『 高 見 を 目 指 し て  終 』

部活終了後、1年はコートの片づけに入っていた。
もちろんとリョーマもそうだったのだが・・・。

「ちょっと、あんた。」

突然声をかけられるは、拾っていたボールを抱え込んで仁王立ちしている女子軍団を見つめた。
かなりのご立腹の様子。

「なにか?」

その軍団の中でも中央に立つ偉そうな女。
おそらくこいつが取り仕切っているのだろう。
だいたい予想のついたは、軽い溜め息を零した。
妙に絡まれる日だな・・・なんて思いながら。

「ちょっと来て。」
「え、でも片づけが。」

しかし女達は無理矢理にの腕をつかんでコートから出そうとした。
ボロボロ・・・とコートに落ちる抱え込んでいたボール。
はもう一度拾い治した。

「ともかく少し待って下さい。どこに行けばいいんですか?」
「校舎裏よ!」




はいはい・・・。





は軽く頷くとそのまま片づけを再開した。








はぁ。






あのギャラリーの量だものねえ。
突然現れた1年がレギュラーと気軽に話しているなんて、ムカツクんだろうなぁ。
他人事のように考えていた
素早く片づけ終えると、はリョーマの近付いた。

「リョーマ、私先に帰るから。」
「どーぞ。」

顔を合わせずに呟くリョーマ。
は「じゃ!」と言ってから校舎の方へと走って行った。
その後ろ姿を見つめるリョーマは、すぐに掃除用具を片づけて部室へと歩いて行った。
校舎裏ではこれでもかと言われるほどの女子で溢れていた。
あまりの人数に面食らってしまった
何人いるんだ?
どうみてもざっと50人前後はいるんじゃないかと言うかんじである。
1対50ってね。
多勢に無勢とは言え、これは酷い。
しかも全員先輩方だし。
どうしてものかと考え込んでしまう。

「あんたね、生意気なのよ!」

はい来た。

は黙って中心人物を見つめた。

「何よその目!」

その瞬間、の頬に痛みが走った。
ヒステリックな先輩が、思いっきり頬を叩いてきたのだ。
ジンワリと痛みが広がる。
それでもは黙ってその女の事を見つめた。
怒りを通り越して呆れるしかない。
こう言うのに限って、こっちが反撃すると自分がやった事を棚に上げて大騒ぎするんだよねぇ。
どうしたものか・・・。
それにしても・・・都会は虐めが多いのかな?
のんびりと過ごしいた地元を思い出す。
みんなと仲良く、喧嘩などしたことなかった。
男子も女子もみんな仲良くて・・・何かあればみんなで協力して・・・。
しかしここではそんな甘い感情は無用らしい。
の黙秘にさらに頭に血が上ったのか、2・3発と続けて頬を撃たれた。
赤く腫れる痛みに、は奥歯を噛み締めた。
どう見ても、自分と彼女達の力の差は歴然としている。
手を出してはだめ。
は拳を握りしめた。

「なんとか言いなさいよ!!!」

そう言いながら大きく手を振り上げた瞬間だった。
ヒュン!っとの横を黄色い物がもの凄いスピードで通り抜けて行った。
だれもが唖然とする。
トントン・・・と壁に当たって落ちるテニスボール。
全員がそれを見て、後ろを振り返った。

「!?」

もそうだが、そこにいた女子全員が驚いた。
なにせソコにはリョーマを真ん中にレギュラー陣がジッとこちらを見つめているからである。
どうやらテニスボールを打ったのはリョーマのようである。
リョーマは帽子越にキッと女子達を見つめた。

「10発。」

いきなり言われた言葉。
はやれやれと苦笑した。
他の女は何の事だか分からずに、互いの顔を見合っている。

「あんたがを殴った回数だよ。」

は驚いてリョーマの事を見た。
この二日間、一度とたりとて名前で呼んでこなかった。
「あんた」とか「ちょっと」とか。
少しは仲良くなれたのかな?
それが少し嬉しいは微かに口元を上げた。
リョーマが一歩前に出ると、それを制するように不二先輩が手を出して止めた。
ふと見上げるリョーマ。
でも、そのリョーマの表情はいつもと違く、確実に怒りを露わにしている。

「なんすか。」
「いいから、ここはオレタチに任して。」

そう言うと不二先輩は、周りの女子の真ん中を通っての元へと行った。

「不二先輩・・・。」

赤く腫れた両頬を見て、不二はそっと手を当てた。
ヒリヒリとする感覚に、は自然と手から逃れようとした。
不二はソレを見て、ゆっくりと目を開けた。

「少しやりすぎたね。」

そう呟くと不二は後ろにたじろいでいる女子を睨み付けた。
今までなかったのだろう。
泣き出す者、腰を浮かす者、集団にどよめきたつ。
不二はを直接殴った本人を見つめた。

「不二君・・・。」
「まだムカツクなら、俺を殴っていいよ。」

そう言うと不二はを背に隠すように立った。
人に護られるなんて事がなかった
ただ呆然とその光景を見つめていた。

「な・・・そんなこと・・・」

不二の申し出に女子はどうしていいか分からず顔面蒼白している。

は、大切な子だからね、これ以上何かされると・・・俺達何をするか分からないよ?」

その言葉に完全に女子達の戦意は喪失。
そしてさらりと不二の出した言葉に硬直している者もあり。





はい・・・?


・・・となッ!?







は驚いて不二とそして女達の後ろにいるレギュラーを見る

「そうだにゃ。チャンにこれ以上まだ要件があるんなら、変わりにきくよん。」

菊丸先輩が前に一歩出る。

「精神的な攻撃はにとっては2%も影響しないな。」

何やらノートに書き込みながら話すのは乾先輩。

「俺達の許可なしにを苛めちゃいけねぇーな、いけねぇーよ。」

と言うのは桃先輩。
ニヤリと勝ち気な笑みを浮かべているし、かなりの熱血漢。

「・・・オマエ等・・・。」

ポツリと呟き、睨みつけるのは海棠先輩。

「君たちちゃんに用事があるなら、オレタチを通してからにしてくれないかな?」

優しい口調のわりには目は怒りに燃えているのは副部長の大石先輩。
そして腕を組みその様子を眺めているのは部長の手塚先輩。
何も言わない為に、余計に怖さが増している。
そして最後に・・・

「あんた達、空しくないの?」

ぐっさりと核心についてしまうのはやっぱりリョーマである。
もう逃げる場所がない女子達。
何も言葉をハッすることもできない。
すると手塚は、部員に道を開けさせた。

「行け。」

それだけ言うと、女達は逃げるようにその場から去って行った。
これだけメンバーに言われればもう何もしてこないだろう。
いくら虚勢を張っていたも、さすがに腰が落ちてしまった。
ぺたりとその場に座り込むに、メンバーが周りを囲んだ。

「大丈夫?チャン。」

さすがはテニス部の母親的存在の大石。
心配そうにの顔をのぞきこんだ。

「これを遣うといい。」

そう行って鞄から瞬間冷凍パックを渡したのは乾先輩。

「ありがとうございます。」

苦笑しながらそれを手に取るが・・・腰が抜けて立ち上がれない。
そんなを見て溜め息をつくリョーマはの手から冷却パックを奪い、パン!と拳を叩き込む。
パチパチと言う音とともに段々冷えてくる。
不二はその冷却パックに自分の持っていたハンドタオルを巻き付けた。

「はい、これだったら少しは痛くないでしょ?。」
「すみません、不二先輩。」

申し訳なさそうには頬に当てた。
ひんやりとして気持ちがいい。
と同じ視線にしゃがみ込んだ菊丸も心配そうにを見つめていた。

「本当に大丈夫かにゃ?」
「はい。」

猫のようなくるんとした瞳で見つめられれば、痛みも消えてしまう。
安心するようにニッコリと笑うに、安心したように菊丸も笑顔になった。

「乾、全部書き留めたか?」

みんなの輪よりも一歩下がった所にいた部長。
チラリと乾の事を見ると、乾は手に持っていたノートを見せた。

「もちろんだ。」

そこにはぎっしりと学年別にフルネームが書かれていた。
成る程。
さっき何かメモしていたのはあの集団の名前だったのか・・・。
え?!
それって全員の事が頭に入ってるってこと!?
驚きのあまりが、目を見開いて乾の事を見る。

「乾は青学一のデータマンなんだ。」

ニッコリ笑う不二には苦笑する。
そのノートを見る桃先輩にうひゃー!と声があがるのもわかる。
大石のそれを見て苦笑するしかなかった。

「これは明日の反省室は大盛況だね。」
「・・・ああ。」

うんざり顔の手塚。

「すみません・・・。」

別にが悪いわけではないのだが、なんとなく謝ってしまう
それに手塚はチラリとの事を見た。

「・・・が悪いわけではない。」

全員が驚いて手塚の事を見る。
それもそのハズだ。
決して名前で呼ぶ事のない手塚が、自ら呼んだ。
それが驚きなのである。
しかしリョーマとは周りが驚いている事に驚いていた。
何故そこまで部長の顔を見るのか。
不思議でしょうがなかった。
手塚は一つ咳払いをすると、赤くなった顔を隠すように視線を反らした。
優しいみんなに囲まれて、これからの生活が楽しみだった。
はニッコリと笑みを全員に浮かべた。
そして・・・






「みなさん、これからよろしくお願いします!!」








そんな明るいに全員も笑顔で答える。







「「「「「「「 もちろん。 」」」」」」」」」






ここから、彼らの夢が始まる。







後書き 〜 言い訳 〜
 
 
ここまで読んで下さり
心より深くお礼申し上げます。
 
 
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
 

執筆日 2010.12.31
制作/吹 雪 冬 牙


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