2 〜 それぞれの休養 〜 』

 
 

 
三蔵達一行は達から大分遅れて街に到着した。
イノ一番にジープから飛び出したのは、言うまでもない悟空だった。
 
悟空「うわぁ!結構活気のある街じゃん!あ、あれなんだろう!あれは?おおーー!!
   これも美味そう!!あ!こっちも美味そう!!!」
 
そうはしゃぎ回る悟空に、三蔵の瞳の下に青筋が立つ。
悟浄もそれに便乗するかのようにジープから降り立つが、ひとしきり辺りをキョロキョロと見渡していた。
それでもまだ悟空はアチコチの店先で食べ物を羨ましそうに見つめては、大騒ぎをしている。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
スパーーーーーーン!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
軽快なハリセンの音が響く。
 
三蔵「煩せぇんだよ!このバカ猿!!!!」
悟空「痛ってぇ!!」
 
悟空は綺麗に頭にヒットした為か、瞳に涙を溜めて恨めしそうに三蔵を見る。
そんな悟空に三蔵は追い打ちをかけるように頭に足蹴りを何度かお見舞する。
 
三蔵「意地汚ねぇ事してんじゃねぇよ!一緒にいる俺達まで恥ずかしいだろうが!!」
 
街の民衆はそんな一行に注目した。
女性達は三蔵達の容姿にうっとりと眺める。
しかし、三蔵と悟空のごくありふれた日常で慣れてしまっている為か、そこまで街の人の
興味を引いている事に気付かない。
 
八戒「どうしました?悟浄」
悟浄「・・・ちゃん達はどこの宿取ったのかねぇ。なんか色々あるみたいよ。」
 
確かに辺りを見渡すと何軒もの宿が軒を連ねていた。
八戒も困ったように、辺りを見る。
 
三蔵「・・・あそこだろ。」
 
三蔵が差したのは街から少し離れた一軒の宿だった。
八戒は不思議そうに三蔵を見た。
 
三蔵「こんな町中で妖怪に襲われれば、他の者も巻き込むからな。ま、俺としては関係な
   いが甘ったるい奴の考えそうなことだ。」
 
三蔵はタバコに再び火を付ける。
八戒はそれを聞いて納得したのか「そうですね。」と微笑みながら返事をした。
 
 
 
ごくぅーーーーーー!!
 
 
 
 
 
 
 
遠くからが三蔵達に向かって走ってきた。
 
悟浄「おお!ちゃん!!わざわざ俺を迎えにきてくれたのかな!?」
 
嬉しそうに悟浄は両手を広げる。
さぁ、この胸に飛び込んで来なさいと言わんばかりだ。
しかし、は寸前の所でつまづく。
 
「あっ!!」
悟空「ッ!!」
 
は咄嗟に目をつぶった。
地面に自分の体が叩き付けられる衝動を想像して、全身に力を入れる。
・・・しかし、いつまでたっても痛みは来ない。
ゆっくりとが瞳を開けると、悟浄の得意げの笑みが入ってきた。
が倒れる咄嗟に、悟浄はの体を受け止めていた。
 
「ありがとう!悟浄」
 
嬉しそうにお礼を言いながらは悟浄に笑いかける。
悟浄は不覚にもその笑みに魅せられて、赤面する。
しばらく悟浄はから瞳が離せなかった。
そんな空気を動かしたのは、珍しく落ち着いた悟空の声でだった。
 
悟空「ご〜じょう〜から離れろよ。」
 
悟浄は我にかえると、の不思議そうな顔とぶつかる。
やっとを元の体勢に戻すと、すかさずの顎を軽く持ち上げた。
 
悟浄「そんな礼よりも、こっちのがいいんだけどな。」
 
普通の人が見れば一発KOの笑顔も、にはきかない。
これから何をされるのかわからないは悟浄にされるがままになっている。
あと数pと言う所で、悟浄の頬に何かがかすめる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
シュン!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
悟浄はゆっくりと自分の後ろにある物体に目を見張る。
それは中型の剣だった。
 
悟浄「いや〜ん。こんなのが当たったら悟浄ちゃん、死んじゃう!!
 
いつものようにおどけてみせる悟浄。
シンと静まり返った人垣の中から、ゆっくりとは姿を現した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「あら、死んでいなかったんですね。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そう冷たく言い放ち、悟浄の脇を通り過ぎる。
大地に刺さった剣を手に取ると、剣は一瞬のうちにしゃぼん玉のようのに消えて無くなっ
てしまった。
 
悟浄「ちゃん、ちゃんに当たったらどうするのよ?危ないよ?」
 
そう言うとは、また宿の方に歩き始める。
 
「安心して下さい。これは下心のある人にしか当たらないですから。」
 
そんな悟浄との会話を間で聞いていたがふと言葉を漏らした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ちゃんって、三蔵さんみたい・・・。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
その台詞に三蔵とは同時に同じ反応をする。
いや、拒絶反応に近い。
はゆっくりと後ろを振り向き、引きつった笑顔でを見る。
それにはさすがのも怒りに触れたことに咄嗟に気付いたのか、あたふたする。
 
ちゃ〜ん、今なんて言った?」
「え・・・えっと・・・」
 
それを聞いていた悟浄は爆笑しだす。
 
悟浄「あ、それいいねぇ!ちゃん!!確かに女版三蔵ってカン・・・!?」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
スパーン
ドカッ!

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
最後の台詞を聞く前に、悟浄の顔にはの鉄拳が、後ろからは三蔵のハリセンが見事ヒ
ットしていた。
 
ほぼ同時の行動に八戒も苦笑する。
 
悟・・・悟浄、大丈夫・・・?(^^;)
 
ずりずりと地に膝をつける悟浄には心配そうに見つめていた。
・・・が、頭上ではと三蔵の睨み合いが続く。
 
悟空「マジすげぇな。ほとんど息ピッタリじゃん。」
八戒「そんな事はないですよ。誰でも似てると言われれば同じ行動に出ますよ(にっこり)」
 
やはり八戒は笑みを見せながら怖いことをサラリと言う。
しかし、その目は笑っていない。
悟空は慌てて口元を抑えた。
 
悟浄「痛てぇだろーが!!前後でくるな!前後で!!
 
しかし自分を通り抜けて繰り広げられる静かな睨み合いに悟浄は冷や汗を垂らした。
と一度見合ってから、再度二人に視線を落とす。
はふと、三蔵から視線を外した。
 
「八戒、宿の方とれました。ただ、問題が・・・。」
 
何もなかったかのように無視して三蔵の脇を通り過ぎ、八戒の元へと行く。
 
三蔵「チッ!」
 
やはり三蔵のご機嫌はどんどん下がる一方である。
いまだを離さない悟浄に、悟空は無理矢理にを自分の元に引き寄せた。
 
悟空「に触るな!エロがうつるんだよ!このエロ河童!!」
悟浄「なんだと!?てめぇの側に置いておけばバカが映るんだよ!!バカ猿!!」
悟空「バカって言うな!バカって!!このエロエロ河童!!」
 
またいつものような争いが始まる。
いつもならこの辺りで三蔵かのハリセンもしくわ剣が飛んで来るのだが、飛んでこな
い。
ふと、悟浄は三蔵の事を見た。
三蔵はしばらくと八戒を見ていたが、達が来た方向に足を向ける。
それに気付いたが声をかける。
 
「どこの宿だかおわかりになるのですか?」
三蔵「・・・単純な奴が考える事は至極簡単なんだよ。」
 
それだけ言うと三蔵は宿へと足を向けた。
一行もそれに続く。
街から少し離れた宿につくと、一行は一つの部屋に固まっていた。
お互いが何やら難しい顔をしている。
 
八戒「と、言うわけで部屋は2つしか取れなかったようなのですが・・・どうしますか?」
 
八戒はちらりと三蔵を見る。
三蔵は何も言わずにただタバコをふかしていた。
「勝手にしろ」と言う暗黙の了解。
八戒はみんなに視線を戻す。
 
悟空「なぁ3人づつってことだろ?だったら、俺はと一緒がいい!!」
悟浄「なーに猿が色気づいてんだよ!」
悟空「なんだと!?」
 
またいつもの争いが始まる。
毎回宿でもめるのは部屋割りの事。
はそんな喧噪をジッと見つめていた。
悟浄と悟空がまたを間に喧嘩し始めている。
は軽く溜め息を着いた。
 
八戒「バイクの運転はお疲れになりますよね。早くお部屋を決めたいのですが・・・。」
 
とまた悟浄達に視線を戻す。
は三蔵を見るが、三蔵はすでに新聞を読みふけっている。
 
「一部屋づつ私とちゃんが入るから、あとはどのペアで泊まるか話し合って。」
「え、ちゃん?」
 
いつものだとと二人一緒を必ず提案するのだが、今日はいつもと違っていた。
の表情を見るが、機嫌が悪いのか読みとる事ができない。
 
「以上。私、その辺り歩いてきますから。」
 
それだけ言うと、は部屋を後にする。
 
ちゃん・・・。どうしたのかな?ちゃん様子が変・・・。」
 
は心配気にの行った方を見つめる。
そんなの隣りに八戒が脇に立つ。
 
八戒「気を遣われてるんですよ。」
「え?」
八戒「ね。(ニッコリ)」
 
八戒の意味を理解したは瞬時に全身真っ赤になる。
そして、またの行った方向を見つめる。
未だ悟空と悟浄の争奪戦を繰り広げている所に銃声が響き渡る。
部屋は静かになる。
三蔵は新聞から視線を外す事無く、銃を悟浄達に向けていた。
 
悟浄「この危ねぇだろうが!!生草坊主!」
悟空「そうだよそうだよ!!」
 
今度の矛先は三蔵に向かう。
三蔵はまた引き金を引く。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ズガーン
 
 
 
 
 
 
 
ズガーン
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ズガーン!!
 
 
悟空と悟浄はしっかり弾をよけてはいるが、青ざめている。
いつもは必ず照準を合わせるのに三蔵は新聞から視線をあげる。
しかし今日は視線をあげない。
目標物を確認していないのだ。
それに本当の意味での怒りをしった二人は、また小さく三蔵を怒らした方の擦り付けを始
める。
 
三蔵「煩せぇんだよ!!
 
三蔵の怒鳴り声には一瞬からだを小さくした。
そんなを見て八戒は苦笑する。
 
八戒「まぁまぁ悟空も悟浄も二人がと同室になれば問題ないでしょう?」
「うん、そうだよ!」
悟浄「でもよぉ、」
八戒「なんですか?悟浄(ニーッコリ)」
悟浄「い・・・いえ、ナンデモアリマセン。」
 
八戒の有無を言わせない笑みに悟浄と悟空は互いに抱きしめ合いながら、なんども首を盾に振った。
 
悟浄「仕方ねぇな。でもな!の隣りに寝るのは俺だからな!ばか猿!」
悟空「なんでだよ!」
 
また争いが始まる。
八戒も諦めたのか、三蔵の元に近寄る。
 
八戒「三蔵もいいですね?」
三蔵「チッ!・・・好きにしろ。」
 
八戒はニッコリ微笑むと、買い出しに出かけた。
残されたは少し居心地悪そうに、下を向いた。
いつもならここでが外に連れ出してくれる。
でも、いつもの側から離れなかったが、始めてを置いてどこかへと行ってし
まったのだ。
そこまで怒らせるような事はした覚えの無いは、しばらく考え込む。
 
悟空「!夕飯まで時間あるから街見物行こう!」
 
の返事を待たずに悟空はの手を取り、外に走りだす。
呆気に取られる悟浄。
食欲にしか欲がないと思っていた悟空があんなに強引にを引っ張っていくなど計算外
だったのだろう。
悟浄は仕方なく、三蔵の脇に座りタバコをふかす。
暫く部屋の中は静かになる。
 
悟浄「なぁ三蔵。」
 
三蔵は新聞から視線を上げない。
 
悟浄「となんかあったの?」
三蔵「・・・。」
 
まだ三蔵は顔を上げない。
悟浄は三蔵の黙りを肯定と受け取ったのか席を立ち上がる。
そこで始めて三蔵は顔を上げた。
それを待っていたかのように悟浄は三蔵を見下ろす形で見つめる。
 
悟浄「ちゃんの心の傷はそう簡単には癒えないんじゃないの?」
 
その真意が分かったのか三蔵はまた新聞に視線を映す。
 
悟浄「もうあれから半年はたったんだな。」
 
そう、達と共に旅をして早くも半年は経過していた。
悟浄はしばらく黙って三蔵を見下ろしていたが、何も反応を示さない三蔵に溜め息をこぼして部屋を後にした。
三蔵は新聞から瞳を上げる。
新聞を机の上に乱暴に置くと、近くにあったタバコにあらたに火をつける。
ゆっくりと吸い込むと体に煙りが吸い込まれる。
三蔵はタバコをくわえたまま窓際に立った。
窓の下では悟空との楽しそうな会話が聞こえてきた。
視線を下に映し、の手を握りながら町中に消えて行く二人の姿を見つめる。
 
三蔵「煩せぇな、あのばか猿。」
 
しかし、三蔵の口元は言葉とはうらはらに微かにあがっていた。
二人の姿が見えなくなると、三蔵は街の近くの林に視線を移した。
三蔵の視線の先の林をはあてもなく歩いていた。
どことなく戒といた森を思い出させる、懐かしさを感じる木々の匂い。
三蔵と旅をしてからは、そんな自然に目をむける事も無かった。
戒の一件を忘れたいというのもあったのだが、毎日のように繰り替えされる悟浄と悟空の
や食事の争奪戦。
八戒の黒い微笑みと三蔵のハリセンの音や銃の音・・・。
騒がしいという形容しか当てはまらない旅仲間。
でも、それを心地良いと思いだしている自分をいることも認めざる終えない。
いつからだったか、が急激に悟空と親しくなった。
それは昔、自分でも持っていた恋をする者の瞳。
いつでも側にいたい、なんでも知りたい・・・そんな気持ちが痛い程わかった。
半分はに訪れた幸せを嬉しく思うのだが、悟空は言いたくはないが妖怪だ。
いつ自分と同じ目に合うかわからない。
こんな傷は自分だけで十分だ。
でも、一度火がついた感情を鎮火させる事は決して出来ないこともよく理解している。
しかも今まで恋愛事にまたっく無関心だったに訪れた初恋。
・・・そこで、は思考を少し止めて腕を組んだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「初恋・・・じゃないか・・・。」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そう独り言をつぶやくと、また足を進める。
どうしてあのお子様の二人が恋人同士になった経過はわからないが、いつからだったか理
那の隣にいるのは自分ではなくて悟空になっていた。
妖怪に襲われても、悟空は必ずの側を離れない。
それがどんなに不利な状態になったとしてもだ。
それを見ていくうちに、を任せられると判断した。
そして、もそれを望んでいると言うことも・・・。
まぁ、仮に相手が悟浄だった場合こんな気持ちになれたかどうか疑問だが。
あの女性に関しておそらく百発百中であろう悟浄がに翻弄されている姿ははっきり言
って面白い。
あんなにもわかりやすくに愛情を注いでいても・・・天然のには気付かれる事も
なく・・・。
の顔から笑みが出る。
一生懸命になってる悟浄の顔は目に浮かぶ。
 
八戒「そんな顔もなさるんですね。」
 
は警戒しながらも驚いて横を振り向くと・・・いつしかの隣には八戒が歩いてい
た。
その表情の変化に八戒は嬉しそうに微笑む。
 
八戒「いつもそのような笑顔が拝見出来ると良いのですけど。」
「・・・いつからいた?」
八戒「うーん、最初から。」
 
そんなに考えにふけっていたのだろうか。
八戒のいる気配にすら気付かなかった。
ふと八戒の顔を見上げると、笑顔での事を見つめている。
手には買い物の袋を抱えている。
どうして気付かなかったんだろうか?
 
八戒「いいんですか?」
「何が?」
八戒「部屋割りです。煩くなりますよ、悟浄と悟空。」
 
そう言いながらも八戒の表情は和らいでいる。
はそんな八戒を見て返事の変わりに苦笑する。
しばらく歩くと八戒達は大きな湖に出た。
林の中の為だったのか、知らない間に月が顔を覗かせていた。
 
「うわぁ、綺麗!!」
 
そうは無邪気にはしゃぐ。
八戒はそんなを目を細めて、見つめた。
こんな表情はけっして誰の目にもいれさせたくない。
そんな強い独占意欲にかられる。
しかしそんな事を考えているとはつゆ知らず、は靴を脱ぎ捨てて湖の水に足を浸す。
最初は静かに水につかっていたが何を思ったのか、バシャバシャと水しぶきを上げな
がら遊びだした。
年相応な行動。
 
「気持ち良いよ!!こない?八戒!!」
 
言葉遣いの変化に喜びの隠せない八戒は静かにその場に座り込んだ。
はそれが拒否とわかると、一人で遊び始める。
しばらく見とれていた。
たまには、こんな息抜きをして欲しい。
八戒は心からそう思った。
はふと月を見上げた。
 
八戒「どうしました?」
 
気付くと八戒はのすぐ側まで来ていた。
気配だけを感じていながら、は月から視線を外さない。
 
「いっぱい困難があると思うんだ。」
 
唐突なの台詞に八戒はしばらく黙り、その言葉の意味を探る。
 
「傷付け合う事もあると思うし、自分という存在が嫌になる時もあると思う。」
 
は遠い瞳をする。
いつだったか戒が自分を庇って大怪我をした事があった。
それは、決してが無茶な行動に出た訳ではない。
ただ、咄嗟に戒が体を貼って助けてくれたのだ。
その時、自分の無力さに嫌と言うほど気付かされた。
お荷物な自分の存在を確認した瞬間だった。
人間と妖怪での恋愛は、御法度。
それでもは周囲の反対を押し切ってまでも戒を愛する事を選んだ。
それは戒も同じ事だった。
食料としての人間の女に我を奪われる・・・そんな妖怪とさげすまれていた。
その当時のはその事は知る由もなかった。
戒に重傷を負わせた妖怪は、戒の実の弟。
と戒を別れさせようとした行動だった。
その時に弟の瞳にはうっすらと涙がたまっていた事には気付いていた。
だから、は一度戒から離れようとした。
しかし、戒がそれを許す訳もなく・・・。
はそこで思考を止めた。
 
「でも、悟空なら大丈夫って思えた。」
 
その最後の言葉で八戒はようやく理解する。
八戒はに手を差し伸べる。
も迷わずその手に自分の手を乗せて湖から上がる。
 
八戒「何故、大丈夫と思ったのですか?」
「強いから。」
 
そう言うとは女の子らしい笑みを向ける。
八戒もそれにつられて微笑む。
 
八戒「でも強いだけでは理由にならないでしょ?」
「うーん、そうだねぇ。が幸せそうだからかな。あの子ならきっと大丈夫だよ。
   種族と言う垣根も乗り越えられると思うよ。」
八戒「種族・・・ですか?」
「そう。妖怪と人間、昔はなかった・・・そんな垣根。」
 
そう言うとは八戒の事をジッと見つめた。
八戒もいつになく真剣にの顔を見る。
 
八戒「でも、所詮僕らも妖怪ですからね。力を制御出来なくなる事もあると思います。」
 
八戒の心に深く残る心の傷。
それはも同じ事。
だからあえて八戒は同じ痛みを持つ者に対して、一番酷と思われる言葉を連ねる。
それは自分自身にとっても酷だが・・・。
しかし、はニッコリと微笑んで八戒を見た。
それに少し驚く八戒。
 
「関係ないでしょ?好きなら。他の人に狩られるなら・・・私が殺す。」
 
その最後の台詞に曖昧な笑みを浮かべる
八戒はふとあの事件を思い出した。
何故、三蔵はあえてに恋人である戒を撃たせたのか。
あの時は理解出来なかった。
いや、むしろ理解しようとしてなかったのかもしれない。
が気絶している間に、八戒と三蔵は珍しく大喧嘩をした。
もちろん、「撃たせた」事でだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
『他の人に狩られるなら、私が殺す。』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
きっと三蔵にはの性格が分かっていたのかもしれない。
初めて出逢ったあの瞬間に。
愛おしい者を自らの手で奪う・・・そんな気持ちに。
 
「八戒・・・?」
 
しばらく無言になった八戒に不安に思ったのかがかわいらしく首を傾げる。
 
八戒「一つ・・・聞いてもいいですか?」
「何?」
八戒「もし、僕が暴走したら、はどうしますか?」
 
声は穏やかだが、決して冗談ではない八戒の瞳。
最初は抗議の声を上げようとしたも、八戒の瞳を見てその言葉を飲み込む。
しばらく俯いてしまったを八戒は優しく見守っている。
聞いてはいけなかったのだろうか・・・?でも、聞きたいと思った。
それ程までに強く想うの心。
自分はそれに少しでも入っているのだろうか。
確かめたかったのだ。
は半分口を開きかけた時だった。
 
悟空「あれぇー?八戒とだ!」
「え?あ、ちゃーん!!」
 
うれしそうに近付く二人。
今一歩と言う所で邪魔に入られた事で、いつもの笑みを見せる八戒だが、どことなく黒い
影が付きまとう。
は勢い良くに後ろから抱きつく。
 
ちゃん!!」
「・・・痛い。」
 
不機嫌そうに言われて慌てて手を話す
(いつもの態度に戻ってしまいましたねぇ)等と心の中で残念がる八戒をよそにと悟
空は目の前の湖にはしゃぎ回る。
そんな二人を目を細めて見つめる八戒と
 
「八戒、安心して。」
 
八戒の隣りで立ち上がりを見つめる
 
「その前に私が暴走させないから。でも、もし暴走したら・・・」
 
は八戒に視線を移した。
 
「私も一緒に暴走してあげる(クス)」
 
クスリと強気なな笑顔に終始みとれる。
と悟空の方に近付く。
そんなを見て、八戒は少し曖昧な笑みを零す。
 
八戒「暴走させない・・・ですか。参りましたね、本当に。僕も、そろそろ本気になりま
   すかね。」
 
そんな意味深い言葉を呟いているとはつゆ知らない3人。
 
悟空「なぁなぁ、珍しいな。と八戒がこんな所にいるなんて。」
「たまたまです。私は帰るから、ちゃんの事頼んだからね、悟空。」
 
実の弟のように悟空の頭を何度か撫でると、達に背中を向けた。
それを追い掛けるように八戒も立ち上がり、に続く。
それはどう見ても、恋人同士のようにも見れる。
はしばし呆然と2人を見つめた。
また、を置いて行ってしまった。
先程の同じなのだが、の顔には笑みが浮かんでいる。
『頼んだからね、悟空』の言葉の意味。
が悟空を正式にの恋人として認めてくれた事が何よりも嬉しかった。
に話せずにいたのだ。
と同じ妖怪を好きになった事・・・を。
 
悟空「なーんか、いい雰囲気だなぁあの二人。」
 
にこにこしながら二人の後ろ姿を見つめていた悟空がぽつりと呟いた。
 
「そうだね!ちゃんだもん!惚れない人はいないもん!」
 
その言葉に悟空は不満そうにを見つめる。
不思議そうに悟空を見つめる
 
悟空「例外がここにいるんですケド。」
 
少し顔を赤らめて言う悟空。
はにっこりと笑う。
 
「うん!そうだね!」
 
お互い見合って笑い出す。
悟空とは近くに手を取り合って座る。
心地よい風がお互いの頬をすり抜けていく。
ふと悟空は瞳を細めた。
そんな表情にドキッとする
悟空はゆっくりとをみると満面の笑みを浮かべる。
 
「?」
悟空「・・・いい匂いすると思わねぇ?」
 
はその場に倒れ込む。
やはり悟空には食い気だけなのだろうか?
は苦笑しながら街の方を見つめる。
風にのってこの場所まで匂いが香ってきたようなのだ。
 
「そうだね。」
悟空「だよなぁ!!!コレは・・・・レバニラだぁ!!!!!!!」
 
そう言うが早いか、悟空はの手を取って、今まできた道をひきかえして行った。
はそんなに運動神経があるわけではない。
さすがに悟空のスピードについていけない。
それでも手を握られている為速度を落とす訳にもいかず・・・苦しそうに肩で息をする
と、ヒョイと体が軽くなった。
気付けば、悟空がをお姫様だっこしている。
驚いて体をばたばたさせる。
 
悟空「嫌?」
「そうじゃなくて恥ずかしいの。」
 
そう言っては下を向く。
そんなの表情が可愛くて仕方がないと言った感じで悟空はの額に口づけを一つ落
とす。
どことなくぎこちない口づけ。
それに惚けていると、顔を赤くしがらも悟空はにっこりと笑う。
 
悟空「に頼まれたからな!頼むってさ。・・・まぁ、にいわれなくてもそのつも
   りだったんだぜ?俺!」
 
まだ少年を感じさせる悟空に、ほんの一部分だけ男を見つけただった。
いつも一緒にいて楽しいだけでない事がわかると、はより一層顔を赤くする。
 
悟空「、可愛い。」
「もう・・・。」
 
軽く悟空の胸を叩く。
悟空はに回している手に少し力を入れる。
自然と悟空の胸に顔をうずめる感じになる
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
とくん・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
とくん・・・
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
とダイレクトに悟空の心臓の音が聞こえる。
それはいつも聞いているの背中越に聞く心音とは違っていた。
安心する・・・そう思った。
 
悟空「の居場所はここだけだかんな。」
「・・・うん。」
 
悟空は走っている足を止めた。
 
悟空「俺さ、ずっと嫌だったんだ。」
 
いきなり言い出す悟空には顔を上げる。
いつもの悟空と違う・・・大人びた表情。
はそれに捕らわれたと思った。
優しく見続ける悟空。
 
悟空「は確かに強いし、の幼馴染みである事も知ってるけどさ、ずっとの背
   中で護られてた姿を見てたくなかったんだ。」
「悟空はちゃんが嫌いなの?」
悟空「違う、違うよ!ただ、は俺の後ろにいて欲しいんだ。甘えたい時や泣きたい 
   時、怒りたい時・・・つねに一緒にいたい。と同じ事を感じていたいんだ。だ
   から、いつも一緒にいるに嫉妬してた。」
 
いつも明るい悟空の辛い表情。
それはにも理解出来た。
 
悟空「それにさ、八戒や三蔵も取られちゃう気がしてさ。俺って独占欲強いのかな?」
 
真面目に悩む悟空にはそっと頬に手を当てる。
の優しい手が心地よい。
悟空はジッとを見つめた。
 
「分かるよ。私もね、悟空がちゃんと話してると気になるし・・・八戒さんや三
   蔵さんと話してると凄く気になる。取られちゃうって感覚はよく分かるよ。それに、
   悟空と仲良くしてる悟浄さんも羨ましい。」
 
照れたように笑う
決して仲間には入れない、時間と言う物がお互いに存在する。
それは出逢ってなかった頃の過去と言う時間。
しかし、それすらも独占したいと互いに強く想う気持ち。
悟空はまたのギュッと抱きしめた。
微かにの香りが鼻をくすぐる。
 
悟空「これからはいつも一緒だぞ。。」
「うん!ちゃんの許可も出たしね!」
 
すこしおどけて笑う
そんな優しい表情に悟空も顔を赤らめる。
まだまだ恋愛初心者な二人。
そんな二人を優しく月明かりが包み込んでいた・・・。
 

 
後書き 〜 言い訳 〜
 
 
すみません・・・無駄に長いですね・・・今回。
今回のシリーズは10章で完結となりますので、色々と急いで凝縮して
しまったら・・・凄いページ数になってしまいました。
 
 
ここまで読んで下さいました、様。
心より深くお礼申し上げます。
 
 
これにこりず、次章も読んで頂けますと幸いです。
 
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
 
更新 2007.12.03
再掲載 2010.10.27
制作/吹 雪 冬 牙


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