『 そ の 先 に あ る 幸 福 へ 完 結 』






 
「何、食いに行きます?」
 


護挺に入ってから、藤本が遠慮がちに二人の後ろから声をかけた。
それは今だにの霊圧が、重い事が一つの原因となっているのだが・・・。
チラリ・・・と軽蔑したかのようなの視線に、藤本は苦笑するしかなかった。
一体、この二人の先程の会話で何があったのだろうか?
は不思議そうにの顔を見た。
視線があえばはニッコリ笑うだけだった。
 
「そうねぇ・・・この間出来た定食屋は?なんか丼物が美味しいらしいよ。あとお団子も
美味しいとか言ってたけど?」
「あ、それいいね。ちゃん、何食べるの?」
「そうだなぁ・・・」
 
楽しそうに笑みを浮かべたの表情が、スッと凍り付いた。
何事かとの事を見た。
その場で足を止めて、ふとは零番隊の隊舎のある方角を振り返った。
そして軽く肩を竦めると、の肩にポン・・・と手を置いたのである。
 
ちゃん?」
 
訳がわからずの事を見つめると、は突然手を振って藤本の方へと向かった。
 
ちゃん?」
 
もう一度呼び止めると、は優しい表情での事を振り返った。
 
ちゃん、家に帰りなよ。」
「へ?」
「私たちよりも適任がいるから。んじゃーね。」
「ちょ、ちょっとちゃん!!!!」
 
有無を言わさず、藤本の耳を引っ張って歩いて行くを呼び止めても、もうこちらを振
り向かずに、手だけ振っている。
藤本は本当に痛いのか、耳を必死に押さえながら「痛いっての!!」とひたすら叫んでい
た。
そんな騒がしい二人がいなくなって、辺りは急に静かになった。
私たちよりも適任・・・?
は分からず、に言われたように家へと足を向けた。
こんな日はいつもちゃんと二人で、楽しく遊んでいたのに・・・なんで今日に限って。
なんとなくのけ者にされたような気がして、は俯いた。
 
「遅かったな。」
 
突然声をかけられては驚いたように顔を上げた。
 
 
 
 
一方、こちらは定食屋。
やっとの思いで解放された赤くなった耳をさすりながら、目の前でメニューと格闘しているに視線を送る。
なにやらブツブツと呟きながら、真剣な表情に藤本は目元を細めた。
 
「なんでさんを帰したんだよ?そんなに俺と二人になりたかっ。」
 
間髪入れずにメニューを縦に持って、一番痛い所で頭を直撃。
ガツンと言う音と共に、顔をしかめてを見れば、恐ろしいほどの笑みで藤本の事を見ていた。
 
「寝言は寝てから言え?」
「いてぇ・・・ほんの冗談じゃん。」
「いや、あんたの場合は冗談に聞こえないから。」
 
シレっと言うは、すぐにまたメニューを見始めた。
窓の外を見れば、夕暮れ時の美しい陽の光が差し込んでいた。
平和だなぁ・・・と思う瞬間。
 
「あんたもも、気づかないよね。」
「は?」
 
突然のの言葉に、藤本は目を丸くしての事を見た。
相変わらずはメニューと見つめたままだ。
チラリと視線だけ上げるの顔は、心底呆れたような顔をしている。
 
「どんなに霊圧を消しても、その人自体の生きている気は消えないからね。もう少し精進
しなさいよ。」
「は・・・はぁ・・・?」
 
霊圧?
なんで今そんな事を言うのかと、藤本は不思議に思った。
するとはメニューを置いて、ふと窓の外に視線を向けた。
それはとても優しい表情をしていて、一瞬藤本はそんなに目を奪われた。
何か愛おしい者を見るかのような視線。
そしてポツリ・・・と呟いた。
 
「日番谷は、不器用なお子ちゃまだからね。まだまだ。」
「日番谷・・・隊長?」
 
まだわかんないの・・・?と言いたげには、藤本の事を睨んだ。
首をひねる藤本には心底ため息をついた。
 
「はぁ・・・あんた、そんなだから彼女が未だに出来ないのよ。」
「いやそれとこれとは関係ないから。」
「あるでしょ。ま、今頃二人して真っ赤になって言葉が見つからないって感じゃない?」
「は?」
 
はクスクスと可笑しそうに笑みを作る。
何を言いたいのかさっぱり分からない藤本は、少し頬をふくらませた。
達よりも若干若い彼の、年相応な態度。
いつもの零番隊の副長の時とはエライ違いだ。
ただ、唯一の前でだけで見せる、素直な自分。
 
「いいな・・・好きな人が側にいて、は。」
?」
 
ポツリと呟いた言葉。
がこの場からいなくなるのではないかと錯覚を起こす程の儚く見えた。
好きな人・・・。
藤本はそのままが見つめる窓の先を見つめた。
この間の護挺内での藍染の反旗。
そして、それについて行った、三番隊隊長の市丸ギン。
あの場にいた松本乱菊に「ごめんな。」と言ったと同時にの事を見つめて何も言わな
かった市丸隊長。
もキュ!と唇を噛みしめて藍染と一緒に消えていく市丸隊長の事を見つめていた。
あの時、何故市丸隊長は恋人であるに何も言わなかったのか、わからなかった。
何故、を置いて行ったのか。
そして、あんな状況になったのにもかかわらずは、涙一つ流さなかったのか。
淡々とその後の事後処理を行い、仕事へと戻る姿が、痛々しく感じたのに・・・。
そんなの初めて市丸に対する想いを聞いたような気がした。
 
「あのっ」
「さーて、今日は食べるわよ!」
 
言葉を掛ける前に、の表情は一点して明るく、「すみませーん。」と勢いよく手をあ
げてウェイトレスを呼び寄せた。
その後、信じられない程の注文をすると、ニッコリと俺を見て笑みを作った。
今だけは俺だけに向ける顔だ。
だが、何故か冷や汗が流れるのは気のせいだろうか?
いや、気のせいじゃない。
これはきっと・・・
 
「今日はモトの全おごりね♪」
「はぁ!?ちょっと待てよ!俺、そんなに金持ってねぇーよ!!」
「嘘、給料もらったばかったでしょ?それに、さっきの口止め料。」
「あ・・・。はぁーーー・・・・わかったよ。」
 
モトは先程のが耳元で囁いた言葉を思い出した。
 
 
「氷輪丸のサビになりたいの?」
 
 
楽しそうに笑みを浮かべるに、藤本は諦めたように肩を落とした。
チラリと・・・と上目使いでを見て、藤本も口元が上がる。
ま・・・いっか。
この人が幸せそうにしていてくれるなら。
まだ自分の気持ちは言えないが、側にいることだけは許してくれているこの人だから。
そんな時、ふと先程のの言葉の疑問が解決された。
窓の外を見て、クスクスと笑い出した。
 
「何よ、気味が悪いわね。」
「気味が悪いってお前な・・・。」
 
苦笑しながらを見れば、はすでに食後のデザートのメニューを開いている。
まだ食う気かよ。
ゆうに3人前の注文をしたと言うのに。
でもま、なりのストレス発散に付き合うか・・・と、今頃真っ赤になって俯いている
二人を想像しながら、笑みを深くした。
 
 
と藤本が想像していた通り、は顔を真っ赤にして部屋で座っていた。
目の前には白い髪の少年。
そう、の家の前には日番谷が立っていたのだ。
まだ仕事をしている時間のハズなのに、ここにいると言うことは・・・。
はチラリと日番谷の事を見ると、質問が分かったのか、日番谷はニヤリと笑みを浮かべた。
 
「松本に任せて来たから、心配いらねぇよ。」
「乱ちゃんかわいそうに。」
「いいんだよ、普段さぼってんだから。」
 
普通に会話はしているが、二人の顔は何故か真っ赤だった。
少し話せば沈黙・・・
何度繰り返しただろうか。
は、お茶のお変わりを持ってくるべく、席を立ち上がろうとした。
ふと日番谷の手がの頬へと添えられた。
ドクン・・・。
先程、藤本にも同じコトされても、まったく鼓動が早くなる事はなかったのに、今は心臓
が止まるんじゃないかと思う程、早く脈打っている。
顔に全神経が集中して、ゆでタコのようになっているのが自分でも分かる。
 
「平気か?」
「あ・・・うん。」
 
顔を逸らすように下を向けば、日番谷はそっとソレを許さないと言うように、の顔を
上げさせた。
力強い瞳とぶつかる。
吸い込まれそうなその瞳に、は目を離す事が出来なかった。
 
そしてお互いが自然に顔を近づけた時・・・
 
 
「そう言うことか!」
 
 
突然、はポン!と手を打って嬉しそうに日番谷の事を見た。
当の日番谷は、これだけいいムードになってやる事か?と言いたげにの事を見た。
は先程と違ってニコニコとしている。
 
「なにが、そう言う事なんだよ。」
「本当はね、ちゃんとモト君と一緒にご飯食べに行く約束してたの。」
「藤本と・・・?」
 
ぴくりと日番谷の額に皺が数本増えた事に気が付かないは、嬉しそうに話す。
いきなりのけ者にされた気分で、ちょっと落ち込んでたんだぁーと話しているを見て、
日番谷はそっと手を離して、そのまま頬杖をついての事を見た。
本当に・・・。
コイツはの事を話すと、嬉しそうにしやがる。
ちょっとした嫉妬心が心を燃やすが、それを悟られぬように日番谷は黙っての言葉を
聞いていた。
 
「日番谷君がいるの、ちゃんはわかったんだね。」
「まさか、俺霊圧消してたんだぞ?それはねぇーだろ?」
ちゃんて霊圧消していても、その人の居場所が分かるんだって。」
 
そんな事があり得るのか?
日番谷は思いっきり顔に出して見ると、はクスクスと可笑しそうに笑っていた。
 
ちゃんだからね。」
 
それだけの言葉で何故か納得がいく。
 
「成る程な。」
 
には謎が多すぎる。
よりも先に零番隊の隊長になっていたのに、彼女はわざわざをもう一人の隊長に
任命した。
異例中の異例。
それに関してに聞いても、すぐにはぐらかされてしまう。
どうもが相手だと年の功とでも言うのか、自分がガキであることを認識させられるよ
うで苦手だった。
先の先を見るの視線。
憧れでもあり、恐怖でもあり、嫉妬の対象でもある。
いつになったら、を越える事が出来るのか。
 
『一生無理ね。』
 
高笑いするの顔を見えるかのようで、日番谷はゲッソリと息を吐いた。





「それにしても・・・・?」





 
は首を傾げて腕組んでいた。
何かを考えるかのようにうなっているを見ると、日番谷は何事かと自分の思考を中断
した。
 
「なんだよ。」
「さっきね、モト君が私の頬を心配して、さっきの日番谷君みたいにしてくれたんだけど。」
「・・・。」
 
なんだと?
藤本の野郎・・・上等じゃねぇーか。
俺のに手ぇだしやがって。
知らずに日番谷の霊圧が上がった。
 
 
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はふと、目の前にある食事を食べながら顔を上げた。
 
「あ。」
「なんだよ。」
 
じーっと、藤本を見つめるの顔が、何故か同情しているような、哀れんでいるような
そんな視線になる。
 
「・・・なんだっての。」
「モト・・・成仏してね。」
「は?」
 
それだけ言うとはまた、目の前の食事を口に運んだ。


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「ひ、日番谷君?霊圧が上がってるんだけど・・・?」
 
こわごわと言うに、日番谷は「別に。」と小さく返すと、の言葉の先を待った。
自分の頬に手を添えて、その時を思い出しているのか、無性にそんなの態度がむかついた。
 
「その時にちゃんが来てね、モト君の耳元で何か囁いたの。その後、モト君、すっごい青白い顔して、
一言もしゃべらなかったんだよね。」
 
へぇ。
さすがは
よくわかってんだな。
日番谷はふっと霊圧を下げると、の事を優しく見つめた。
 
「なんて言ったんだろう?」
 
すると日番谷は、スッと立ち上がるとの耳元に自分の口を近づけた。
吐息がかかるように囁くように呟いた。
 
は俺の女だ。手ぇ出すなら、氷輪丸のサビにする。」
「!!」
 
瞬時には、先程以上に顔を真っ赤にして日番谷の事を見た。
日番谷は、チュッ!との頬に口づけを落とすと満足そうに微笑んだ。
 
「きっとはそう言ったと思うぜ?」
「な、なんでわかるの?」
「俺がにそう言った事があるから。」
 
しれっ!と答える日番谷に、はただ呆然と見つめるしかなかった。
しかしその後の日番谷は、何故か冷や汗を流している。
 
「どうしたの?」
「いや・・・悪寒が。」
 
確かに、に告白した後にに言った。
なんとなく、に負けたくなかったから。
だが、そんな俺の言葉に対しては・・・
 
 
上等。ちゃんに無責任な行動起こしたら、裸にして護挺引きづり回して、修羅のサビにして上げるから♪
覚えといて。ちゃんは私にとって、一番大事な人だから。

 
にっこりと笑みを称えると俺との攻防戦はそれから毎日のように続いている。
無責任じゃなけりゃいいんだよな。
チラリとを見る日番谷。
もなんとなく日番谷と視線を合わせた。
日番谷はの腕を取り、自分の胸の内へと治めた。
小さなからだでも、しっかりとした男をしている日番谷に、は安心して目を閉じた。





この人だからこそ・・・私は・・・。






クスリと笑みを作ると、は日番谷の背中に手をまわした。
 
。」
 
愛おしく囁けば、二人の影が静かに重なっていった。
 
 
 
 
終わり。
 
 
 
 
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(( おまけ ))
 
翌日の零番隊隊舎。
 
日番谷「十番隊の日番谷だ。」
「あら、日番谷隊長。何かございましたか?」
日番谷「か、昨日は礼を言う。」
「(にや〜。)」
日番谷「な、なんだよ。」
ちゃんのニオイがプンプン!」
日番谷「(赤面)!!」
「ほう〜夏はこれからだってのに〜、お暑い事で。」
日番谷「うっせぇな。それよりも」
「モトなら、現世に行って(避難して)るわよ。」
日番谷「・・・なんでわかんだよ。」
「だって、に用事があれば一目散に隊長室に行くでしょ。」
日番谷「つーか、お前なんで隊長室にいないんだよ。」
「今は隊長はお休みだから。ついでに言うと、ちゃんもモトと一緒。」
日番谷「な!?」
「ま、困難は多い方がいいでしょ。がんばれ、青少年よ。」
日番谷「(呆)・・・お前、藤本の事、わかっていそうで、わかってねぇな。」
「は?何ソレ。」
日番谷「(あいつもとんでもねぇ奴に惚れたもんだな。)別に、邪魔したな。」
「うん、邪魔だった。」
日番谷「・・・。(怒)」
「何よ、自分で認めたんでしょ?」
日番谷「ったく、社交辞令だろうが。」
「(クス)いらないわよ、社交辞令なんて。」
日番谷「(フッ。)そうだな。」




終わり




後書き 〜 言い訳 〜
 
 
どうも〜。初・日番谷ドリはいかがでしたでしょうか?
オリジナルキャラ満載で、申し訳なかったのですが・・・内々の人ならばこの設定はわか
ってしまうモノでして・・・(苦笑)
さて、みなさんの日番谷君のイメージが壊れていない事をひたすらに祈るばかりです。
壊れてしまった方は、本当にごめんなさい。
次は戦闘シーンを入れたモノをとリクエストがございまいしたが・・・できたら書こうと
おもっている次第です。(あまり期待しないでください。)
では、こんな駄文に今までおつきあい下さって誠にありがとうございました。
また、いつかどこかでお会い出来ること楽しみにしております。
 
 
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
 

再掲載 2010.11.02
制作/吹 雪 冬 牙


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