『 〜 きっとこんな日常も 〜 2』
「起きろってのが、わからんのかー!沖田ぁぁぁぁぁ!!」
ガシャーーーーン
いつものようにの怒鳴り声とガラスの割れる音。
今日も朝が来たなぁ・・・と朝食を食べながら思う隊士一同。
これは、あまりにも沖田が起きない所から発端する。
最初は驚いていただが、今では慣れてしまったかのように目の前に座る土方に苦笑した。
「ったく、あいつの寝起きは魔王級だな。」
「そんなに酷いの?」
ジロリと土方はの事を見た。
知らぬが仏とはこのことだ。
土方は密かに心に思った。
「このバカ隊長おおおおおおおおお!!!!!」
ドガッ!!
の最後の怒声だ。
これで沖田は起きたはずである。
土方の目は恐怖を体験した・・・と言わんばかりの呆れたような、怒っているような複雑
な視線を送った。
は一度も沖田の寝顔を拝見した事がない。
たまに縁側で寝ていても、土方曰く「ふざけたアイマスク」をつけて絶対に人にその寝顔
を見せる事はない。
それに、そう言う時は沖田も起こされればすぐに起きる。
が不思議そうに音のする方に視線を向けると、土方が大きなため息を一つついた。
「まだが起こした方が、あいつも目が覚める率が高い。」
「へ?」
それに同意するように土方の隣に座っていた局長もニコニコと満面の笑みを浮かべながら
の方を向いた。
「そうそう。俺の時は1時間くらいだったし、トシは突然バズーカをぶっ放されたもんなぁ。」
「ば・・・バズーカーって・・・。」
はふといつも沖田が何かにつけて土方にバズーカーやら、真剣やらを向けている事を
思い出した。
そこまでして・・・土方さんの事・・・?
は心配そうに土方の事を見た。
そんな表情に気がついた局長は、の頭に優しく手を置いた。
「トシは死なねぇーよ。例え、総悟のバズーカーが直撃してもな。」
「いや、死ぬだろう。普通。」
「おまえなら大丈夫だ。根性で乗り切れ。」
「・・・はぁ。ともかくが起こせば10分くらいで目が覚める。」
チラリとの事を上目使いで見ると、そのまま土方は黙って朝食に口をつけた。
ってことは・・・
沖田さんってさんの事、信頼してるのかなぁ?
ふと頭によぎった。
でも、いつも沖田との喧嘩してる姿しか思い出せなかった。
みんなも犬猿の仲だと、恐れて巻き添えにならないように遠巻きに見物するだけだった。
土方に、は一度聞いた事があった。
何故、犬猿の仲なのに同じ隊で、しかも隊長と副長の関係なのかと。
その時、土方はふっと口元をあげると優しい視線で、喧嘩してる二人を見つめて言った。
「総悟には。には総悟しか扱えないって事だな。」
?
の頭は疑問符だらけだった。
はいつも「絶対に沖田の命(タマ)とってやる!」と息巻いてるし、沖田も沖田で
「に命取られるようじゃ、生きてる価値ないですねイ。」と言ってる始末。
あんなに優しいさんを扱えるのが、沖田さんだけと言うのも納得いかなかった。
物思いにふけっていると、バン!と一際大きな音を立てて襖が開かれた。
全員がまたか・・・と言うように一斉に大きなため息をついた。
「もう少し、優しく起こす事は出来ないもんですかねィ。」
「あんたが優しく起こして起きるような物か!?」
「・・・何げに今、物扱いしやしたね?」
「さぁー?」
ギャーギャーわめきながら、はの隣に、沖田は土方の隣の席についた。
そんな二人に頭を押さえる土方。
心なしかふるえている。
「おまえら・・・朝食ぐらい静かに食わせろ。」
「そんなに静かにしたいなら、今すぐ送ってさしあげますぜイ?」
言うが早いがどこから持ち出したのか、沖田は土方の横顔にバズーカーを構えた。
「沖田さん!」
驚いて叫ぶと同時に、は沖田の横顔に剣を突きつけていた。
「何のマネですかねイ。」
「その引き金引いて、億に一、土方が死んだら・・・」
「億に一ってなんだよ。確実に死ぬだろ!
なんなんだよそろってお前ら、俺の事なんだと思っていやがる!」
ス・・・っと、の目が細められた。
確実には沖田の首をはねる。
隣にいたが直感した。
それほどまでに憎悪を感じさせる、の沖田への視線。
「そんな事したら一番隊が壊滅でさァ。」
その言葉を聞いて、はニッコリと微笑んだ。
微笑みは聖母のよう、だが目は・・・阿修羅のようだった。
その表情にと土方は同時に冷や汗が流れ落ちる。
「安心して。後は私が引き継ぐから。」
確実に語尾にハートマークが付いているの言葉に、沖田も負けずと笑顔を作った。
笑顔と言うより、ニヤリ・・・と挑発しているような顔。
これは・・・。
「に命取られるようじゃ、生きてる価値ないですねイ。」
「ぷっちん。」
言った。
と土方は周りの朝食を、両手に持って立ち上がった。
それを見計らったかのように、は剣を横になぎ払った。
「なら、さっさと死ね!」
沖田もわかっているかのように軽く剣をよけて、目の前にあった机を蹴り上げた。
「嫌ですねィ!」
おいしく卵焼きを食べようとしていた局長はご飯と共に外へと投げ飛ばされた。
哀れ・・・。
毎朝の光景でうんざりしているのか、土方は深いため息をついて隣の机へと移動した。
もどうしていいのか分からず、とりあえずと沖田の事を口で止めるが二人の世界
に入ってる為、外部の声はシャットアウトされている。
「、こっちに来い。」
土方はちらりとを見ると自分の隣を指した。
が剣をなぎ払い、沖田がそれをおちょくるように交わしていく脇をすり抜けて、
は土方の隣に座った。
「ったく、あのバカども。てんでガキだな。」
「だ・・・大丈夫かな?」
「ほっとけ。どうせまた仲直りして終わりだろ。」
下らんとつぶやいて、土方は朝食の続きを再開した。
「あんたなんか、本当に大嫌いよ!」
「へぇ、たまには意見も合いますねィ。」
「あんたと意見が合うなんて、じんましんが出る程嫌だけど、今回だけは良かったわ!
同意見で!・・・てな訳で、そろそろこの馬鹿げた見せ物もおしまいにしない?」
が剣を振り回すのを止めて、沖田の事を見つめる。
それはいつもとは明らかに違っていた。
沖田も黙っての事を見つめていた。
これもいつもと違う。
人を小馬鹿にしたような、余裕な笑みが存在しなかった。
仕事の時にしか見ない、あの冷酷は瞳。
誰もが息をのんで二人を見守っていた。
「そうですねィ。俺もそろそろ飽きてきましたし。」
その瞬間、沖田が腰の剣に手をかけた。
ピンと張りつめた空気が、一気にできあがった。
は土方の袖を引っ張った。
「土方さん・・・。」
土方は不安そうなの視線を受けて、今まで無視で決め込んだ二人を横目で見た。
が沖田を射殺すように見るのはいつものことだが・・・
沖田までもがを同じような視線で見るのは初めてだった。
さすがの土方もまずいと思ったのか、目の前にあった皿を手に取った。
と沖田が違いに、前に一歩踏み出した瞬間。
土方の持っていた皿が、二人の間を通り抜けて行った。
瞬時に土方を見る二人。
相変わらず土方は二人に背中をむけたまま、黙々と朝食をとっていた。
は沖田達と土方を交互に見つめた。
「何よヒジ。」
「お前、その呼び方やめろ。トシだ。」
「肘肩なんだから肘でいいでしょ?それとも肩がいい?」
「・・・土方だ(怒)」
土方は怒りを補出するように、深く息を吐き出すとではなく沖田の方に鋭い視線を投
げつけた。
「同士討ちは御法度だ。やるなら、互いに死を覚悟してやれ。それとそんな場面俺たちは
見たくねぇ。やるなら、俺たちが寝てる時かいねぇー場所でやれ。それとも、にそん
な場面を見せるつもりか?」
その言葉には、ふとの事を見つめて剣を鞘に収めた。
沖田はそれでも黙っての事を見つめていた。
なんだろう・・・この感じ?
は不安そうに、沖田の事を見つめるとニッコリとしたいつもの笑顔で近づいて来た。
「すまねぇな、朝から騒々しくて。許してくれるかィ?」
「あ・・・いえ・・・。」
色の白い美形な笑顔がの顔のすぐ側にきた。
瞬時にの頬が赤く染め上がる。
それを横目で見ていた土方は、突然を自分の方に引き寄せた。
「なんですかい?肘肩さん。」
「土方だ!・・・ったく。どうでもいいが、こいつをからかうな。」
土方に後ろから抱かれているような状態になっているは、ますます顔が赤くなった。
「へぇ・・・。」
沖田はと土方を交互に見ると、にやりと人の悪い笑みを浮かべてから離れた。
顎をしきりに撫でながら、何か面白い事でも思いついたような・・・そんな笑みだった。
「いやー参った。俺の納豆が台無しに・・・。」
妙な空気に気づかないように、局長が穴のあいた壁から茶碗と箸だけはしっかり握って食
堂に戻ってきた。
ふぅ・・・とが息を吐くと食堂の出口へと歩き出した。
「、くわねぇーのかい?」
「・・・外回りの時にお団子でも食べるからいらない。」
「おう、そりゃーいいですねィ。俺もそうしよう。」
「な!?マネすんなっていつも言ってるでしょ!?」
「俺との仲じゃねぇーですかイ。つれない事言わないでくだせィ。」
そんな会話をしながら、二人は食堂を後にした。
残ったのは、食堂らしからぬ部屋の状態。
そして、片手にだかれたままのの姿だった。
はチラリと土方を見上げるが、土方は何事もないように空いてる手で朝食を食べていた。
フッとが微笑むと、土方もそれを横目で見て、誰にもわからないように口元を一瞬あ
げたのだった。
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