「 君色に染まる 」
ふぅ。
電車を乗り継いで、無人の駅で降りれば、閑散とした光景が広がる。
今日は幻海師範の命日。
みんなで幻海師範の屋敷に集まり、ドンチャン騒ぎをしようと!と言い出したのは、幽助とぼたん。
聞けば、自分以外にも幻海師範に関わり合った人たちを片っ端から呼びつけると、楽しそうに
電話口で言っていた幽助の声が思い出された。
さて、向かうか・・・と足を一歩前に踏み出そうとした時だった。
ガラガラ・・・・
「あちゃー。やっちまったねぇーこりゃ。」
聞き覚えのある声。
足下に転がって来たのは、缶ビール。
それをそっと拾いあげて、声のした方へと視線を向けた。
案の定、買ってきた買い物袋の底がぬけて、買い出しの品物をかき集める女性の姿が一人。
空を想像させる水色の髪をポニーテールにした彼女。
俺は、ゆっくりと彼女の側へとより、無言で缶ビールを差し出した。
「あ、こりゃすみませんねー。」
自分の顔を見ずに、缶ビールを受け取り、やっと顔をあげた彼女の顔が一瞬キョトンとした表情になった。
そして、俺と認識すると、膝に抱きかかえていた缶を落として、勢いよく立ち上がった。
「蔵馬!」
言うと同時に、彼女は俺の首に手を巻き付けて来た。
ふわりと香る彼女特有の優しい香り。
俺は少しだけ目をとじて、彼女の柔らかい体と暖かい温もりを両手で感じていた。
「ぼたん、久しぶり。」
俺が囁くように言えば、ぼたんは少しだけ自分と距離をあけて、俺の事を見上げてきた。
ニッコリと満面の笑みを浮かべた彼女。
本当に嬉しそうに、尻尾でもついていれば、ちぎれんばかりに左右に振っているであろう。
そんなぼたんが愛おしくて、俺の顔にも自然と笑みが浮かんだ。
「蔵馬、逢いたかったよー。」
そう言うと、彼女は再度俺に抱きついてきた。
俺も、もう一度ぼたんをギュっと強く抱きしめた。
「俺もです。」
しばらく抱き合った俺たちは、周りに落ちた缶を拾いあげて、幻海師範の屋敷へと足を向けた。
半年ぶりくらいだろうか。
お互いに忙しくて、時間が取れず、すれ違いばかりだった俺たちの時間。
それを埋めるように、ぼたんはひたすらに嬉しそうに、話し続けていた。
そんなぼたんを見るのが俺も幸せで、ぼたんの声が心地よくて、俺もぼたんの話しをずっと聞きながら、
時折質問を交えながら話て歩いていた。
「それにしても、蔵馬は変わらないねー。」
「半年で変わったら、それこそおかしいですよ。あなたも相変わらずですね。」
「な!?それ、どー言う意味だい!?」
何かを勘違いしたのか、ぼたんはプーっと頬を膨らまして、顔を俺から背けた。
そんな可愛らしい仕草までも、久しぶりに逢った所為か、それとも逢いたくて仕方なかった気持ちの所為なのか
、いつも以上に愛おしく思えて仕方なかった。
「相変わらず、カワイイって事ですよ。」
「な!?」
今度はゆでタコのように真っ赤になるぼたんの顔。
くるくる変わる表情は、見ていて本当に飽きない。
しばらく金魚のように口をパクパクさせていたぼたんは、仕返しと言うようにビシ!と俺の事を指さしてきた。
「そう言う蔵馬だって、相変わらずカッコイイじゃないか!」
「それはそうですよ。」
さらりと肯定する俺に、ぼたんは言葉をなくし、足まで止まってしまった。
数歩前で、俺が振り返ると、ぼたんは呆れたような表情をしていた。
「ぼたん、どうしたんですか?バカみたいですよ?」
「・・・あんた・・・よく言えるね・・・そんな事。」
俺はニッコリと笑みを浮かべた。
「当たり前じゃないですか。俺はあなたに恋をしてますから。女性が恋人の前で可愛くいたいと思うのと同じで
男だって恋人の前で、格好良くいたいと思いますよ。それに、俺はあなたに恥じないように生きてるつもりですから。
自信があって当然でしょう?」
「・・・その自信・・・蔵馬だからこそ言えると思うよ。桑ちゃんだったら言えないって。」
なにげにヒドイ事を言ってるぼたん。
そんな事にも気が付かないくらい、ぼたんは関心したように俺の事を見ていた。
「そうですか?結論から言えば、相思相愛だからですよ。」
「へ?」
「あなたが俺を好きだからですよ。」
それだけ言うと、俺は歩き始めた。
呆然としていたぼたんが、我に返ったように俺の後を小走りで追いかけてきた。
そう。
あなたが俺を好きでいてくるから、俺でいられる。
俺を好きだと言ってくれるから、自信が持てるんですよ。
俺もぼたんが好きです。
自分の好きなものを否定されるのは、例えぼたんだとしても許せません。
俺がぼたんを「かわいい」と思った時点で、かわいいんです。
それを否定すると言うことは、俺の意見を否定してることになりますから。
それは逆も言えます。
あなたが「かっこいい」と言うならば、あなたの意見を否定するわけないでしょう?
あなたが「好き」と言ってくれれば、くれるほど、俺としての自信にもなり力となるんですからね。
オレの隣に追いついたぼたんの手をギュっと握った。
「お互いに尊敬しあえる仲でいましょうね。」
「蔵馬の事は尊敬出来るけど、私は・・・。」
「(くす)自信がないなら、努力すればいいだけの事ですよ。まぁ、俺がぼたんを好きな理由は貴方を尊敬
出来るからなんですけど・・・話しても全力否定しそうなんで、言いません。」
「な!?」
しばらく黙っていたぼたん。
目の前に幻海師範の屋敷にいく階段が見えてきた時だった。
突然ぼたんが繋いでいた手を強く引いてきた。
驚いて、俺がぼたんの方を振り返ると
「!?」
目の前にぼたんの顔。
ほんの一瞬ふれあった唇。
その場で不覚にも固まってしまった俺。
ぼたんは俺の手から一つ荷物を奪い取ると、照れ隠しのように走って階段を上って行ってしまった・・・。
後ろからみて、耳まで真っ赤な彼女。
クスクス・・・。
本当に彼女には、驚かされてばかりだ。
予測が出来ない、彼女の行動や言動。
本当に一緒にいて、飽きない。
さて・・・。
俺の体に熱を灯してくれた代償・・・どうしてくれましょうかね。
ほらね。
こうやって、考える楽しみを与えてくれる。
何もない人生に、彼女が色を添えてくれる。
俺も、彼女の人生に色を添えられているのだろうか・・・。
フフフ・・・
聞くだけヤボでしたね。
彼女の人生に、沢山の赤い華色を染め上げいく・・・これからも。
決して涙色には染めるつもりはない。
たった一つを例外としてね。
え?それは何か?
それは、あなた方の想像にお任せしますよ。
さて、この後どうやって二人きりになるか・・・考えないといけませんね。
でもま・・・そのお話はまたの機会にしましょうか。
。
終わり♪
こちらは2008/6/14にブログに掲載していた小説を
こちらに持ってきました♪
蔵馬視点は、書きやすいです。
いつも心の中で、ぼたんをどうしようと思ってるのか
考えを書くのが好きです
ここまで読んでくださった素敵な皆様
本当にありがとうございました。
誤字、脱字があった場合
お詫び申し上げます。
マスター 冬牙