※こちらは完全オリジナルになりますので、原作設定でないと・・・と方はご遠慮ください。
なんでもいい!と言われるお嬢様のみ、お読み下さいませ。

真実    



その1


いつから俺はこんなにも彼女を瞳で追うようになったんだろうか・・・?
盗賊妖怪・妖狐として魔界を自由気ままに走り回っていた頃、はっきり言って女そのもの
が快楽と性欲を掻き出す所としか見てなかった。
いや、見れなかった。
一体何人の女を抱いたのか・・・もう数を数えるのもばかばかしい程、覚えてるわけでも
ない。
でも、彼女だけは違った。
彼女に初めて出逢った時は、別になんとも思わなかった。
ただの霊界探偵の助手としてしか見ていなかった。
それから月日を重ねる事に見えてくる彼女の本質。
見ていて本当に飽きなかった。
少々ドジな所もぬけてる所もあるし、そしてもっとも慈愛に満ちていると思う。
彼女が霊界の水先案内人と言うのが、今はあまりにも似つかわしくない職業だと思う。
暗黒武術会の時、俺は心臓が止まる思いがしたことがあった。
そして、それは同時に彼女への想いに気付かされた。
幽助の師匠である霊光波動拳の持ち主であった幻海師範が戸愚呂によって殺された時、彼
女が幻海師範を霊界に導いたのだ。
どれ程つらかったのだろうか。
霊界から戻ってきた彼女はどことなく消えてしまいそうな雰囲気を纏っていた。
そして翌日の朝、窓を何気なしに見つめた時に、彼女の姿を捕らえた。
彼女は絶壁に立ちすくんでいた。
俺はそれを見た瞬間、彼女が飛び降りるのでないかと心臓が止まりそうになった。
それ以降の行動はあまりよく覚えていない。
ただ、気が付けば俺は全力で彼女の所へ駆けつけた。
居なくなる事、失う事の恐ろしさが本当の意味で理解出来たんだ。
俺が彼女の近くまで来た時にはすでに先客がいた。
まさかと思っていた飛影が彼女の脇にいたのだ。
彼女は飛影にすがるように泣き崩れていた。
飛影はそれを振り払う事もせずにただ、ジッと彼女を見つめていた。
しかし、今までの冷たい視線ではなく、彼独自の暖かな眼差しで彼女を見守っていた。
俺はそれ以上見ていられなかった。
その場から姿を消し、そのまま特訓に入った。
鴉に勝つ為の方法がないものかと・・・。
しかし考える事は彼女と飛影と二人の姿ばかりで集中出来ない。
俺は仕方なくホテルに戻った。
すると、俺の部屋の前で彼女がノックをしようか迷っていたのだ。

「何か用ですか?」

突然の俺の出現に驚いたのか一瞬からだをビクつかせていた彼女は、ニッコリと微笑む。
俺はその微笑みが苦しくて、顔を反らした。
彼女に対しての愛をわかった瞬間に失恋とは・・・今まで女を粗末にしていた妖狐時代の
ツケがまわってきたのだろうか・・・?
俺はふとそんな事を考えた。

「ともかく中へどうぞ。」

鍵を開けて彼女を部屋の中へと誘う。
彼女は部屋に入り、端の方で立っている。
俺は彼女をソファーまでエスコートして、コーヒーを入れた。

「で、どうしたんですか?」

いつも通りに営業スマイルとも言える笑みを浮かべて彼女を見た。
彼女は拳を俺の前に差し出した。
意味がわからずキョトンと拳を見つめると、中から一つお守りが出てきた。

「これ、よくきくんだよ。明日、決勝だろう?だから・・・!!・・・魔界の人は神にな
んか縋りたくないだろうけど、でも無事でいれますように・・・。」

最後の方の彼女の声は小さくなっていた。
心なしか顔も赤い。
俺はお守りを受け取った。

「あ、ありがとう。でも・・・」

俺はそのお守りを見て少々困ってしまった。
なぜだか、いやそこが彼女らしいといえばそうなのだが・・・お守りの袋にはなぜだか
『安産』と書かれていたのだ。
彼女の前にお守りを見せる。

「あれま!?いやだよぉ〜わたしったらうっかり間違えてきたのかい!?」

自分の行動に恥ずかしかったのか、さらに顔が赤くなった。
彼女は俺からお守りを取ろうとした。
その寸での所で俺がお守りを彼女の手に渡さないように自分の所に持ってきた。

「あ〜そんなのだめだよぉ。ごめんねぇ、まさか安産とは、ははは。」
「でもお守りはお守りですよ。ありがとう。」

彼女はそのまま顔を沈めてしまった。
俺は彼女を名前を一度も呼んだ事がない。
特に深い意味はないのだが、呼ぶ必要もなかったのだ。
しばらく彼女を見つめていると、彼女の手に雫がこぼれ落ちてきた。
俺は驚いた。
一生懸命唇を噛み締めて泣かないように我慢してる彼女をすぐその場で抱きしめて包み込
んで上げたかった。
彼女はポツリと呟いた。

「蔵馬・・・嫌だからね・・・私、みんなを霊界に案内するなんて・・・もうあんな思い
はごめんだよ・・・。」
「・・・。」

その言葉に俺は瞳を閉じた。
彼女は泣いている時でも美しい。
でも、俺は心の中で彼女に微笑んでいて欲しかった。
一向に顔を上げない彼女を見つめて・・・

























始めて























彼女の名を呼んだ。






















「ぼたん。」
「!!」
















彼女も気付いていたのだろう。
俺が一度も名を呼んだ事が無いことに。

「ぼたん、大丈夫ですよ。幽助も桑原君も飛影もみんな死ぬ気なんてないですから。もち
ろん俺もね。それに、コレもありますから。」

少しおどけて片目を閉じて彼女を見つめると、彼女はうっすらと瞳に涙を浮かべながらキ
レイに笑っていた。
そして翌日には決勝戦。
俺は洋服のポケットに彼女からもらったお守りをしのばせた。
鴉との激闘の末、俺の妖力が限界を越えてあとはただ殺されるしかなかった。
その時だった、ふと彼女のあの哀しい顔が思い浮かんできたんだ。
俺は観客席にいる彼女をチラリと見た。
彼女は両手を組み、心配そうに俺の試合を見つめていた。
もし、俺が死んでしまえば彼女は確実に鴉に殺されるだろう。
もっとも鴉は俺の心と力を望んでいたからだ。
それだけはどうしても許せなかった。
だから鴉を殺しておく必要があったんだ。
俺は命の炎を燃やして魔界の植物を召喚して、鴉との試合に勝った。
相打ちになるハズだった。
俺は死んだと思ったのに、俺はまた自分の肉体で覚醒したのだ。

「生きてる・・・!!」

俺は小さく呟いた。
いつのまにか妖狐の妖力が戻りつつある事に気が付いた。
立ち上がった時に、ポケットからお守りが落ちた。
おまもりは真っ二つになってた。
それを大事そうに拾い上げる。
身代わりになってくれたのか。
そして、それはいまだに俺の机の引き出しに入っている。
暗黒武術会が終わってからと言う物、次々と事件が起きて彼女に思いを告げる事も出来ず
に今に至るのだ。
そして今日はみんなと1年振りに再会する。
魔界トーナメント以来だ。
あの戦いからそれぞれの道が分かれてしまい、それぞれの人生を歩み始めた。
それは別れではなくて、旅立ち。
哀しいけれど、そう言うものだと、自分に言い聞かせながら。
彼女とも生きる世界が違う住人なのだから、これが普通なのだ。
だから時間がくれば忘れられる・・・と思った。
時間が解決してくれるだろうと思っていたのだが、思いは時間がたつごとに日増しに増え
ていったのだ。
我ながら恥ずかしい限りである。



ピンポーン




俺は幽助と蛍子ちゃんの新居のインターホンを鳴らした。
すると中から幽助が出てきた。

「おう、蔵馬久しぶりだな!!どうよ、あんばいは?」
「まぁまぁかな?幽助も元気そうだね。みんな来てるの?」
「いや、まだぼたんとコエンマだけが来てねぇよ。もう少ししたら来るだろ。」
「・・・そうですか。」

俺は幽助に誘われるままに部屋へと入った。
部屋ではすでに静流さんや桑原君が出来上がっていた。
一体いつから飲んでいたのだろうか・・・?
近くには氷女の雪菜もいる。
そしてなんだかんだ言っても必ず出席する飛影。
俺は微笑んだ。

「よぉ!蔵馬じゃねぇか!!久しぶり〜ヒック」
「桑原君、飲み過ぎだろ?」
「まぁまぁ、おめぇも一杯やれよ。」

席に着くと雪菜ちゃんが俺にコップを差し出してくれた。
俺はをそれを受け取ると、桑原君がコップ一杯にお酒をつぎ始めた。









宴会が始まってどのくらいたつのだろが?
先程まで夕日に染まっていた空も今ではすっかり暗くなっていた。
彼女はまだ現れない。
もしかして霊界に何かあって来れなくなったのだろうか・・・?
俺は何度か時計を見つめた。
それを見ていためざとい静流さんが俺にからんできた。

「蔵馬君、大丈夫だって、ぼたんちゃんなら必ず来るから!飲も!!ほら!」
「(苦笑)」

どうしたら良いのやら、幽助もすでに出来上がって蛍子ちゃんに怒られている。
幽助は食べ終わったつまみの袋を何度か振ってないことを確かめる。

「おーい、もうつまみがねぇぞ!」
「それで終わりよ。なんか欲しいなら買ってくれば?」
「なんだってぇ!!」

歩きたくないのだろう。
遠くにいる蛍子ちゃんを一睨みする幽助に、半ば呆れながら俺は席を立った。

「蔵馬、どこ行くんだよ。」
「俺も酔ってきたから夜風にあたりがてらなんか買ってくるよ。」
「お!悪いな蔵馬。」

そそくさとコートを着込み玄関へ向かおうとした時に威勢よくインターホンが鳴り響いた。



ピンポーン


「お!?誰か来たぞ!!蛍子!!」
「ちょっと手が放せないから幽助見てきてよ!!!」
「んだと!!」
「いいよ、幽助。俺が見てくるから。」

俺は玄関を開けると、そこには久しぶりにみる彼女がたっていた。
彼女は寒いのか、自分の手に息を吹きかけて擦っている。
そんな隣でコエンマが微笑みかけている。
!!
俺の中で嫉妬の炎が確実についた。

「ぼたん、遅かったですね。みなさんもう来てますよ。」

そういいながら玄関の門を開く。
彼女は俺がコート着ているのを見つめた。

「もう・・・帰るのかい?」
「いや、おつまみがなくなったんで買い出しですよ。」
「じゃ、私も行くよ。遅れてきたからね!!じゃ、コエンマ様は先に中へ。」

コエンマは一瞬俺を睨んだが、すぐに部屋へと入っていった。
しばらく俺と彼女は何も話す事ことなく歩いていた。
会う前は色々聞きたいこと話したいことがあったのだが、いざとなると何も出てこない。
俺はちらりと彼女を見つめた。
彼女は先程の同じく手を擦り会わせている。

「ぼたん。」

彼女が俺を見つめると同時に俺は彼女の手を取り、自分のポケットへとしまいこんだ。
唖然としてる彼女に俺はニッコリと微笑みかけた。

「これの方が暖かいですよ。」
「・・・うん。」

ポケットの中で俺は彼女の思ったよりも小さい手を握りしめた。
顔を赤くして俯く彼女が可愛らしい。
普段とは別人のようだ。
そのまま何も会話もないままコンビニに辿り着いた。
彼女はコンビニに入るなり、俺の手からすり抜けておつまみを買い始めた。
俺は苦笑した。
彼女は買い物が好きだ。
まだまだ、俺の存在は小さいのかな・・・?
彼女があれこれと悩む後ろ姿を見て微笑む。
これ以上買うのかと言う程の量を持ってレジへと行く。
さすがに店員も驚いたのだろうか、俺達の所為でレジが並んでしまったのは言うまでもない。
帰り道、彼女はまた俯いていた。
そして、俺も先程のコエンマの表情が頭から離れずに胸の内に黒いもやのようなものが存
在していた。

「ねぇ、蔵馬・・・あのさ・・・この間・・・」
「?」

俺が不思議そうに彼女を見つめると、彼女は慌てて首を横に振った。

「あ、やっぱりなんでもないさね。さ、早く帰ろう。」

彼女は俺の一歩前を歩き出す。
ふと、顔に冷たい感触があった。
雪だ。
どうりで冷え込むはずだ。

「わぁ!雪!!!」

彼女は雪に驚き喜んではしゃいでいた。
子供のようにくるくると動き回る姿を見て、俺はいつしか口元が緩んでいた。

「ぼたん、そんなにはしゃいでると・・・!!」

言ってる側から彼女はつまづき転びそうになる。
俺は両手に持っていた荷物を捨てて、彼女の体を支えた。
彼女の腕を引っ張りすぎたのか、彼女は俺の胸になだれこむようになってしまった。
しばらくお互い身動きが取れなくなる。
彼女の良い香りが鼻孔をくすぐる。
限界だった。
俺はそのまま腕を彼女の背中に回して、そっと・・・抱きしめた。
彼女の肩に顔をうずめる。

「蔵・・・馬・・・?」
「ずっと・・・会いたかったんですよ・・・ずっと・・・。」

一瞬彼女の体に力がはいる。
そのまま俺達はどちらから離れることもなく、抱き合っていた。
空から静かに雪が降ってくる。
そんな冷たさを感じる事はなかった。
互いの温もりが暖かかったから。

「ぼたんは、俺に会いたくなかったですか?」

彼女は黙ったまま。
どうしたのかと思い、少しからだを離してみる。
彼女は下を向いて赤面していた。

「ぼたん?」

顔を覗き込むと、彼女の瞳に涙がたまっていた。



ドキー・・・ン・・・・



美しかった。
本当に美しかった。
今すぐにでもサラってしまいたい。
そんな衝動にかられて俺は苦笑をもらす。
人間になっても妖怪盗賊だった頃の、なんでも手にいれなれば気がすまない性分は捨てら
れないようだ。
彼女は涙を溜めた瞳で俺を必死で見つめ返す。

「なん・・・で・・・蔵馬には・・・いるじゃない・・・」

彼女の以外な台詞に今度は俺が固まる番だった。
今なんて言った?
俺には何がいるって言うんだ?
俺は彼女の続きの台詞を待った。

「見たよ、この間。楽しそうにデートしているところ。髪の長い女の人と。」

髪の長い女?
誰の事を言っているのだろうか?
俺が頭をひねっていると、一人の人物にぶち当たった。
静流。
たしかに7日前ぐらいに静流と会って一緒に買い物に行った。
その事を言っているのだろう。
俺はそのまま彼女を見つめる。
もう今は愛しいと言う言葉以外に何も思い浮かばなかった。

「駄目だよ。私は・・・その・・・コ。」

彼女が何か言いかけた時だった。
何処からともなくコエンマが現れた。
俺は手を放すつもりもなく、ただコエンマを一睨みした。
彼女は驚き、俺の腕から逃れようと藻掻き始めた。

「ぼたん、遅いから心配したぞ。」
「コエンマ・・・様・・・。」

そのままコエンマと蔵馬は睨み合った。
最初に視線をはずしたのはコエンマの方だった。

「はぁ。その手を離さんか。」
「あなたに言われる事では無いと思いますが?」

その台詞にコエンマは眉を動かす。

「何を言っておる。ワシのフィアンセじゃぞ。当然だろう。」

その台詞に俺は彼女を見つめた。
彼女は下を向き、俺から視線を外した。

「本当ですか?」

彼女は何の反応も示さなかった。
その変わりにコエンマが答えた。

「丁度7日前だったかな?ずっと返事をもらえなかったんだがな、やっと承諾してもらえ
てな。その報告もあって集まってもらったのだよ。」

俺は瞳を見開いた。
すべての時間がそこで止まったかのような感覚に陥った。


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こんばんは、またはこんにちは吹雪冬牙です。
こちらは冬牙まだ高校生の頃に書いた小説ですね。
そう、あれはちょうど蔵馬VS鴉のTV放映が終わった時だったでしょうか。

なぜか無性に書きたくなって書いてみた文章です。
一応、これって続き物なんですよね。
連載とは言えないモノなので、続き物で。


さて、これから蔵馬がどう動くでしょうか。

お楽しみに!!

ここまで読んでくださった心暖かいお嬢様。
ありがとうございましたm(_ _)m


マスター冬牙