蕩けるようなキスをして






「んっ・・・。」

二人だけしかいない、科学準備室。
教室の名前にそぐわない音が、人から忍ぶように聞こえる。
時折、零れる声でさえも全てを自分の中に仕舞い込むように、続けて深い口付けが繰り返される。

「ちょ、くらっ…」

空を想像させる水色の髪が、フワリと揺れ動く。
だが、それすらも許さないと言うように、後頭部に手を滑らせて固定してしまう。
酸素を与えて貰う余裕もない程に続く、愛の証とも言える口付け。
ぼたんは、息が上がり涙を浮かべた目で蔵馬を見上げた。
最近の蔵馬はおかしい。
二人きりの時間があれば、すぐにこうやって触れてくる。
別に嫌なわけではないのだが・・・。
酸欠になって、ぼたんは失神寸前にまで追い込まれる。
それを確認するかのように、蔵馬はクスリと口もとをあげて、少しだけ唇を離した。

「はぁ…はぁ…はぁ…。」
「どうしました?」

わかっているのに、ニッコリと微笑んで聞いてくる、この確信犯のお狐様。
ぼたんは、そんな蔵馬を睨みあげた。

「殺す気かい!」

スパコーンと蔵馬の頭を叩けば、「痛て。」と小さく呟いてさほど痛くもない頭に手を置いた。
本来ならば実験器具が置かれている机。
そこには、綺麗な程に何もなく。
置かれているのは、ぼたんだけ。
白衣を着た蔵馬が、まるで実験をしているかのようにぼたんに覆い被さり、口付けを繰り返していた。

「まだ、慣れないんですか?」
「慣れる、慣れないの問題じゃないだろう!?」

ぼたんの苦情も気にせず。
蔵馬はそのまま幽助の学校制服に身を包んだぼたんの中へと手を忍ばせる。

「んっ…!」

素直な程に反応を示すぼたんに、蔵馬は愛おしそうにぼたんを見つめた。

「期待、してます?」
「して、なんか、いないよっ…あっ!」

慣れた手つきで、プチンと背中に手を回して何かを外す音が聞こえる。
蔵馬はぼたんの耳元まで近づくと、クスリと特有の笑みを浮かべた。

「取れちゃいましたね。」
「取ったの間違いだろう?」

さして怖くもないぼたんの睨み顔。
上気した桃色の肌は、男を誘惑する華のように、妖しい香を放っている。
弾力のある胸の膨らみへと手をかけた瞬間。

PiPiPiPiPiPiPi PiPiPiPiPiPi PiPiPiPiPiPi

ぼたんのポケットから鳴り響く、コンパクト型通信機。
その音を聞いた瞬間、蔵馬は天井を見上げた。
急いで身なりを整えたぼたんは、通信機に手を触れた。
その瞬間。

ふわりと蔵馬の手がそっとその上に覆い被さった。

「出ないで。」
「え、でも・・・重要な事だったら。」
「今だけ・・・今だけは俺だけのぼたんでいてください。」

じっと瞳の奥を見透かすかのように、見つめる蔵馬の情熱的な目。
この目を知らないわけではない。
人が人を本気で愛している時だけにしか見る事が出来ない、真実の目。
ぼたんはまるで呪縛でもかけられたかのように、動く事ができなかった。

「蔵馬?」
「ぼたん、お願いです。」

それでも、準備室に鳴り響く音。
ぼたんは蔵馬の手を遮って、通信機を開けてしまった。
それを見て、蔵馬は傷付いたようにぼたんから離れた。

『なんですぐに出ないんじゃー!このぼけ!!』

聞こえてくるのは、彼女の上司でもあるコエンマの声。

「にゃはは♪恋人の時間ですよー、コエンマ様。」
「え?」
『え。』

同時に出た、コエンマと蔵馬の声は見事にハモった。
だが、ぼたんはニッコリと笑みをうかべると一言コエンマに言い放ったのである。

「なので、これから16時間は電源きりまーす。」
『は?お、おい!ぼたっ』

ブチ。

有言実行。
ぼたんはコンパクトの電源を切って机の上にそっと置いた。
こんな事をした事は一度もない。
いきなりどうしたのかと、蔵馬も驚いたようにぼたんの事を見つめてしまった。

「何、キョトンってしてるのさ。」
「え…あ、いや。」

なんとなくコンパクトへ視線が行ってしまう蔵馬に、ぼたんも後を追うようにコンパクトに視線を落とした。

「今から16時間。私だけの蔵馬、でしょ?」

ゆっくりと蔵馬へと視線を戻したぼたん。
蔵馬はニッコリと笑みを向けて、ぼたんを優しく抱きしめた。

「ぼたん。」
「本当に甘えたさんだねぇ。冷静沈着な妖狐蔵馬が本当はこんな甘えん坊さんでしたなんて、みんな聞いたらどうなるかねぇ。」
「いいですよ、教えなくて。ぼたんだけが知っていてください。」

返事を返す間もなく、蔵馬の唇がぼたんの唇を塞いだ。
また繰り返される深い深い唇。
息があがるぼたんを、そのまま後ろへ押し倒した。

「ちょ、蔵馬…ここ、学校。」
「ええ、そうですよ。」

先程よりも素早く制服の中に手を忍ばせると、ぼたんの体は驚く程に反応を示した。














※ 続きは冬牙私室行きです。さぁ、18才以上の方のみ扉を見つけてください。※














すっかり真っ暗になった校舎。
おそらく、生徒はだれも残っていないだろう。
蔵馬は、ぐったりとしているぼたんに制服を着せると、自分も身支度を急いだ。
手足、一つ動かせない程にぐったりしているぼたんを見て、苦笑してしまう。

「大丈夫ですか?」
「これが大丈夫に見えるなら、蔵馬の目はおかしいよ。」

何度求めたか、わからない。
何度求められたか、分からない。
それでも、ぼたんは先程までの行為を思いだして顔を赤くした。
必死な蔵馬の顔。
それは戦闘でもあまり見せない。
だが、ぼたんの前でだけは、見せる。
唯一の蔵馬の余裕のない表情。
色々な体位で、何度も何度も絶頂させられた。
だが、それが一つも嫌ではない。
散乱した空の袋の数々。
問題なのは、その数と求めた数は同じでないこと。
ぼたんは、そんな自分の考えと状況を見つめて苦笑した。

普通じゃないさね。

でもそれが幸せに感じる。


ぼたんをお姫様抱きにすると、窓からあっけなく飛び降りた。

「カバン、持って下さいね。」
「うん…でも、手に力が入らないよ。」
「支えてるだけでいいですよ。」

それだけ言うと蔵馬は、ぼたんの家に向かって飛び上がった。
人に見られないように跳躍する蔵馬。

「蔵馬。」
「なんです?」
「大好き。」

にっこりと微笑むぼたんが、ぎゅっと蔵馬に抱きついてきた。


ドクン。


蔵馬は、さらにスピードをあげてぼたんの家へと急いだ。
これから、期限の時刻までは俺達二人だけの時間。














蕩けるような恋をしよう。
















蕩けるように愛し合おう。
















心も体も全て、深く繋がって。














これから行く未来。












いつまでも、君と共に過ごしていく。








愛しているのは、ぼたん、 ただ一人だけ。





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