『 遙 か な る 蒼 天 〜 過 去 編 〜 序 章』
「 を処刑に処す。」
まだ幼い子供が、処刑台へと送られた。
理由は明快。
幼いながらにして力を持ち過ぎている為。
斬魂刀最強と言われる『 修 羅 』の持ち主が出た場合、『 旅 過 』と同じく早々に処するべしとは霊王が定めた、法。
そして、小さな少女は三本の斬魂刀の持ち主。
一人で三振りの斬魂刀を持つ者が現れるのは、瀞霊廷で初めての事。
しかも、その一本は『 修 羅 』である。
白装束に着替えさせられ、そのまま双極の丘へと連れて行かれた。
双極が解放され、護挺十三隊と中央四十六室…そして零番隊の目の前で少女は燬コウ王に貫かれるハズだった。
だが・・・。
「なんじゃと・・・!?」
山本総隊長の目の前で起こったのは、燬コウ王が落下していく。
少女の目の前には、三人の斬魂刀が各々の力で具現化して、少女を護るように立っていた。
その中で、美しく白い異国風の衣装を着ている長身の男が、冷たい視線で総隊長を貫いた。
『この娘、殺す事まかりならん。』
誰の耳にもよく通る声。
威厳と尊厳。
「だめ!!修羅!火輪ちゃん!氷ちゃん!!逃げて!!!」
幼い少女が声を張り上げる。
だが三人は少女の前から去ろうとはしなかった。
再び燬コウ王が少女の胸を貫こうとした時だった。
少女の前に立ちはだかり、その刃を受けたのは・・・氷の龍。
『させぬ!!』
「氷ちゃん!!!!!」
少女の絶叫。
氷輪丸は、燬鷇王の勢いを止める事が出来ず、クルリと少女の方へと向くと、彼女に覆い被さるように強く抱きしめた。
「氷ちゃん!!!どいて!!!死んじゃう!!!!」
ニコ・・・。
「!!」
ほんの刹那な時間。
氷輪丸は笑みを零した。
それはまるで、大丈夫だ…と言ってるような。
そんな安心する、この場では違う暖かな笑みだった。
少女が言葉を口にしようとした、その瞬間。
グサッ・・・!!
「かはっ・・・!!!」
燬コウ王と共に、少女の魂魄へと貫かれた。
それが原因となり、少女の莫大な霊圧が解放されると同時に、残りの二つの斬魂刀の膨大
な力も解放され、双極の丘は壊滅状態となった。
残ったのは、力を遣い果たし気絶している少女。
魂魄のあった場所は、虚のようにぽっかりと穴が開き、少女の後ろの景色が見えていた。
そして・・・
『氷輪丸・・・。』
紅蓮の龍が呟くその先には、二つに折れた刀が一つ。
通常折れた斬魂刀は、二度と元に戻る事はない。
だが、氷輪丸からは少女の霊圧が溢れていた。
それは、彼の終わりを示してる訳ではない。
それと同時に、この少女にも終わりは訪れてない。
修羅は氷輪丸を手に取り、握りしめた。
氷輪丸が燬コウ王を止めるのを諦め、少女へ向いた理由。
彼が少女の魂魄を大事そうに抱えて自らの世界へと持って行ってしまった。
確かに、一番安全な方法ではある・・・。
だが、それは例外中の例外。
氷輪丸がどうなるかも、少女がどうなるかもわからない。
能力の高い少女と少女の運・・・そして氷輪丸の運にかけるしかない。
修羅は、かすかに微笑むと氷輪丸から少女へと視線を向けた。
『氷輪丸…お前が羨ましいよ。』
修羅は静かに呟くと、少女を抱き上げた。
おそらくは、氷輪丸だからこそ出来た事。
氷輪丸でなくては出来なかった事。
なら、斬魂刀最高位の修羅である自分は・・・。
何かを決心するように、修羅は護挺十三隊の隊長達の前を通り過ぎようとした。
「待て。」
山本総隊長の声に、修羅は足を止めた。
だが振り返る事はない。
「をこちらに渡しなさい。処刑は、無事終わった。はすでに死んだ。これからは新たな死神として、この瀞霊廷で暮らす。」
『何を勝手な!!』
激高する火輪丸を、視線だけで黙らせる修羅。
火輪丸は悔しそうに、唇を噛みしめて修羅から視線を逸らした。
しばらく沈黙が広がった。
修羅は黙しながらも怒りを露わにして、山本の事を睨み付けていた。
そんな雰囲気を崩したのは、一人の穏やかな女性の声だった。
「ならば、私がの後見人になりましょう。」
人垣を避けて現れた一人の女性。
隊長の証である白い羽織。
背中の文字は『 十 』と書かれている。
「修羅、彼女は私が責任を持って面倒みます。」
何かを見定めるかのように、修羅は黙って十番隊の隊長を見つめた。
やがて、何かを吹っ切れたように修羅は少女の前髪を整えた。
それは優しい眼差しで少女を見つめると、修羅は少女の額に一つの口づけを落とした。
そして先程までの表情とは一転して、十番隊隊長の事を何の感情も点らないかのような
視線で射抜いた。
『・・・了解した。』
修羅は素直に彼女に少女を委ねると、火輪丸と同時に斬魂刀へと姿を戻した。
それは今から数百年も昔の話である。
後書き 〜 言い訳 〜
ここまで読んで下さり
心より深くお礼申し上げます。
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
掲載 2011.02.05
制作/吹 雪 冬 牙
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