『 そ の 先 に あ る 幸 福 へ 前 編 』



 
「日番谷隊長。」
 
突然呼び止められて、日番谷は後ろを振り返った。
少し後ろから死覇装に赤い羽織を靡かせながら、一人の女が、日番谷に向かって歩いて来た。
日番谷は少し驚いたように、目の前の人物を凝視した。
そんな様子がおかしかったのか、その女はクスリと笑みを浮かべると、
日番谷と少し距離を保ったままで、足を止めた。
 
「私がいるの、そんなにおかしい?」
 
そう聞かれて、日番谷は軽くため息をついた。
 
珍しいと言えば、珍しい。
彼女の名は、  
護艇十三番隊でありながら、異端の者。
零番隊と言う特殊な、隊に属している女だ。
 
「・・・別に。どうしたんだよ、こんな時間に出歩いて。」
 
質問した日番谷の言葉を聞いて、はまた笑みを浮かべた。
そして、ふと・・・空を見上げる。
どこまでも青い空に、は目を細めた。
 
「いい天気ね。」
 
そう言われて、日番谷も同じく空を見上げた。
 
「・・・まぁな。つーか、俺の質問は無視かよ。」
 
呆れたように呟けば、はにっこりと笑みを浮かべたまま
日番谷を見つめた。
 
「うん、大丈夫。」
 
それにしても・・・。
日番谷は黙って、のことを見た。
零番隊は、特殊な部隊だ。
昼間は十三番隊がそれぞれの任務についているのに対して
零番隊は夜に活動する。
それ故、死神であっても「零番隊」の存在を知るものも少ない。
零番隊が何をしているのか。
どんな能力があるのか。
ただ分かっているのは、零番隊のヒラ隊員でも、一般部隊の席次程の
実力を持っているということ。
しかも8席以上は、副隊長クラス。
3席以上は隊長クラスと言われる程なのだ。
その為、この隊の力は未知数・・・その為、存在を知っている者達は、
みな一様に「十三番隊の闇に生きる魔物。」と言っていた。
 
もちろん、日番谷も昔はそう言っていた一人である。
 
このに出会うまでは・・・。
 
「で、何か用事か?」
 
その言葉には心底不思議そうな顔をして
首をかしげた。
 
「用事がないと来ては駄目なの?」
「!?」
 
そのあどけない表情に、一瞬日番谷の顔が高潮した。
 
か・・・かわいい・・・。
 
日番谷はふと視線を外して、後頭部を掻いた。
そんな仕草を見て、はさらに笑みを深くした。
こんな態度をする時は、決まって日番谷が照れている時。
の表情から一瞬笑みが消えた。
 
?」
「おじいちゃんに、死亡報告しに・・・ね。」
 
の言う「おじいちゃん」とは一番隊隊長であり、十三番隊の総隊長をしている
山本隊長の事だ。
なんでも、の直接の恩師だと言うが・・・気が付けばは総隊長の事を
「おじいちゃん」と呼ぶようになっていた。
 
「二人・・・死んだの。まぁ、私の部隊じゃ日常茶飯事だけどね。」
 
先ほどとは打って変わった悲しい表情なを見て、日番谷は言葉を詰まらせた。
この少女に自分は何を言えばいいのだろうか。
慰め・・・?
励まし・・・?
いや、にはそんな言葉は無用だ。
日番谷よりも長い時間を零番隊で過ごして来てるのだ。
そして、何よりも重い責務と覚悟を持っている。
 
暫く沈黙がその場を支配した。
二人の雰囲気とは似つかず、心地よい風が互いの間を吹き抜ける。
 
日番谷は、今の自分がイやだった。
何と声をかければいいのかわからない。
こんな時、決まって自分がガキだと実感してしまう。
しばらくして、はふっと・・・日番谷に背を向けた。
 
「じゃーね。仕事、がんばって。」
 
軽く手を上げると、はその場から去ろうとした。
そんなの背中には、黒い文字で「零」と書かれている。
そう・・・。
異端の隊である零番隊の隊長の証。
 
「おい。」
 
気が付くと、日番谷の口からを呼び止める声を出していた。
呼び止めてどうする?
日番谷は、内心焦っていた。
は、背中越しに日番谷を見つめ、言葉を待っていた。
すると、は今までに見たことのないような、優しい笑みを浮かべた。
それはとてもうれしそうに。
 
「ありがとう。」
「!?」
 
日番谷は目を見開いた。
どうして・・・どうして彼女には全てがわかってしまうのだろうか。
自分が言いたい事も、自分が何をしたいのか。
それだけ言うと、は風と共に姿を消していた。
 
しばらくがいなくなった方向を見つめていた。
追ってやりたい。
その手に抱きしめてやりたい。
言葉なんて必要ないんだ。
ただ、側にいて悲しみを一緒に背負えばいいだけ。
 
だが・・・
 
日番谷は、自分が戻るべき十番隊の隊舎に足を向けた。
 
自分は十番隊の隊長だ。
個人の感情で動くことは出来ない。
100人以上を統率する隊の長なのだから。
 
でも・・・
 
日番谷は、足を止めて再度が消えた方を振り返った。
 
 
「あら?隊長じゃないですかー。」
 
言葉の方を見ると、松本の姿を見つけた。
おそらく松本も休憩が終わった所なのだろう。
 
日番谷はフッと口元を上げた。
 
「松本。」
「はい、なんでしょう?」
「早退する。後は頼んだぞ。」
「は?!ちょっ・・・。」
 
松本の言葉を最後まで聞かずに、日番谷は瞬歩でその場から姿を消した。
日番谷は、の部屋を目指していた。
 
あの馬鹿野郎・・・。
 
心で何度も同じ言葉を繰り返した。
あんな今にも泣き崩れそうな顔して。
どこまで背負う気なのか。
あの小さな双肩に。
 
俺は、お前の・・・。
 
そう思い、日番谷はさらに瞬歩の速度を速めた。

つづく


後書き 〜 言い訳 〜
 
 
ここまで読んで下さり
心より深くお礼申し上げます。
 
 
これにこりず、中編も読んで頂けますと幸いです。
 
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
 

再掲載 2010.11.02
制作/吹 雪 冬 牙


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