『最
遊
記
1 〜 始動 〜 』
悟空「あー腹へった・・・。」
ジープの後部座席に座り恨めしそうに三蔵を見つめる。
そしてもう一度三蔵に聞こえるように悟空は呟いた。
徐々に三蔵の怒りゲージが上がっていくのは、言うまでもない。
ジープの隣りを並んで走る一台のバイクに二人の女性が乗っていた。
運転している女は漆黒を想像させるかのような長い髪を少し高い位置でポニーテールにしている。
名をと言う。
その後ろで悟空と三蔵の行動を見てクスクス笑っている娘。
栗色の髪に丸い瞳・・・何処から見てもお人形のような可愛らしい娘だ。
名をと言う。
悟空「〜腹へったよ。なんかない?」
涙の瞳に見つめられてはひたすら苦笑するしかなかった。
寝食を共にしているのだから、余計な物など持っていない。
しかも少しでも荷物ががさばると、前で運転しているが怒濤のように怒り口もきいて
くれなくなってしまう。
「ごめんね悟空。何もないんだ。」
悟空「えーいつも何か持ってるのに。なんで??なんで!」
うるさく追求してくる悟空に三蔵はとうとう切れたのか銃を取り出しバックミラー越に悟
空に照準を合わせる・
三蔵「そんなに腹が空いてるならコレでも喰うか?」
悟空「う゛っ!い・・・いいです・・・。」
そんな光景に慣れてしまっている八戒や悟浄はひたすら無視を決め込んでいる。
今ここで悟空と関われば、うるうるの瞳で嫌と言うほど見つめられる。
目は口程に物を言う・・・。
悟空の為にあるような言葉であった。
「ちゃん、私の鞄のポケット見れる」
「う・・・うん。」
そう言うとはガサコソと動き出す。
ただ少し不器用な所為か、バイクの安定が崩れる。
「うっわ!?危ないだろーが!!!ちゃん!!」
「あーん、ごめんなさーい!」
「ごめんで済んだら警察はいらないんだよ!」
「ふえーん。ちゃん怒らないでよぉ!!」
「誰も怒ってないでしょうーが!!」
こちらもまた毎度の事ながらバイクの上で言い合い?が始まる。
三蔵「・・・。」
そんな煩い状況に三蔵が軽くを見る。
静かな殺気のこもった瞳。
は横目でチラリと見ると、軽く溜め息を吐く。
「・・・体を動かさないように取って。確か中にチョコレートが入ってるから。」
「え!?本当?ちゃん!!」
はシュンとしてる悟空を見ているのがつらかったのか、明るい表情を見せる。
そんな笑みに見とれている男1名・・・。
赤い髪を風に揺らして、タバコをふかしている悟浄だった。
悟浄はと旅を共にするようになってから、ナンパする事がなくなっていた。
いつも通り女の人が話しかけ来れば話す程度である。
しかし、やには「女好き」のレッテルを貼られてる所為か、そんな事に気付いてもらえていない。
いや、八戒を除いて・・・と言った方がいいだろう。
「あった!はい、悟空!」
その台詞には軽く後ろを向く。
何も考えずには手の中の物を悟空にそのまま渡そうとしていた。
いくらなんでもかないりスピードが出ているのに危ない。
は少し速度を減速した。
それに合わせるように八戒も減速する。
悟空「うわぁぁ、サンキュ!!」
「私のじゃないけどね。ね、ちゃん!!」
嬉しそうに話しかけてもは返事をしない。
の無言を背中から見つめる。
「ちゃん、怒ってる?」
「・・・怒ってないけど・・・。」
「けど?」
そう言うとはいきなりアクセルをふかしてウィリーする。
必死にの背中にしがみつく。
しばらくするとはバイクを元に戻した。
「ちゃ〜ん!!」
半泣き声のに多少めまいがする。
自身、あまり身の危険と言う物を認識していない。
だから少し目を離すと大変なのだ。
いつもの通り声を荒げて言おうとした所で三蔵の視線が刺さる。
『煩くするな。』
視線が言う。
悟空はそんなを見て、軽くを睨む
悟空「、あんまりをいじめるなよな。」
「(ピク・・・)」
「(あ・・・やばいかも・・・)いや、苛められてないよ。ね、ちゃん。」
はもうこれ以上この状況がいやだったのか、チラリと八戒を見る。
「八戒!私達先に行って宿をとってますね。」
八戒「いつもすみませんねぇ。お願いしますよ、。(ニッコリ)」
フワリと八戒には笑いかける。
三蔵は自分を通り抜けてされる会話を横目で見つめる。
三蔵(そんな顔すんじゃねぇよ・・・このアマ)
自分には決してしてこない笑顔。
少しづつ三蔵の機嫌が下降し始めてきた。
そしてそれとは正反対に八戒のご機嫌は上昇したのだった。
「じゃ、そう言う事なのでお先に失礼します。三蔵さん」
三蔵「・・・勝手にしろ。」
(その言い方すると・・・やっぱり・・・)
はちらりとの背中を見ると、微かに震えているのがわかった。
怒りを極限まで押さえ込もうとするとはいつも体を震わせる。
まるで何かが出てくるのを拒むように。
「あ・・・」
「勝手にさせて頂きます。・・・不良坊主さん。」
三蔵「なんだと?・・・死にたいか?」
三蔵は懐に手を入れる。
そこでから返ってきた言葉は冷たいものだった。
「お撃ちになると言うのならばどうぞ。」
人を射抜くような瞳で三蔵を見る。
それを見て三蔵も睨みを辞めない。
しばらく沈黙が支配する。
三蔵「おめぇなんかに弾使うのはもったいない。宿で待ってろ、俺じきじきに殺してやる」
「返り討ちにお気をつけて。」
それのみ言うと再びは、バイクのアクセルを踏み込みエンジンをふかす。
それが合図かのようにはの体にしっかり密着させて腕を回す。
もそれを確認すると一気にスピードを上げて、黄昏の中を街へと走って行った。
一行は瞳を細めて、バイクの後を見つめる。
悟浄「いつもの事だけど、パッと現れてはパッと消えていく幻みたいだよな。」
八戒「そうですね。ところで、三蔵。ちょっと気になる事があるんですが。」
三蔵「?」
機嫌悪そうにタバコを口にくわえ八戒の方を見る。
珍しく八戒の顔からは笑みが消えている。
後部座席にいた二人も声からの雰囲気で察したのか、黙って八戒の言葉を聞いている。
八戒「先程のの言葉・・・」
八戒はの言った言葉を思い出し、苦しい表情をする。
悟浄「「お撃ちになると言うのならばどうぞ。」ってあの言葉か?」
八戒は黙って頷く。
それを見て誰もが三蔵を見つめた。
三蔵「・・・知るか。」
それでも八戒は黙って三蔵の言葉を待った。
後ろで悟空と悟浄も言葉を待っているようだった。
三蔵は仕方なさそうに溜め息をつく。
****************************************
それはがまだ三蔵たちと共に旅をする前の話である。
とは同じ村で生まれて育った。
は武家に生まれ、は気孔医術家に生まれた。
それぞれ跡継ぎとして、小さい頃から血の滲むような訓練をつんでいた。
その為か、10歳の頃にはは村で叶う者はいなくも父以上に気孔を操るのが上手かった。
ある日、は山の中で観世音菩薩と出逢う。
菩薩「よぉ、お前がだな」
「そうですけど・・・貴方は?」
菩薩「なんとなくわかってんじゃねぇのか?毎日夢に出てやってたからな。」
「!?・・・・観世音菩薩様ッ!?」
菩薩は面白そうにニッコリ笑う。
はひたすら赤面して菩薩を見つめる。
菩薩「、お前の剣の力を貸して欲しいんだよ。」
「え?」
菩薩「今な西に向かっている一行がいるだが、そいつらを助けてもらいたいんだよ。」
「・・・それは村を出ると言うことですか?」
菩薩「そうなるな。」
はしばらく考えた。
この村にはもいるし、最愛の人を待ってもいる。
その最愛の男は、妖狐と呼ばれる妖怪だった。
そう・・・すべてはある日突然やってきた。
妖狐が本性を出したかのように人々を襲いだしたのだ。
当然の如く武家であったの家に退治の命令が下る。
は夜中にそっと村を抜け出して、妖狐の戒(かい)がいる所まで走って行った。
「戒ッ!!」
戒「・・・・・・お・・・俺・・・は・・・俺は・・・」
戒は血だらけの手を呆然と見つめて呟いた。
はそっと戒に近付くが、戒は拒むようにを睨み付ける。
戒「来るなっ!!お願いだから・・・来ないでくれ。俺は君を・・・殺したくない。」
「戒、私・・・明日からあなたの討伐の指揮をとらなければならないの。だから・・」
は強い視線で戒を見つめる。
「逃げて。
・・・お願い。
あなたが死ぬときは私が死ぬ時なの。
覚えて置いて。」
それだけ言い残すとは戒に背中を向けて立ち去った・・・・。
それから3年・・・
戒の姿は見ていない。
いつかは正気に戻って村に帰って来ると思っていた。
菩薩はすべてお見通しのようにを見つめる。
菩薩「ここにいても何も進まないぜ?」
その言葉にはふと顔を上げる。
菩薩はニッコリと笑うとの髪をそっと撫でる。
菩薩「と言ったな。彼女はもう了承してるからな。」
「え?」
菩薩「いい友達を持ったな。夜にでもその一行がここを通る。一人は赤い髪の悟浄。もう
一人はおっとりした感じの八戒。そしてお子さまの悟空と・・・坊主のくせに金髪
にしてる三蔵だ。奴等が来た時にでも、また来るよ。」
そう言うと菩薩はもう一度の頭を撫でてから消えた。
しばらく呆然としていると、帰りの遅いを心配してが探しに来た。
「あ、ちゃん!!あのね、ちゃん。」
はが何を話したいのかすぐにわかった。
少し機嫌悪そうにを見つめた。
「ちゃん・・・悪いけど私は、村を出る気はないから。」
そう言うとは一足早く山を降りていく。
村に戻ると見かけないジープが村の前で止まっていた。
(あれが菩薩様の言っていた人なのかな?)
はゆっくりと近付く。
悟浄「うるないなバカ猿」
悟空「バカって言うなよなこのエロ河童!!」
そんな言い争いをしている。
は声を欠けるタイミングを逃して、ただその様子を少し離れた所から見ていた。
いや、それよりも彼等が妖怪だと一目見てわかったのだ。
同じ・・・匂い・・・
は懐かしさに目元を和ませた。
八戒「二人とも、そろそろ辞めて頂かないと後ろの方も声をかけずらいようですよ。」
もの優しい瞳の男がのいる方を見つめる。
もそれがわかってかゆっくりと歩を進める。
八戒もジープから降りてのに体を向ける。
「えっと、八戒さん?」
八戒「はい、そうですけど・・・どこかでお会いしましたか?」
はゆっくり首を横に振る。
一度ちらりとの顔見ただけで別に感心のない三蔵は機嫌悪く座っている。
「悟浄さんと悟空さん・・・ですね?」
不審に思った三蔵が始めて面と向かってを見つめた。
も三蔵を射抜くように見つめたが、ふいに視線をそらし頭を下げた。
「お待ちしておりました。こちらへ。」
三蔵「おい、「待ってた」とはどう言う事だ?」
三蔵からの言葉には、頭をお越し上げると、先程と変わらない射抜くような視線を三
蔵にむけた。
「観世音菩薩様が、今夜いらっしゃいますから。」
その台詞に三蔵は舌打ちをする。
は三蔵の前を通り過ぎる。
「あ、それと妖怪であることは村の人には言わないでくださいね。」
その言葉を聞いて三蔵の眉毛が余計につり上がる。
切り裂くような空気がと三蔵を取り巻く。
その視線から先にはずしたのはの方だった。
「こちらへ」
それだけ言うとはちらりとジープを見つめる。
「ここの村では龍を崇める信仰を持ってますから、変化を解いても大丈夫です。」
さすがにその台詞に八戒も驚いた。
不審そうにも4人はの行った方向を見つめる。
「あの・・・」
また別の女が出てきた事に三蔵の機嫌は急降下した。
それを見た八戒は苦笑まじりにに挨拶する。
八戒「村の方ですか?」
「はい。あの、ちゃんの態度・・・ごめんなさい。」
八戒「さん・・・?ああ、先程の方ですね。それにしてもよく僕達の正体がわかりま
したね。」
は村につくまでの間に軽くの生い立ちを話し、そして妖怪を恋人に持っていた事を話した。
その話しに一同苦しい表情を隠せない。
特に八戒は・・・。
八戒「それで、さんはまだその方の事を?」
「はい。いつか帰ってくると思っているようです。」
その台詞を最後には明るい表情を作った。
の家は今は一人でしか暮らしていない。
恋人だった相手に家族を殺されていたからだ。
特に宿屋がある村でもないのでそこに向かう。
もそれを分かっていたのか、玄関を開けっ放しにしていた。
「ちゃーん、入るよぉ」
「あ、ちゃん。悪いそっち持って。」
2階から声が聞こえるとは三蔵達を居間に残して階段を上がって行った。
少し奥の部屋ではせっせとベットを作っていた。
「あれ、ちゃん。よいっしょっと、これでいい?」
「うん。4人だったけ?」
「うん。」
は次の部屋へと向かう。
黙って仕事をしているのを見て機嫌の悪さを伺う。
はニッコリ笑った。
「・・・・何?」
「やっぱりちゃんって気がきくなと思って。」
そう言うとは恥ずかしさから下を向いたまま作業の手を早めた。
4部屋の支度が終わると、すでに悟浄と悟空はいなく八戒と三蔵が椅子に座って二人を待
っていた。
「とりあえず2階に部屋を用意したので。」
八戒「ありがとうございます。」
八戒の優しい笑みには珍しく顔を和ませる。
は三蔵の近くでの表情を読んで驚く。
「うわ・・・」
その小さな声に怪訝に思ったのか三蔵は顔を上げた
三蔵「なんだ?」
「あ・・・ちゃんがあんな顔したの3年振り。」
三蔵「3年?」
「先程お話した妖怪がいなくなった年です。」
それだけ言うと三蔵はに視線を移した。
どことなく淋しい顔に三蔵は見えた。
でも美しいと心の底では思っていた。
三蔵は新聞を取り出して読み始めると、八戒とは何かを話しあって三蔵の前に立った。
三蔵は気配を感じながらも、新聞から視線をあげる事はない。
八戒「では、今日の夕食の買い出しに行ってきますので。」
三蔵「ああ。」
「・・・部屋はご自由にお使いください。では。」
どこなくトゲのあるの態度に少なからず疑問を持ったが、考えても仕方の無いことと
思ったのか三蔵は再び新聞を読み始める。
はその間白龍と遊んでいる。
しばらくして八戒とは買い出しから戻って来た。
村のみんながの顔を見て驚く。
もちろん家に戻ってきた時のの驚きは・・・凄かった。
「そうなんですか?面白い(クス)」
八戒と談笑しながら帰って来たのだ。
は白龍を膝の上に置いて居るのも忘れて、椅子から勢いよく立ち上がった。
「ちゃん!!」
「?」
「わ・・・笑ってる!!!」
その台詞に遊んで戻ってきた悟浄と悟空が椅子から落ちる。
もちろん三蔵もそれに見つめる。
みるみるうちにの顔は赤くなっていく
「な、何言ってんの!!」
「だってだって、3年振りだよぉ!!!!!!」
そう言っての手を持って喜ぶが、ふと3年と言う月日を持ち出されての顔は元に
戻る。
八戒「・・・?」
いきなり名前を呼び捨てにしている八戒に驚きを隠せない悟浄。
ちらりと八戒を見た三蔵はまた新聞を広げる。
「ちゃん、離れて。夕食作るから。」
「あ、私も手伝う!!」
「いい。八戒も大丈夫だからゆっくり休んで。」
そう言うとは誰とも視線を合わせずに台所へと歩いていく。
「私・・・変な事言ったかな?いつもこうやってちゃん怒らせちゃうんですよね」
そう言って苦笑するに悟浄はゆっくり近付く。
悟浄「気にすることないよ。友達の笑顔を見て喜んでいたんだからさ。」
「でも・・・。」
少し何か考え事をしていた八戒が顔を上げる。
八戒「僕も行って・・・・」
ガッシャーン!!!
台所から盛大に硝子の割れる音がした。
一斉に誰もが台所に駆け寄ると、は肩に傷を負っていた。
の目の前には血に飢えた妖怪がいる。
悟浄と悟空はすぐさま戦闘態勢に入ろうとすると、妖怪は再びに襲い掛かろうとした。
が・・・・
「見ちゃ駄目ッ!!ちゃん!!!!」
「え・・・あっ!ちゃん!!!」
理奈の悲痛の叫びが響き渡った。
それと同時に妖怪の動きが止まる。
悟空「よしっ、今のうちに。」
悟空が如意棒を出そうとした時、三蔵は悟空の首根っこを引っ張った。
三蔵「待て、ばか猿。」
悟空「なんだよ、が危ねぇじゃん!」
三蔵はジッとと妖怪を見つめている。
は負傷した肩を抑えながら、愛おしそうに目の前の妖怪を見つめる。
そして、の口から小さな・・・小さな言葉。
「か・・・い・・・。」
の瞳から涙がこぼれ落ちた。
破壊された壁の向こうには、被害にあった村人が死んでいた。
それを目にしては、涙が止まらない。
「どうして・・・。」
のそんな態度を見て、悟浄は口にくわえていたタバコが零れ落ちた。
交互にと目の前の妖怪を見つめた。
悟浄「おいおい、まさか。」
八戒「そのようですね。」
悟浄、八戒、そして三蔵は今の状況をいち早く理解した。
それ故、動く事が叶わなかったのである。
悟空「なんだ?なんなんだ?」
悟空だけは意味が分からずに、八戒を見上げた。
八戒は、悟空を見てから苦笑した。
そしてもう一度の方へと視線を向けた。
八戒「あれはおそらくさんの恋人です。」
悟空「えっ!?マジかよっ!!」
それを聞いた瞬間、は口を手で覆う。
の中の記憶に残る戒とは、似てもにつかなかったからだ。
いつもの隣りで優しく笑ってくれていた戒。
お兄さんのように慕っていたにとって、今の姿はあまりにも衝撃的だったのだろう。
はそのまま、気を失ってしまった。
すかさず悟浄がそれを腕で支える。
悟浄「おっと・・・。」
三蔵は、チラリとを視界の端にいれた。
涙を頬に残し、気を失う。
おそらく、妖怪としての奴を見るのが初めてだったのだろう。
だからこそ・・・。
三蔵は、へと視線を向けた。
だからこそ、こいつは・・・叫んだ。
こうなる事が分かっていたから。
三蔵「オイ。早く安全な所に置いてこい。すぐに戻って来い。」
悟浄「あらぁ、やだわぁ〜三ちゃんったらわかってるわよぉ。」
三蔵「殺す。」
三蔵は咄嗟に懐に入れてある昇霊銃を取り出すと、銃口を悟浄に向けた。
それを見た瞬間。
悟浄は、を抱いてそそくさとその場を後にした。
と妖怪は一歩も動かなかった。
「なんで、戻って・・・来たの・・・。」
しかし、その問いかけには答えずに後ろにいた三蔵に目を向ける。
瞬時に殺気のこもった瞳になった事に気付くとはすぐ様、三蔵と八戒の前に走った。
戒も三蔵に向かって突進する。
戒「グワァッ!!!!」
戒が鋭い爪を三蔵に向けて振り下ろした。
だが、戒の爪は三蔵に振り下ろされることはなかった。
三蔵の目の前には、が立っていた。
いつのまにか剣を手にしていた、が戒の爪を手荷物剣で受け止めいた。
「戒ッ!戒ッ!正気に戻ってッ!!戒ッ!」
必死に自分の恋人に叫び続けるだったが
しかし
戒からこぼれた言葉は・・・
戒「三蔵・・・殺す・・・!!」
は地響きするような戒の声と言葉に驚きを隠せなかった。
このままじゃ・・・・まずい・・・。
チラリと三蔵を見ると、は、懇親の力を込めて一度戒をなぎ払った。
互いに少し間合いを取ると、はゆっくりと姿勢を正し、ジッと戒を見つめた。
見つめる瞳には涙が溢れ返っていた。
直後、戒はに向かって攻撃を仕掛けてくる。
先程とは違い、さらに力をこめられた攻撃で、は戒の力に押されて吹き飛ばされる。
「きゃ!!」
三蔵「・・・つ。」
壁にぎりぎりの所で三蔵はを受け止めた。
はゆっくりと三蔵を見上げる。
三蔵は大丈夫な事を確認すると再び戒の方に視線を向ける。
も三蔵の視線を辿るように、戒の方を見た。
その間にも、戒は理性を無くして、ただただ凶暴な妖怪として、八戒と悟空に襲いかかっ
ていた。
三蔵「俺達ががここに来た為に、奴は洗脳された。」
「・・・え?」
三蔵の意外な言葉に、は三蔵を見上げた。
しかし、三蔵はと視線を合わす事もなく、ただ戒の事をにらみ付けてるだけだった。
三蔵「俺達は西に向かっている。妖怪を操っているバカを倒すために。おそらく近くに潜んでいたんだな。」
それを聞いては瞳を見開いて戒を見つめた。
三蔵はそっとを盗み見てから同じく戒へと視線を移した。
三蔵「さっきがお前の名前を叫んだ時に一瞬怯んだ。おそらく最後の自我が残っていたって事だろう。」
はゆっくりと立ち上がった。
俯き、瞳に溜まった涙を腕で拭うと・・・嬉しそうに口の端を軽く上げた。
「なんだ・・・近くにいてくれたんだ。」
そう呟くとは、顔を上げて強い瞳で戒を見つめた。
悟空と八戒は攻撃を避けるだけで、自分達からは決して攻撃を仕掛けようとはしない。
はその八戒達の心使いに気付いき、申し訳なさで胸がいっぱいになった。
まだ、会って間もない人たちだと言うのに・・・。
きっとこの人達は、何度となくこんな場面に遭遇しているのかもしれない。
その度に、心の奥底に深く傷を付け来たのだろう。
自分だけが、逃げてる。
逃げていては駄目だ。
しばらく立ち尽くすに新たな決意が宿った。
「三蔵。」
三蔵「?」
「妖怪も・・・・また生まれ変わって来れるかな?」
三蔵「・・・知るか、そんな事。」
次に生まれ変わった時、妖怪と人間が仲良く暮らせる世の中だといいんだけど・・・。
そう淋しげに三蔵に微笑むとは八戒達の前に立ちはだかった。
八戒と悟空は、驚き足を止めた。
戒も目の前に立ちはだかるを、ジッと見つめる。
「もう終わりにしよう・・・・。戒。」
そう言うとは、再び剣を構え直した。
辺り一帯が静かになる。
三蔵は黙ってを見つめた。
の決意がなんなのか・・・そしてその後の結末も大体読めていた。
の懇親の一撃が戒に大打撃を与える。
痛みから戒の叫び声が村中に響きわたる。
戒は山の奥へと逃げていく。
は剣を鞘のおさめると、戒が行った方へ追い掛けていく。
八戒「っ!三蔵、どうしますか?」
三蔵「チッ!お前は村人を見ておけ。俺が行って来る。悟空、お前は村の周辺に雑魚がい
ないか見てこい。」
悟空「分かった。」
三蔵はそれだけ言うと足早にを追い掛けた。
は全身血だらけになっていた。
何度となく戒からの攻撃を受けたからだ。
いつのまにかと戒はいつも語り合っていた洞窟に来ていた。
この場所へ戒に誘導された事に気が付くと、は剣を下に向けた。
まだほんの少し自我ある・・・。
そう、確信したは優しい声で戒に語りかけた。
「戒・・・わかるんでしょ?」
戒「ヴーッ」
戒「ヴーッ」
戒「ヴーッ」
戒「グッ」
戒「・・・ヴッ・・・・・・・。」
やっとの思いで出したような、戒の言葉。
再び彼に自分の名前を呼んで貰える日が来るとは思っていなかった。
はまだこみ上げてくる涙を、我慢するように唇を一度噛みしめた。
でも・・・。
このままでは、戒は苦しむだけ。
私の我が儘で、戒をこれ以上苦しめては駄目だ。
だったら・・・・。
は、愛おしい人に会えた喜び、そして優しい眼差しで戒の事を見た。
自然と・・・は泣きそうな・・・そんな笑顔になった。
「久しぶりだね。ずっと側にいてくれたんだね。」
戒「ヴー・・・。」
は大きく息を吸い込むと、満面の笑みを戒へと向けた。
「ありがとう・・・でも、もう大丈夫だから。」
そう言うとの顔から笑みが消え去り、射殺すかのような、するどい視線を戒へと向け
て、再び剣を構える。
戒は殺気に反応するように、また血走った瞳でを睨み付けた。
これで最後・・・。
ごめん・・・・
・・・・・ごめんね、戒。
私の我が儘で、苦しかったよね。
もう、楽にしてあげるから・・・だからっ・・・・
再びの瞳から涙がこぼれ落ちた。
戒「!?」
ほんの刹那、戒の瞳が昔の瞳へと戻った。
だがはそれに気づくことができなかった。
それに気づく事が出来たのは、ようやく駆けつけた三蔵だけだった。
三蔵は静かに二人を見守る事しか出来なかった。
「来世で・・・会おうね・・・。」
の台詞に三蔵の中で何かが重なり、目を見開いた。
どこかで聞いた懐かしい言葉。
懐かしい約束。
愛しい・・・声・・・?
『来世で・・・会おう・・・。』
三蔵は頭を抑えた。
どす黒い何かが、体から溢れるようなそんな感覚・・・。
三蔵は、それでもを見た。
に最後の一撃をさせてはいけない・・・そう、思っていた。
そして、勝負が一瞬で決まるであろう事も、三蔵は予想が出来た。
予想通り、の剣は戒の体を貫いていた。
戒が痛みにのたうちまわる。
それを冷たい瞳で見下ろすの表情。
「今、楽にしてあげる。大丈夫だよ。貴方が死ぬ時は、私が死ぬ時・・・。」
そう言って剣を振り上げたのと戒がに目がけて爪をたてたのはほぼ同時だった。
の腹に深く食い込む爪。
の剣は戒の寸での所で止まっていた。
の口からは大量の吐血。
三蔵は、戒へと銃口を向けた。
それに気付いた戒は、を離し三蔵に放り投げる。
三蔵は飛んできたを抱き留めた。
は苦笑する。
「ごめん・・・なさ・・・い・・・」
三蔵は自分のベルトをのお腹に手早く巻き付ける。
痛みでの表情が苦痛に歪む。
三蔵は再び銃口を戒に向けた。
戒は三蔵とを見つめ、殺気立った。
は血だらけの力のない手で、必死に三蔵の腕を掴んだ。
「お願・・い・・・殺さ・・ない・・・で・・・私・・・が・・・」
そう言うと三蔵は黙ってを見つめた。
を軽く抱き起こし、戒を見れるようにしてやる。
三蔵はの手を持ち、一緒に銃を握った。
「え・・・。」
三蔵「お前だけが背負わなくて良い。俺も背負ってやるよ・・・しかたねぇから。」
三蔵の口元が微かにあがる。
はそれを見て、初めて三蔵に嬉しそうにふわりと微笑んだ。
ガウンッ・・・!
三蔵とは
突進してくる戒に・・・
一発の銃弾を撃ち込んだ・・・・。
遠くの方で銃弾が聞こえると、八戒は軽く溜め息を付き空を見上げた。
八戒(終わったようですね・・・。)
ふと異様な気配に気付き八戒は村から少し離れた。
するとそこには観世音菩薩が岩に腰を下ろしていた。
八戒「あなたはっ」
菩薩「よう。お前等、あのとを連れて行く気はないか?」
八戒「え・・・?でも達の事情も。」
菩薩「ああ、それなら勧誘はすでに済ましてある。あとはお前ら次第だぜ?」
それだけ言うと観世音菩薩は姿を消した。
八戒は少し考え込むようにその場から動かなかった。
****************************************
悟空「なぁなぁ、三蔵!本当には大丈夫なのかよ?」
三蔵はふと昔を思い出し、悟空の言葉で為に我に返った。
八戒も悟浄も不思議そうに三蔵を見つめた。
三蔵はチラリと八戒を見てから
三蔵「大丈夫だろ。」
それだけ言うと、三蔵は微かに口元を上げる。
そう、は決して自らの命は絶てない。
あの時・・・あの撃った瞬間に三蔵とは罪を共有した。
村に戻ってからと言うもの、三蔵はから離れる事はなかった。
気が付くまで三蔵はずっとの側にいた。
が目覚めて泣くことは分かっていたから。
その涙を拭う資格があるのは、自分のみと言う事も分かっていたから。
が目覚めると、ぼんやりと三蔵を見つめた。
「三蔵・・・さん・・・?!?戒・・・」
途中まで言って記憶が戻ったのか、の瞳に涙が溢れ返る。
三蔵は黙ってを見つめた。
「戒・・・ごめん・・・ごめんね・・・戒・・・。私が・・・殺し・・。」
そこまで言うと三蔵はを優しく抱きしめていた。
それは自然な行動だったのか、やってしまった三蔵ですら驚きを隠せなかった。
三蔵「お前だけが殺したわけじゃねぇよ。俺も同罪だ。だから、お前は俺に許可なく死ぬ
事は許されない。お前が死ねば、俺が全て背負う事になると言う事を、忘れるな。」
ぶっきらぼうだが、三蔵なりの優しさ。
は、またふわりと微笑むとそのまま眠りに着いた。
から規則正しい寝息が聞こえ始めると、三蔵はゆっくり腕から解放してを眺めた。
何故、ここまで気になるのか・・・わからない。
三蔵はそんな事を思いながら、の頭を撫でる。
サラリとしている髪に一瞬驚き、懐かしい感触に酔いしれるように何度か撫でた。
その心地良さに、三蔵の瞳もいつもより優しいものになった。
三蔵「お前が死ぬなら、俺も死んでやるよ。仕方ねぇから。」
それだけの耳元で呟くと三蔵は部屋を後にした・・・。
後書き 〜 言い訳 〜
初めてのお嬢様、初めまして。
吹 雪 冬 牙 と申します。
そして初めてでないお嬢様も、お久しぶりでございます。
リクエストが多かった、最遊記のドリーム小説。
2001年に初めて書いたドリーム作品になります。
こちらは載せるのをかなり迷いました。
オリジナル人物がかなり出演しましたので、どうしたものかと・・・
ですが、数人の熱いリクエストにより載せる事を決意致しました。
この頃は、本当に文章を書くと言う事に対して、勉強も何もしてなくて
本当に恥ずかしい文章力、ストーリー展開です。
でもまぁ、記念と言う事で2001年に書いたままを掲載させて頂きました。
ここまで読んで下さって、本当に本当にありがとうございます。
また第二話でお会いする事が出来たら、冬 牙はとても幸せです。
それでは、乱文にて不快な表現があった場合
心よりお詫び申し上げます。
更新 2007.11.28
再掲載 2010.10.27
制作/吹 雪 冬 牙
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