『 誕 生 日 お め で と う 、 快 斗 〜 2 0 1 1 年 〜 』 |
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ニヤ〜・・・ 朝から、口もとがだらしくなく緩んでいるのは、灰戸高校に通う黒羽快斗。 ごそごそと携帯を取りだして、開いてみては、またニヤ〜。 そのうち顔の全てが溶けてなくなってしまうんじゃないかと言う程のニヤケっぷり。 さすがに隣の席の青子も今までにない、快斗のバカ顔に顔を引きつらせていた。 「バ快斗!顔までバカになってるわよ!」 「へっへーん♪今日の俺は、何を言われても怒る気にもならねぇよ〜ん。」 おかしい。 おかしすぎる。 青子は半目になって快斗の事を見つめた。 そんな青子の疑問を解決すべく、青子の後に白馬が立った。 「大方、探偵のお嬢さんからメールでも来たのではないですか?」 「探偵のお嬢さん?」 青子が不思議そうに顔を傾けるた。 快斗は、白馬をジロリを睨んでプイっと顔を逸らした。 「探偵の物じゃねぇーし。」 「おや、今日は何を言っても怒らないのでは?」 うっ・・・ だが、それとこれとは別。 蘭が工藤新一のものなんて、誰がいつどこで決めたってんだよ。 俺は断固して認めない。 それに・・・ニシシシシ。 不機嫌そうな顔をしていながらも、すぐに顔がニヤケ顔へと変わる。 そんな快斗を見て、白馬と青子は顔を見合わせた。 「ねぇ、探偵の」 「探偵のじゃねぇって!!!」 間髪入れずに言う、快斗を一瞬睨んでから、再び青子は白馬へと視線を見上げた。 「お嬢さんって誰の事?」 「あの有名な眠りの小五郎、毛利探偵のお嬢さんですよ。」 「へ?」 快斗が間抜けな顔をした為に、白馬はクスリと笑みをもらした。 「探偵の娘さんなんですから、探偵のお嬢さんですよ。」 「あーじゃ、蘭ちゃんの事だ!え?快斗、蘭ちゃんと進展あったの!?」 「うるせぇーな、別にっ。」 快斗は、ジトーーと白馬の事を見た。 確かに。 前に白馬の口から「蘭さん」と言われた時に、その名で呼ぶな!と言った事はある。 だからと言って、誤解を招くような・・・いや。 もっとムカつくような言い方しなくて良いと思うのだが・・・。 本当に探偵って奴は、どいつもこいつも、嫌味でキザな奴が揃っていやがる。 あーあ、こんな気分になった時は・・・ 快斗は、ニヤニヤしながら、また携帯を開いた。 朝一番に入っていたメール。 『おはよう、快斗♪お誕生日おめでとう。今日の放課後、予定ある?』 無論、速攻「ないよ!」っと返信した。 『それじゃ、放課後ね。』とだけ、返信が返ってきた。 そう、放課後になれば・・・。 そして、やっと終礼だけになった。 後は・・・。 グッと拳に力を込めて、涙を耐えるように上をむくと、脇からヒョイっと白馬が携帯を取りやがった。 「なっ!おい!!」 「放課後・・・ですか。どこで待ち合わせなんですか?」 「そりゃ・・・あり?」 そう言えば。 快斗は、携帯を取り返して、何度も今日のメールを見た。 今日は蘭からメールが二件だけ。 それのどこにも待ち合わせ場所なんて書いてなかった。 なんだろう。 いつもの喫茶店って事かな? それとも探偵事務所まで行けばいいのか? まさか、キッドの姿で来いとか? 快斗がメールを出そうか、どうしようか迷っている時だった。 青子が窓際げ頬杖つきながら、「快斗、快斗」と何回か呼びかけてきた。 だが、いまの俺にはそんな事を聞いてる余裕はない。 これは、蘭ちゃんからの挑戦状か? そうなのか? 俺から何処って聞いて、「わかってくれないの!?」なんて展開になっても困る。 「ねぇ、バ快斗!」 「るっせぇーな!今はそれ所じゃねぇーんだよ!!!」 「あっそ・・・。」 半目で睨む青子をよそに、快斗は携帯を見つめてジーッと考え込んでしまった。 まさか校門が騒がしくなってるなんて思いもせず。 そして白馬がその場から消えてる事も気付かず。 青子はそのまま静かになった事すら気付かなかった。 ![]() 蘭は、終礼を抜け出して灰戸高校へと急いでいた。 今日はわざとメールで待ち合わせ場所を書かなかった。 それは、一重にこの為。 快斗を待ち伏せする為。 いつも驚かされてる些細なお返しを、誕生日の日にやろうと、ずっと考えていた。 蘭なりの可愛い復讐だ。 灰戸高校の前についた時、丁度生徒が出て来る時間帯だった。 まだ、いるよね? 蘭はちらりと時計を見つつ、チラリと昇降口へと視線を送った。 ほとんどの教室には生徒がまだ大勢いる。 蘭は意を決して、目の前を歩く一人の男子生徒に声をかけた。 「あのすみません、1年の黒羽君ってまだいますか?」 「黒羽?ああ、まだ教室にいたな。」 その言葉を聞いた途端に、蘭はほっとした笑みを作った。 その笑みを見た瞬間、聞かれた男子生徒の顔が赤くなった。 「ありがとうございます。」 「あ、いえ。」 クルリと門の所に背を預けて、蘭は快斗が出て来るのを待っていた・・・ ハズなのだが、知らないうちに生徒に囲まれてしまった。 「誰か待ってるの?」「そんな奴より俺達と遊ばない?」などのナンパの数。 快斗の高校であるからと、蘭は困ったように俯いてしまった。 女子生徒も何人かいるが、助けて欲しいと視線で訴えても、他校生を助けようとする女子はいなく、遠巻きに見てるだけだった。 蘭はギュッとカバンを握り閉めた。 早く・・・ 早く出て来て、快斗!! とうとう蘭の肩に手を掛けられた瞬間。 ギュっと目を閉じた。 びくっと体を震わせた瞬間に、その肩におかれた手は物見事に払われていた。 ゆっくり目を開けると、目の前には・・・見覚えのある少年。 探偵甲子園の時にいた「白馬 探」だった。 「申し分けないが、君達に付き合う程、彼女は暇ではないので、退散して頂けますか?」 「っちぇ、なんだよ。白馬のかよ。」 「行こうぜ、行こうぜ。」 白馬の存在によって、周りにあった人垣は見る間に無くなっていった。 遠巻きに見ていた女子達も、普通に下校を始めた。 しばらくしてから、白馬がふりかえった。 「もう、大丈夫ですよ。お久しぶりですね、蘭さん。」 「白馬君!」 蘭は大きく息を吐き出すと、「怖かった」と苦笑しながら白馬の事を見上げた。 そんな蘭を見て、快斗や工藤新一がぞっこんになる理由がわかる気がした。 「助けてくれて、ありがとう。そう言えば、白馬君も灰戸高だったんだよね。」 「ええ。それよりも、今日は何かご用でも?」 「あ・・・うん。白馬君なら、同じ学年だから知ってるかな?黒羽君。」 やっぱり。 白馬はニッコリと笑みを浮かべた。 「ええ、よく知ってますよ。彼なら、ほらあそこです。」 そう言って指差すところには、蘭にそっくりな青子が顔を出しており、その少し後に快斗の後ろ姿が見えた。 それを確認した途端に、蘭はすごく嬉しそうな笑みを浮かべた。 「らーんーちゃーんー!!!!!」 青子の大声で、白馬と蘭は顔を見合わせて微笑んだ。 蘭が返事するように青子に手を振ると、青子もにっこりと笑みを浮かべた。 やっぱり蘭ちゃんは、青子から見ても、かわいい子だと思ってしまう。 しかも自分の彼氏が、かっこよく蘭ちゃんを助けたのだ。 二重に嬉しい。 そんなほんわかした雰囲気をぶち壊したのは言うまでもない・・・快斗。 「なにっっーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」 次に大声で叫んで窓から顔を出したのは、快斗本人だった。 予想以上の反応に、蘭は吹き出してしまった。 そんな蘭の事を見て、白馬も優しい視線で快斗の事を見た。 「白馬!てめぇ!蘭に手ぇだしてみろ!!一生つかえねぇもんしてやるかんな!!!」 「おやおや、なんて下品な。」 すぐに窓から姿から消えた。 そんな窓を見つめてから、白馬は蘭の事を振り返った。 「あまり他校生が、校門で待つと言うは、いただけませんね。」 「ごめんなさい。今日。快斗の誕生日だから驚かせようと思って。」 「なるほど。なら、作戦は大成功ですね。」 クスクスと優雅に笑みを浮かべる白馬は、昇降口へと体を向けた。 そこには、快斗が必死の形相で蘭の元へと駆け寄ってくる所だった。 「蘭っ!!」 すぐに白馬との間に入り込み、蘭を自分の背で白馬から隠した。 「てめぇ、青子ってもんがありながら、何ナンパしてやがんだよ!しかも蘭に!」 「・・・はぁ。もう少し状況を整理して物事を口にした方が、良いですよ。」 「ぬわ〜んだ〜とぉ〜!!!!」 今にでも快斗と白馬の喧嘩が始まりそうな雰囲気。 蘭はクイクイと快斗のシャツを引っ張った。 「ん?」 蘭の方を向けば、蘭は申し分けなさそうに俯いていた。 少しだけ上目使いで、快斗の事を見つめた。 「白馬君は、悪くないのよ?むしろ、助けてくれたんだから。」 「え?マジ?」 ゆっくりと白馬を見れば「当然です」と顔にかいてある。 なんだ。 快斗はその場に、しゃがみ込んだ。 「快斗!?」 「はぁ〜マジびびった…。」 「僕が来なければ、本当にそうなったでしょうけどね。」 そうだ。 蘭ほどの美少女は、この灰戸高にはいない。 もしも校門にでもいようものなら・・・ 餌食。 快斗は、全身から力が抜けたような感覚になった。 そんな快斗を見ながら、白馬はチラリと蘭の事を見た。 「作戦は大成功みたいですね。」 「へ?」 先程の蘭が言っていた「驚かせたかった」と言う言葉に対しての白馬の言葉。 蘭は意味を理解すると、にっこりと微笑んだ。 「はい!」 「何が、作戦だよ。」 ズイ!っと蘭の前に顔を近づける快斗は、すぐに蘭の腕をとった。 考えてみれば、かなりの人が足を止めて見ている。 自分はどうでもいいが、蘭をこれ以上人前にさらす気にはならなかった。 「白馬、一応礼だけは言っとくぜー。」 「お返しは月下の元でも良いのですがね。」 一瞬の白馬の視線の鋭さ。 蘭の胸がドクン…と高鳴った。 あの目は。 今まで何度も見て来た目。 工藤君の探偵をしてる時の目。 それと同じものだった。 「か、快斗。」 「ともかく、ここから離れよう。」 そう言われて連れて来られたのは、快斗の家。 蘭は驚いたように家を見上げてしまった。 真っ白い家。 昔、たった一度しか来てなかったけど、見れば鮮明に思い出す家。 「今日は母ーさんいねぇから。」 と言いながら鍵を開けようとした途端。 勝手に扉が開き、快斗の前に母親が仁王立ちしていた。 そして、快斗が目視する前に頭上から鉄拳がお見舞いされた。 「いってぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」 「おまえは、お母さんがいなかったら、そのお嬢さんどうするつもりなんだい!!!」 「はい!?」 腰をついて見上げる母の顔は、笑ってはいるが、どう見ても怒ってるようにしか見えない。快斗の顔はひきつり母親を見上げた。 「母さん・・・出かけたんじゃ。」 「これから行く所。それよりも、紹介してくれないの?」 「紹介も何も、蘭ちゃんだよ。」 快斗の一言で母親は目をパチクリして、蘭の事を見た。 そして何か思い出したのか、パアアアアと明るい笑みを浮かべたのである。 「あらぁ!快斗の初恋の相手!!!」 「か、母ーさん!!!!」 真っ赤になった快斗に、母親は構わないと言うように、蘭の前へと手を伸ばしてきた。 とっさに蘭も母親の手を握ってしまった。 「いらっしゃい、蘭ちゃん。よく来てくれたわね!すごく会いたかったのよ。」 「はじめまして、お母様。毛利蘭です。」 「いや〜お母様なんて!!!あんた達、そんな所まで進展してんの!?」 「なっ!何言ってんだよ!!!」 快斗は慌てて立ち上がると蘭の手をとって家に入って行った。 照れる息子の後姿と、申し分けなさそうに頭を下げて二階への階段を昇っていく蘭の姿を見て、快斗の母は、先程は違う優しい笑みを浮かべた。 玄関に飾ってある夫の写真へと視線をうつした。 「本当に、あなたの言う通りになったわね。」 ![]() なんとか母親と言う関門も突破した快斗は、部屋に入った途端に、大きく息を吐き出した。 「快斗、大丈夫?」 「ああ・・・なんとかな。そうだ、なんか飲み物持って来るから、適当に座ってて。」 「私も手伝うよ。」 「そう?」 快斗は、そのまま蘭のカバンを近くに置くと、再び蘭の手を取ってリビングへと向かった。 リビングにはすでに母親が飲み物やお菓子の用意をしていた。 手を繋ぎながら現れた息子に、母親は笑いがこみ上げて来た。 「あんたねぇ、リビングに来るくらい、蘭ちゃんの事、離せないの?」 「るせーな、いいだろ。別に。」 「あ、私がお手伝いしたいって言ったんです。」 蘭が慌てて快斗を庇うように言葉を付け加えると、快斗の母は驚いたように目を見開いた。 本当に。 なんと言うか。快斗にはできすぎる恋人のような気がする。 「それじゃ、紅茶入れるの手伝ってくれる?」 「はい。」 快斗に一言断ってから、手を放す所など、なんと初々しい事だろうか。 母親だけでなく、快斗ですら、鼻の下が床につくんじゃないかって言うくらに伸びていた。 蘭は、紅茶の用意をしながらオズオズと言いづらそうに言葉にした。 「あの。」 「なーに、蘭ちゃん?」 「ケーキ、作ってきたんですけど…持ってきてもよろしいですか?」 「ケーキ?」 蘭は一度快斗の事を見てから、再び母緒へと視線を向けた。 そこで意味を察したのか、母親はニッコリと笑みを浮かべた。 もともと出かける用事も、快斗のケーキを取りに行く予定なだけだったのだから。 「あら、嬉しいわ♪」 「じゃ、持って来ます!」 なんとなく仲良くしてる二人。 何かをヒソヒソと話していたのに、突然蘭がリビングを出て行ってしまった。 驚いて後をおいかけようとした快斗を止めたのは、母親だった。 「あんたね、それくらい待てないわけ?」 「だって、蘭が!」 「逃げたりなんかしないわよ。」 「っ!」 しばらくすると、慎重に箱を持って来る蘭がリビングに入って来た。 ?? 快斗は意味が分からずにリビングの自分の定位置の椅子に座った。 母親の後で小さくなってる蘭の顔が真っ赤で。 何が起こるのかと、ワクワクしてその箱を見つめた。 母親がその箱を開けた途端。 「うわぁーお。」 「すげー。」 まるでケーキ屋作ったんじゃねぇかってくらいの立派なチョコレートケーキ。 上には、HAPPY BIRTH DAY KAITOと白いクリームで書かれていた。 そして乗っているチョコの板には〜The ageless love to Kaito 〜と書かれていた。 その事に、快斗は感動してしばらくそのチョコ板を魅入ってしまった。 どうしよう・・・食えない。 あれ、家宝にしてぇ。 ケーキの脇には、ちゃんと17本の蝋燭まで用意してあった。 「蘭ちゃん、良いお嫁さんになるわ〜♪」 「いえ、そんな。」 「内の場合、嫁姑問題よりも、母息子問題の方が深刻そうね。」 チラリと快斗を見る冷たい視線。 快斗はそれに答えるように、母親の事を見上げた。 「なんだよ、母息子問題って。」 「だって、二人で蘭ちゃん取り合っちゃいそうだもん♪」 と言った瞬間、母親が急に蘭ちゃんを抱きしめた。 驚いた蘭も、その場で固まり。 そんな事するとは思っていなかった快斗までもその場で固まった。 そして、蘭の横顔にキスを一つ落とすと 「一回戦は、お母さんの勝ちぃ〜♪」 とそっと蘭の事を放した。 無論、快斗も黙ってはいない。 「母さん!!!!」 「無防備な快斗が悪い。さー火をつけて、願い事しましょうねー蘭ちゃん♪」 「それは、俺の役目なんじゃ・・・。」 どうやら2回戦目も、快斗には軍配はあがらなかったようで。 母親には敵わないと、改めて実感する快斗であった。 ![]() 母親の乱入で、大盛り上がりした快斗の誕生日。 夕飯を食べて行って!と母親の強い懇願で、蘭はまだ家にいてくれる。 夕食くらいは、母の立場で! と言う事で、蘭を半ば取られてまくっていて怒りの限界が近いを知ってか知らずか 母親に言われて呼ばれるまでは部屋にいるように言われた。 「悪りぃな、母ーさんが我が儘言って。」 「ううん。楽しいから平気。それに、こうして快斗のご家族と一緒に誕生日が祝えるなんて、最高に幸せでしょ?」 無垢な笑みに、思わず魅入ってしまう。 本当に至高の宝。 探偵から奪えるなんて思っていなかったあの頃。 今となっては夢のようで。 快斗は、急に不安になって蘭を自分の胸に閉じ込めた。 「か、快斗?」 「はぁ〜・・・まだ夢みてるみてぇ。」 「もう、夢じゃないよ。まだ言ってる。」 クスクスと笑う蘭に、そんなに笑う事ないだろうと、頬を少しだけつねってみた。 やわらかい頬。 そのまま手をそっと添えて、顔を近づけた。 驚いたままの蘭は、目を開いたまま、瞬きを忘れたかのように快斗の顔を見つめていた。 「目・・・閉じて。」 囁くように言えば、まるで呪文にでもかかったかのように、蘭は静かに目を閉じた。 だが、その唇は恐怖からなのか、微かに震えていた。 普段なら、都大会優勝の空手の腕前で、男だろうと扉だろうと、容赦なく鉄拳を殴りつける度胸があると言うのに。 そんな蘭が、震えている事に、少し快感を覚えた。 右手で、腰を引き 左手で、顎を軽く持ち上げた。 そして、最初はただ唇を重ねるだけのキス。 キスした瞬間に、蘭の全身に力が入ったのがわかった。 でも拒否されてるわけではない。 快斗はそのまま、角度をかえて軽いキスを幾度となく蘭へと送った。 それこそ。数えるのもバカばかしくなる程に。 酸素を求めて、蘭が薄く唇を開いた瞬間に、快斗はまるで誘われるように舌を侵入させた。 その瞬間に、蘭は目を見開いた。 驚いて目を開けた蘭だったが、目の前にいた快斗の顔が、本当に優しくて。 本当に嬉しそうで。 本当に幸せな表情をして。 蘭をこの上なく愛おしそうに見つめる視線にぶつかった。 それを見た瞬間、蘭の全身から力が驚く程に抜けた。 自然と快斗の首に自分の腕を回すと、快斗もさらに蘭の腰に自分の腕を回した。 二人の距離がゼロになると、再び蘭は目を閉じた。 頭のしびれるような感覚。 今まで感じた事のない感覚。 とまどい、それに恐怖すら感じていた蘭だったが、快斗となら…と頭の端で思えていた。 ふっと快斗の口付けが終わりを告げ、蘭から離れて行った。 蘭はトロン…とした目で快斗の事を見つめた。 「何、考えてるの?」 「何って…。快斗の」 言った瞬間に、再び快斗の唇が蘭の唇を塞いだ。 執着にも似たように舌を絶妙に這わせる快斗に、蘭は合わせるのはやっとだった。 キスとキスの合間に、快斗は囁くように呟いた。 「何も考えられなくしてやる。」 「でも」 の言葉は、快斗の深い口付けで飲み込まされた。 部屋に貼られた快斗の父・盗一のポスターが、そんな愛を確かめ合う二人を 優しい面差しで見つめていた。 ![]() おまけ キスの余韻の中、快斗は蘭の肩口に顔を埋めていた。 「蘭。今夜、返したくねぇ。」 「だめよ、コナン君とお父さんが心配するし。」 「・・・。」 父親は仕方ない。 父親は、いずれは自分の父親になるのだから。 問題は、あの探偵小僧。 だから、返したくないって言ったら、怒るだろうなぁ。 「じゃ。」 俺は少しだけ蘭から離れると、パチンと指を鳴らした。 一瞬にして怪盗キッドの真っ白な衣装へと早変わり。 「私に盗まれてくれますか?お嬢さん。」 偶然なんてものはない。 すべては運命の中での必然。 君と俺が会ったのも 俺と名探偵が争うのも 全ては必然で 全ては君の為。 |
後書き 〜 言い訳 〜
あーあ…一日遅れてしまった、快斗の誕生日。
愛情たっぷりで書かせて頂きました。
途中から R - 1 8 になりそうになったので途中切り上げです。
この先、どうなったかは、皆様のご想像の中で♪
ここまで読んでくださり
心より深くお礼申し上げます。
これにこりず、また読んで頂けますと幸いです。
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
掲載日2011.06.22
制作/吹 雪 冬 牙