『 〜 きっとこんな日常も 〜 1 』
ここは真選組が寝泊まりする屯所。
男ばかりだと思われている真選組にも女隊士は存在する。
肩まで伸ばし、愛くるしい大きな瞳を持つ隊士。
どうみても剣を振るって、血なまぐさい道を歩いている者とは考えにくい。
まだ少女のあどけなさが残る彼女の名前は「源 」。
数百年前に、一度は天下を手に入れたあの源氏一族の末裔に当たる。
秘伝の剣流を身につけた、凄腕の剣士だ。
だが、それ以外彼女の素性を知るものはいない。
彼女の中に大いなる秘密を隠している事も、おそらくは隊士誰一人として気づいていないだろう。
まだ、日も完全に登り切っていない時間。
は、バッチリと目が覚めてしまった。
何度か二度寝をしようと試みたが、それも叶わず、目がどんどん冴えていくばかりである。
昨日は久しぶりに人を切った。
向かってきた敵は、なるべく殺さないようにしていた。
峰打ちを心がけていたのだが・・・。
副長に斬りかかったのをみて、一気に頭に血が上り気がついたら。斬り殺していた。
「はぁ・・・。」
重いため息と共に、は寝床から起きあがった。
今でも手に残る人を切った瞬間の、重み。
そして返り血。
誰も起きていないのだろう。
シーンと静まり返った部屋を見つめた。
この部屋は局長が特別にの為に作ってくれた部屋だ。
いや、だけではない。
隊長クラスはみんな個人部屋を持っている。
だが、は女隊士と言うコトもあって、お人好しの局長が気を利かせてくれたのだ。
この隊にはもう一人女隊士がいる。
黒く長い髪をつねに一つに結い上げている先輩女隊士。
その剣の腕は、あの一番隊沖田隊長と同じ・・・ヘタをするとそれ以上と言われる人だ。
が入ってきた時にはすでに、この隊士としていた。
ずっと沖田隊長の副長を務めている。
優しく厳しい先輩でもあるが、今となってはの親友でもあった。
先輩女隊士の名前は「桐生 」
年齢は不詳だが、と同じくらいの年頃だ。
は近藤局長と土方副長に心惹かれて入隊したが、は違った。
土方の話だと、ある日沖田が拾ってきたらしい・・・のだが。
今のの目標は、沖田を亡き者にして自分が一番隊隊長に就任する事だった。
その為、常に沖田の命を狙っており、一触即発のムードではいつもそれにオロオロす
るばかりだった。
だが、いつも土方副長の仲裁の元、その雰囲気は一掃される。
と言っても、沖田の標的がから土方に変わるから・・・なのだが。
「少し体でも動かそうかな。」
小さくつぶやくと、は素早く服を着替えて、枕元においてある愛刀を手に取った。
静かに襖を開けると、廊下を隔てた正面の堅く閉ざされた襖を見つめる。
この先には副長がいる。
自分の直属の上司だ。
聞き耳をたてると今だ寝息が聞こえてくる。
安堵したように息をついた。
土方は、元来の習性からか、はたまた戦の癖なのか・・ちょっとの物音で目覚めてしまう。
まさか自分が寝れないから・・・そんな理由で土方を起こしたくなかった。
昨日の戦いで、事後処理をしていた土方のことだ。
寝たのはほんの数分前くらいかもしれない。
は足音を立てないように気配を消して、玄関へと向かった。
自分の草履を見つけて、潜り戸を抜けるとは安堵のため息をついた。
やはりまだ朝は冷え込む。
東の空がうっすらと桃色に染まっている事に目を細めると、今日も日本晴れになることが
予想出来た。
思いっきり伸びをすると、はそのまま裏庭へと歩いて行った。
建物の角を曲がろうとした瞬間、の体が嫌な気配を敏感に感じ取ってしまった。
(殺気だ・・・ものすごい・・・刺客!?)
気配を消し、そっと角から顔だけのぞかせた。
「!?」
は目を見開いた。
確かに殺気は当たっていた。
だが、そこにいた二人の姿に驚いてしまったのだ。
互いに睨み合い、剣を構えている沖田隊長と。
殺気と言う言葉だけでは片づけられないような、真剣な表情。
互いの間合いを取り、隙を伺い、睨み合っている。
ちょっとした隙を見つければ、確実にどちらかが斬りつけるだろう。
は息をのんだ。
まさか・・・決闘!?
嫌な汗が流れた。
組のルールの中に同士討ちは御法度だ。
どちらかが勝ったとしても、両方とも死ぬ事になる。
それにしてもなんで・・・まさか、昨日の朝の事まだ気にして!?
は、ぼんやりと朝の事を思い出した。
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