憶してるハズなのに、俺の記憶の中に全然残ってなかった。
まぁ、あるとすれば車の中か、乗った所に落ちてるか。
二つに一つだな。

「もしかしたら、車の中とちゃう?」
「そうかもしれない。どうしよう・・・。」

取りに行きたいと言う顔してる蘭ちゃん。
そんなに必死になるマスコット・・・おそらくは、工藤新一からもらい物なんだろう。
蘭ちゃんを放っておいて、事件の真相を調べてる探偵オタク。
そんな薄情な奴から貰った物なのに、どうしてそんなに思う事が出来るんだろう?
高価な物なのだろうか?
興味を引いたから、車庫まで見に行こうと提案した。
だが、真面目な彼女は「父親に外に出るなって言われた」と迷ってるようだった。
今にも泣きそうな顔して。
なんだろう・・・彼女のこう言う顔、苦手かも俺。
俺は立ち上がって蘭ちゃんに手を差し伸べた。

「行こうよ、蘭ちゃん。すぐそこやし。すぐに戻れば、大丈夫やって。」
「でも。」
「大事なもんなんやろ?だったら、尚更。」

にっこりと笑みを浮かべれば、蘭ちゃんも嬉しそうに笑った。
可愛い・・・。
俺は一瞬見とれてしまった。
本当に嬉しそうに微笑む彼女。
顔が赤くなりそうになったので、慌てて蘭ちゃんに背をむけた。
外は大雨。
二人で傘をさして、車庫まで行った。
車の中を見ても、そのマスコットとやらはない。
「なんでぇ?」と泣き出しそうな声だして。
なんではこっちの台詞。
工藤新一のどこがいいんだか。
こんな危険な場所に、放ったらかして、謎を追究したくて調べまくってる単なる探偵オタクじゃねぇか。
俺だったら・・・。
彼女をこんな所に一人になんかしておかない。
車に寄っかかりながら、俺は天井を見上げた。

「だめ・・・ないよ・・・。」
「なぁなぁ。それってもしかして、工藤君がくれたもん?」
「えっと・・・それは・・・。」

そうですと言ってるように、彼女の顔がすぐに赤くなった。
面白くねぇ。
俺は元の位置に戻った。

「なぁ・・・蘭ちゃん。」
「んー?」
「なんで工藤君なんか、待ってるん?」
「え?」

俺、何言ってるんだろう。
でも、口が勝手に動く。

「ウチが男だったら。」

俺が正体言えたら

「絶対に」

絶対に

毛利蘭を工藤新一から奪って、逃げてる。


「蘭ちゃん奪って逃げてるわ。」

たとえ世界の果てまで工藤新一が追いかけて来たとしても。
絶対に、譲らない。
一度盗んだ宝は、返さない。
いや、返せない。

「和葉ちゃん?」
「ホンマやで?」

ポツリと呟いた言葉。
苦笑にも似た自分の顔。
気付いてしまった。
気付きたくなかった気持ちに。
俺は。
いつのまにか。


彼女の事が・・・


工藤新一が奪ってしまいたい程に


好きになってしまってるんだ。


それはどうにも出来ない事だと言うのに。
彼女の気持ちは、工藤新一にしか向いていない。
そんなの、たかがマスコット一つで、こんなに必死になる彼女を見れば分かる。

「和葉ちゃん・・・。」
「・・・車の中やないんやったら、乗った所もしれへんな。」

蘭ちゃんから離れたくて、俺は傘をさしてペンライトをつけた。
だが、そのペンライトも電池切れで、ユラユラとしていた。

「あかん、ライトの電池が切れかかってる。」
「単3なら、CDプレイヤーの中のあるから、私とってくる!」

そう言いながら、蘭ちゃんは部屋へと走って行った。

「ほんま、ええ子やな。」

本音が零れる。
あんなに良い子なのに・・・工藤新一の奴。
自分がふられないと思ってる余裕なのか。
彼女の気持ちが揺るがないと言う自信からなのか。

「どこに行ってるや、工藤の奴。」

ん?
白い玉?
小さな玉を見つけて、俺はふと蔵の窓を見つめた。
なんで、こんな所に・・・これって、BB弾だよな?
あれ?ちょっと待てよ。
たしか、あの探偵達が言ってたよな。
窓は小さな子供しか通る事が出来ない、大人は絶対に無理だって。
それに、蜘蛛の伝説になぞられて、釣り糸が張り巡らされていたって。
首をつって亡くなってた。
糸・・・窓・・・BB弾。

「!?」

な~るほど。
随分と簡単なトリックを使って殺人を犯したもんだ。
となると、犯人はただ一人しかいないな。
俺は後に気配を感じて、振り返った。
その瞬間。
スタンガンを振り回してきた。
とっさに体をよけて、そのスタンガンから体を守った。

「なるほど。やはり、貴方が犯人だったようですね。」
「お前、一体。」

一つの玉を、彼の前へと見せた。

「完全犯罪をするのなら、小さな破片一つにまでも、気を遣わないといけませんよ。」
「・・・このっ。」
「おっと。取引をしましょうか。」
「取引だと?」

俺はチラリと彼女がいつ部屋へと視線を送った。
それにつられるように、そいつも視線を向かわせた。

「彼女に手出ししない事。それなら、私はあなたの言う通りにしましょう。」
「・・・。」
「そしてこの証拠も、貴方にお渡ししますよ。」

まずは彼女を守る事しか考えていなかった。
それと、あの探偵達ならきっとこのトリックに気付くと踏んで。
俺はBB弾をそいつに投げた。
それを手にとった奴は、チラリと部屋と俺とを交互に見つめた。

「わかった。」
「ほな、私はどないしたらええ?」

言われた瞬間に、スタンガンを横っ腹に当てられた。
遠のく意識の中、彼女の無事だけを祈った。
ともかく、彼女は無事であれば・・・それでいい。
今の段階で、殺人を犯すのは難しいはず。
俺は意識を手放した。



再び意識を取り戻した時は、服部平次が血相替えて名前を呼んでた時だった。
身動きが取れなくて、ちらりとみれば、釣り糸。
やっぱり。
自分が想っていた通りに動いた犯人に、内心笑みを浮かべた。
もう、こいつらがお前にたどり着くまでに、そんなに時間はかからないと。
だけど、思いの外スタンガンの威力は強かったのか、そのまま、また意識が遠のいた。
しばらくして目を開けた時は、涙いっぱいの彼女の顔が入って来た。
俺は自然と彼女の目に手を伸ばしていた。

「蘭ちゃん、無事やった?」
「私はなんともないよ。ごめんね、和葉ちゃん。マスコット、CDにはさまってあったの。
もっとちゃんと調べれば良かったのに、本当にごめんね。」

なんだ、あったのか。
結果的にそのマスコットが蘭ちゃんを守ったようなものだった。
きっと彼女はCDをさがして、そこに引っかかってるのを見つけて、出て来た時には犯人と俺はいなくなっていた。
それでも、彼女が無事だったからいいか。

「良かったやん、あって。大事なもんなんやろ?」
「うん。ありがとう。和葉ちゃん。」

蘭ちゃんに涙なんか似合わない。
俺は蘭ちゃんの涙をぬぐった。

「もう、平気やから。」

そんないいムードになりつつあった時だ。
勢い良く探偵達が、部屋の中に入って来た。

「今すぐに服を脱げ、和葉!!!」

はい!?
もしかして、俺だってばれたのか?
俺は顔面蒼白しながらも、なんとか服をおさえた。
だが、コナンと平次の二人がかりで服を脱がせようとしてきた。
おいおい。
蘭ちゃんの前で。
俺は一番近くにいた、平次の顔を思い切り平手打ちをした。
無論、蘭ちゃんの一声で男ども二人は、外へ。
俺は、背中を少しだけめくって蘭ちゃんにスタンガンの痕を見せた。
やっと気付いたのか。
そろそろ、終わりだな。

「あ、蘭ちゃん。平次に言うてくれる?こんくらいの白い玉をみつけたって。」
「自分で言えばいいのに。」
「あんなんお見舞いして、どないな顔で会えばええかわからんし!お願い、蘭ちゃん。」
「わかったわ。ちょっと待っててね。」

そう言いながら、彼女が静かに障子を開いた。
探偵坊主と話している間に、俺は姿を消した。
彼女を寝かせておいた場所へ静かに近づいて、彼女を抱き上げた。
そして、玄関口に彼女を座らせた。
トントンと頬を叩くと、遠山和葉はやっと長い眠りから覚めたように、身じろいだ。
あとは、あの探偵達の推理ショウがあるだけだ。
俺はパチンと指を鳴らした。
瞬時に、怪盗キッドの衣装へと転身した。
ぼんやりとした表情の遠山和葉を置いて、俺はその場を後にした。
とは言っても、彼女が危険な事に変わりはない。
そっと木陰からいきさつを見守る事にした。
やっとトリックがわかったのか、二人の探偵は蔵へと走って行った。
もう、大丈夫。



しばらくして、事件が解決したあとの彼女の笑顔をみて、俺はその場を静かに去った。
あの時に自覚して以来・・・。
彼女の事が頭が離れなくなって。
結局、こうして彼女の家の近くに来てしまう自分が、アホらしく思える。
あの時の自分だったら、今の自分なんか想像出来ただろうか?
静かに扉が開くと、彼女がゆっくりと顔を覗かせた。
俺の白いマントに気付くと、彼女はあの天使のような笑みを浮かべた。

「あ!」

嬉しそうに何か持って走り寄ってくる。
俺はいつもの通りに、頭を深く下げて彼女が来るのを待った。

「こんばんは、お嬢さん。」
「キッド。今日は来るんじゃないかって思ってね、これ、クッキー焼いたの。後で食べて。」

そう言って渡された、小さな箱。
カードが添えられていたので、すぐにそのカードをめくった。
そこに書いてある言葉に驚いて、俺は蘭ちゃんの事を見つめた。

「蘭ちゃん・・・これって、マジ?」

つい快斗としての声が出てしまう。
蘭ちゃんはふわりと笑みを浮かべた。

「うん。」
「い…いつから?」
「それはね・・・」




彼女の言葉の続きは・・・。







俺だけの秘密。


後書き 〜 言い訳 〜
 
こちらはアニメ版の「蜘蛛屋敷」の時、もしも・・・と考えた物です。
時間軸とか。まったくもって無視して書いてるので、その点はご了承ください。
どうしても、和葉ちゃんの言った言葉が印象的で、怪盗キッドに言わせてみたっかので
書いてみました。
 
ここまで読んでくださり
心より深くお礼申し上げます。



これにこりず、また読んで頂けますと幸いです。
 
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
 

掲載日2011.05.10
制作/吹 雪 冬 牙


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