七 夕
「笹の葉〜さ〜らさら〜♪」
明日は7月7日。
彦星と織り姫が一年に一度会える日。
ぼたんは、そんな事を考えながらベランダに飾ってある笹に短冊と飾りをつけていく。
ふと空を見上げた。
夕暮れ時の空。
いつもなら綺麗な夕日が望めるこのマンション。
なのに、どんよりとした雲が覆う。
「こりゃ、明日は洪水かねぇ。」
額に手を添えて、遠くを見るように空に向かって呟く。
そう言えば、去年の七夕も雨だったような気がする。
ん?
はて。
去年も一昨年も、その前の年も確か・・・雨だった気がする。
と言う事は・・・。
「一体何年会ってないんだい!?」
まるでそこに織り姫がいるかの如く、叫ぶぼたん。
そんなぼたんの後ろから、クスクスと笑い声が聞こえた。
驚き振り返ると、そこには愛しい蔵馬の姿。
「なんだい、蔵馬。帰って来たならちゃんと声をかけておくれよ。」
「すみません。あなたがあまりにも可愛くて。つい魅とれてしまいました。」
蔵馬の言葉を聞くなり、ぼたんはボン!と音が鳴るかの如く、顔が真っ赤になった。
ソファーに荷物を置いて、ベランダに出てくる蔵馬。
ふと笹に視線を向け、さらに空へと視線を向けた。
「先程の質問ですが。」
「?」
はて、蔵馬に何か質問しただろうか?
ぼたんはコクンと首を傾げた。
「かれこれ6年くらいは会ってないはずですよ。」
「へ?」
「彦星と織り姫が・・・です。」
ニッコリと笑みを作り、片目をつぶる蔵馬。
ああ。
独り言のはずだったのに。
蔵馬はこんな些細な事も、ちゃんと聞いてくれる。
こんなに嬉しい事はない。
ぼたんは、蔵馬の肩に自分に額をつけた。
「ぼたん?」
「私が織り姫だったら・・・6年も待てないねぇ。きっと、どんな手を使ってでも彦星に逢いに行くと思うさね。」
ポンポンと子供をあやすように、蔵馬はぼたんの頭を優しく叩いた。
ふと空を見上げる。
「そう言えば俺達、七夕を一緒に過ごした事はないですね。」
「その時期は・・・どうも忙しくてねぇ。」
たはは・・・と苦笑するぼたん。
蔵馬は、ふと空を見上げた。
「俺は、逢いたくないです。」
「へ?」
突然の蔵馬の言葉に、ぼたんは驚き顔を上げた。
何かを思うかのように、真剣な眼差しの蔵馬。
「やっぱりくら」
ぼたんが言葉を口にしようと瞬間。
蔵馬の唇でふさがれる。
「!!」
悪戯が成功したかのように、蔵馬はニッコリと笑みを作った。
「俺たちは彦星と織り姫じゃない。1年に一度だけなんて、俺は我慢出来ない。だから、あの二人と俺たちを
重ねて欲しくない。」
「蔵馬・・・。」
ぼたんは真っ赤になりながらも、一つだけ頷いた。
「それに。」
ふいに蔵馬の顔にいつも笑みが戻る。
「雨なのは、下界だけであって、雲の上・・・つまり彼らのいる天上は晴れてますからね。
こちらが雨でも関係ないんですよ。」
「・・・あ。」
たしかに。
考えてみれば、雨の時はいつも雲の上を飛んでる自分。
毎年の七夕・・・雲の上を飛びながら「また会えなかったねぇ」なんて暢気に考えていた。
言われてみればそうだ。
「・・・ロマンがないねぇ。」
「ロマンはなくても、ここにはロマンスがありますから、十分でしょ?」
グイと腰を引かれ、蔵馬の顔が近づく。
ぼたんは自然と目を閉じた。
織り姫と彦星。
蔵馬と私。
確かに。
霊界に生きる私と、人間界に生きる蔵馬。
似てるな・・・って思った。
でも、蔵馬はそんな憂いまでも、ちゃんとくみ取ってくれた。
やっぱり、蔵馬が好きだ。
「蔵馬。」
「なんですか?」
「大好きだよ。」
「!!」
今度は蔵馬の顔が赤っていく番だ。
「あなと言う人は・・・。」
言った瞬間、蔵馬はぼたんを横抱きにして、ベランダから部屋へと移動した。
ソファー、ゆっくりとおろすと同時に、ぼたんの上に多い被さる蔵馬。
「今夜は、覚悟してください。」
「お手柔らかに頼むよ。」
「さぁ?」
ぼたんの視界は、赤一色になっていく・・・。
おわり
言い訳というなの、後書き
紳士淑女の皆様。
こんばんは、またはこんにちは。
吹雪冬牙です。
いや〜久しぶりの蔵ぼ小説。
スランプ全然抜けてないですね・・・。
もう少し甘い展開にもって行こうと
したんですが・・・断念。
この後、二人がどうなったかは・・・
皆様で想像して下さると嬉しいです♪