愛し愛されてこの命は 芽吹いて咲く



「蔵馬・・・蔵馬・・・。」


うわごとのように何度も俺の名前を呼ぶ君。
俺が側にいると言うのに、まるで遠くにいるかのように、さまよえる手。
ここにいる。
そう主張したくて、俺はぼたんの手を握りしめた。

「ここですよ、ぼたん。」

囁くように耳元に口を近づけば、うっすらと開いたぼたんの瞳と視線が絡む。
嬉しそうに、少し恥ずかしそうな、彼女の表情。

「蔵馬。」

先程とは違う、声色。
やっと見つけたと言わんばかりの、愛情がわかり過ぎるくらいの声。
自分の名前がこんなにも、愛しく感じた事がないくらい。
君の声で俺の名前を呼べば、俺の名前はそれだけで特別なものになる。
ぼたんはきっと知らない。
俺のこんな思いも。
それと同時に、彼女を壊して、俺だけの物にしたいと思ってる衝動も。
殺してしまえば、誰も君を見る事はない。
君の心は、俺に向いたまま。
誰にも触れることも、誰にも渡ることがないと・・・
そんなくだらない、でも本気で考えていると事に。








「蔵馬〜?朝だよ〜。今日は幽助とか黄泉とかと会議だとか言ってなかった?」
「・・・。」

ひょっこりと顔を覗かせたぼたん。
その顔を、マジマジと見つめてしまった。
キョトンとした顔に、さすがのぼたんもいぶかしげに近づいてきた。
顔の前で手をヒラヒラと上下に振る。

「蔵馬−、寝ぼけてるのかい?それともどっか、具合悪い?」

ピンクのエプロンをつけたぼたん。
いつもと変わらないぼたんなのに、どことなく心が打ち解けている。
きっと、今の俺の表情は、滑稽な程に間抜け面かもしれない。
でも、聞かずにはいられなかった。

「ぼたん、俺は・・・。」

この質問は、初めてじゃない。
ぼたんはクスクスと笑いだすと、ベットの脇に腰を下ろして、蔵馬の首に抱きついて来た。
きゅっと心地よいくらいの力加減で、抱きしめてくれる。

「ぼたん?」
「私の旦那様は、愛しの奥さんが誰か、また忘れちまったのかい?」

最後にチュッと口づけをぼたんから落としてくれる。
その後は、必ずと言っていたずらが成功した子供のように、 ニヤリと笑みを浮かべる。

「ぼたん。」

俺はぎゅっ、とぼたんが幻で消えないように、抱きしめた。
夢じゃない。
夢じゃないんだ。
ぼたんは、ここにいる。
俺と共に・・・。
ポンポンと背中を優しく叩く、ぼたんの手が心地よい。

「蔵馬、私はここにいるよ。」
「うん。」
「大好きだよ、蔵馬。」
「俺は愛してます。」
「もう。」

ニッコリと違いに見つめ合えば、どちからともなく、唇が近づく。
先程の軽いキスではなく、夫婦にしか許されない、濃厚なキスが続く。
何度も角度を変えて、ぼたんの口腔内を犯していく。
そのままベットへ押し倒そうとした時だった。


コンコン


扉を叩く音。
開いた扉には、躯が呆れたように手を組んで、蔵馬とぼたんを見つめていた。
その視線をにらみ付けるように、ぼたんを腕の中に捕らえて、見つめた。
こんなかわいいぼたんをたとえ躯でも見せたくない。

「何の用ですか?夫婦の営み中ですよ。」

さっさと去れと暗に言うのだが、それがわかっていていなくなるような
妖怪じゃないのは、百も承知。

「・・・さすがは妖狐だな。朝からお盛んな事だ。それよりも、ぼたん・・・火つけ
っぱなしだぞ?」
「いっけない!!」

チッ。
やられた。
ぼたんはあっけなく、これの腕の中から離れてしまった。

「あ。」

呼び止めようとしたが、ぼたんは「早く着替えてね。」と優しい笑みを向けたまま、部屋
を出て行ってしまった。
引き留めようとした手が宙を彷徨う。
パタパタと急いでリビングにいくぼたんを、優しい表情で見ていた躯。
それが面白くなく、俺はパジャマの上着に指をかけながらベットから降りた。

「いつまでそこにいるおつもりですか?」

蔵馬の声に、躯はぼたんから蔵馬へと視線を戻した。
面白そうに口元を上げている顔が、怒りを刺激する。

「ぼたんがいなければ、すぐに『蔵馬』に逆戻りか?」
「あなたに関係ないでしょう。それにこんな所にいると、飛影に何言われるかわかりませ
んよ。」
「ふむ・・・何か言うのか?飛影。」

奥に向かって叫ぶ躯に、蔵馬は慌てて部屋を出た。
リビングに行けば、ぼたんから皿を渡されて、大人しくテーブルに朝食をセッティングしている飛影の姿。

目が点とはこの事だ。
あの飛影が・・・。
俺の格好をみたぼたんがさらに驚いたように、俺の事を見つめた。

「ちょいと、蔵馬まだ着替えてなかったのかい?」
「ぼたん、ちょっと。」
「あ、ちょいと・・・躯、飛影、先に食べてていいらね…って痛いよ、蔵馬!何すんだい!」

蔵馬に腕を引かれながら、ぼたんはそれだけいい残すと、蔵馬と先程までいた部屋に
逆戻りさせられた。
ぼたんを中に入れると、カチャリと部屋の鍵をかける。

「なんで彼らがいるんですか?」
「なんでって、朝食食わせろって、飛影が来たから、だったら躯を呼ぼうって私が言って
招待したんだけど、何かまずかったのかい?」

キョトンとするぼたんの表情に、心底力が抜けた。
あまりの自分の滑稽さに、笑いがこみ上げてきた。

「く、蔵馬?本当にどうしちゃったんだい?どこか具合でも」

ぼたんが近づいた瞬間、俺はぼたんを腕の中に閉じ込めた。
そのまま唇に噛みつくように、キスをした。
最初は驚いていたぼたんだが、徐々に力が抜けて、俺の首に腕を回してきた。

「はぁ・・・蔵馬・・・。」

熱っぽい視線。
少し蒸気した頬。
本当に、彼女だけは何度抱いても、飽きない。
いつも新鮮な気持ちがする。
本当に自分が彼女と結ばれたのかと、信じれなくなるほど。
夢なんじゃないかと、錯覚する程に。

「ぼたん、夢じゃないよね?俺のぼたんだよね?」
「あんたのぼたんちゃんだよ。蔵馬だって、私のだろう?」
「うん。俺は、君のものだよ。」

ぼたんはキュっと背伸びすると、蔵馬の頬をペロって舐めた。
その衝撃に驚いて思考が止まってしまった。

「私のって証。」

へへへ。って笑うぼたんが愛おしい。
不安になった時、必ずぼたんは側にいてくれる。

「ぼたん・・・愛してます。愛してる・・・ぼたん・・・ぼたん。」

ぎゅっと抱きしめて、何度も名前を肩口で囁いた。
その声にふと違和感を覚えた。
それと同時にぼたんを小さく感じた。
ぼたんの綺麗な空色の髪の色とは別に銀糸の髪。

ふと顔をあげると、ぼたんはこれ以上ないくらいに吹き出しそうな顔をしていた。


「おはよう、妖狐蔵馬。やっと起きたかい?」
「・・・ああ。」
「今日は、治りそうもないねぇ。じゃ、着替えはこっちかな。」

蔵馬用に用意していた洋服の隣には、妖狐蔵馬用に用意した洋服。
ぼたんはポンと蔵馬の手に乗せた。
その洋服をじーっと見つめていた。

「まさか着替えを手伝えなんて言わないだろうねぇ?」
「それも良い余興だな。手うか?ぼたん。」
「それくらい自分でやりな。」

蔵馬の体を軽く押すと、ぼたんは扉へと向かった。
カチャリと鍵を開けると、ふとぼたんが振り返った。

「妖狐蔵馬、今日は寝かせないからね♪」
「・・・。」

ぼたんの言葉に、あっけに盗られた。
盗賊であるこの俺が、ぼたんに心を一瞬にして盗まれた。
その表情が、余ほど嬉しかったのか、とうとうぼたんは吹き出して笑い出した。

「あははは。色々な蔵馬の表情が見れるのは、奥様の特権って感じやね〜。」

パタン。

ぼたんがいなくなった部屋はやけに静かだった。
隣からは、躯と飛影の声が聞こえる。
なにやらもめているのか、ぼたんが仲裁に入ってるようだ。
服など、妖狐蔵馬の時は必要ないと言うのに、ぼたんは必ず準備してくれる。
彼女の中で妖狐蔵馬も、人間の蔵馬も、同じなのだ。
そんな些細なぼたんの心遣いが、愛しさを感じる。



ああ、これは現実だ。



ふと窓から差し込む光を見つめて、ぼたんが用意した服に袖を通した。





確かに現実だ。




この俺が、女の用意した服を着るんだ。





夢であるはずがない。







〜 言い訳という名の後書き 〜

こんにちは、長野のりんご。様。
吹雪冬牙です。15000ヒットおめでとうございます。
リクエスト「夫婦時代のラブラブ」って事でこんな仕上がりになりましたが
大丈夫でしょうか?

ぼたんちゃんは全然気にしてないとは思うですのが
独占欲の強い蔵馬君の事なので
夫婦になればなるほど、妖狐と言う存在を認めてしまって
嫉妬してる・・・みたいな感じがします。
そのウチ、受け入れるのかなぁ?とも思いますが・・・(^_^;)

リクエストに叶っていれば幸いです
よろしければ、文章を献上させて頂きたく
掲載させて頂きました。


よろしければ、お持ち帰り頂ければと思います。
もちろん返品可でございます。


本当にいつもご訪問ありがとうございます。
これからも、お暇な時間にでも遊びに来て頂けますと
すごく嬉しいです。


※こちらの作品は15000HIT致しました
長野のりんご。様のみお持ち帰りとなりますので、ご了承くださいませ。

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