『 幸 せ な 二 人  前 編 』

「いくよ。」

強いサービスを打たれて相手コートにいる1年は身動きが取れなかった。
レギュラージャージを着ている2年の 
2年にして女子のテニス部部長を任され、生徒副会長をしている。
テニスのうまさは、さすがは青学と言う感じ。
今相手コートにいるのは女子部員でなく、男子部員だった。
あまりのスピードに手も足も出ない状態だった。
審判は手塚部長が行っている。
ベンチに座り、試合の人以外がみんなの試合に視線を送っていた。
もちろん1年のルーキーとして有名な越前 リョーマでさえも。

手塚「ウォンバイ 。」

はフウと肩の力を抜くと、ネットの近くまで歩いていき、手を差し伸べた。
そしてニッコリと明るい笑みを向けたのだった。

「お疲れ様。これからだから頑張ってね。」

そう言うのがの日課となっていた。
手塚の腕が故障してから、もっぱら1年の相手はが担当していた。
それもそのハズである。
は全国区の実力の持ち主である。
あの不二とも互角以上の戦いを繰り広げたぐらいだ。
はふとベンチに座っている越前の事を見た。
射抜くような瞳で見つめる越前が、頼もしく見えて、またこれから伸びる成長を見るのが楽しみだったのだ。

不二「お疲れ、。」

タオルを持って近付いたのは、やはり不二だった。
笑顔でタオルを受け取るはどんなに辛いメニューでも決して笑みを絶やさない。
その点では不二と同じなのだが、笑顔の種類が違うのだ。
の明るさは、青学テニス部のムードを盛り上げる為に必要不可欠だった。
だからレギュラー陣がに好意を持っているのは間違いなく、またそれはが入ってから2年間横線の状態が続いて居たのだ。



抜け駆け厳禁。



いつしか暗黙の了解で出来た掟。
しかし、その所為で誰もがとの一歩を踏み出せずに現状を維持を続けているのである。
だが、それも今年の1年が入った事で好転を迎えようとしていた。
生意気なルーキー越前が、そんな事お構いなくとの一歩を踏み出そうとしていたからである。
何かにつけては話しかけ、出掛ける口実、一緒に帰る口実を付くっている。
に至ってはまったく興味がないのか、別に好きな人がいるのか、反応はいまいちだった。
だが、このメンバーで一番有利なのはミクスドのペアである不二だ。
何かにつけて近付いても、テニスの話しを出来るし、一緒に休日を過ごす事も可能だった。
人より努力を惜しまないだから、休日も必ずテニスをしているのを不二だけが知っていたのである。
と不二が楽しそうに話しているのを見て、越前は帽子を深く被り直した。
どうやっても1年のブランクは埋める事は出来ない。
無理な事に悔やんでもしょうがない。
頭では分かってるつもりなのだが、そこはまだ中学1年生。
感情がうまくついて来ないのである。

竜崎「リョ・・・リョーマ君。」

か細い声で越前は顔を上げた。
目の前には顔を真っ赤にした竜崎がラケットを胸の前で抱えて立っていた。

越前「何。」
竜崎「えっと・・・あの・・・少し教えて欲しいんだけど・・・」

その言葉にすぐ近くにいた桃城と菊丸が間髪入れずに冷やかし始めた。
ひゅーひゅーとかお暑いねぇ・・・とか。
無論、竜崎の顔はこれ以上ない程に赤くなっていた。



ポコポコ!!



桃城「いて!」
菊丸「いた!」

無視して竜崎を連れて外に出ようとした時だった。
後ろからそんな声が聞こえて振り返ると、が桃城と菊丸の頭をラケットで軽く殴っていた。
越前は目を見開いた。
先程まであんなに不二と楽しそうに話していたと言うのに。
は、チラリと越前の事を見るとニッコリと微笑んだ。

越前「!!」

帽子をまた深く被り直すと、竜崎が隣りでお辞儀している所が見えた。


そっか。


俺にじゃなくて、竜崎に笑ったのか・・・。



越前はなんとなく心が暗くなるのを感じた。
だが、次の言葉で俺の心も晴れ渡る事になった。

「越前君〜、私も一緒に行く〜。」

へ?


今度こそ越前は驚き目を見開いた。
不二も一緒に来る訳でもなく、後ろでレギュラー陣が越前に睨みを聞かしていた。
は手塚に一言話すと、そのままラケットを持って二人に近付いた。

「私のフォームも見てもらいたいんだ。」











は?











あんなに強くて綺麗なフォームなのに・・・。
越前は無言で訴えた。
しかしは苦笑しながら左手でラケットを持った。

「私、本当は左プレイヤーなの。」

知らなかった。
今までの練習で決して左なんて使ってなかったのに。
越前は黙っての事を見つめた。

「壁打ちでしょ?」
越前「そーっすけど。」
「じゃ、竜崎さん見ながらたーまにこっちも見て欲しいな。ダメかな?」

首を傾げられて断れる奴がいたら見てみたい。
越前は別に。と軽くあしらうと壁打ちの場所まで歩いて行った。

「がんばろーね、竜崎さん。」
竜崎「はい!」

明るい元気な声。
壁打ちを初めてから、の事を見る余裕なんてまったくなかった。
あまりにも竜崎がヘタ過ぎて、目を離すとすぐにフォームが崩れる。
それでも、たまに横目での事を見てみれば真剣にボールを打ち返していた。

竜崎「きゃ!」
越前「はぁ。」

溜め息もつきたくなった。
これで何度目だろう。
竜崎が遠くへボールを飛ばしてしまったのは。
しかも目の前で竜崎は転んでいるし・・・。
越前は竜崎に手を差し出した。

越前「つかまれば?」
竜崎「ありがとう。あ、私ボール探してくるね。」

そう言って竜崎はボールを探しにその場から姿を消した。
もそれを見ていたのか、すでに壁打ちを辞めて竜崎の事を見ていた。
居なくなってから、は越前の事を見つめた。

「根気よく教えてね。みんな最初はああなんだから。」
越前「ねぇ、先輩は俺に何処を見て欲しかったの?」

そう言うとは壁に近付いた。
先程からうち続けた所が黒くなっている。
それをさすると越前の方に振り返った。

「部長みたいにね、一ヶ所にボールを集められないの。」

そう言われて越前もの近くに寄った。
確かにいくつかばらけた跡は付いていた。
だが、そんなに気にすることもないのだ。

越前「手首の筋肉がまだまだだね。」

そう言うとは自分の手首をみつめた。
固定する力が足らないか・・・と呟く。

越前「ねえ、ちょっと打たない?」
「え?」
越前「ボール2つで。」

そう言うと越前はにボールを1個手渡した。

越前「いくよ。」

それだけ言うと、越前はボールを打ち始めた。
もそれに反応するように打ち始める。
ほとんど絶え間なくラケットを動かすと、微かに越前の足が動いた。
それを見てはボールを止めた。

「なるほど。」

越前はニヤリと笑みを作った。

「ありがとう、教えてくれて。言葉より実践て奴ね。」

にっこりと笑うに越前は、静かに近付いた。

越前「ねぇ、ご褒美・・・ないの?」

ご褒美・・・?
は困ったように上を向いた。

「じゃーファンタ1本。」
越前「嫌だ。」

嫌ってねぇ・・・。
は益々困ったように、考え始めた。
すると越前はジッとの顔を見つめて言い切った。

越前「今度の休み・・・先輩の時間、全部俺に頂戴。」
「私の時間?」
越前「ダメっすか?」

別に休みもストリートテニスに行くつもりだったは、別に問題ないと快諾した。
すると越前は何かを企んでいるように口元をクッっと上げたのだ。

越前「それじゃ、今日一緒に帰るから。」
「へ?」
越前「校門でね。」

それだけ言うと越前は戻ってきた竜崎にまた教え始めた。
はと言うと、そのままその場を跡にしたのだった。
一体何を考えているのか・・・?
は疑問混じりにコートへと戻った。

不二「練習出来た?」
「うん。」
不二「竜崎さんの方ばかり見てて、あんまり見て貰えなかったって顔だね。」

苦笑するに不二はポンと背中を叩いた。

不二「試合だよ。」
「うん!」

ともかく今は練習だ。
はそう思い直してコートへと戻って行った。




つづく

後書き 〜 言い訳 〜
 
 
ここまで読んで下さり
心より深くお礼申し上げます。
 
 
これにこりず、後編も読んで頂けますと幸いです。
 
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
 

執筆日 2010.10.31
制作/吹 雪 冬 牙


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