『 過保護 』
ふと見上げた空。
今日は、青い空はご機嫌斜めのようで。
どんよりとしたグレーの空が広がっていた。
別に雨が嫌いだとは思わなかった。
今までは。
だが、ある時点から天気を気にするようになった。
「雨、降らないと良いんですけど。」
昼休み。
本を読みながら、ふと窓の外へ視線を向けた。
「南野。彼女って、雨の日でもあのまま飛ぶのか?」
同じく空を眺めながら呟いたのは、海藤。
この学校で唯一自分の本性を知る人物だ。
「雨具は邪魔になるらしいですよ。風邪を引くので、最低限の雨具は持って頂きたいのですが、
バランスが崩れるとか、飛びにくいとか、何かにつけて言ってくるので、先日コエンマの所に行きまして。」
「南野、ストップ。わかった、わかったから。」
まだ話しの途中だと言うのに、話しを止められ、俺は始めて海藤と視線を交じり合わせた。
呆れたように見つめる海藤に、俺は首を傾げた。
「なんです?」
「…いや。彼女も大変だなと思ってな。」
「どう言う意味です?」
ただ、心配してるだけなのに。
「お前、過保護過ぎだろ。そのうち、彼女に逃げられるぞ?」
「くす。逃げられるなら、逃げてみればいい。一度盗んだ者を、手放す事はしない主義だ。」
ほんの刹那。
蔵馬から妖気が発せられる。
気が遠くなるほどの妖力に、海藤は窓枠に手をついた。
「…ほんと、かわいそうだな。」
「誰がです?」
いつも通りにニッコリと笑みを浮かべる蔵馬に、海藤は苦笑するしかなかった。
そんな会話を思い出しながら、蔵馬は家へと向かう途中。
「じゃーん♡蔵馬!」
突然上から降ってきた、ぼたんを咄嗟に抱きとめた。
どうして彼女は、いつも、いつも…
「どうして、空から降って来るんですか?」
「ん?蔵馬の姿見かけたら、飛ぶよりも落ちた方が早いと思って。」
そんな彼女の言葉に、俺はポカンとしてしまった。
なんだろ。
ギスギスした気持ちが、たった一つの言葉で解けていく。
俺はぼたんを抱きしめた。
「冷たいね。」
「あー、上は結構寒いからねぇ。もう、慣れっこさ♪」
いつもの死薄装を身に纏うぼたんを見て、蔵馬は一瞬天を睨みつけた。
おそらくは、監視してるであろう、彼女の上司に向けて。
「お時間は?」
「今日は、もう終わりだよ。だから、蔵馬に甘えに来たんじゃないかっ」
「なら、話しは早いですね。」
ぼたんを地面に下ろすと、彼女の手を取って歩きだした。
寒くないように、俺のポケットに彼女の手をいれて。
寄り添うに歩いた。
ふわりと香る彼女の仄かな香が、ドクンと胸を高鳴らさせる。
「ぼたん。」
「ん?なんだい?」
「家についたら、すぐにぼたんが欲しいから。覚悟してて。」
「へっ⁉︎」
ぼん!とゆでたこのような彼女の顔に、思わず吹き出してしまった。
何度も肌を重ねたと言うのに、初々しい彼女の反応が、可愛くて仕方ない。
「ぼたん、愛してますよ。」
なんとなく言いたくなった。
気持ちが抑えられなくて。
そんな俺の気持ちが通じたのか、ぼたんは、少しだけ背伸びした。
何か話す仕草に、俺は耳を近づけた。
「私の方がもっと愛してる。」
「…なら、たしかめましょうか?」
ふわりと彼女の腰を引いて、その紅く甘い唇に、口付けた。
舌で、軽くノックすれば、たどたどしく口が開かれる。
「くす。」
その隙をついて、俺はより深く彼女の中へ侵入した。
頭が痺れるような感覚。
やがて、ぼたんは自分で立っていられなくなったのか、俺にすがりつくように抱きついてきた。
「蔵馬…」
潤いのある目。
紅く上気した肌。
ごくんと、喉が鳴った。
「ぼたん。そんな顔、他の男の前でしたら、だめですよ?」
「す、するわけないだろ!…蔵馬だからじゃないさ。」
そんな嬉しい言葉、言わないで。
歯止めが効かなくなる。
「俺も、ぼたんしか欲しくない。」
そう耳元でつぶやき、家路を急いだ。
その日。
ぼたんが霊界に帰ってくる事はなかったのは、言うまでもない。
終わり(?)
ここまで読んでくださった素敵な皆様
本当にありがとうございました。
誤字、脱字があった場合
お詫び申し上げます。
マスター 冬牙