「 逢いたくて、でも逢えなくて 」





『おい、ぼたん。てめー最近、飲み会に顔出さねーから、螢子達が逢いたがってたぞ。次ぎのは絶対に来いよな!』






久しぶりに人間界で買い物をしていたら、偶然に幽助にあって、そんな事を言われた。
携帯の画面には、
『今夜決行!オレんち』と書かれているメール文章。

メールをもらってから数時間、私は行く気にならなくて、見知らぬ家の屋根の上に座りこんでいた。
ときたま、同業者が横切るが、それすら気にする気もなくて。
暗い空には、輝く星達が楽しそうにおしゃべりをしあっていた。
私はそんな星から視線を逸らすように、膝を抱えて座った。





「はぁ。」








逢いたくない。





そう、思ってしまう。
心の底から離れない、あの燃えるような赤い髪の彼。
別に別れたわけじゃない。
別に嫌われたわけじゃない。
ただ、なんとなく逢いたくないんだ。

1ヶ月に一度だけ、様子を見るように
メールが入ってくる。






『お昼一緒にどうですか?』






と言う誘い。
初めの頃は、そのメールが来るのが楽しみでいつも携帯を身につけていた。
でも、それが・・・長い時間の中で1ヶ月に1度・・・と言う感じではなくなった。
連絡ないなーと思ってこちらから連絡すれば、忘れてましたと言わんばかりに、またお食事のお誘い。
そんな事が何回か続いて、私はメールの返信をしなくなった。
ソレと同時に、みんなにも逢わなくなった。
だって、逢えば必ず彼はいるから。

逢いたい・・・

でも、逢いたくない。

難しい気持ちが、いくつも交錯する。
本当はどうしたいんだろーね、私。
情けないくらいの泣き笑い。

ふと人の気配がして、私は顔を上げた。

「行かないんですか?みんな待ってますよ。」

ゆっくりと上を向けば、真っ赤な髪。
ニッコリとした優しい表情。

「蔵馬・・・。」
「久しぶりですね、ぼたん。」

いつもと変わらない表情。
逢いたくて、逢いたくて・・・でも逢いたくなかった人。

私がしばらく黙っていると、蔵馬は私の隣へと腰をおろした。

「気持ちがいいですね。」

ニコニコとした表情を向ける。
私はその表情から、顔を逸らしてしまった。

「一番、逢いたくない人が迎えに来て、イヤでしたか?」

心中を悟られたように、ぼたんは蔵馬の方を見た。
いつのまにか蔵馬の笑みは消えて、真剣に私の事を見ていた。

「オレは、逢いたかったですよ。あなたに。」
「・・・うそ。」
「え?」

小さな声で、呟いた言葉。
これ以上言ってはダメ。
私の中で歯止めがかかる。
だが、その瞬間。


ふわり・・・と

私を包み込む暖かい何か。

驚いて顔を上げようとすれば、蔵馬の匂い。
壊れ物を扱うかのように、そっと抱きしめる手。
でも、離さないと主張するかのように、ほどよい力がこめられる。

「貴方からの連絡を待っていたんです。いつもオレからばかりだから。もしかしたら、オレが思うほど、ぼたん
に好かれてないんじゃないかって思って。そしたら、あなたは、まったく連絡取らなくなった。終わったと思ってました。」
「そん・・・。」

私の言葉を遮るように、蔵馬は言葉を続けた。

「もう、だめなのかと思ってました。でも、どうしてももう一度あなたに逢いたくて、幽助に頼んだんです。
あなたに逢うチャンスが欲しくて。」

蔵馬はそっと、抱きしめていた手をほどき、私の頬を愛おしく撫でた。
その心地よい感覚に、私は目を閉じた。

「どうして連絡をくれなかったんですか?」
「だって、蔵馬は忙しいだろ?時間を邪魔したらマズイと思って・・・。」
「メールなら、別にいつでも見れますよ。」
「それに・・・。」
「それに?」
「話す事もないし・・・。日常の事言っても、つまらないだろ?」

ぼたんの言葉に、蔵馬はあからさまにため息をこぼした。

「つまる、つまらないは、オレが決める事です。どんな小さな事でもいいですから、これからは遠慮せずにメールを下さい。」
「だって、メール代だってばかにならないし・・・。」
「それくらい払える余裕はあります。問題はそれだけですか?」

コクリと首を振ると、蔵馬は先程とは違うため息をこぼした。
それは安堵したかのような・・・そんな。

「・・・良かった。」
「へ?」

蔵馬の言葉に、ぼたんはキョトンとして見上げた。

「嫌われてなくて、良かったと言ったんです。」
「嫌いになんてなるわけないだろう!!」
「それは良かった。さて・・・このどうします?」
「へ?」
「このまま幽助の飲み会に参加しますか?それとも、デートに行きますか?」

えっと・・・
チラリと携帯画面を見れば
『早く来い!』の文字。
さて、どうしたものか・・・。






終わり♪

                          HOME     TOP        



こちらは2008/6/2にブログに掲載していた小説を
こちらに持ってきました♪

ぼたんちゃんの視点での小説って
結構書いてて、たのしかったです。

ここまで読んでくださった素敵な皆様
本当にありがとうございました。

誤字、脱字があった場合
お詫び申し上げます。


マスター 冬牙