幸 せ の 意 味 を 探 し て   
   〜 第一話 『 転校生がやってきた 』 〜  




 朝、学校に着いた途端にクラスの男子に囲まれた。
何事かと思えば、この中途半端な時期に『転校生』がやってくると言う。
それがどうも女生徒と言う事で、かなりの話題になっていた。
蔵馬はカバンを机の脇にかけながら、興味なさそうに窓の外を見つめた。
どんよりとした重たい雲が広がる。

こんな雨の日は、水先案内人の仕事は大変なんだろうな・・・。

ふと蔵馬の中で、そんな考えがよぎった。
なんでそんな事を思ったのか、意味がわからずに、軽く首を傾げて見た。
先日会ったばかりの水先案内人。
たしか、名前は『ぼたん』と言っていたような気がする。
水色の髪に、くったくのない笑顔。
すこしちょっこちょいな感じもしたが、彼女の笑顔を思い出したと同時に、自分の顔が穏やかになっている。
だが、蔵馬は一切自分のそんな表情に気づきはしなかった。

「おい、南野。聞いてるのかよ。」
「え?」
「え?じゃねぇーよ。斉藤が見たんだと。超絶美人だってさ。」
「へぇ。」

超絶美人と言われても、ピンと来ない蔵馬。
女性と言うものに興味がない訳ではない。
だが、今は異性の事よりももっと大切な事がある。
ただそれだけだ。

「席につけ〜。」

担任が教室に入って来た瞬間。
感じた覚えのある霊圧に、蔵馬は窓から戸口へと顔を上げた。
扉は閉められているが、うっすらと見える水色の髪。
まさか・・・。
まさか・・・。

ドクン





ドクン





ドクン




蔵馬は自分の心臓を落ち着かせるように、ゆっくりと息を吐いた。
だが、そんなくらいで収まるような心音ではなかった。

「今日は、新しい友達を紹介する。入って来なさい。」

扉に手がかかり、ゆっくりと開かれたその先にいた人物に、蔵馬は目を見開いた。
クラス中が、転校生の放つオーラに驚いて、ただ驚いた表情をしていた。
蔵馬は別の意味で驚きのあまり、口もとも開いてしまう。
担任に導かれるように、転校生は教壇の脇で立ち止まった。
ぺこんと頭を下げると、くったくのない、笑顔を全員に向けた。

「はじめまして、水先 ぼたんです。よろしくお願いします。」

水先ぼたん・・・って。
なんて安直な・・・いや、そうじゃなくって!!!

蔵馬はあまりの驚きに、思考が止まってしまった。
ぼたんは蔵馬を見つけると、小さく手を振って来たが、それにすら反応出来ない程に、驚いてしまった。

「それじゃ、水先は・・・南野。お前の隣で頼む。面倒みてやれ。」
「あ・・・はい。」

蔵馬が咄嗟に席を立ち上がると、全員から嫉妬の視線が集中した。
ぼたんは軽やかな足取りで、蔵馬の隣の席についた。
ちょこんとウィンクすると、ガタガタと教科書を出し始める。
蔵馬は小さな声で、ぼたんへと話しかけた。

「どう言うことですか、これは。」
「さぁ?コエンマ様から言われたんだよ。しばらくこっちにいろって。」

だからと言って、わざわざ高校に入ってくる事もないだろうに。
ぼたんは、普段から幽助の中学に制服を着て、出入りしていると言うのだから、そちらに行けばいいと言うのに。
なんと言うか・・・蔵馬にとっては、厄介毎が舞い込んできたとしか思えなかった。
窓の方へ向いて、あからさまにため息を零した。
それに気付いたぼたんは、トントンと蔵馬の机を叩いて来た。
あんまり慣れ慣れしくしないでほしい。
そう言う意味も込めて、ジロリと視線でぼたんの事を見た。
ぼたんはクイっと指を上に上げて『ほ・う・か・ご。』と口パクで一度だけ動かすと、そのまま黒板へと視線を向けた。
どうやら、蔵馬の向けた視線の意味がわかったようだ。
1時限の授業が終わり、早速ぼたんの周りには、物珍しさから生徒がわんさか囲みだした。
いつも通りに、ぼたんはうまく生徒と話している。
無論、俺の周りにも男達が集まって来た。

「いいよなー南野。あーんなかわいい子の隣でさ。」
「お前の隣って、女子が喧嘩するからって事で、フリーだったのに。あっさりと、その席をゲットするとは。」
「ほんと、ほんと。」

勝手に騒いでる人間なだけだ。
ぼたんは、珍獣扱いされて、ありとあらゆる質問責めにあっていた。
両親の事、家の事。
それはもう、そこまで聞く必要あるのか?と思うほど。
だんだんと答えにつまって来たぼたん。
助ける義理など、一つもない。
だが、蔵馬は自然とぼたんの腕を掴んで席を立たせた。

「さっきトイレに行きたいと言ってましたよね。こっちですよ。」
「え、あ、ちょっ…!!」

有無を言わさずに、ぼたんをお手洗いのある場所へと腕を引いた。
目立つ。
見た事のない少女を、学園一人気の蔵馬が一緒に歩いてる。
いや、蔵馬が女性との手を引いてると言うだけで、話題になるのはもっともだ。
しばらくすると蔵馬は手を離した。

「そこの先ですから。」
「ありがとね、蔵馬。まさかあんなに質問責めに合うとは思ってなくて、参っちゃったよ。」
「貴方が参ろうが、俺の知った所ではありません。ただ、俺に迷惑かけないでください。」
「わ、わかってるよ。なんで、そんなに怒ってるんだい?」

怒ってる?
当たり前だろう。
何も聞かされずに、突然に現れて。
自分のクラスの転校生。
あれだけの男どもに、好奇の目で見られて。
苛つかない方が、おかしい。

「貴方だって、先程、さんざん嫌な思いされたでしょう?」
「いや、別に。霊界人だってばれなきゃ、なんとかなるって。」
「なんとかって…。どうして、貴方はそう楽観的なんですか!」
「どうしてって。何、そんなに怒ってるのさ、蔵馬。」

どうしてわからないのだろう。
俺が・・・。
俺が?
ふと冷静になって、蔵馬は急に口を閉ざした。
怒ってる?
確かに、イライラとしたのは確かな事だ。
まるで珍獣のように、好奇の目で見られていれば、知り合いとは言え、面白くない。
見定めるような、あの視線。
ぼたんは何も思わないのだろうか?

「貴方は、あんな視線を浴びて、何も思わないんですか?」
「あんな視線?みんなが見てた事?悪意は感じなかったけど?」
「善意でもなかったはずです。」

蔵馬に言われて、ぼたんは首を傾げた。
確かに、悪意ではない。
では善意なのかと言われると、またそれは違う気がする。
でも。
どちらにしても、どうしてそこまで蔵馬が苛つくのかが、ぼたんには理解出来なかった。

「まぁ、新しく入ってくれば、どこだってああだろうさ。」
「…そうかもしれませんけど。」
「大丈夫だって。一応、首席合格してるんだから。問題ないない♪蔵馬にだって、迷惑かけないから、安心してよ。」

ケラケラと笑いながら言うぼたんに、心底、苛ついた。
蔵馬は、ぼたんに背を向けた。

「蔵馬?」
「…蔵馬ではなくて、南野秀一です。」
「くらっ」

ぼたんが呼び止めようとした途端、蔵馬の妖怪としての視線で睨まれてしまった。
あんな敵にしか見せない視線、今まで一度もぼたんに対して見せた事なかったと言うのに。
手を出しかけて止めた、ぼたんをチラリとみつつ、蔵馬はそのまま教室へと戻って行ってしまった。
蔵馬の姿が見えなくなって、ぼたんはゆっくりと壁に背を付けて、俯いた。
本当なら、幽助の所でも良かった。
でも、どうしてもあの目が忘れられなくて。
何か哀しそうな、何かに耐えているような、そんな目がほっとけなくて。
コエンマに無理を言って、この高校に転校して来たと言うのに。
蔵馬の威嚇にも似た、行為が理解出来なかった。
昨日まで。
幽助達と共に、仕事をしていた時は、普通に笑って話してくれていたのに。
何が、そんなに怒るんだろうか?

「もしかして。」

ぼたんはゆっくりと壁から背を離した。
もしかして、蔵馬は。
自分のテリトリーを犯されたと思ってるのかもしれない。
妖狐とは言え、元は狐。
テリトリーを持つ習性が、蔵馬の逆鱗に触れたのかもしれない。
ぼたんは勝手に解釈すると、ニッコリと笑みを浮かべた。

「なーんだ、そんな事か♪いや、でも待てよ。」

もしも本当に、嫌いだったらどしよう。
幽助が好きなだけで、自分は眼中に入ってなかったとか?
え?ってもしかすると、蔵馬ってそっち方面の人だったの!?
それはそれで、まっとうな道に戻さないと。
このぼたんちゃんが来たからには、普通に女性が良いものだって教えないと。
よしっ。


結局、どんどん趣旨がずれていくいつものぼたんの空回りで。
蔵馬の平和な学園生活は、一片することは間違いない。






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後書き 〜 言い訳 〜
 
ここまで読んでくださり
心より深くお礼申し上げます。


新しい長編小説がスタートしました。
今回は、蔵馬→ぼたん的な方向で話しが進みます。
どんなお話になるのか、お楽しみに〜♪♪
小説イメージのイラストも随時募集中です。
よろしくお願い致します。

 
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
 

掲載日 2011.06.12
吹 雪 冬 牙


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