遙 か な る 蒼 天 〜 過 去 編 〜 第 一 章 出 会 い・ギ ン 編




「隊長羽織を無くしたとはどう言う事ですか!?」


護挺十三隊、一番隊隊舎のさらに奥深く。
ひっそりと存在するのは、零番隊の隊舎。
その隊舎の最上階に位置する隊長執務室から、怒声が鳴り響いた。
しかも、隊長の声ではない。
副隊長である、藤森 優の声だ。
隊長席に座って、藤森の呆れも含まれる怒声に、は耳を自分の手で塞いだ。
聞く気がない。
そんな態度に藤森はさらに眉間の皺を深くした。
ダンっ!と強く拳で机を叩いた。

「どこに置いて来たかも覚えてらっしゃらないんですか!?」
「・・・。」
「どうするおつもりですか!?」

立て続けに質問されても困る。
隊長羽織は、ギンと乱菊に渡してきた。
少しでも寒さを凌ぐようにと。
そして・・・

「何を考えていたら、あなたの最強斬魂刀である「修羅」をなくせるんですか。」

何かあった時の為にと、修羅を置いて来たのだ。
すぐに自分に知らせるようにと。
それともう一つ。

ギン達を真央霊術院まで連れてくるように。

その間に必要な知識も与える事。
それが、から離れた斬魂刀修羅の仕事だった。
常に修羅を始解してる状態で、は常に霊力を削り取られている。
だが。
それも実力のある死神になろう芽を護るため。
何度もそうやって、護挺十三隊に死神を連れて来た。
それが零番隊の仕事の一つでもあるが故だが。
は藤森の説教が聞き飽きたかのように、プイと視線を逸らした。

「隊長羽織がなくても、隊長に代わりない。」
「それはそうですが、周りの威厳にも関わります。」

威厳ねぇ・・・。
そんなもの、最初からないしねぇ・・・。
何百年たっても変わらない身長。
体型。
まるで自分の中で時間が止まったかのような、感覚。
それが自分が「不老不死」である故・・・特殊なのかもしれないが。
ふと見慣れた霊圧を感じて、は扉へと視線を向けた。

、いますか?四番隊の卯ノ花です。」
「どうぞ。」

はクルリと窓の方へと体を向けた。
静かに入ってきたのは、四番隊隊長の卯ノ花 烈だ。
はチラリと視線を流した。

「何か用?」

の冷たい視線にもかかわらず、烈はニッコリとした笑みを浮かべたまま。
沈黙が流れた。
卯ノ花としては、話す相手に体を向けないに対しての失礼さを無言で。
は邪魔者と卯ノ花の話を聞く態勢でない事を無言で強調する。
数分の沈黙の中、卯ノ花のため息が聞こえた。
そしての正面に回るように、自分が移動した。

「山本総隊長から、こちらを渡されました。」

手に持つ包み紙をへと見せる。
中には、新しい隊長羽織。

「どんな戦いをしたら、ボロボロになるのか教えて欲しいとおしゃってましたよ。」
「うるさいなー。別にいいじゃん、どうだって。」

は立ち上がって、新しい隊長羽織に手を通した。
スッ…とまるで清めるように襟元を正すと、先程の表情とは変わった。
隊長としての表情になった。

「丁度良い、四番隊隊長。あんたの管轄であった出来事。」

太い束の書類。
机の引き出しから出された、その書類を卯ノ花が手に取ろうとした瞬間。
その上からが手をバンッ!と置いた。

「四番隊隊長に聞く。管轄は何の為にある?」
「それはどう言う意味でしょうか?隊長。」
「四番隊は、死神の怪我だけ治してれば、それで良いのかって聞いてんの。」

卯ノ花とがしばらく黙って睨み合いが続いていた。
互いに霊圧を上げていくのを脇で見ていた藤森は、呆れたようにため息を零した。
この二人。
何かと言うと険悪な仲・・・と言うか、一方的にの方が敵意を持っているのだが…。
これでふたりは親友だと言うのだから、驚きの話しだ。
と卯ノ花の二人から聞いた話だから、本当に違いない。
女の親友概念ってよく理解出来ないと、いつも藤森は思いながらも、二人を見つめていた。

「あんたの管轄地域、親無しの子供が溢れ返ってる。それの意味は?」
「・・・わかりました。流魂街の治安部の方々に、厳重に注意しておきます。」
「その死神に言っておいて。次は、ないって。」

卯ノ花は、黙っての顔を見つめた。
から表情を読み取る事は出来ない。
が「ない」と言う事は、制裁が下ること。
それは、すなわち「死」。
にだけ…というよりも、零番隊隊長にだけ許される、死神を自由にその場の判断で制裁出来る権限。
つまり、は死神じたいの監視役でもある。

、すぐにそうやって人を殺めるのは、どうかと思います。」
「死神なんて毎年、吐いて捨てる程いるんだ。幹部以外は、捨て駒…どんなきれい事を並べてもそれが現実。
死にたくなければ席次に入るしかない。私は、そう教わったよ?山本総隊長自ら。」
・・・。」

の過去を知る、数少ない人物である卯ノ花。
そして、の体の秘密を知ってる数少ない人物。
卯ノ花は、小さくため息をついて、窓辺に近づいた。
外には、これから冬が到来する事を告げるかのような、葉吹雪。
しばらくそれを見つめていた卯ノ花が、ゆっくりとの方へと視線を向けた。

、人の命は軽いものではないのですよ?」
「・・・分かってる。」

先程までの殺伐とした雰囲気が、一掃された。
息苦しかった霊圧も、突然に抑えられた。
藤森は一安心するように、静かに息を吐き出した。

「人の命は、尊い。でも・・・。」

の声のトーンが一つ下がった。

「死神の命は、軽い。」
「それは違います。死神だって、同じなんですよ。」

は席を立ち上がり、脇に立てかけてあった紅色の斬魂刀を手に持った。
そのまま入り口へと向かった。
卯ノ花の言葉を最後まで聞くと、は肩越しに卯ノ花の事を見た。
トントンと自分のこめかみを人差し指で叩いた。

「烈、誰の考えが合ってるかなんて、誰にも分からないんだよ。
私のココも。
烈のココも。
総隊長のココも。
誰にも分からないんだよ。」
「人は過ちを犯して、それを糧に成長出来るものです。」

過ちを犯して。
その言葉にはクッと口もとを歪めた。

!」

卯ノ花が呼び止めるも、は何も言わずにその場から姿を消した。
ゆっくりとの霊圧が零番隊の隊舎から遠のいて行く。
卯ノ花は辛そうに、書類の束を見つめた。

・・・それでも、貴方は間違ってます。」

まるでの残像にでも語りかけるように。
藤森は、辛そうな卯ノ花の横顔と、今はもういないが出て行った入り口を見つめた。

「藤森副隊長、よろしいのですか?」

突然の質問に、藤森は面食らったように卯ノ花の事を見つめた。
卯ノ花は書類を抱え込むと、藤森の脇へと立った。

「隊長と一緒にいなくて。」
「ああ、ウチはいいんです。」

キッパリと言い張る藤森に、卯ノ花は疑問符を浮かべた。
藤森は仕方ないと言うように、頭はポリポリと数回掻くと、苦笑した。

「『上官二人が同じ所にいたら、一つの事しか見れない。』これが、ウチの隊長の考え方なんです。
だから、霊圧が呼ばれなければ、俺は俺の自由にしています。」

隊長と副隊長は常に対として共にあること。
それが死神としての鉄則。
だが、はそれを違うと言うのだろう。
いくら護艇十三隊の法が有効しないとは言っても、これでは他の隊から非難を浴びても仕方ない事だろう。
だが、藤森はまるで誇らしいかのように、堂々としていた。

「俺は、隊長の考えが好きですよ、合ってるかは分からないけど。色々な事を視野に入れないといけない
隊長なりの責任感の表れだと、これが『零番隊』だと、俺は思ってます。」
「二人が同じ所にいたら、一つの事しか見れない・・・。」

卯ノ花は、その言葉をゆっくりと呟いた。



第一章  完



後書き 〜 言い訳 〜
 
 
ここまで読んで下さり
心より深くお礼申し上げます。
 
 

 
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
 

掲載 2011.02.16
制作/吹 雪 冬 牙


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