文化祭 後編
「これより、2年Aクラスによります、劇を上演致します。」
体育館の中。
9割が女子。
そんな中に、ぼたん達一行は、前の方に席を確保して座っていた。
いよいよ、蔵馬の主演の劇が上演されるのだ。
どんなにぼたんがどんな劇かと蔵馬に聞いても、「当日のお楽しみ♪」と教えてくれな
かったのだ。
少し楽しそうだった蔵馬の表情から見ても、面白いものに違いない。
ワクワクしながら暗幕が開くのを待った。
「本当によろしいんですか?」
「いつも秀一君には、部下じゃなくて妹がお世話になっているので、これくらいは。」
母親からビデオカメラを取り上げると、コエンマが舞台へとカメラを向けた。
い・・・妹。
ぼたんとコエンマの関係は、どうやら兄妹設定らしい。
それにしても、あのコエンマ様がカメラを回すなんて・・・霊界の人たちが見たら
卒倒ものだろう。
「幽助、これどうやってやるんじゃ?」
「ああ?コー言うのは・・・ほい、桑原。」
「なんで俺なんだよ!!」
使い方が分からないと、カメラは次々へと手を渡っていく。
最終的に静流さんに殴られ、雪菜ちゃんに「がんばってくださいね、和真さん」の
一言で、カメラマンは桑原に決定した。
ビーっと開始の音がなると、体育館がシーンと静まり返る。
静かに部屋の明かりが消えると、幕が開いた。
全員が息を飲み込んだ。
そこに現れたのは、見た事の内容な衣装の蔵馬。
頭上に少しだけ髪を結いまとめ上げ、剣を持ち、怪我をしてるのか、胸を押さえながら振り返る。
『はぁ・・・はぁ・・・。皆、余の為に・・・。』
その一言だけ言うと、蔵馬は舞台を軽々と飛び降りて、観客席の真ん中の空いている通路
を走り去っていった。
その直後に、追ってと思われる6人の黒装束の男達が追いかけていく。
すぐに暗転になり、ナレーションの声が状況説明を始めた。
『ここは、この次元とは異なる世界のとある国。
定められた時に生まれた、この国の太子は「神の子」と呼ばれていた。
名をクラマ太子。
数え切れない程、命を狙われてきたクラマ太子。
だが、そのクラマ太子にも時間が心から信頼を寄せる親友を作らせた。
男女の垣根を越えた友情。
だが、クラマ太子の排斥を狙う、外戚関係のヒエイ将軍に捕らわれた彼女を救おう
と、単独で戦いを挑んだが・・・クラマ太子は深い傷を負ってしまった。
それから1年が過ぎ。
クラマ太子の周りには「仲間」が集うようになっていた。』
照明がつけられると、先ほどの衣装とは別に、立派な衣装に身を包んだ、蔵馬。
周りに数人の部下と思わしき人物。
彼女を救う為の作戦がたてられ、蔵馬の口から次々と聞いた事のある名前。
聞いた事の作戦の名前が飛び出る。
全員が息を飲んで見つめる演技だと言うのに・・・
ぼたんたちだけが、口元をタオルで押さえて、笑いをこらえていた。
幽助たちは、馬鹿笑いをしていたのだが・・・。
いくつかの殺陣をみせつける蔵馬の演技。
誰もが蔵馬の演技に引きつけられ、最初はわらっていた幽助たちも一つの出し物をして
劇を真剣に見つめていた。
「あ。」
クラマ太子が探し求めいていた、「彼女」の存在。
1年の時の学園祭の時に、ミスコンで優勝した女子だった。
綺麗な衣装に身を包んだ彼女。
クラマ太子は、ヒエイ将軍と結婚式する日に最後の奪還作戦を決行したシナリオ。
ヒエイ将軍『さぁ、誓うのだ。我の花嫁になる事を。』
クラマ太子『その婚礼は認めない!!』
客席の一番後ろから姿を出した蔵馬。
ゆっくりと真ん中の通路を歩く。
ちょうど真ん中あたりで立ち止まると、剣をヒエイ将軍へと切っ先を向けた。
『彼女は、返してもらう。』
ヒエイ将軍『よくも生きて入ってこれたものだ。』
バサッ!とマントを翻した瞬間。
前後から敵が現れる。
「きたねぇ野郎だなぁ!!一人相手に!!」
幽助がたまらなく叫ぶと同時に、一斉にクラマ太子へと押し寄せる。
クラマ太子の華麗なる殺陣。
そして、最後の一人を馬跳びで飛び越えた瞬間に、女子から歓喜の声が響いた。
『残るはお前だけだ。』
言った瞬間に、クラマ太子は舞台へと飛び乗った。
彼女を背に隠し、ヒエイ将軍へと構える。
ここから先は、すでに作られたシナリオ。
ヒエイ将軍を倒したクラマ太子。
彼女をお姫様抱っこすると、下手へと消えて行った。
ぼたんが不思議に思った事。
それは「彼女」の名前が出てこないこと。
常に「彼女」や「虎娘」などの名称で呼んで、シナリオを進めてきた。
暗転して、幕が引かれる。
しばらくして、幕が開き・・・蔵馬と彼女だけが舞台に残っていた。
蔵馬は一番最初に身につけていた衣装。
彼女は、婚礼のドレスから動きやすそうな服装に替わり、長い弓を肩に掛けていた。
『殿下・・・貴方の側を離れないと言った約束を違えた事、深くお詫び致します。』
膝をつき、頭をさげる彼女に蔵馬はゆっくりと振り返る。
シーンと静まる返る間。
蔵馬は、彼女を立たせると台詞を言いながら、彼女の後ろへと回り込んだ
『過去の事は、気にしない。そう其方が言ったのではないのか?』
『それはそうですが。』
『これから余は、太子を捨て、クラマとして話す。よいな?』
『え。』
蔵馬は、彼女を後ろから抱きしめた。
その瞬間に、体育館の中が「いやー」とか「やめてー」とか黄色い声援が飛び回った。
かく言うぼたんも、蔵馬が・・・
いくら演技とは言え、他の女性を抱きしめているのは見たくない。
抱きしめた瞬間に、ぼたんは目を閉じて顔を背けた。
そんなぼたんを舞台からしっかり見ていた蔵馬。
満足そうに微笑むと、会場の声が静かになるのを見計らったように、静かに優しく
彼女の名前を呼んだ。
『ぼたん。』
一瞬、名前が呼ばれたように思えて、ぼたんは蔵馬へと顔を向けた。
蔵馬と視線が交じり合う。
蔵馬は幸せそうに、ニッコリと微笑むんだ。
『ボタン、もう離さない。離してなどやるものか。お前は、俺の女だ。』
『殿下。』
『・・・愛している、ボタン。出会ったあの時から、ずっと。だから、俺が落ち着いたら
結婚しよう。』
「きゃーーーー!!!!!」
と再びの絶叫。
だが、ぼたんだけは何も言えずに蔵馬を凝視していた。
舞台にいる彼女でなく。
じっと見つめていたのは、ぼたんだったから。
彼女が口を開こうとした瞬間、蔵馬は彼女に口に指を置いてふさいだ。
『返事は、後で聞く。』
まだ蔵馬の視線は、ぼたんへと注がれたまま。
それに気づいたのは、ぼたんの他にほんの数人。
呆れたようにコエンマは椅子に深く座り直した。
「まったく、やっておれんな。」
「若いって事じゃろ。」
幻海とコエンマの会話をよそに、蔵馬達の舞台は最終へと向かい。
彼女とキスしそうなシーンで暗転になり、暗幕が閉じられた。
もちろん、会場からは、泣き声やら、「やめてー」という叫ぶ声やら、大盛況。
少ししてから、暗幕が開かれると出演した全員が舞台に勢揃いしていた。
一礼すると同時に、双方から役者が立ち去っていく。
最後に蔵馬は彼女の役の子をお姫様抱っこすると、下手へと消えて行った。
目の前には大きなキャンプファイアー。
生徒達は、今日まで作りあげてきた学園祭の看板やら衣装などを、キャンプファイヤーの火へと投げ入れていた。
軽いテンポの曲が流れ始め、フォークダンスが始まっていた。
劇が終わってから、そのまま幽助達は家へと戻って行った。
この後は、幽助の家で打ち上げをしようと言う話しになったからである。
今頃はすでに本人がいない所で打ち上げが始まっている頃だろうか。
誰もいない理科準備室。
そこにいるのは蔵馬とぼたんの二人のみ。
ぼたんは蔵馬が用意していた盟王高校の制服へと身を包んでいた。
これもそれも、キャンプファイアーに出席する為だ。
ぼたんは窓から、楽しそうに踊る生徒達とキャンプファイアーを見つめていた。
あんなに楽しみにしていた学園祭。
あっと言うまに終わってしまう、もの悲しさ。
「ぼたん。」
ぼたんの後ろから蔵馬はそっと抱きしめた。
「綺麗ですね。」
「本当だねぇ。」
「あちらでなくて、こっちがですよい。」
クイとぼたんの顎を持ち上げると、慣れた手つきで蔵馬はぼたんに口づけを送る。
もう何度も口づけをしてきていると言うのに、ぼたんはいつも初々しいままだ。
口づけた後、必ず恥ずかしいそうに俯いて、最高の笑顔をくれる。
今も、ニッコリと俺を見つめている。
少しだけぼたんが俺へと体を預けてきた。
俺はぼたんの頭上に口づけを一つ落とした。
「どうしました?」
「・・・ううん、なんでもないさね。」
互いに話すこともなく、沈黙だけが続いた。
微かに聞こえるフォークダンスの曲。
ぼたんは、自分の胸の前で手を交差させている蔵馬の腕を握った。
「ぼたん?」
「・・・劇、凄く良かったけど・・・蔵馬が・・・他の人と・・・抱き合ってるのは
・・嫌・・・だった。」
ポツリ・・・ポツリ・・・と話すぼたんの声。
沈んだような、そんな声。
俺は抱きしめている腕に少しだけ力を込めた。
ぼたんの首に自分の口を当てた。
チュ・・・と口づけを落とすと、ぼたんの体は面白い程に反応をしめす。
俺は首筋に口をつけたままで
「返事・・・聞かせてください。」
「へ・・・返事・・・!?」
「後で聞きますって言ったでしょう?」
確かに、あの劇の中で言った。
まるで自分に言ってるかのように錯覚したが。
あれは劇中の話しなのだ。
そう思っていたのだが・・・。
「ぼたんには届かなかったですか?俺の気持ち。」
囁くようにつぶやけば、ぼたんの耳がみるみる赤くなっていく。
顔を俯かせるぼたん。
俺の口元は自然を上がっていた。
「ぼたん。」
もう一度だけ、彼女の名前を口にすれば、ぼたんはゆっくりと俺を振り返った。
そして、俺の口にかわいらしい指を乗せた。
「返事は後で。」
少し戯けたように言う彼女。
ふっ・・・・。
俺はそのままぼたんの指をペロっと舐めた。
「ちょいと!!」
「あまりに美味しそうでしたから。」
まったく悪びれてないように言う蔵馬。
ふわりとぼたんの髪をひとすくいすると、チュっと口づけを落とした。
ぼたんは、口をパクパクとさせていたが・・・しばらくして自分を取り戻したのか。
「蔵馬はどこでも蔵馬だねぇ。」
「当たり前ですよ。」
二人の距離が自然と、ゼロになろうとした瞬間。
ブチブチ
『南野ーーー!かわいい彼女と何しけこんでんだぁ!!!
下に降りてこ〜い!』
マイク越しの声。
「///!!」
気がつけば、眼下の生徒は全員こちらへと視線を向けていた。
『コラー!羨ましい事すんなぁ!!!
今日の功労賞とベストカップル賞!
南野に決定したんだから。早く来いよなぁ!!!』
蔵馬とぼたんは互いを見合った。
ベストカップル賞・・・か。
そう言えば、そんな賞を作った覚えがあったが・・・すっかり頭から離れていた。
ぼたんは、ちょん・・・蔵馬の鼻を指で叩いた。
「ほら、お呼びかかってるじゃないか。ちゃんと学生してこないとね。」
「たしかに。」
蔵馬は下に向かって、軽く手をあげるとそのままぼたんの腕を引いた。
「え?私はいいよ。」
「何言ってるんですか、何の為に制服を着せたと思ってるんですか。それにベストカップ
ル賞ですから。二人で行かないとだめですよ。」
「え・・・。」
かぁぁぁぁぁ。
ぼたんの顔がさらに赤くなった。
グイっとぼたんを引き寄せ、蔵馬はそのままぼたんへと軽い口づけを繰り返した。
息苦しくなったぼたんが軽く口元を開けた隙を見逃さずに、さらに深いものへと変わって
いく。
「く・・・らま・・・。」
「黙って。」
繰り返される、口づけ。
『南野ーーー!!!今から委員会は迎えに行くぞ!!!!』
「ちっ。」
え?
〜 後日談 〜
まったりとした昼下がり。
蔵馬の部屋で、学園祭の写真の整理をしている時だった。
突然、ぼたんが何かを思い出したかのように声を上げた。
「あ!」
「どうしました?」
ジトー・・・とコーヒーカップを手に持ちながら、蔵馬を睨むぼたんの視線。
突然、何が起きたのか?
蔵馬は首を傾げて、自分が手に持つ学園祭の写真を見つめた。
「あ。」
俺も一つの事を思い出し、つい声が出てしまった。
「ね?あ。だろう?クレープ奢って貰ってないんだよ!あーあ、損した気分。」
ガクッ・・・
蔵馬はあからさまに、力が抜けた。
何かと思えば、ソレですか・・・。
ぼたんの愛用のクッションを抱え込むと、プウと頬を膨らます。
そんなぼたんの頬にチュっと口づけをした。
「それじゃ、今からケーキの食べ放題でも行きますか?」
「え、でもそれ蔵馬の学校の仕事なんだろう?」
「こんなのそんなに時間かからないですから。」
ぼたんへと手を伸ばせば、彼女は戸惑うことなく、俺の手を取ってくれる。
そんな些細な事が幸せでたまらない。
「ぼたん。」
「んー?」
「食べ放題の後は、俺の方もちゃんと聞いてくださいね。」
「ほえ?」
「返事。後でって言われて、聞いてないですから。甘い物食べてから、ゆっくり部屋で
話しましょうね。」
ニッコリと笑う蔵馬。
にゃ?
〜 言い訳という名の後書き 〜
こんばんは、またはこんにちは。
吹雪冬牙です。
常盤様、大変お待たせ致しまして申し訳ございませんです。
13000HITおめでとうございますm(_ _)m
そして、リクエストをありがとうございました。
しかも前編後編の、長い話しになってすみませんです。
リクエストに叶っていれば、幸いなのですが・・・
イマイチ、自信がないです。
よろしければ、文章&イラストを献上させて頂きたく
掲載させて頂きました。
よろしければ、お持ち帰り頂ければと思います。
本当にいつもご訪問ありがとうございます。
これからも、お暇な時間にでも遊びに来て頂けますと
すごく嬉しいです。
※こちらの作品は13000HIT致しました
常磐様のみお持ち帰りとなりますので、ご了承くださいませ。