※こちらは完全オリジナルになりますので、原作設定でないと・・・と方はご遠慮ください。
なんでもいい!と言われるお嬢様のみ、お読み下さいませ。
真実
その2
コエンマの衝撃な言葉を聞いてから、どう幽助の家で過ごしたのか、まるで覚えていない。
ただ、コエンマがみんなの前で正式に彼女を婚約者とした事を発表していた。
コエンマは終始嬉しそうだったが、彼女の顔はどうだったのだろうか?
覚えていない。
幽助の集まりから数日が過ぎようとしていた。
彼女に思いを寄せていたのは自分だけでなかったのは、何となく気が付いていた。
あの武術大会の時の飛影の横顔。
仲間なのに、何故がどす黒い何かが俺を覆い潰そうとしている。
彼女もあれ以来姿を見せて来ない。
幽助の家にしばらく止まる事は聞いているのだが・・・。
TRUU TRUU
携帯が鳴りだし、俺はディスプレイ表示を見る。
そこには『幽助』の文字が出ている。
俺はそれを見つめて、また机の上に携帯を置いた。
ベットに横になり天上を見つめる。
ただ、今思い出されるのはいつもの彼女の笑顔。
どんな時でも決して明るさを忘れない。
人に心配や迷惑をかけるのが嫌いな彼女の偽りの笑顔。
だから気になったのだろうか?
・・・彼女は、いつも俺自身を見てくれていた。
人間の秀一としてでもなく、妖狐の蔵馬でもなく、ただ一人の蔵馬と言う人格を見つめて
側にいてくれた。
そして俺は、そんな彼女の気持ちに気付いていたのに、知らない振りを決め込んでいた。
それは決して越えることの出来ない種族と言う名の枷。
霊界の彼女、人間である俺。
どちらにしても生きる時間、流れが違うのだ。
いくら愛だなんだとわめいた所で、現実は何も変わらない。
俺は瞳を閉じた。
ふと窓から風が流れ込む。
「そんなに気になるか?」
俺は目を見開く。
窓の方を見ると飛影がいた。
「フン。珍しいものが見れたな。」
俺は苦笑しがてら机の前にある椅子に腰をおろした。
「どうしたでんすか?一体。」
「別に。」
飛影はそれだけ言うと、何をするわけでもなく、ただ月を眺めていた。
俺は瞳を反らし、俯いた。
今は月を見たくない。
彼女を思い出すから・・・。
「来月に霊界でコエンマの婚約披露があるらしいな。」
「え・・・」
「くだらん。俺達も出席しろと幽助経由でコエンマから伝言が来た。躯と黄泉もよばれる
らしいがな。」
これで、本当に駄目だな。
飛影は俺の考えを見透かしたかのように、見つめる。
「蔵馬、人でも妖怪でも一番やってはいけない事がある。」
「やってはいけないこと・・・?」
「・・・自分に嘘を付く事だ。」
それだけ言うと飛影はまた姿を消してしまった。
自分に嘘を・・・
でもどうすることも出来ない。
飛影にしても幽助にしてもそうだが、自分に関われば必ず迷惑がかかる。
命の保証はなくなる。
魔界に生きる者には、全てが弱肉強食の世界。
より強い者に戦いを挑みたくなる性分。
そして、どんな姑息な手を使おうとも、名をあげるためには手段など選ばない。
かつての自分がそうであったように。
俺は溜め息を付き、静かに窓を占めた。
ぼたんは幽助の家にお邪魔していたのだが、さすがに新婚家庭に長く滞在するのは気が引
けたのか、今は幻海師範の所にいた。
一日中座禅を組み、静かに瞳を閉じている。
幻海も何も言わずにただぼたんの迷いが晴れるのを見守るしかなかった。
ぼたんはふと何かの気配に気が付き、道場の外へと出た。
特に誰もいない。
ぼたんはその場に座り込んだ。
青白く光る月を見上げて涙が溢れ出そうになる。
この月の下にあの人がいる。
決して結ばれる事のない、大好きなあの人・・・。
ぼたんは膝を抱えて声を押し殺して泣いた。
「蔵馬・・・。」
何度涙を流しただろうか?
何度あの人の名前を口にしただろうか?
ぼたんは数日前の事を思いだした。
それは、ぼたんが人間に用事があり出かけた時のことである。
ぼたんは早々に仕事を終わらせると、ある物を渡しに蔵馬の元へと急いだ。
それを口実に久しぶりに会いたかった・・・ただそれだけだった。
だが、行く途中の町中で蔵馬を見付けた。
蔵馬に声を掛けようとした時に、蔵馬の笑顔が目に入ってきた。
とても優しい笑顔。
ティファニーのお店の中で髪の長い女の人と楽しそうに会話している姿。
「あれま・・・私は何やってんだろうねぇ・・・」
ぼたんは手の中にある袋を握りしめた。
そしてその場から逃げるようにして霊界へと帰った。
何度も思いだされる蔵馬の顔。
ぼたんは霊界の門の上でただじっと座っていた。
このまま時が止まってしまえばいい。
もう、会わない方がいい。
そしたら、時が忘れさせてくれる。
ぼたんの瞳から涙が止めどなく溢れてきた。
そんなぼたんをコエンマは後ろから見つめていた。
モニターでぼたんの行動を見ていた為に、蔵馬のデート現場を一緒に目撃したからだ。
そして、コエンマにはその相手が誰なのかも把握していた。
ゆっくりとぼたんに近付き、そっと後ろから抱きしめる。
ぼたんは一瞬何が起きたのか理解できずに、真上にいるコエンマの顔をジッと眺めていた。
「泣いてたのか?」
「え、そんな事ありませんよ!いやだわぁ〜コエンマ様ったら。」
「無理するな!」
「コエ・・・ン・・・マ・・様・・・。」
ぼたんは真っ直ぐに見つめてくるコエンマの瞳から逃れるように俯いた。
コエンマは優しく微笑みかける。
そして何度かぼたんの髪を撫でる。
「わしは見てなかった事にするから、泣け。」
その優しい言葉にぼたんは栓を抜いたかのように、大粒の涙を止めどなく流した。
どのくらい泣いていたのだろうか。
ぼたんは泣きやみ、コエンマの顔を恥ずかしそうに見る。
コエンマはさらに優しい目つきでぼたんを見つめる。
「すみません、コエンマ様。」
「・・・蔵馬か?」
「!!」
コエンマの唐突な質問にぼたんは答えられずに、俯くばかりだった。
蔵馬があんなに照れたような、でも優しい笑顔を傾けるのは誰なのだろうか?
いつも自分を見つめていた瞳が、自分以外の人を映す事がこんなにも苦しい事とは。
ぼたんの頭の中で色々な事が駆けめぐる。
そんなぼたんに気が付いたのか、コエンマはぼたんの髪に優しく口づけを落とす。
驚き、紅潮するぼたん。
コエンマは真剣にぼたんを見つめた。
「ぼたん、この間の返事が欲しい。お前が蔵馬を想う気持ちは良く知っている。だから、
蔵馬を忘れろとは言わん。蔵馬を好きなままでいい。そのままのぼたんをワシは受け止める。」
「コエンマ様・・・。」
「蔵馬を忘れる為にワシを利用するのも一興だな。」
蔵馬を
忘れる・・・?
ぼたんはぼんやりとコエンマを見つめた。
コエンマの言葉が呪術のように頭の中に響き渡る。
そしてぼたんは、ゆっくりと首を縦に振った。
「ぼたん、ありがとう。」
コエンマは優しく、優しくぼたんをその腕の中に捕らえた。
ぼたんはゆっくりと瞳を閉じ、そのまま意識を失ってしまった。
・・・ふと、人の気配に気が付き、ぼたんは顔を上げた。
そこには月明かりを背に飛影が立っていた。
「飛・・影・・・。」
飛影は何も言わずにただジッとぼたんを見つめていた。
ぼたんは慌てて瞳から涙を拭う。
「フン。その場の勢いでコエンマとの婚約を承諾したんだろうな。」
飛影のその台詞にぼたんは瞳を見開く。
「それは・・・。」
ぼたんは真っ直ぐに見つめる飛影から瞳を離した。
これ以上見られれば、真実を見抜かれてしまう。
蔵馬の所にも行けない。
コエンマ様にも、何も言えない。
逃げだしたかった。
「・・・行くか?」
ぼたんは再び驚いて飛影を見つめる。
「俺はこれから魔界に行く。ついて来るか?」
ジッと飛影を見つめ、また瞳から涙が溢れそうになる。
「駄目だよ、逃げれない。逃げちゃいけないんだ。これは自分でまいた事だから。」
ぼたんは俯きながら答える。
それを見ていた飛影の妖気が一気に上昇する。
驚いてぼたんは飛影を見つめる。
その妖気に驚いて幻海師範も部屋から飛び出して来た。
「お主!!」
幻海は飛影を見て驚いた。
今まで隠していた魔界の者の本性を見たような気がした。
飛影はぼたんを担ぎ上げる。
「待て!ぼたんをどこに連れて行くつもりだい!?」
「・・・魔界だ。俺は魔界に戻る。こいつは頂いていく。」
それだけ言うと、飛影は姿を消した。
幻海は最初あっけに取られていたが、しばらくすると意味を把握したのかニッコリと笑み
を浮かべた。
「さて、誰が最初に来るか・・・楽しみだねぇ。」
そう言いながら幻海は部屋へと戻って行った。
こんばんは、またはこんにちは吹雪冬牙です。
飛影がまぁ、いい味出してます。
別にライバルにする気はないのですが、なぜか飛影は
冬牙の中でぼたんの良いお友達関係になってるような・・・。
唯一蔵馬にも対等に話せるので、飛影だと
思ってます。
それでは続きはどうなるでしょうか?
お楽しみに!!
ここまで読んでくださった心暖かいお嬢様。
ありがとうございましたm(_ _)m
マスター冬牙