文化祭 前編
蔵馬は、校門に背を預けてふと見上げる空。
彼女を想像させるような快晴。
今日は盟王高校の学園祭。
校門を出入るする一般客から、何かと見られるが・・・今日は気にならない。
何せ・・・
「秀一!!」
そう呼ばれて、母さんの姿。
その隣には、幽助、桑原君、飛影、蛍子ちゃん、雪菜ちゃん、静流さん、幻海師匠、
コエンマ、陣、凍矢そしてぼたんの姿。
これまた大勢様で・・・蔵馬は、想定以上の人数に、預けていた背をずらした。
はぁ・・・
チケットないのに、どうするんだろう。
1枚につき5名までしか入れない。
3枚は必要になる。
手元にあるのは1枚のチケットしかないと言うのに。
にっこりと笑みを浮かべて、ぼたんの隣り歩く幽助へと近づいた。
「幽助、これは一体?」
「いや、ちょーっと話したら皆暇だっつーからさ!連れてきたって訳よ。」
連れてきたって・・・。
しかも母さんに紹介していない奴らまで、一緒に来るとは。
ぼたんは、ポケットから蔵馬にあらかじめもらっていたチケットを取り出した。
「蔵・・・じゃなかった。えっと・・・」
「秀一。いつも通りに呼んでいいよ、ぼたん。」
ニッコリと笑みを浮かべた途端に、ぼたんの顔が火がついたように真っ赤になった。
かわいい。
久しぶりに見たぼたんの顔。
こんなかわいい顔されたら、いじめたくなってしまう。
本当に困った人ですね・・・ぼたんは。
「しゅ・・・しゅ・・・秀一・・・。」
小さな声で、初めて人間名で呼ばれて、俺の鼓動がドクンと高鳴った。
恥ずかしそうなぼたんの声。
もう少しからかってもいいのですが・・・。
ぼたんの逆となりにいる目つきの悪い虫。
その後ろには、ニヤニヤとぼたんを嫌らしい視線で見つめるコエンマ。
まったく。
ぼたんに近づくと、チケットをのぞき込んだ。
「ソレ。5人しか入れないので、海藤にチケットもらいますね。」
「あ、うん。」
携帯で連絡をとって、海藤に校門まで来てもらえば、その人数の多さに驚いていた。
それも当然だろう。
8割方が人間ではないのだから。
とりあえずと、パンフレットを渡して昼過ぎに会う約束をして、その場から別れた。
もちろん・・・
俺は携帯を開くと、手早くぼたんの携帯を呼び出した。
少しの呼び出し音で、すぐにぼたんが出た。
『もしもし?』
「ぼたん、すぐに3階まで来てください。いいですね?」
『あ、うん。』
そのままの足で、3階の踊り場でぼたんを待つこと5分。
階段を駆け上がってくるぼたんに、俺は口元が緩むのが隠せなかった。
俺を見つけた途端に、ぼたんはうれしそうに笑顔を見せて、俺へとダイブしてきた。
「蔵馬!」
「おっと・・・久しぶりですね、ぼたん。」
お互いに顔を見合わせては、うれしそうなぼたんの表情。
数人の生徒が、俺の脇を通って行く。
それは驚いたような表情で。
ぼたんの頬へと手を触れると、ぼたんの頬が少しだけ赤くなった。
「会いたかったですよ。今日は来てもらってすみませんでしたね。」
「すっごく楽しみにしていたんだよ。蔵馬の劇も楽しみだしね。」
嫌な事を思い出させられて、蔵馬はげんなり・・・とした。
別にやりたくてやる役でもない。
どうしても言われて断り切れなかったと言うのと、クラスでの選抜で選ばれてしまった
のだから、仕方なかった。
「俺のクラスの出し物は最後ですから。それよりも、何て言って出て来たんですか?」
「え?ああ、幻海ばーちゃんと静流さんにはバレちゃって。適当にしておくから、行って
おいでって言われたんだよ。」
なるほど。
後で何かしらのお礼しないといけませんね。
俺は安心したようにぼたんの手を取った。
「俺、実行委員長なんで、見回りとかしないといけないんですよ。」
「そうなのかい?学校行事っても大変なんだねぇ。」
にっこり
蔵馬は満面の笑みを浮かべた。
「ですから、ぼたんもつきあってくださいね。」
しっかり握られた手。
いつもはこんな事しない蔵馬が、積極的に手を握ってくれるのはうれしい。
だが、恥ずかしさの方が上回る。
ぼたんは赤い顔が気づかれないように、顔を少しだけ俯かせた。
そんなぼたんを見て、さらに蔵馬は笑みを深くした。
「ぼたん、かわいい。」
「なっ?!」
「そんなかわいい顔ばかりしないでください。キスしちゃいますよ?」
「?!」
ぼたんの顔がこれでもかと言う程に真っ赤になった。
本当にぼたんは飽きない。
いつまでもからかっていたいくらいだ。
クスクスと笑い押さえる俺を見て、ぼたんも自分が遊ばれいた事に気づいたのか、少しだ
け怒ったような表情で、俺の背中をポカポカと叩いてきた。
それすらかわいい行動だと自覚がないのだろうが。
「すみませんでした。じゃー、あとで外でクレープでも奢ります。」
「むぅ・・・わかった。」
声を出して笑う俺。
すれ違う生徒達は、驚き立ち止まる。
ぼたんの手をしっかり握りしめながら、俺は校内の見回りを開始した。
各教室を覗いては、状況と客の入り状況を調べていく。
入りが悪い所は、呼び込みを認めたり、値下げを認めたりと、淡々と作業をこなして
いく。
俺が作業してる間は、そこの教室の催し物を見学したり、その場にいた人たちに好奇の
話しで囲まれたりのぼたん。
俺が彼女を連れ歩いてると言う噂は、一瞬で学校中の噂となった。
今まで浮いた話しの一つもなかった所為もあるのだろうが・・・。
何よりも、今までも告白を全て断ってきた俺に、彼女が出来たと言う事実に、生徒の
驚きは大きかったようだ。
「それじゃ、後はこのままでお願いします。ぼ・・・。」
クラス長と話しを終わらせて、ふと振り返ると・・・
ぼたんのまわりには男だらけ。
ジュースを手渡したり、綿飴を渡したり、チケット渡したりと、ぼたんの両手には抱え
きれないほどの献上の品で溢れかえっていた。
まったく・・・少し目を離すとすぐこれですね。
俺は静かに近づくと、ぼたんの手を掴むと自分の方へと引き寄せた。
「うわっ!」
トンと俺の胸の中に戻ってきたぼたん。
俺は、ぼたんを抱きしめるとチラリと男共に視線を向けた。
そして、いつも通りの笑みを浮かべた。
「そろそろ、返して頂きますね。」
全員が、青ざめた顔をしたのは気のせいではないだろう。
隣にいたぼたんですら、青ざめた顔で俺を見上げていたのだから。
「次、行きましょう。」
「あ、うん。ちょいと、待っておくれよ。」
ぼたんは俺の手を離すと、唖然としてる男どもへと2.3歩近づいた。
するとぺこりと頭を下げた。
「皆、色々くれてありがとう。」
その直後にうれしそうな満面な笑みを浮かべたぼたんの表情。
そんな表情・・・こんな人間共にする必要ないと言うのに・・・。
俺は面白くなさそうに、ぼたんの背中を見つめた。
くるりと俺の方へと振り返った、ぼたんは少しだけ驚いたような表情をした。
手元にあった綿飴を少しだけちぎると、ぽんと俺の口元へと出してきた。
「これ、すごく美味しいよ。はい、あーん。」
自然とぱくっと口を開けば、「ね?」と嬉しそうなぼたんの表情。
たった一つの行動で、俺の中の黒い怒りはもの見事に消えていく。
これがぼたんの凄い所だと思う。
「・・・甘い。」
「甘くないと綿飴とは言えないねぇ・・・。」
「ぼたんが食べさせてくれたから、余計に甘いって事。」
「もう。」
そんな会話をしながらも、俺はチラリと呆然としている生徒へと視線を送った。
クス・・・。
自然と軽くあがる口元。
ぼたんを連れて、その場から離れると同時に、教室から絶叫が聞こえてきた。
「南野ーーー!!!羨ましすぎるぞ−−−−!!!」
「俺達にも分けろ!!!!」
分けるわけないでしょう。
あまりにも馬鹿馬鹿しい絶叫に、蔵馬は頭を押さえた。
それからと言うもの。
行く場所、行く場所でぼたんは、モテモテだ。
まったく。
何の為に手を繋いで歩いていると思ってるのか・・・。
ふと時計を見ると、昼を指していた。
俺は、他の女子を話しているぼたんの会話の中へと入って行った。
「すみません。ぼたん、母さん達と合流しよう。」
「おや、そんな時間かい?それじゃ、みんながんばってね。」
「では。」
フワリと笑うぼたん。
にっこりと笑う蔵馬。
教室を出る時は、仲良く手を繋いで出て行く二人に対して。
最初は好奇の目を向けていた生徒達も、そのほんわかした二人の間の空気を憧れを抱くようになった。
羨ましいと言う羨望のまなざし。
ぼたんが一つ一つに笑みを向ければ、男子は真っ赤になって固まり。
蔵馬が「がんばって」と応援すれば、女子は卒倒する者も出る。
静かな嵐のように、各教室で旋風を巻き起こした二人。
屋台が並んでいる校庭へと足を向けた。
すでにそこに幽助達が席をぶんどって、昼ご飯をはじめていた。
「おお、ぼたん。おめー迷子になるなんて、アホだなぁ。」
開口一番の幽助の言葉。
ぼたんは苦笑するしかなった。
俺は一つの椅子を引いた。
「ぼたん。」
「はいな。」
引いた椅子にぼたんは自然に腰を下ろす。
俺はそのまま、ぼたん隣に携帯電話を置くと、席を離れた。
「・・・蔵馬さんっていつもああなの?」
「ほえ?」
蛍子ちゃんの驚いた表情のまま。
いつも?
質問の意味が分からなくて、ぼたんが首を傾げると、静流さんが助け船のようにニヤリ
と人の悪い笑みを浮かべた。
「さすが蔵馬君、紳士よね。レディの椅子の引くなんて、カズもそれくらい出来ないとねぇ。」
「あ。」
確かに。
幽助が蛍子ちゃんの為に椅子を引くなんて事はしないだろう。
まずは自分が座ってから、早く座れよって感じなはずだ。
ぼたんは、少しだけ顔を赤くした。
「普段からしてくれるから、慣れちゃって。」
「ふーん、慣れるほど会ってるんだねぇ。」
さらに意地悪い笑みを浮かべた静流さんの表情。
ぼたんは降参と言わんばかりに両手を小さく挙げた。
そこに冷たいお茶をもってきた蔵馬が現れた。
「静流さん、あまりぼたんを虐めないでもらえます?」
「おやおや、ごちそうさん。」
カチリとたばこに火をつける静流。
蔵馬は苦笑しながら、母親へとお茶を持って行った。
「母さん、大丈夫?疲れてない?」
「大丈夫よ。皆さんから、色々と普段の秀一の事を聞けて楽しかったわ。でも、一つだけ
不思議な事があるの。」
不思議な事?
母親の言う疑問に、全員が視線を向けた。
「なんで秀一は「クラマ」って呼ばれてるの?」
「え・・・。」
全員が血の気が引いた瞬間だった。
もちろん蔵馬も例外ではない。
そんな全員の表情をさらに不思議そうに見つめる母。
普通に話していたから、「蔵馬」と言っていることに気づかなかった。
全員が思ったに違いない。
「あ、愛称だよ、愛称。」
「あら、そうなの?でもなんでクラマ?」
「・・・。」
あの蔵馬が言葉を無くした。
母、強し。
各々の心で思ったとか思わなかったとか・・・。
「そんな事よりも、腹が減った!!」
「あんた、あんだけ食べてまだ食べる気!?」
幽助と蛍子ちゃんの夫婦漫才が始まると、誰もがそちらへと気が向いた。
その事にほっとした蔵馬は、ぼたんの隣の席へと腰を落ち着けた。
「はぁ。」
「大変だねぇ・・・大丈夫かい?しゅ(///)、秀一?」
「ええ、なんとか。」
心底疲れたような表情の蔵馬。
コエンマはふと、蔵馬の持つ携帯に視線を向けた。
その視線を受けて、蔵馬も自分の携帯へと視線を移した。
「その携帯・・・ぼたんと同じじゃな。」
「ええ、そうですよ。俺が準備したものですから。」
「・・・ワシは聞いとらんぞ、ぼたん。」
「いくら上司だからと言って、貴方の許可が必要なものでもないでしょう?」
「そうかもしれんが、部下を把握するのも上司の勤めじゃ。」
「プライベートまで把握する必要はないと思いますが?」
見えない火花を燃え広がる。
蔵馬とコエンマが会えば必ず勃発するこの空気。
ぼたんは、苦笑しながらも、大きなため息をついた。
「大変だべなぁ、ぼたん。」
「陣・・・口元にソースついてるよ。」
クスクス笑いながら、ぼたんは陣の口元へと手を伸ばした。
クイっとソースを拭き取ってやると、そのまま口へと運んだ。
ごく自然な仕草。
だが、やられた陣は顔を真っ赤にした。
「は、」
「は?」
「破廉恥だべ!!!ぼたん!!!俺はまだ、死にたくねぇだ!!!!」
どわぁぁぁぁ!!!と妙な叫び声をあげながら、暴走して去っていく陣。
そんな陣を呆れたように見つめる凍矢の姿。
「はぁ・・・まったくあいつは。お前も、軽々しい事は避けるべきだな。」
「あ・・・ごめん。つい癖で。」
「お前は別に良いかもしれんが、周りが迷惑する。」
そう言った瞬間にクイと首を蔵馬へと向ける。
蔵馬は顔を俯かせて、黒いオーラを発している。
ありゃりゃ・・・。
凍矢の言わんとしてる事を理解した、ぼたんはどうしたものかと蔵馬の顔を覗きこんだ。
「蔵馬?」
「・・・何したんです?今。」
「えっと。」
「まぁまぁ、蔵馬君。ぼたんちゃんだって、ワザとやったんじゃないんだから。ボランティア精神だよ、ボランティア。」
静流の言葉に本当かと問うような蔵馬の視線。
ぼたんは必死に首を縦に何回も振り続けた。
「はぁ」とため息をつくと同時に、蔵馬はあきらめたように頬肘をついた。
「確かに、こんな事で怒っていてもキリがないですからね。ボランティアで納得して
おきます。」
「なら、ぼたん。ワシもそのボランティア・・・」
ニヤケた顔のコエンマの表情が一転。
全身に冷や汗をかいている。
それもそのはずだ。
言った瞬間に、テーブルの下では、蔵馬が植物を操り、足下にローズウィップを絡ませ。
背中からは、飛影が剣を突きつけていたのだから。
「なんです?コエンマ様。」
「い、いやなんでもない、なんでも。」
声が上づっているのは気にしないでくれと言わんばかりのコエンマ。
その早業の二人から、解放されると同時に、ため息をついた。
そんな三人を見つめていた凍矢も深いため息をつかざる終えなかった。
「俺は陣を探してくる。」
「あ、なら私も一緒に行くよ。」
「いや、貴方の話を聞きたがっている人がいる。」
それだけ言うと、凍矢は薄く口元をあげてその場から、陣が走っていた方へと足を向けた。
そんな凍矢の珍しい表情に、ぼたんは唖然として背中を見送った。
「凍矢って、かっこいいねぇ。あっちでもモテるだろう?」
クルリと蔵馬の方へと視線を向けると、凍矢の背中へと視線を送る。
そう言えば、凍矢のそう言った話しを聞いた事がないな。
たぶん、モテルとは思うが・・・。
妖怪の雌が群れてる所も見た事がない。
実際にどうなんだろうか?
いつも陣と一緒にいるとしか認識していなかったな。
「気になりますか?」
「ううん、ちょっと思っただけ。それよりもお腹すいたね!!何か買ってこようかね!」
「あら、ぼたんちゃん。私も一緒にいくわ。秀一の為に、こんなに集まってくれたん
ですもの。せめてものお礼にね。」
母親の奢ると言う言葉で、幽助と桑原は両手を挙げて喜び。
コエンマと幻海はそんな二人を見て、深いため息をつくしかなかった。
〜 言い訳という名の後書き 〜
こんばんは、たまはこんにちは♪
吹雪冬牙です。
常磐様、本当に遅くなってしまって申し訳ないです!!
そして、人様に献上するお品物を前編・後編してしまって申し訳ないです。
どうぞよろしければ、お納めくださいませ〜m(_
_)m
※こちらの作品は13000HIT致しました
常磐様のみお持ち帰りとなりますので、ご了承くださいませ。