『 未来小説 』
「おぎゃああああ!おぎゃああああああ!」「おぎゃああああ!おぎゃああああああ!」
「い、今、ミルク作ってるから、待っておくれよ。」
ほとほと困った顔のぼたん。
抱き上げているのは、赤ちゃんのパパである蔵馬。
…のはずが、何故か妖狐化していた。
もの珍しいものを見るかのように、泣きじゃくる我が子をじっとその金色の瞳で見つめていた。
あやす事もせず。
「ちょいと、蔵馬。お尻叩くくらいしてよ。」
「…叩くのか?」
そう言った瞬間に、手を大きく振りかぶった妖狐蔵馬。
ぼたんは、慌てて我が子を救出した。
「なんで、大きく振りかぶるんだい⁉︎死んじまうだろ⁉︎」
ポンポンと優しくあやすぼたんを、これまた珍しそうに見つめる。
キッチンでは、水の流れる音が絶え間無く聞こえていた。
「蔵馬、ミルクの温度みてきて。」
「俺を使うのか?」
「…あんたのコでもあるんだからね…。」
半目になって、蔵馬を睨んだぼたん。
昔は、常に妖狐蔵馬に対しては、畏怖のような物を感じていたはずなのに。
母とは、そんなに強いものなのだろうか。
「あー泣かないでおくれ。」
「おぎゃああああああ!」
「うわっ…一掃派手になった。」
ポカンと我が子を見つめるぼたん。
トストスとリビングまで歩き、ミルクをチロチロと飲んでいる蔵馬に、何故かぼたんは、笑いがこみ上げて来た。
ケタケタと笑うぼたんに、切れ長の目が、睨みつけてきた。
「何故、笑う。」
「いやー。魔界の連中がみたら、卒倒するだろうなーと思ってね。」
「…だろうな。もう、大丈夫そうだ。」
妖狐蔵馬は、ミルクをぼたんに手渡した。
哺乳瓶に自分のミルクが入っているとわかっているのか、手を上げてミルクを取ろうとする我が子。
「はいはい、パパがミルク作ってくれましたよー。」
「パ…パパ…。」
「そうだろ?ねー。」
飲みやすいように、顔をあげさせた瞬間。
夫婦が同時に止まった。
プルプルと震える我が子の頭に。
白いモフモフした、耳。
「ちょっ⁉︎ちょいと、妖狐になっちまってる⁉︎」
「ほぅ。」
興味津々と蔵馬も覗き込んだ。
「俺に似てるな。」
「当たり前だろ。私達の子供なんだよ?」
「俺がやる。」
蔵馬の言葉に驚いて、ぼたんは蔵馬を凝視してしまった。
「で、出来るのかい?」
「飲ませるだけだろう?問題ない。」
器用な蔵馬。
赤ちゃんを固定させると、ミルクを飲まし始めた。
コクコクと勢い良く飲む、我が子にチラリとぼたんをみた。
「なんだい。」
「母親に似て、よく食う奴だ。」
「そりゃー悪ぅございましたね。」
憎まれ口を叩いているのに、耳と尻尾は、正直と言うか。
本人は気づいてないのかもしれないが…。
じっと見つめていた蔵馬がふと顔を上げて不思議そうに首を傾げた。
「このミルクは、どこから作る?」
「どこって…ひとつしかないだろ!」
真っ赤になったぼたんに、蔵馬の顔に剣呑な光が宿った。
「…こいつ、俺の物を飲んで…。」
スパコーン!
「恥ずかしいコトを言うんじゃないよ!!」
蔵馬が最後まで言う前に、どこから取り出したハリセンで、ぼたんは、思い切り妖狐蔵馬の頭を叩いた。
「だって、本当のことだろう?」
「…赤ちゃんの物に決まってるだろ⁉︎」
「な、んだと⁉︎こんな年齢から、すでに俺から盗んでいるのか。」
蔵馬の言葉にぼたんは、全身脱力した。
感心したような、蔵馬の顔。
だが、その蔵馬の表情に暖かいものを見つけた。
目に、優しさが宿っている。
「…良い盗賊になるな。明日から、特訓だぞ?我が子よ。」
「…なんて言う英才教育なんだろうねぇ。」
ぼたんは、ニッコリと微笑み蔵馬のコトを見た。
父親としての自覚。
それが何よりも嬉しかった。
「俺のコだ。S級になってもらわないと困る。」
「犯罪者になったら困るんだけどねぇ。」
どこまでも会話の噛み合わない二人。
ぼたんは、妖狐蔵馬によりかかるように、座った。
その心地よい重みに、蔵馬もうっすらと微笑みを浮かべた。
「人間の蔵馬が羨ましいな。」
ぽつりと呟いた言葉。
「なんでだい?」
「お前と子供といる時間が長い。」
それは、小さな嫉妬。
昔なら、精神を奪ってでも出てこようとしていた。
そんな妖狐蔵馬の小さな変化。
ぼたんは、妖狐蔵馬の頭をぎゅっと抱きしめた。
「何してる。前が見えない。」
「好きだなーと思って。」
「好き、なのか?愛してるではないのか?」
ニヤリと笑みを浮かべた妖狐蔵馬。
妖狐蔵馬がこの顔になった時は、必ずと言って良いほど、夜は眠るコトができない。
だが。
「おぎゃああ!」
まるで触るなと言ってるような子供の泣き声。
ぼたんは、吹き出してしまった。
「なんだい、ママのコトを守ってくれてるのかい?ありがと。」
ぷにぷにと、頬を触れば、にこーっと笑みになる我が子。
妖狐蔵馬は、呆れたようにため息をこぼした。
「…敵が増えただけか。」
「へ?」
「いや、なんでもない。」
そんなある日の昼下がり…。
終わり(?)
ここまで読んでくださった素敵な皆様
本当にありがとうございました。
誤字、脱字があった場合
お詫び申し上げます。
マスター 冬牙