『 そ の 先 に あ る 幸 福 へ 中 編 』
「返して!!!!」
バシッ!
いつ・・・
の頬に痛みが走り、序所に赤みが差してくる。
目の前の少女は、瞳にいっぱいの涙を浮かべて、これ以上無いほどにに向けて、
憎しみをあらわにしていた。
はそれでも何も言わずに、少女の顔を見つめた。
殴ってくれていい。
こんな痛みくらいでは、この少女の心の痛みには到底かなわないのだから。
は、昨日の虚退治で命を落とした隊員の家族の元に訪れていた。
彼が残した遺品を届けに。
そして、隊長である自分が守る事が出来なかったことに対して謝罪をしに。
「どうして・・・どうして・・・どうしてあの人だけが死なないといけないの!?
どうして、あの人だけ助けられなかったの!?」
悲鳴にも近い声で、少女は大きな声を出して泣き出した。
その隣には、死んだ隊員の両親が俯いて座っていた。
「弁解しません。私が彼を・・・。」
そこまで言って、父親がふと顔をあげて涙を貯めた瞳での事を見た。
「息子から、隊長のお話は聞いておりました。あの子は本当に良い隊長の下で働いていたと、
誇りに思います。どうか、ご自分を責めないでください。」
「!!」
は目を見開いた。
どんなに罵声を上げられても、仕方が無いと思っていた。
憎しみでもぶつけてくれた方が気が楽だ。
しかし、この父親は自分を許すと言ってくれて、なおかつ責めるなと心配してくれている。
は、もう一度頭を深く下げた。
「私は許さない!!あんたなんか大嫌い!」
の頭に罵倒する少女を父親は、静かに抱きしめた。
「すみません。この子も、動揺しているんです。この任務が終わり次第、結婚を控えていましたので。」
それは知っていた。
虚退治の前に、うれしそうにに報告してきていた。
は静かに顔を上げると、彼女を見据えた。
「もしよろしければ、彼の部屋に案内いたします。」
その言葉にそこにいた者が全員驚いた表情をした。
それもそのはずだ。
護艇には、死神以外は立ち入りが硬く禁じられている。
それがいとも簡単に言うのだ。
「しかし、それでは掟が・・・。」
母親が不安げにを見詰めた。
するとは、苦笑した。
「平気です。私が許可しますから。」
そのまま、後日改めて少女を彼の部屋に連れて行き、片付けをする事を約束して、は家を出た。
「!」
門の前で、背の高い男が腕を組んで目を閉じていた。
副隊長である藤本 秀幸だ。
が家から出てくると、藤本は目を開けて、のことを見下ろした。
「大丈夫ですか?さん。」
「平気。それよりもちゃんは?」
「もう一人の家に行きました。」
「そう・・・。」
藤本は、ふとの赤く腫れた頬を見つめると、そっと・・・手を添えた。
軽く手が触れただけでも痛みが走り、は顔をしかめた。
「大丈夫ですか?」
「平気よ、このくらい。」
はにっこり笑うと、頬に添えてあった手を外して、そのまま藤本の脇を通り過ぎようとした。
しかし、がすり抜ける前に、藤本がの腕をつかんでいた。
「何?」
「無理・・・しないで下さい。俺・・・頼りにならないですか?」
俯いて、苦しそうに話す藤本には苦笑してしまった。
本当に零番隊には似つかわしくない程の優しすぎる彼の性格。
は、握られている手をポンと軽くたたいた。
「頼りにしてるから、付いてきて貰ってるのよ。それに、浮気するとちゃんに怒られるわよ。」
「浮気じゃないですから。」
じっとを真剣な瞳で見つめる藤本の瞳からは視線を外した。
この瞳は苦手だ。
あの人と重なる、真剣で純粋な瞳。
そんな二人の沈黙を破るように、じっと少し離れた所から見つめる視線。
それに気が付いて二人は視線の先を見つめた。
そこには、じっと睨むように佇む一人の少女。
白装束に青い羽織を着ている女。
長い髪を一つに束ねている彼女の名は、 。
零番隊のもう一人の隊長である。
彼女たち二人は、人々からは「赤の闘神・蒼き女神」と呼ばれている。
の親友でもある。
藤本はそんなの視線を受けると、慌てて手を離した。
そんな態度に、は苦笑するしかなかった。
「・・・モト、あんた死ぬ覚悟あんの?」
背中に悪寒が走るほどの霊圧を上げたに、藤本は苦笑するしかなかった。
「ちゃん!?」
は驚いたように近づいた。
の髪や衣が濡れていた。
は苦笑すると、の手を握って全てを包み込むように笑みを浮かべた。
「帰ろう、ちゃん。」
「でも、ちゃん・・・。」
一体何があったのだろうか・・・。
しかしはから話かけられないように
そのままモトの方へ近づいて行った。
そして、ぐいっと襟をつかみ、モトの耳で何かをささやいた。
「 。」
「!?」
モトの顔が直後真っ青になった。
一体何を言われたのか・・・。
は、すぐに後を追って行ったのである。
その後を力なく歩くモトが、印象的だった三人であった。
つづく
後書き 〜 言い訳 〜
ここまで読んで下さり
心より深くお礼申し上げます。
これにこりず、完結編も読んで頂けますと幸いです。
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
再掲載 2010.11.02
制作/吹 雪 冬 牙
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