『 幸 せ な 二 人  後 編 』

部活終了後、みんなのお誘いをことごとく断って、急いで校門へと行った。
すでに越前は待っていた。

「ごめん!」
越前「いいよ、別に。」

そう言うと越前はの歩幅にあわせてゆっくりと歩き始めた。
途中で何を話すわけもなくただ沈黙だけが支配した。
ふとストリートテニス場を見付けると、越前は立ち止まった。

「何?」
越前「先輩、ちょっと打ってきません?」
「へ?・・・いいよ。」

そこはダブルス専用のストリートテニスコートだった。
何人もの知っている中学の人達が着ていた。

「おう、じゃねーか!」
「おっす!今日は何組勝ったの?」
「まーだ5組だよ。」
「じゃ、それもここまでね。」

そう言うとは越前の事を振り返った。

「越前君、ミクスドになるけど、いい?」
越前「別に。」

嬉しい気持ちを押さえて越前は、あえて冷静に徹した。
今まで不二が一緒にコートに立っていた。
それがだれだけ羨ましかったか・・・。
は知らない。
越前は愛用のラケットを手に持つと、上着を脱いでコートの中に入った。
試合が始まってものの5分で、終了。
話すのもばかばかしいほどのあっけない勝負だった。
の周りに人が集まり、の栄誉を称えた。
その時だった。

跡部「ほう、珍しいのがいるじゃねぇーの。」

聞きお覚えのある声に、越前はゆっくりと背後を見た。
そこには氷帝の部長跡部が立っていた。

跡部「、この俺様の許可ナシにミクスドなんざやってんじゃねぇーよ。」

そう言うと跡部は越前の事を睨みつけた。

「景吾!どーしたの、こんな所で。」
跡部「お前の親がまだ帰ってこないって連絡があったんだよ。」
「あちゃー・・・そりゃごめん。」

話が見えなかった。
越前は跡部とを見比べた。
一体どういう関係なんだろうか?
するとは跡部の隣りに立った。

「私の幼友達なの。景吾は知ってるよね?越前君の事。」
跡部「ああ。青学の柱となるべきルーキーだろ?お前が毎日のように電話で話すからな。
覚えたくなくても覚えちまってるよ。」
「えーそんなに話しるっけ?」
跡部「ああ。毎日な。」

どこか甘えているような、安心したの表情。
先輩としてでの顔ではなかった。

越前「ねぇ、勝負してよ。猿山の大将。」
跡部「ほう。お前のとこの1年は口のききかたってもんを教えてねぇらしいな。」
「あら、越前君の言葉当たってるじゃない。否定はしないもーん。」
跡部「、てめぇ後で覚えてやがれ。」

そう言うと跡部は、コートの中に入って行った。
するとは困ったように首を傾げた。

越前「なんすか。」
「私はどっちに入ればいい?」

そうここはダブルス専用なのだ。
は跡部と越前を見て、越前のコートへと入って行った。

跡部「おい。」
「やっぱし、同じ学校同士がいいもん。」
跡部「俺はいないだろーが。」
「いるよ、ほら。」

差された方を向くと、そこには氷帝のレギュラーがにやにやした顔で観戦していた。
特に忍足の顔はスマッシュをカマしてやりたい程、ニヤケタ顔だった。

跡部「忍足、入れ。」
忍足「えーちゃん敵にまわしとーないなぁ。」

そう良いながらもラケット持ちながらコートに入ってくる。
直後、の体が強張った。

越前「先輩?」
「越前君、絶対に勝とうね。」
越前「?」

向日の審判で試合は始まった。
跡部が早く帰りたいと言うことでワンマッチゲームになった。
ハンデの為にサービスは青学からだった。
はギュッとグリップを握った。
高くボールを投げると、打つと同時に聞き覚えのある言葉を発した。

「踊って貰うよ!」

一瞬跡部は驚いた顔をした。
それもそのハズだ、自分の得意技を突然披露されたからだ。
かろうじてボールにくらいつく跡部に、越前は浮いたボールをスマッシュで決めた。

越前「決めるよ。」

しかし、不二と同様、カウンターが主体の忍足に軽くそのスマッシュを取られてしまった。
高くあがったボールはまたしてもへと届いた。

「甘い!」

そう言うと同時には高いロブを上げて跡部に挑戦状を叩きつけた。

跡部「おもしれーじゃねぇーの。俺様の美技に酔いな!」

そう言うと手首めがけてスマッシュを撃ち込んできた。
その拍子に越前の手からラケットはフッ飛ばされた。

「リョーマっ!どいて!!」

真後ろから突然の声が聞こえて、確認するよりも早くその場から身を引いた。

跡部「遅いぜ!」

2回目のスマッシュが来たが、はラケットを左手に持ち替えて高いロブを上げた。

跡部「フン!やるじゃねぇーの。」

その言葉と共に跡部はネットわきへとドロップを落とすと、はわかっていたかのようにネットへと詰め寄っていた。

「リョーマ、来るよ!」

の言葉で越前は急いでラケットを広い上げた。
案の定、忍足のボールは越前へと打たれた。

越前「ふーん。ドライブA」

越前の技に跡部と忍足は取る事は出来なかった。
互いに肩が上下している。
見ている観客は、あまりの白熱の試合に息を飲み込んでいた。
まだたった1点。
これからどうなるのか、予想もつかなかった。
越前はボールの当たった手首を見つめた。
左右に振り、無事を確認する。
はサービスラインへとまた立った。

「いっけぇ!」

早いサービスがから放たれる。
しかし忍足はそれをまたもや軽く返した。
ネット前に詰め寄っていた越前がそれに応戦する。
さすがは強者氷帝のレギュラー。
まったく隙がなかった。
そんな事をふと考えていると、今度は跡部が高いロブを上げてきた。
へと挑戦状と言うわけだ。
はニヤリと口元を上げた。

「取る!」

越前はチラリとのラケット見た。
あの握りは・・・?
その瞬間、相手コートに放たれたのはツイストスマッシュだった。
しかし、忍足もそれが分かったのかすでに羆落としを放っていた。
なんとかボールにおいつくだか、その返したボールは浮いて甘かった。

跡部「ふぬけてんじゃねぇーよ!」

そう言いながら強いスマッシュが炸裂した。
しかし、はそれすらも取っていたのだ。

「誰が腑抜けよ!」
跡部「忍足、取れ!」

高いボレーでは、なんとか体勢を整えようとした。
だが、忍足の早いショットで、点数を取られてしまったのだ。



15−15




互いに遊びから本気に変わってしまったのだ。
負けられない。
は忍足を睨みつけた。
越前はあまりにもらしくないプレーに疑問を持った。
だが、はすぐにサービスを放った。
今度はに集中するつもりなのか、跡部と忍足は交互ににボールを渡していた。



にゃろう・・・。




越前は、突然後ろに走り出した。

越前「、前!!」

は頷くと、そのままネットへとダッシュした。
変わりに越前がボールを取るようになった。

越前「決める!」

微かに浮いたボールをスマッシュで決めた。





15−30







ビシッとラケットを跡部と忍足に向けた。

越前「汗だくジャン。」
跡部「フン。」
忍足「少し教育が必要なようやな。」
越前「、決めるよ。」
「オッケー。」

は数回ボールを付いてから、サービスを始めた。
今思えば、ハンデなんていらなかったのかもしれない。
それからは互いに一歩も譲ることなく15分以上もラリーが続いていた。

越前「!」

跡部からの強烈なスマッシュが入ってきた。
しかしはコートに一瞬背を向けた。

「オッケー!」

そう言うとはクルリと回転して、不二の得意とするカウンター技を披露した。
唖然とする跡部と忍足。
は、ゆっくり立ち上がるとニヤリと笑みを作った。

「一度やってみたかったんだよね。」

コツンとラケット同士を合わせると越前。
そんな試合を、たまたま通りかかった手塚は木陰から見ていた。
いくら遊びとは言え、あのコンビネーションは・・・。
不二との動きも良いが、越前を上手くコントロールしているに、手塚は感嘆の声をあげずにはいられなかった。

越前「、次で決めるよ。」
「もちろん。」

きゅっとグリップを持つと、は懇親の一撃を放った。
それはリョーマの得意とするツイストサーブだった。
数分のラリーが続いていたが、が最後に放ったボールで試合は終わったのである。
手塚は目を見開いた。
それもそのハズだ。
が最後に放ったのは、手塚にしか仕えないはずのゼロ式ドロップだったのだ。
しかも完璧にコピーしていた。
跡部達はすがすがしい笑みを浮かべた。

跡部「やるじゃねぇーの。。」
「へへへ!リョーマのおかげだもーん。」

いつのまにか呼び方が変わっている事に気付かないのか、は嬉しそうに越前に笑みを浮かべた。

越前「。」
「ん?」
越前「俺、ミクスド・・・やる。不二先輩の後、俺が継いでもいいよね?」

は少し黙った。
越前は青学の柱となるべき存在。
それは部長にも言われている。
手塚の後継者だと言うことも・・・。
これから青学を引っ張る立場の彼をミクスドなんかに引き入れて良いのか・・・。
彼はシングルスとして活躍するはずだ。
は黙って下を向いた。
すると跡部がの肩に自分のジャージを乗せた。

「景吾。」
跡部「経験の多い方がより強く高くなれる。そう言うもんだろう?手塚。」

突然後ろを振り返ったので、と越前は驚いた。
すると暗がりから、手塚がゆっくりと姿を現した。

「部長・・・。」
手塚「越前、本気だな?」

越前は静かに頷いた。
すると手塚はの方に向き直った。

手塚「、オレタチの目的は全国制覇だ。その為にはどんな手段も使う。いいな。」

それは越前がミクスドになる可能性がある事を示していた。
はゆっくりと頷いた。

跡部「、しばらくは恋愛感情は休ませないとな。」

ニヤリと人の悪い笑みを浮かべた跡部に、は慌てて飛びついた。

「だめー!!景吾!!言っちゃだめー!!」
跡部「何がだよ、越前としばらくイチャつけねーって言ってるだけだろ。」

越前は驚いての事を見た。
の顔は今まで見た事のないほどに真っ赤に染まっていた。
やれやれ・・・とその場を退散するメンバー達。
コートに残されたのは、と越前だけだった。











越前「今の・・・ホント?」








「え・・・とぉ・・・。」









暫く黙っていたが、は小さく頷いた。
すると越前は、一歩に近付いた。









越前「良かった・・・。」





「へ?」
越前「俺も同じ気持ちって事。気付いてなかったの?」
「全然・・・。」
越前「(くす)、明日何処に行こっか。オレタチの初デート。」

少年らしい嬉しそうな笑みを浮かべた越前。
はしばらく見取れていたが、もまた嬉しそうに頷いた。

「一緒にいれればどこでもいい。」

その言葉に越前は照れたように微笑むと、の手を握った。

越前「送るよ。」
「ありがと。」

二人は荷物を持って、手を繋いだままコートを後にした。
それは誰が見ても、幸せそうなカップルだったとか。



終わり


後書き 〜 言い訳 〜
 
 
ここまで読んで下さり
心より深くお礼申し上げます。
 
 
 
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
 

執筆日 2010.10.31
制作/吹 雪 冬 牙


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