『 リ ス ト バ ン ド の 約 束  1 』

今日俺の教室に転校生が入って来た。

「桐生です。よろしく。」

俺と同じくらいの身長。
最初は全然気にならなかったから、窓の外に視線を移していた。
ん?
ふと視界に入ったもの。
担任に言われた席につこうとした桐生は、テニスバックを持っていた。



・・・ふーん・・・。


たったそれだけの事で興味がわいた。


放課後に部活に出る為に、俺はテニスバックを担いで教室を出ようとした。
その時。

ー!!いる!?」

突然大声張り上げて扉に出てきた人物。
見間違う事のない、我等が青学男テニのマネージャー。
2年の先輩。
俺は驚いて、思わず桐生の事を振り返ってしまった。

、んな大声張り上げるなよ。恥ずかしい。」

そう文句を垂れながらも、先輩に近付く桐生。

ムカ。

心の奥底に黒い何かがうごめいたのがわかった。
俺は黙って先輩の脇に立っていた。
するとやっと気が付いたのか、先輩と俺の視線が合った。

「お、リョーマ君。早く行かないと、遅刻しちゃうよ?」
「通れないっす。」

いつも以上にぶっきらぼうに言った。
今まで気付かなかった事実が気に入らなかった。
先輩は「ごめんね。」と微笑みながら道を開けてくれた。
でも、部活に行く気配はない。
俺は黙って横をすれ抜けると、先輩は優しく微笑んでいた。
俺にではなく、あの桐生に・・・。

「でも、部長に何も言ってないんでしょ?」
「大丈夫よ!周助が今言ってくれてるから。さ、一緒に部活行こうよ!」

そう言うと、先輩は迷わず桐生の腕を取った。
その行動に俺は驚き立ち止まってしまった。
決して人を近づけない先輩が、自ら手を取るなんて・・・。
はっきり言ってショックだった。
そのまま俺は早めに着替えを済ましてコートに出ていた。
レギュラー以外のメンバーは既に部活の支度をしている。
俺は、いつも以上に柔軟体操をしていた。
いや、心ここにあらずだったのかもしれない。
部室からずっと桐生につききっりの先輩。
あんな先輩見た事がない。
俺は二人から視線をそらした。

「越前君。」

聞き慣れない声で俺はふと見上げた。
横にはあの桐生が立っていた。
ニッコリと笑みを浮かべたその仕草は誰かに似ている・・・?
一体誰だろう?

「少し打ち合いしてくれないかな?が越前君が最適だって言うからさ。」
「・・・ふーん。」

ム カ ツ ク 。

俺は黙ってコートの中に入って行った。
先輩が俺を指名してくるって事はそこそこ力がある証拠。
先輩もにこにこしながらこっちを見てる。
ま、俺じゃなくて桐生なんだろうけど。

「越前君、左なんでしょ?いいよ、左で。」
「・・・。」

なんでお前に命令されなきゃならないんだよ。
俺はあえて右手で相手した。
桐生も苦笑しているだけだった。
軽くサービスを出すと、瞬間的に重く素早いボールが返ってきた。

へぇ。

俺は口元をニヤリと上げた。
先輩が言うだけの事はあるけど・・・。
俺はふと桐生と先輩が重なりあった。

「!?」

驚き目を見開くと、ボールは見事にインをついてコート外へと転がって行った。
今の・・・一体・・・
そこにいつの間にか俺の後ろに来ていた先輩が、ボールを拾ってくれた。

「はい。どう、の奴。」
「・・・桐生と先輩って知り合いなんすか?」

その言葉に先輩はあからさまに呆れた顔を俺に向けてきた。
一体なんなんだ。
黙って見返すと、先輩はプイと頬を膨らませた。

「リョーマ君に質問です。私のフルネームはなんでしょう?」
先輩の・・・フルネーム?」

そう言えば前に聞いた事があったけど・・・忘れた。
俺がただ黙っていた時だった。

「桐生。」

部長が近付きながら呼んだその言葉に、先輩とあの桐生が同時に反応を示した。
え?
俺が黙っていると先輩は、部長の所へと小走りに走って行く。
俺はただ唖然として見送ると、そこに桐生が近付いて来た。

「越前リョーマ・・・さすがは全米4連覇しただけはあるじゃん。これからよろしくな。」

そう言われて手を差し出された。
俺は桐生の手を見つめる。
すると桐生の笑みと先輩の笑みがまた重なって見えた。

「リョーマは姉貴と打ち合いしたことある?」
「姉貴?」
「あれ?もう気付いてると思ったんだけど・・・マネの桐生。俺の姉貴だよ。」
「あ・・・。」

そうか。
だから重なって見えたのか。
フォームもどことなく癖も似ていたんだ。
先輩の名字なんてすっかり忘れてた。
桐生は俺からの返事を待っているのか、ニコニコと笑みを浮かべたまま俺を見ている。
なんとなく不二先輩系列の性格であることがわかった。

「1回だけ。」
「で、どうだった?」

どうだった・・・?
あの時、とやったのは練習試合。
不二先輩とペアを組んだ先輩と俺と桃城先輩のダブルス。
二人の圧勝だった。
驚くほどに息のあった二人。
大石先輩ゴールデンペアをもラブゲームで抑える程の圧勝。
竜崎先生も部長も、先輩が男であれば良かったと真面目に悔やんでいたシーンが印象的だった。
忘れるはずもない。
流れるような先輩のフォーム。
スピンを制した試合。
不二先輩と涼しい顔してる割には、ウチに燃える闘志がもの凄い事。
直ぐにリターンマッチを頼んでも了承してくれなかった。




いつかね・・・





そいう言われて終わりだった。
その後は部長とシングルの試合をやって接戦を見事に演じて、時間が来た為に打ち切りになったんだ。

の奴、強いだろ?」
「・・・桐生も左?」
「ああ。もそうだぜ。」

そう言われて俺は目を見開いた。
部長との試合の時も俺との試合の時も・・・先輩は確かに右を遣っていた。

じゃ・・・あの実力は・・・。

俺の視線はそのまま先輩へと移した。
本当の実力はあんなものじゃないんだ。

「でも、左でやらなかっただろ?」

見ていたかのような発言に俺はただ首を盾に振った。
すると桐生は「やっぱり。」と良いながら大笑いしていた。
その意味が分からず、俺は近くにあったテニスボールを手に取った。

「リョーマ、それに投げてみろよ。」

突然の言葉。
何言ってるんだこいつ?
俺はチラリと桐生の事を見た。
近くには部長もましてや不二先輩までもいると言うのに。
俺が投げる気配を見せないと、桐生は突然俺からボールを奪った。
軽く空にあげると、パシッ!と再度手の中に治める。

の動体視力と反射神経は化け物並だぜ。」

面白そうに笑みをつくる桐生。
突然、強いボールを先輩の背中に投げつけた。

「あっ・・・」

危ないと叫ぼうとしたときだった。
先輩は軽く左によけて、見事ボールをキャッチしていた。
それはスローモーションでもかかったかのようにゆっくりと・・・。
見えていないはずなのに・・・。
俺が唖然としていると、ふと先輩がこちらを向いた。

!あんた後でお仕置き。」

ニッコリと天使のような微笑みには似合わない言葉。
お仕置きって・・・。
チラリと見ると桐生は、な?と懲りない様子で俺に聞いて来た。
ラケットをクルクルと廻しながら先輩の後を追う桐生。
俺もその後を追った。

「リョーマ、今日家に来いよ。いいもん見れるぜ?」
「・・・いいもん?」

すごく馴れ馴れしい奴だな・・・。
一瞬文句の一言でも言ってやろうかと思ったが、桐生の顔を見て言う気が失せた。
何か楽しそうな表情。





・・・反則だよなぁ・・・








先輩と同じ表情って・・・。





つづく

後書き 〜 言い訳 〜
 
 
ここまで読んで下さり
心より深くお礼申し上げます。
 
よろしければ、続きもご覧下さいますと
幸いです。
 
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
 

執筆日 2010.10.29
制作/吹 雪 冬 牙


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