『 大 切 な ・・・ 第 一 話 』
「・・・。」
地獄蝶の後を追いながらも、その遅さにイライラしているのは、十番隊隊長の日番谷冬獅郎。
それは数刻前
バタバタバタ・・・
聞き慣れない足音。
執務室で珍しく業務をしていた松本が扉の方へと視線を向けた。
「
失礼いたします!十番隊隊長日番谷隊長!並び松本副隊長!!」
その声が火急の知らせだと察知する。
松本がすぐに扉を開けると、そこには五番隊の隊士の姿。
素早く頭を下げると、最悪の事態を知らせた。
「
十番隊第三席・殿が、五番隊との共同戦線において、重傷!
すぐに援軍に来られたしとの事!!」
その信じられない言葉に、日番谷は咄嗟に頭に思い浮かんだ人物の名前を口にした。
「
雛森はどうしたッ!?」
「ひっ…雛森副隊長は、三席のおかげで軽傷です。」
「
ほう・・・そうか。」
ほっとしたように息を吐き出す日番谷。
松本は珍しく日番谷の事を睨んだ。
「隊長、雛森の事を心配するのも判りますが、まずはの心配ではないのですか?」
「あいつは別に、」
「不・老・不・死・や・か・ら・・・。」
フイに自分以外の声が聞こえて扉を方を見れば、そこには市丸の姿。
腕を組み、いつものような笑みを浮かべている。
ゆっくりとした動作でコチラを見つめると、執務室へ一歩入った。
市丸と言う存在一つで、執務室の空気が凍り付いた。
その居心地の悪さに、知らせに来た隊士は市丸と日番谷の顔を交互に見つめた。
先に口を開いたのは、市丸の方だった。
「知らせ、ご苦労サン。早う四番隊に行きぃ?」
「
はっ!失礼いたします!!」
市丸の言葉で、隊士は隊舎を出て行った。
市丸はそんな隊士がいなくなるのを確認してから、日番谷に背を向けた。
「十番隊長サン…不老不死のホンマの意味、知ってはりますか?」
「知ってたらなんだって言うんだ。」
「老いがなく、死ぬ事がない・・・せやったら、
怪我してもええって事ですか?」
市丸の言葉に日番谷は目を見開いた。
そんな言葉につまる日番谷をチラリと肩越しに見つめた市丸は、いつものニヤリとした笑みは浮かんでいなかった。
ほんの瞬間的に沈黙が訪れた。
市丸はいつも通りにニヤリと口角をあげて、前を向いた。
「随分と便利に思われとるんやねェ、姉は。」
「それはっ・・・」
日番谷は言葉に詰まった。
市丸の言ってる事は正しい。
雛森は死ぬかもしれないが、はその心配がない。
そう思ったのは事実。
「不老不死でも、痛みはあるんやで。姉はどれだけ苦しむんやろか・・・
十番隊長サン、考えた事あります?」
それだけ言うと市丸の気配はなくなってしまった。
おそらく瞬歩で移動したのだろう。
日番谷はその場に立ちつくしてしまった。
何も言い返せなかった。
「隊長、ともかく現世に。」
「ああ、分かってる。」
松本に言われるままに、日番谷は現世へと向かった。
その現状を見にいく為に。
だが、まさかそこにまだ重傷のがいるとは思っても見なかった。
現世の惨状は酷いものだった。
おびただしい程の血。
その中心にいるのは・・・
「
!!!」
日番谷が慌てて近寄ろうとするも四番隊の隊士達に阻まれた。
「申し訳ございませんが、日番谷隊長でもこれ以上は。」
「
どけ!は…はどうなってるんだ!!!」
ふと見ればの傍らには市丸の姿。
卯ノ花が必死の治療を続けている。
の手を握り、チラリと日番谷の事を視界に収めた市丸は
「
何にしに来たん?」
冷たく一言を投げかけた。
それに答えるように卯ノ花もチラリと日番谷の事を見た。
「日番谷隊長、雛森さんなら念のため四番隊に運んでます。」
違う・・・。
俺が知りたいのは・・・
だが、それ以降は誰もの事を教えてくれなかった。
市丸と卯ノ花、その間に隊士がいて、俺。
その境界線が酷く遠いように思えた。
「卯ノ花!俺はそんな事を聞きたいんじゃっ」
「花太郎、治療の邪魔です。日番谷隊長を雛森副隊長の病室までお見送りを。」
「は、はい!・・・日番谷隊長。」
これ以上は入ってくるな。
暗に言われたも同然だった。
俺は・・・
ギュっと拳を力を込めて握りしめた。
確かに、この場に自分がいても何の役には立たない。
その何も出来ない歯がゆさが
・・・悔しくて
悔しくて・・・。
市丸の奴がを抱きかかえて・・・本来、自分はあそこにいなければいけないと言うのに・・・。
俺は一体・・・。
「日番谷隊長。」
花太郎の声に我に返り、ふと松本を見上げた。
「隊長、ともかく雛森を」
「ああ。」
俺は舌打ちをして、に背を向けた。
つづく
後書き 〜 言い訳 〜
ここまで読んで下さり
心より深くお礼申し上げます。
これにこりず、次話も読んで頂けますと幸いです。
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
再掲載 2010.11.02
制作/吹 雪 冬 牙
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