『大 切 な・・・ 第 二 話 』

数ヶ月。




は四番隊から戻って来なかった。
昏睡状態が続いてると言う。
俺は静かにの病室の前へと立った。
フワリと市丸の霊圧が揺れる。
カラリ・・・と扉が開けば、管だらけのの姿がかいま見えた。

「何の用です?十番隊長サン。」
「・・・いや。」
「せや、良かったですなぁ。雛森ちゃんの怪我、かすり傷程度で。」

市丸の嫌みを含んだ声。
俺はジロリと市丸を睨み付けた。

「・・・何が言いてぇ。」
「別に。ただ…姉がこないになってる言うのに、よく普通に生活してられるな…思っただけですわ。」

雛森には、の状態を話していなかった。
それは卯ノ花にも止められたからだ。
以前から、が瀕死の状態で倒れると、長期現世滞在出張とされてきた。
それは総隊長からの厳命でもあった。

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一番隊隊舎内にある、隊首室。
そこに全ての隊の隊長が呼び出されていた。
総隊長が静かにの現状を知らせた。
その瞬間のざわつき。
息をのむ声。
俺はただ黙って俯く事しか出来なかった。

は、現世長期出張中とする。特に日番谷は、その事を部下に悟られぬように。」

総隊長の言葉で、全員が俺へと視線が注目された。
ふと視線を上げれば、ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべた市丸と視線が合った。
奥歯を噛みしめ、怒りを抑えるように小さく肯定を示した。

「はい・・・。」
「では、解散。」

全員の肩から力が抜けた瞬間、俺は一歩前へと進み出た。

「総隊長、お願いがあります。俺に、の看病をさせて下さい。」
「ならぬ。」
何故ですか!!
「おぬしが隊舎を空ければ、その分漏洩しかねん。いつも通りに市丸に任せる。」



なんだって!?




俺は目を見開いた。




言葉が続かない。


静かにだが、まとわりつくような霊圧が近づく。
俺の隣に立った市丸は、相変わらず袖に手を隠し、笑みを浮かべている。

「ほな、そうさせて貰いましょか。」

市丸が背を向けて扉へと歩いていく。
どこまで人を茅の外扱いすんだよ・・・!!
俺は顔を上げて、総隊長を睨み上げた。

納得がいきません!!

部屋に響いた声で、市丸の歩みも止まり、チラリと肩越しでコチラを伺っているのが判る。

だが、これだけは譲れねぇ。

「おぬしが納得しようがしまいが、これは総隊長であるワシの決定だ。」
なっ!?は俺の部下です!!部下の面倒を見るのは、隊長としての勤めです!
「おぬしの部下の前に、零番隊の隊長である。」

俺がさらに食ってかかろうとした時だった。
ポンと優しく肩に手を置かれた。
その腕を辿れば、藍染の奴だった。

「日番谷君、君は知らないだろうが、今までもそうだったんだ。市丸に任せた方が良い。」
だが!
「雛森君の事を思うなら、尚更だと思うよ。」






また、雛森・・・。




俺は振り返って全員の顔を見た。
誰もが同じような顔を向けてる。
別に俺は雛森がどうとか、そんな事を話してるんじゃねぇのに。
だが、空気はそうはなっていなかった。

「雛森君が随分と責任を感じてしまってね。君までいなくなれば、聡い雛森君なら…。」

そこまで言われて判った。
俺に踏み込むなと。
そう全員に言われてる事に。

「離せ、藍染。」
「判ってない顔しとるなぁ、十番隊長サン。」
「確かに。判ってもらえてないようだね。」
「・・・なんだと?」

藍染のメガネが一瞬だけキラリと反射して光った。
俺は藍染と市丸を交互に見つめた。

「日番谷君、君には悪いが、ハッキリ言わさせてもらうよ。君がソレを望んでいないのだよ。
!!


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「はぁ。」

隊首会のやり取りを思い出し、そっとため息をついた。
俺は自分の部下だと主張して、看病を名乗り出たが・・・総隊長からの厳命で、その役は外されてしまった。
何度抗議に行っても、周りの者に取り押さえられるのがオチだった。



なんで俺からを遠ざける?



は俺の大事な部下だ。



たとえ、本来は零番隊の隊長だったとしても・・・。





表は俺の部下だと言うのに・・・。






がこうなる度にいつも市丸が側にいたらしい。
吉良がこの事を知っていれば、探し回らずに済むのだが、が瀞霊廷にいる事自体が極秘になる。
その為、市丸は霊圧を消してまでもの側についていたと言う。

「雛森は、の状態を知らないんだ、当たり前だ。」
「あーそうですなぁ。大丈夫なんと違いますか?何せは「不・老・不・死」・・・なんやから。
死ぬ事はありませんわ。魂魄がないから霊圧がなくなる事もありませんしなぁ。十番隊長サンの思ってる通りや。」

何も言えなかった。
日番谷はそのままの足で卯ノ花の部屋へと赴いた。


ですか?」
「ああ。不老不死ってなんなんだ。」
「…一言で言えば、老いも死もない。でも痛みはあります。死を望む程の痛みでも、は死ぬ事が出来ない。
ただ、壮絶な痛みと気絶を繰り返して、回復に向かうまで時間が過ぎるのを耐えて待つしかないんです。
私たちには、何も出来ません。ただ、その悲鳴を和らげ、舌を噛まないようにさせる事しか…方法はないんです。」
「痛みを和らげる事は出来ないのか?」




にとって薬の類は毒になります。痛みを止める薬も、彼女には効きません。」

知らなかった。
に薬が効かないなんて。
そんな話、聞いた事がなかった。

「薬は量が多ければ毒になります。不老不死のの体にとっては、死なない為に驚異的な快復力を持ちます。
人にとって少々の薬でも、とっては劇薬と同じになります。」
「じゃ、あの管は・・・。」
「栄養と呼吸そして排泄物の為の管です。薬は一切使用してません。」

薬が劇薬になる。
その言葉を聞いて、俺はふと頭に浮かんだ。



まさか・・・




まさかっ!薬が効かねぇって事は・・・。
むろん、麻酔も効きません。

キッパリと言い放つ卯ノ花。
その声がどれほど頭に響いたか。
俺は目を見開いた。
それがどれだけ痛い処置だろう。
は、今までもこうやって一人で戦って来たのだろうか?
気が遠くなる時間を。
ぐっと拳に力を込めた。


クソッ!!


日番谷は卯ノ花から視線を外し、膝の上でキュっと握りしめている己の手を見つめた。

「市丸の野郎はいつも?」
「はい。生死を彷徨う怪我をされた時、片時もの側を離れません。それがとしても道しるべになってるようですが。」
「・・・そうか。」

日番谷が立ち上がると、卯ノ花は気の毒そうに、日番谷の事を見つめた。

「日番谷隊長。」

呼び止められて、振り向くと卯ノ花は背を向けていた。

が回復するまでは、こちらには来られない方が。」
「・・・わかった。」

パタン・・・と閉まる音がやけに大きく聞こえた。
霊圧が去るのを確認すると、卯ノ花は大きく息を吐きだした。

「まったく…のわがままにも困ったものですね。」

ふと見上げた空。
白い雲がふわりと浮かぶ。

もし、私が瀕死の状態になったら、冬獅郎は近づけないで。あんな姿見せられない。

ああああああ!!!!!

の絶叫が木霊した。
卯ノ花は、急いでの眠る病室へと向かった。
痛みで涙を流し、暴れ回る
市丸が必死にそのの体を押さえつけて、抱きしめていた。

姉!大丈夫や、ボクがおるから!
姉、痛いな。
痛いケド頑張るんや、頑張るんや!!


「市丸隊長。」

卯ノ花サン、頼みます!!
早う、姉を楽にしてあげてぇな。


「判りました。そのまま抱えていてください。」

市丸はギュ!っとの事をかき抱いた。
まるで、が消えてしまわないように、キツク抱きしめた。
も市丸にしがみつくようにぎゅっと握る。
余りの力で市丸の手に傷を付ける程に。


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「ん?」

書類を見ていた日番谷はふと顔を上げた。
市丸の霊圧。
日番谷は黙って入って来るのを待った。
だが、市丸は一向に入ろうとしない。

「何の用だ、市丸。」

日番谷が声をかければ、市丸は扉を開けずに話し出した。

姉、痛みの峠は越えましたわ。明日には目ぇ覚ましますわ。」
「何故、それを俺に言う。」
「…別に。ボクは姉が一番欲しいモノをあげるだけや。」

それだけ言うと市丸の霊圧は去って行った。


つづく



後書き 〜 言い訳 〜
 
 
ここまで読んで下さり
心より深くお礼申し上げます。
 
 
これにこりず、次話も読んで頂けますと幸いです。
 
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
 

再掲載 2010.11.02
制作/吹 雪 冬 牙


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