『 遙 か な る 蒼 天 〜 過 去 編 〜 第 一 章 出 会 い・ギ ン 編 』
3
「兄さん、誰ですか?」
ゴン!
突然、頭上に拳が振り落とされた。
あまりの痛さに、頭を抱えて涙目に成りながら、目の前の死神を睨んだ。
「何やの!?」
「坊主が間違えたから。」
「坊主って何や!ボクにはギンって名前がある!!」
ギン。
ふーん・・・は品定めをするようにギンの事を眺めた。
先程までの傷はすでにの処置のおかげで治っていた。
子供達がいつも隠れ家にしていたと言う、川沿いへとギンと共にやってきた。
その惨状は酷いものだった。
虚の食べ残しが、散乱している。
ギンはさらに川上へと移動して、乱菊を平らな岩の上に体を寝かせた。
その上には自分の白い羽織をかけた。
「おおきに。」
ニッコリと笑みを向ける、ギン。
そして、ギンの最初の台詞へと続く。
「わ・た・しの名前は、 。」
「私…?もしかして…お姉さんですか?」
「もしかしなくてもな。」
は懐から布を出し、川の水に浸すと少し緩めにしぼり、ギンと乱菊の前へと座った。
ちょいちょい。
ギンを指で手招くと、ギンは不思議そうに顔だけを前へとだした。
その瞬間。
は少し乱暴にギンの顔の血や泥を脱ぎ始めた。
「い、痛い!痛いやないの!!」
「うるさいなぁ。じゃー自分でやりなよ。」
ぽいと布をギンに手渡す。
ギンは仕方なさそうに、布で顔を拭き始めた。
もしも・・・この死神が来ていなかったら・・・。
自分達が辿るであろう結末。
ギンは急に背中に悪寒が走った。
ポンとギンの頭に手が乗る。
ギンはの顔を見つめた。
「ギンも乱菊もお腹すくよね?」
「?せやけど・・・?」
そんなの当たり前やろ。
言葉を出そうとした時だった。
はニッコリと笑みを作り、乱菊の事を見つめた。
「この子は妹?」
「ちゃう。仲間の子や。」
仲間か。
ギンの頭から手を離すと、は乱菊へと近づいた。
乱菊に手をかざす。
何か淡い光のようなモノが、一瞬だけ乱菊の体を包み込んだ。
「これで良いかな。」
何か独り言を言うに、ギンは近づいた。
「、何して・・・」
ゴン!
二発目。
「なんですの!?」
「お・ね・ぇ・さ・ん。お姉さん。」
ぐいと胸ぐらを捕まれ、の顔は笑っているが・・・明らかに怒っている。
そして無言の圧力。
言ってみろ・・・と。
「・・・姉。」
「上出来。で、何?」
ぱっと手を離すと、はギンと視線を合わせるように膝をついた。
「乱菊に何したん?」
「ああ、これ以上虚に襲われないように、霊圧を封印しただけ。」
そう言うと乱菊の襟元を少しだけ開けると、胸より少し上の位置に花の模様が描かれていた。
先程まで少し辛そうな乱菊の呼吸が、次第に楽になるように静かになった。
「で、今まで乱菊ちゃんが呼吸困難だったのは、あんたの所為。」
「ボクの?」
「そう。」
は乱菊にしたのと同じように、ギンの額へと手をかざした。
一瞬だけ体全体が暖かくなる。
瞬時に目を閉じてしまった。
「はい、終わり。」
の満足そうな笑みで、ギンは自分の右胸を見た。
そこには乱菊と同じ花の模様が刻印されていた。
「入れ墨なんて、ボク初めてや。」
「入れ墨じゃなくて、限定印。霊圧を封印する刻印。ギンの霊圧は乱菊ちゃんにとっては、強すぎる。このまま何もしなければ、乱菊ちゃんはあんたの霊圧で死んでたよ。」
簡単に『死』と言う言葉を口にする。
ギンはジ…っと、その刻印を見つめていた。
ボクが乱菊を殺してしまう・・・。
心で呟いた。
だが、の耳には届いたらしく、は突然ギンの事を抱きしめた。
「!?」
「一人で乱菊ちゃんを護るのは、大変だったでしょ。もう、大丈夫。」
ギンは目を見開いた。
から良い香りがする。
静かにの背に手を回すと、ギンの目からそっと涙が零れ落ちた。
ほんの少しだけの涙だったが・・・
それでも、はギンの背中をリズムよく一定に叩いていた。
それは母親が子供にするかのように。
後書き 〜 言い訳 〜
ここまで読んで下さり
心より深くお礼申し上げます。
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
掲載 2011.02.16
制作/吹 雪 冬 牙
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