『 高 見 を 目 指 し て 1』

越前南次郎と京四郎。
共に日本のテニス界の頂点を極めたプレイヤーであり、お互いに唯一認めるライバル。
互いの勝負は京四郎のわずか1セットの差で勝ち。
だが、それ以降は彼らが試合を行う事はなく・・・あっと言う間にテニス界から姿を消した。
今となっては伝説と化した二人。
そんな二人も今となっては1児の父親。
生まれや育ちは違うけれども、同じテニスの道を歩んでいる二人の子供達。
出逢わない方が可笑しい。
現役プレイヤーを引退してから京四郎は、山奥へと移り住みそこで結婚した。
一人の女子が誕生すると、幼い頃から日常生活にテニスプレイヤーとして必要な筋力をつけさせた。
本人は全く自覚がないことだが。







そして、この春。








彼女は父親の命令で私立の名門校に入学する事が決まった。
さすがに通える距離でない為、彼女は一人上京する事となった。
下宿場所には、かつてのライバルだった南次郎邸。
同じ年の子供もいるからいいだろうと言って、彼女を家から出したのである。
明日はすでに入学式。
小学校の親しい友人との別れも惜しく、彼女は単身で来たの・・・だが。
やはり一人で来るのは心細いものがある。
スラリと伸びた足に綺麗な長い髪。
健康的な彼女を見て、声をかけない男はいない。
それ故か、先程から数歩歩いてはナンパにあいまくっているのである。
今も目の前に軽そうな男二人組が、彼女の前に口説いている最中だった。
本来なら蹴り飛ばして逃げる・・・なんて事も出来るが、今日から下宿する先の人が迎えに来てくれている
と言うので、待つしかなかった。

一体どこなのよ〜。

心で泣きながら、辺りをチラチラ。
しかしそれらしい人はいなかった。

「いいじゃん、少し遊ぼうよ!」
「結構です。」

嫌なものは嫌とつい性格上はっきり言ってしまう。
それが友人ともよくトラブルになったのだが・・・それにしてもしつこい。
彼女の怒りのバロメーターがだんだんとマックスへと到達していった。
その時である。
ナンパの一人の男が彼女の持っていたラケットに気が付いた。
バックから簡単に抜き取ると、それを見て口笛を拭いた。

「へぇ、俺もテニスやってんだぜ?なんならこの俺様がコーチしてあげようか?」

そう言われて彼女はマジマジとその男の体型を見つめる。
どう考えても導き出される答えは一つ。








弱い。








それだけだった。

「な、近くコートもあるし。」

へぇ、この辺でコートもあるんだ。
妙な所納得した彼女。
両脇を男に囲まれて、仕方なくコートへと足を向ける。
一人の少年がその後を追っている事も気が付かないで。















駅から少し離れた所にテニスコートが確かに存在した。
なかなか綺麗なコートである。
鞄をそこに置くと、彼女はもう一本のラケットを取り出した。
男はここぞとばかりに良いところを見せようとしているのか、肩を廻したりしながらコートに入っていく。
彼女はそんな男の後ろ姿を見て軽く溜め息をついた。







つまらなさそ。







それが本音。
彼女もゆっくりとコートの中へと入った。

「その長い髪、束ねた方がいいんじゃねぇ?」

ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべた男。
彼女はサービスラインに立つとビシッ!とラケットを男へと向けた。

「そんな必要ないわ。」
「な!?」

あまりに強気な態度。
男はすぐに頭が血が登ったのか、ギリギリと奥歯を噛み締めていた。

「んじゃ、かる〜くね。」

そう言うと、これでもかといわんばかりのヒョロヒョロとしたサーブを打って来た。
彼女は予想通りの展開にほとほと呆れていた。
いつもそうだ。
大人にしても、年上にしても。
最初は人を馬鹿にして手加減してくる。
だが、次に打ち返した瞬間に顔色が変わり、強いサーブを打ってくる。
彼女は目を閉じて打ち返した。
その威力と速さに男は手が出なかった。

「な・・・なんだ、こいつ・・・。」

信じられないとばかりに愕然とした表情。
そして次に顔色が変わり始める。
ほらね。
彼女は心の中で納得して、男の事を見た。

「面倒だから、そっち二人でいいよ。ラケットバックに入ってるでしょ?」

審判役を勤めていた男に視線を向ける。
未だに足が動かないようである。
しかし、しばらくして自分達が馬鹿にされたと知って、顔が真っ赤になった。
そして鞄からラケットをひったくるとコートに入ったのである。

「容赦しねぇーからな!!」
「シングル相手にダブルスしてきてそのセリフはどうかねぇ。」

ニヤリと口元を上げた彼女。
あっと言う間に彼からからポイントを取る。
そんな圧倒的な試合を遠くから見ていた一人の少年がいた。
深く帽子を被り、手にはファンタを持っている。
木陰で休憩しているように座り込んで試合を見つめるその瞳。

「まだまだだね。」

小さく呟く一言。
その瞬間に男のうめき声があがった。
彼女がサービスをした瞬間に出来事が起こった。
彼女の出したサーブがバウンドと同時に、男の顔めがけて跳ね返ったのである。
少年は驚き目を見開いた。

「へぇ・・・ツイストサーブが出来るなんて、凄いじゃん。」

それからと言うもの、彼女は男達に1点も許さずにゲームは終了した。
こてんぱんにのされた男達はコートに倒れ込んだ。
しかし彼女の方は息一つ乱れていない。
彼女は倒れている男達の所に歩み寄った。
そして手を差し伸べる。
男はクッと笑みを作ると彼女手に手を乗せようとした瞬間だった。





スパーン・・・。






見事に彼女に払われた手。
キョトンとした表情で彼女を見つめる男達の間抜けつら。

「ラケットよ。なんであんたを助け起こす必要があるわけ?早く返して。」

不服そうに見下ろす・・・いや見下す態度。
少年はクスリと笑みを作った。

「面白そうだね。」

そう呟くとこれ以上こじれない為にも、少年は立ち上がって彼女の元へと歩いた。
突然コートに背の低い少年が入って来た事により、彼女は怪訝そうに見つめた。

「あんた強いじゃん。」

目の前に立ち、突然挑発的な瞳が彼女を射る。
しかし彼女はそんな少年の睨みも軽く受け流した。
無視を決め込んで鞄にラケットを仕舞う。

「あんた、京四郎おじさんの子供だろ?」
「え・・・そうだけど・・・?」

はっきり言って年下だと思った。
幼い顔なのだが、どことなく我が儘そうな態度。
彼女は立ち上がり鞄を手に持った。
その瞬間、少年は少しあとづさった。
それもそのハズだ。
彼女の身長は中学1年生には高い158p。
少年の身長はせいぜい150p程度である。
デカイ女・・・それが彼女に対する第一印象だった。

「俺、越前リョーマ。」
「ああ、お父さんが言っていた下宿先の人か。よろしく。」

ふとリョーマは、後ろで倒れている男に視線を動かした。
彼女も同じように男に視線を投げかけた。

「てめぇ、覚えテロ!女!!!」
「バーカ。私はそんな名前じゃないわよ。。いい?よく覚えておきなさい。」

ニヤリと挑戦的な笑み。
そして、彼女はコートを後にした。
なかなかついて来ない俺を振り返る彼女。
全然汗が出ていない事に驚いた。
そして、ふと彼女のいたコートを見つめてさらに驚いた。
足跡が一ヶ所しかない。
いや、正確に言えば動いてないのだ。
サーブの時の足跡は確かに数歩残ってはいる。
だが、それ行こうのストロークは動いてないのだ。
こんな打ち方する奴をリョーマは一人だけ知っている。
唯一テニスで勝ちたい相手。
ふと自分の父親の顔が思い浮かんだ。

「越前君?」
「・・・ふぅ。」

軽く溜め息を付くとリョーマはの隣りに並んだ。

「あんた、いつからテニスやってんの?」
「んーと覚えてないんだよね。気が付いたらやってた感じだから。越前君は・・・」

が何かを言おうとした瞬間だった。
キッとリョーマのきつい視線がぶつかった。
何事かとはリョーマの事を不思議そうに見つめると、リョーマはふと顔を反らした。

「リョーマ・・・それでいい。」

ポツリと呟いた言葉。
照れているのかリョーマは顔を背け、尚かつ帽子を深く被って顔を見せないようにしている。
はニッコリと笑みを浮かべた。
かわいい・・・。
正直そう思ってしまったのである。

「OK!私の事はどっちでもいいよ。でもでも。あんまし私そう言うのこだわらないから。」
「なんでウチに来たの?」
「なんでもお父さん達が習った恩師がいて、その人が是非にって言ってきたみたい。」
「ふーん・・・そう。」
「そうなのだ!」

向日葵のような明るい笑顔に、リョーマはさらに胸の鼓動を早めた。
それからリョーマとの会話はぷっつりと切れてしまった。
何か話さないと不味いかと思ったリョーマだったが、横顔を盗み見るとそれはいらぬ心配だとわかった。
別に気にしてなく歩いている
同じ年とは思えない凛とした態度。
さっぱりした性格。
はっきり言って嫌いじゃないと思った。
最初は父親から下宿がもう一人増えると聞いてうんざりしていた。
また女か・・・と思っていたから。



だが・・・。




下宿がで良かったと思ってるリョーマがそこに存在した。
ただ黙ってひたすら帰る道。
いつもは短い距離が、リョーマにとってはかなり長く感じた。


つづく

後書き 〜 言い訳 〜
 
 
ここまで読んで下さり
心より深くお礼申し上げます。
 
よろしければ、続きもご覧下さいますと
幸いです。
 
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
 

執筆日 2010.11.02
制作/吹 雪 冬 牙


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