幸 せ の 意 味 を 探 し て   
   〜 第七話 『貰い手 』 〜  

無情な音を立てて、地に落ちる料理をまるでスローモーションでも見るかのようにぼたんは、見つめた。
目の前では、突如戦闘態勢に入った二人。
その妖気に当てられれば、大抵の妖怪であれば、恐れて近づく事はないだろう。
だが、ぼたんは違った。
驚きに見つめたぼたんの目は、ギュッと目の前の二人を睨みあげた。
一触即発。
お互いの出方をうかがっている蔵馬とクロム。
二人は、互いに足を前へと踏み出した。
蔵馬は小さな葉を剣にして。
クロムは自分のツメを刃にして。
お互いへと振りかざした。
だが。
そんな二人の間に入り込んだのはぼたん。
慌てて二人は自分の手を止める事が精一杯だった。

「なっ!?」
「あぶねっ!!」

ぼたんはギュっと目を閉じた。
ただじゃ済まないと思った。
でも、これだけは許せなかった。
だから。
ぼたんの両頬のすれすれに二つの刃が止まる。
だが、クロムの方が一瞬刃を引くのが遅かった。
うっすらとぼたんの頬に筋がつく。
咄嗟に声を出したのはクロムだった。

「な!何してんだよ!ぼたん!!!」
「何してるは、こっちの台詞だよ!!!二人とも!」

蔵馬とクロムの間に入り、ぼたんにしては珍しく怒りを露わにした。
ぼたんの頬から一筋の血が零れる。
そのぼたんの怪我に、二人の妖気が抑えられていく。
自分がつけてしまった傷にどうしてよいのかわからないクロムは、ただ目の前で膝を折り落ちた料理を拾い集める
ぼたんの事を見つめた。

「ぼたん。」

クロムの狼狽した声にも、ぼたんは答えずに、料理を拾い集めていた。

「クロム、お願いだから帰っておくれ。」
「でもっ」
「クロム。」

ぼたんはゆっくりと顔を上げて、クロムを見つめた。
そこにはぼたんの傷ついた表情。
クロムは蔵馬とぼたんを交互に見つめて、小さく舌打ちするとその場から姿を消した。

「・・・ごめんよ、蔵馬。せっかく、持って来てくれたのに。」

ポロポロ…とぼたんの目から涙が零れた。
蔵馬は静かにぼたんに歩みよると、拾い続けている手を握り閉めた。
手から感じる蔵馬の怒り。

「蔵馬?」
「そんなもの、拾わなくていいです。」
「そんなものって、蔵馬のお母さんが作ってくれた物じゃないか!!」

ふぅとため息をついた蔵馬は立ち上がると同時にぼたんを無理矢理に立たせた。
膝の上に置いてあったタッパーが再び大地に転がる。

「あ・・・蔵馬!なんてこと!」
「料理なら俺の家に行けば、いくらでもあると言ってるんです!!でも、あなたの体は一つしかないんですよ!!」

蔵馬にしては珍しい感情を露わにした言葉にぼたんは、頭に登っていた血が少しずつ冴えていった。
蔵馬はぼたんから視線を逸らす事なく、見つめた。

「あんな妖気の中に入るなんて、あなたはどこまでバカなんですか!?」

突然怒鳴られて、いきなり「バカ」と呼ばれ、ぼたんの頭に再び血が上った。

「なっ!?私はっ!!!」

蔵馬に握られている手を離そうとぼたんが藻掻いた。
だが、ちょっとやそっとは外れるような力ではない。

「離しておくれよ!!」
「離しません!!!」
「なんで!」
「離せないんだ!!」

ふわりと香る薔薇の香り。
ぼたんは驚きのまま目を見開いた。
自分の置かれている状況が理解出来なかった。
なんで、蔵馬の真っ赤な髪が自分の視界を覆っているのか。
薔薇の香りがこんなにも強く鼻腔をくすぐるのか。

「・・・殺してしまうかと・・・。」

微かに聞こえる蔵馬の声。
少し震える蔵馬の体。
ぼたんは、そこでようやく蔵馬に抱きしめられている事に気がついた。

「くら・・・ま・・・。」
「無茶・・・しないでください。」

ようやく蔵馬は顔を上げた。
そのまま流れるように動作で、ぼたんの頬へ手を添えた。
傷の上を優しく撫でるの手つきに、ぼたんの赤面した。
蔵馬の目の奥に今まで見た事のない、優しさが宿っている。
ぼたんは、その変化に驚いて蔵馬から目を離せなかった。

「お願いです。」
「・・・ごめん。」

心底心配したと言う蔵馬の言葉に、ぼたんは素直に言葉が出た。
うつむくぼたんに、蔵馬は顔を覗き込んだ。

「大丈夫ですか?」
「あ・・・うん。これくらい、幽助と一緒にいれば日常茶飯事だしね。」
「貴方って人は。」

ようやく蔵馬から笑みが零れた。
いつものからかうような、意地悪な笑みではない。
月明かりに照らされた蔵馬の笑みは、絶世の美男子と言われる程の妖狐蔵馬の時代が劣る事はないのだろう。
この笑みに、どれほどの人が騙されたのか。
ぼたんの頬にうっすらと熱が籠もった。
蔵馬が触ってるからなのか。
蔵馬の表情を見たからなのか。
その妖艶な笑みのためなのか。
ぼたんは慌てて蔵馬の手から逃れ、自分で頬を抑えた。

「あ、あ、あ、あ、え、えっと、」

ぼたんの慌てる表情を見て、蔵馬はフッと吹き出した。
クスクスと笑うその表情にぼたんはプウと頬を膨らませた。

「何がおかしいんだい、蔵馬。」
「いえ、別に。それよりも、夕食、家に食べに来ますか?」
「え?」
「俺が帰ってから夕食にするって言ってましたから。」

蔵馬は落ちたタッパーを拾った。

「でも、悪いだろう?」
「そんな事ないですよ。その怪我の責任も取らないといけませんしね。」
「だ、だって、これはクロムがしたんであって。」
「コエンマと約束してるんですよ。もしも貴方に怪我でもさせたら、責任を取れって。」
「は!?責任って何さ。」

蔵馬はすっと人差し指を自分の口もとにもっていくとクスリと笑みを浮かべた。

「それは、ヒミツです。」
「ちょ、ちょっと。」
「良かったですね。貰い手が出来て。」
「は?意味分からないんだけど!!!ちょいと、蔵馬!!」

騒ぐぼたんを無視して蔵馬は、ぼたんの部屋の扉を開けた。

「な!?か、鍵!?」

かけていたはずの鍵。
ふと見れば、蔵馬の腕から小さな植物が収納されていく。





・・・妖気をそう言う風に使うんかい・・・。





ぼたんは、がっくりと肩を落とした。

「なんです?」
「蔵馬、それ、一歩間違えれば犯罪だよ。」
「家主が目の前にいるんですから、問題ないですよ。ほら、上着持って着てください。」

半ば強引に蔵馬に押し切られる形で、ぼたんは部屋の中へと入れられた。
蔵馬は玄関に入ると、携帯で家へと連絡する。
まるで、ぼたんが行くのが当たり前かのような会話が聞こえる。
ぼたんは、上着を持ちふと鏡を見つめた。
傷がついた頬。
うっすらと赤い顔。

「何してるんです?置いて行きますよ。」
「あ、ちょっと待っておくれよ!!」

ぼたんは慌てて蔵馬の後に続いた。
近くの木からその様子を見つめていたクロム。
奥歯を噛みしめながら、蔵馬を憎らしげに睨み付けていた。








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後書き 〜 言い訳 〜
 
ここまで読んでくださり
心より深くお礼申し上げます。

六話から凄い時間がたってしまって申し分けないです。
今回から、蔵馬が動き出します。
片想いから両思いへ加速して行きたいと思います。
「幸せの意味」はどこにあるのか。
蔵馬の旅の始まりです(*^_^*)

小説イメージのイラストも随時募集中です。
よろしくお願い致します。

 
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
 

掲載日 2012.02.18
吹 雪 冬 牙


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