今も昔も盗賊







ジー・・・。


幽助や桑ちゃん達と楽しそうに話してる蔵馬。
いつもにこやかなその表情。
それは『人間』である『南野秀一』としての、蔵馬の顔。
でも、彼にはもう一つの顔・・・『妖怪』としての『妖狐蔵馬』としての顔も存在する。

二つの顔が存在する彼の心はどうなんだろう?


ふとした疑問。


それは、女子チーム(→蛍子ちゃん・静流さん・雪菜ちゃん)のメンバーが集まって、
男子チーム(幽助・桑ちゃん・蔵馬・飛影)とは少し離れた所で会話していた時だった。

「蔵馬さんって、いつもお優しいんですか?」

雪菜ちゃんのそんな一言から、全員の視線は蔵馬へ集中した。
たしかに・・・みんなも私も知らない。
蔵馬の内に秘める、極悪非道と言われた頃の、残虐性とかそう言った負の類の心や行動。
仕方ない事だってわかってる。

私が会ったのは「南野秀一」になった蔵馬だったから。

それじゃ、「妖狐蔵馬」だった頃の蔵馬に会っていたら・・・私は一体どうなっていたんだろうか?
今のように「好き」と言う感情が芽生えたのだろうか?

ぐちゃぐちゃと考えていたら、ふとした弾みに蔵馬と視線があった。

「!!」

頬杖して見つめていた私は、驚いて、頬杖からちょっとだけ顔を浮かせた。
それもそのはず。
蔵馬は、すごく嬉しそうにニコ・・・と微笑んでくれたから。
瞬時に私の顔は真っ赤。
だが、心に暖かい『幸せ』が波紋を広げるように、心に広がっていく。
本当に、私は蔵馬が好きだなぁ・・・って実感する瞬間。
ちょっと照れくさいけど、私だけ向けてくれるまっすぐな、蔵馬の愛情。
嬉しくて、自然と私の顔は笑みがこぼれてしまう。
そんな私を見て、さらに嬉しそうに蔵馬は微笑んでくれる。

いやはや・・・あの笑顔はあるいみ瞬殺兵器だね。

そんな二人の視線のやりとりを、めざとくみつけたのは・・・

「ぼたんちゃーん、相変わらずお暑いことで。」

静流さんだった。
私の肩を肘掛けにして、ニヤニヤとした視線を私と蔵馬に交互に送る。
それを皮切りに、蛍子ちゃんまでがグイ!と体を乗り出した。
それはどうみても、内緒話の体制。
全員が真ん中に、顔を付き合わせている。

「で、ぼたんさん。蔵馬さんの実の所はどうなの?」
「へ?えっとー・・・どう・・・と言われてもー・・・。」

ぽりぽりと頬をかいて視線をそらしてみたものの・・・
クイクイと袖を引っ張られて、その指先をみつめると、雪菜ちゃんのニッコリとした表情。

「蔵馬さんは、今も昔も盗賊だと前に蔵馬さんにお聞きしましたけど。」
「へ?」
「本当なの!?ぼたんさん!!!」

今も昔もって・・・
全員が反射的に蔵馬の方へ視線を向けてた。
今度は不思議そうな蔵馬の視線が私に突き刺さる。

えっと・・・なんでもない・・・

と軽くゼスチャーすると、蔵馬はまた幽助達の輪の中に戻る。

またもや、女子全員は、顔を中心につきあわせて、ひそひそと話しだした。

「雪菜ちゃん、それ蔵馬君が言ったの?」
「はい。欲しい物を手に入れる為には、盗まないとならないからと言ってらっしゃいました。
なんでも霊界にある最高に美しくも儚い、理想の花・・・とかおっしゃってましたけど。蔵馬さんって、
本当にお花がお好きですよね!」

言われた瞬間。
静流さんの、ニタ〜とした表情と。
蛍子ちゃんの、女子特有の顔を赤くして興奮し意気揚々としてる表情と。
雪菜ちゃんのキョトンとした表情。

「たしかに、霊界から盗まないとその花は、手に入らないわよねぇ、ぼたんさん♪」

やけに声を弾ませた蛍子ちゃん。

ほえ!?

「ほえ!?じゃないよ。んで、盗まれる気はあんのかい?ないの?」

ちょっと体を後ろに引けば、それを許さないと言うように、グイと静流さんに肩を組まれて、強制
的に真ん中に顔を付き合わせる形に。

はぃぃぃぃ!?

突然言われて、ぼたんは真っ赤になって席を立ち上がった。

「な、な、な、な、」

言葉がうまく出て来ない。
この私にどうしろと言うんだい!

言葉に困り、二人の追求する表情に困り・・・
パニックになりそうな時、ふわり・・・と安心する薔薇の香りが鼻腔をついた。
気がつけば、蛍子ちゃん達の後ろに幽助達が立っていた。

「なーにやってんだ、ぼたん。」

呆れたようにみつめる幽助。
答えられない私の事なんか、まったく無視して「腹減ったから、何か食いに行くぞ」なんて蛍子
ちゃんに話してる。
桑ちゃんも雪菜ちゃんの手なんか取っちゃって、いつも通りのはしゃぎぶり。
ガタガタと席を立ち上がって、各々のコートに手をかけていた時、私はまだ固まっていた。

ポン!と肩に手を乗せられ、驚いて横を見ると・・・


「ぼたん、行かないんですか?幽助達、行っちゃいますよ?」

すでに玄関へと足を進めている一向。
ぼたんが慌てた途端、ふわりと肩にかかるコートの重み。
蔵馬はニコニコと笑みを向けながら、私のコートを肩にかけてくれていた。

「あ・・・ありがとう・・・。」
「いえ、どういたしまして。俺は、『いつも優しい』でしょ?」
「なっ・・・!?き、聞いて!!!」

さらに驚くぼたんの横をすり抜けて、蔵馬も玄関へと向かう。
ふとぼたんを振り返ると、今までみんなに見せていたどの笑顔とも違う・・・背中がゾクリとする
ような笑みを向けてきた。





「俺は『盗賊』ですよ。情報収集は、俺の一番と得意分野なもので。」





「えっと・・・蔵馬サン?」



「あ、そうでした。」


何かを思い出したかのように蔵馬はぼたんの側へと寄ってきた。
ふわりとぼたんの耳に自分の口を近づける。
わざと息を吹きかけるように、そっと囁いた。

「盗むのは、もう少しだけ先になるので・・・それまでおとなしくしててくださいね。」
「え!?」



「俺に攫われてくれますよね?」


ニッコリ・・・



いや・・・


ニヤリとした蔵馬の笑みが、一瞬『妖狐蔵馬』とダブる。



コエンマが何よりも大事にしている霊界の至宝・・・美しい花が盗まれるのは
もう少し先のお話・・・。



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