第17話





「蔵馬を殺す気なんだね。」









ぼたんは静かに言葉を紡いだ。
その言葉に蔵馬だけでなく、葵自身も驚き目を見開いた。
やけに冷静なぼたんの声。
今まで聞いた事のないような、ぼたんの声と表情に、蔵馬は惹き付けられるようにぼたんの事を見つめていた。
ぼたんは蔵馬の目を見つめた。

「葵・・・そんな事したら、私が許さないよ。」

ぼたんのハッキリとした答え。
葵は鈍器で殴られたような衝撃に耐えられなかった。
その場に膝をついて、目の前の妖怪を見つめた。
その先にいるぼたんを。

『
なんで?なんで・・・そんな犯罪者を庇うの?ぼたん。
極悪非道で、どれだけの女を自分の快楽の為だけに利用してきたと思ってるの?
そして、君は本当に彼から愛されてるとでも思ってるの?
』
「え・・・何言って・・・。」
『
だから、本来はっ』

葵が話している途中で、蔵馬に携帯を奪われてしまったぼたん。
蔵馬は携帯を耳にあてた。

「それだけですか、言いたい事は。」
『
妖狐蔵馬!!!絶対に貴様だけは、殺してやる。ぼたんを守る為に!!』
「自分の為・・・なのでは、ないんですか?」
『
!!』

大きな衝撃が後頭部を襲った。
葵はそのまま気を失い、その場に倒れた。
むろん、後ろから蹴り飛ばしたのは、幽助に他ならない。
幽助は吹っ飛んだ携帯を拾い上げた。

『
おーい、蔵馬。んで、この魂狩りってのどうすりゃいいんだ?』
「幽助・・・何をしたか想像はつきますが、後で厄介な事になりますよ?」

チラリと気絶してる葵の事を見た。
何故か、コイツの事を見ていられなかった。
少し前の蔵馬を見てるようで。
なんでも一人でやろうとする・・・その寂しさが。
まるで蔵馬の鏡のように思えて。
気付いたら蹴り飛ばしていた。

『
んな事、気にしていらんねぇーよ。で、どーすんだ?』
「どこか物陰に隠れていて下さい。すでに妖怪本体の核には、シマネキ草を植え付けてありますから、合図一つで殺せます。」
『
なんだよ。んじゃ、最初からそうすればいいじゃねぇーか、面倒な事させやがって。』
「色々とあるんですよ。それじゃ。」

蔵馬は携帯を切ると、顔面蒼白しているぼたんの事を見た。
トンと軽く肩に手を置くと、ぼたんは酷く驚いたように身体をビクつかせた。
怯えさせてしまってる?
いや、困惑してるのか?

「ぼたん、すみません。」
「へ?」

一応、ぼたんに謝罪の言葉を伝えると共に、ぼたんの首筋に手刀をたたき付けた。
瞬間にぼたんは蔵馬に倒れ込んで来た。
目から数滴の涙。
蔵馬は、それを唇で拭うとギュっとぼたんの事を抱きしめた。

「俺を疑わないで・・・俺には、君しかいないんだ。」

聞こえるはずもない告白。
蔵馬は、ぼたんを横抱きにすると、パチン・・・と指を鳴らした。
それと同時に、妖怪の非業の雄叫びがあがった。
妖怪の体と言う体から、魔界のありとあらゆる植物が食い破って出て来た。
そして、最後に大きく成長した食妖植物達が、苦しむ妖怪を頭から幾重にも重なって食べ始めた。
それは溶かすとかそう言う代物ではない。
ただ、食くす。
それが正しい。
蔵馬の周りに無数の花びらが舞い始めた。
そして、最後にパチンと指を鳴らせば、蔵馬達を守るように花びらが華の折を作り、蔦植物がさらにそれを囲む。
そして、妖怪は爆発的な植物の生長で、食い破られてしまった。
無残な姿。
妖怪が先程までいた場所は、元の普通の家に戻っていく。
蔵馬とぼたん・・・そして少し離れた所に、幽助と気絶している葵がいた。
全てが綺麗に消えてなくなると同時に、蔵馬達も華の檻から出て来た。

「蔵馬、大丈夫かよ。」
「ああ、俺は何ともない。」

近づいてきた幽助。
二人は共にぼたんの顔を見つめた。
全てが終わってから、特防隊の面々がその場に降りて来た。
最後に降りて来たのは、コエンマだった。
葵の脇に落ちている『魂狩り』を手に持つと、コエンマはチラリと蔵馬と幽助の事を見た。

「どうやら、使わずに済んだようじゃな。」
「ええ。」
「やい、コエンマ!てめぇ、こんなアブねぇもんを霊界から持って来てんじゃねーよ!!」

コツンとげんこつをする幽助に、コエンマは必死に今までの状況を説明したが。
幽助に通用するわけもなく。
そんな小さな小競り合いの中、局長が倒れている葵を抱き上げようとした。
が、それを幽助が制止させた。

「コイツには、用事があんだ。連れて行かせるわけにはいかねぇ。」
「どう言う意味だね、浦飯幽助。」
「うるせぇーな。俺だってよく知らねぇよ!幻海のばーさんが連れて来いって言うんだからよ。
あーもう、とっと霊界の人間は霊界にけぇーれつーの!!!」

ペッペッと唾を吐き出す幽助に、副長が斬りかかろうとしたが、局長が苦笑しながらそれを止めた。
幻海師範が葵に用事?
葵の弟子・・・霊光波動の唯一の継承者、幻海・・・か。
そしてその跡継ぎの浦飯幽助。
その仲間の妖狐蔵馬。
本当に人生はどう転ぶか分かったもんじゃないな。
苦笑しながらも、局長は幽助から離れた。
ともかく、任務は完了したのだ。
キラキラと無数に煌めく妖怪の核。
それは妖怪が何匹も折り重なってあの巨大化した証拠。
だが、その繋ぎは・・・。
局長は、一番大きな核に近づいた。
そこには、ふるびた寝間着の破片。
なんと言う事だろうか・・・この妖怪の繋ぎになったのは人間。
しかも、自ら犠牲になったとしか思えない。
妖怪は人間の心の隙間を襲ってくる。
甘い勧誘をして、人間を食らってしまう。
妖怪こそ、害そのモノ。
核を手に取ると、ギュ・・・っと握り閉めた。

「妖狐蔵馬君。」

局長の背中を見つめる蔵馬。
局長はゆっくりと振り向いた。

「君が、葵の報告通りの妖怪でない事を祈るよ。」
「・・・。」
「葵は、将来有望な特防隊員。書面上の罪過はなくなっても、君の心の罪過はどうなのか、知りたいもんだね。」

それだけ言うと、特防隊は少女の魂をもって霊界へと戻って行った。


後書き 〜 言い訳 〜
 
ここまで読んでくださり
心より深くお礼申し上げます。



これにこりず、次章も読んで頂けますと幸いです。
 
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
 

掲載日 2010.12.05
吹 雪 冬 牙


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