『 大 切 な ・・・ 第 三 話 』
「藍染隊長、おります〜?」
夕方、五番隊の部屋を開ければ、そこには副隊長の雛森の姿があるだけだった。
雛森は市丸を確認するとすぐさま席を立ち上がって頭を下げた。
「すみません、藍染隊長は総隊長に呼ばれて、席を外されてます。」
「ふ〜ん。ほな、この書類渡しておいてくれる?三番隊と五番隊共同現世視察の報告書。」
「はい、かしこまりました。」
「
バイバーイ、雛森ちゃん。
」
市丸は飄々といなくなってしまった。
変な緊張が解けて、雛森は肩から力を抜いた。
「これを藍染隊長の机に・・・。」
ふと一番最初に書かれたの報告書。
雛森は目を見開いた。
そこに書かれていた事実。
隊長のみが閲覧を許される重要書類だが、雛森の目は文章を次々と読んでいく。
「瀕死の・・・重傷・・・?」
くしゃりと書類を握りしめて、雛森は幼馴染みのいる十番隊へと足を向けた。
その目には涙が溢れ、零れ出す。
何も知らなかった。
なんで教えてくれなかったの!?
どうして!?
「
シロちゃん!!!
」
「雛森!?」
勢いよく開かれた扉。
そこには、涙でぐしゃぐしゃになった雛森が、息を切らして立っていた。
そんな雛森を見て、冷静で居られる日番谷ではなかった。
「
雛森?どうした!?何があった!!!
」
日番谷が肩を揺すぶっても、何も話さない雛森。
事を見守っていた乱菊は、雛森が強く握りしめている書類を、そっと取り外した。
そこに書かれているのは、極秘とされるの事実。
そして・・・この字は・・・。
ギン。
「雛森、あんた…これ見たのね。」
「なんだ?」
乱菊は雛森をソファーへと誘導すると、そこへ座らせた。
そのまま乱菊は給湯室へと姿を消した。
そんな乱菊の後ろ姿を見送り、日番谷は再びポロポロと涙を流す雛森を見つめた。
日番谷は乱菊が机に置いていった書類を手に取った。
「
!!
」
その内容を読んで、目を見開いた。
極秘と書かれた書類。
隊長のみが閲覧できる書類なのに・・・。
日番谷の眉間に皺がさらに深く刻まれた。
「雛森。」
「
シロちゃんは知ってたの!?姉ちゃんが瀕死の状態だったって!知ってたの!?
」
一瞬、答えるのにとまどった。
このまま告げていいものか。
だが、ここまで知ってしまったのなら、俺の口から言った方がいい。
「・・・ああ。」
「
なんで教えてくれなかったの!?
」
なかば悲痛の叫び声とも聞こえる。
日番谷は何も言う事が出来ずに、「すまねぇ」としか言えなかった。
お茶を持って給湯室から出てきた乱菊は、そっと雛森にお茶を持たせた。
「飲みなさい。」
「姉ちゃんは今どこにいるの!?乱菊さん、知ってるんでしょ!?」
泣き崩れる雛森の前に、乱菊は表情一つ変えずに見下ろしていた。
何の感情もないかのような、完璧な無表情。
背中がゾクリとした。
その冷たさに。
「雛森。」
乱菊に呼ばれて顔を上げた瞬間。
パシン!
乱菊の見事な張り手。
その痛みに雛森は我に返ったように涙を止めて、乱菊を見つめた。
「それで?泣いてどうするの?謝ってどうするの?」
乱菊の物言いは静かだったが、それがまた怖さを増していた。
雛森の目から再び涙が溢れていた。
コンコン
「
たっだいま〜♪
」
声高らかに部屋に入って来た人物に、目を見張る三人。
それもそのはずだ。
瀕死の重体と聞かされていたが目の前にいるのだから。
三人の驚きの表情にも驚いて固まる。
「、お前なんでここに・・・」
「えっと…何かマズイ時に帰って来た…?」
「姉ちゃん・・・!!」
雛森は、に抱きつくように泣き出した。
意味が分からずに雛森を抱きかかえ、日番谷と乱菊へと視線を向けた。
「ごめんなさい!!ごめんなさい!!」
ひたすらに謝罪の言葉を言うばかりの雛森。
は雛森を一度少しだけ離してから、表情を見つめた。
「何が?」
「だって、姉ちゃんが瀕死の重体だって。」
「は?」
何を言ってるのだと、は力こぶを作るとポンと叩いた。
「私、今まで現世で仕事してきてたんだけど。」
「だって!あの書類に!!!」
そう言って日番谷の持つ書類を指さす雛森。
大方の検討がついたのか、は苦笑した。
「雛森。」
「・・・。」
「私の唯一の自慢は何?」
「・・・不老不死。」
ポツリと呟いた言葉。
良く出来ましたと言わんばかりには、雛森の頭を撫でた。
グリグリと痛いと言う程に。
「分かってんじゃない。その書類になんて書いてあるか知らないけど・・・
不老不死をナメンなよ?
」
そう言って、ポンと頭の上に小さな箱を乗せた。
雛森はその箱に手を添えて、ゆっくりと下ろした。
「これ・・・。」
「現世のお土産。ほら、乱菊にもあるからね。」
そう言うと、見事な放物線を描いて乱菊の手に収まった。
パチンとウィンクすると、乱菊は「ごちそうさまでーす!」なんて現金良く挨拶していた。
そんな乱菊に微笑み、さらに雛森に視線を向けた。
「ね?あんな怪我、どうってことないし。それに何ヶ月前の話をしてんだ。ばーか。」
コツンと額を弾けば、雛森から笑みが零れた。
雛森の表情にホッと日番谷は肩をなで下ろした。
そんな日番谷を見て、もニッコリと笑みを作る。
「日番谷君、お邪魔するよ。雛森君の霊圧が上がったから、気になって来たんだが…。」
入り口に見えたのは藍染。
そして市丸。
「おや、君。いつ現世から戻ったんだい?」
「つい今さっき。」
「それはお疲れ様だったね。ところで雛森君、何かあったのかい?」
全員が雛森に集中する。
雛森はシュンと頭を垂れた。
日番谷は手に持つ書類に視線を送ってから、数歩藍染に近づいた。
「藍染、この書類だが。」
「
あー!!!
こないな所にあったわ!良かったわぁ、総隊長の所に行ってないで。」
ひょいと日番谷から書類を奪い取るのは、市丸。
描いてない汗を脱ぐように、大きくため息をついた。
「昔の未提出の書類を間違えて渡してしもうて、どないしようかと思ってたんですわ。十番隊長サン、
止めておいてくれておおきに。
」
「ギン…書類だけはちゃんとやれっていつも言ってるわよね?」
の鋭い視線が市丸を睨みつけた。
市丸は藍染の背に隠れた。
「堪忍してや、。もう昔の話や、時効や。」
「書類に時効なんてないわよ。まったく。」
呆れたように言う。
「それじゃ、雛森君戻ろうか。」
「はい、藍染隊長。姉ちゃん、本当に大丈夫なんだよね?」
「何度言えばわかるかな、この子は。」
チョンと鼻先をつつけば、雛森は嬉しそうに微笑んだ。
いつも通りの笑顔が戻ると、雛森は藍染と共に部屋を後にした。
霊圧が遠のくのを待つ。
途端にはその場に崩れ落ちるように、体から力が抜けた。
「
っ!?
」
「
姉!!
」
咄嗟に支えたのは、一番近くにた市丸だった。
「目ぇ覚まして、すぐにやる事やないやないの。」
「・・・誰の所為だと思って・・・。」
をゆっくりとソファーへと座らせた。
脇腹からかすかに血がしみている。
乱菊はすぐにさらしを持って、の腹へとあてた。
「姉、まだ傷が。」
「・・・あはは。大丈夫、大丈夫。はぁ・・・これで雛の心配はなくなったね。」
「・・・。大丈夫なわけ・・・ねぇだろ。」
苦笑するに、日番谷は何とも言えぬ顔をした。
確かに、雛森は大切だ。
だが、それ以上にの事も大切だ。
何故、それが理解されない。
「それよりも、ギン。」
ポコンと持っていた菓子の箱で、市丸の頭を殴った。
「
痛っ!
」
「
罰
。」
一言だけ言う。
それの意味に気づかない日番谷ではない。
「
市丸・・・てめぇ、雛森を傷つけたら、殺すと言ったハズだ。
」
「事実に変わりはない。違いますか?」
「だとしても、総隊長の命令で、の怪我の事は極秘になってるんだ。何故、それを。」
「何言うてますの?あれは極秘報告書。本来なら隊長しか見てはあかんもの。それを見た
雛森ちゃんが悪い
んとちゃいますの?」
たしかにそうだった。
市丸の落ち度が無かったとは言えないが、雛森が見てしまった事実は変わらない。
これを大事にすれば、雛森の違反も露見する。
「
市丸…てめぇ!!
」
「そないに霊圧あげたら、が苦しいんとちゃいますか?」
いけね!
俺はすぐに霊圧を下げた。
心配そうにを見れば、はVサインをしていた。
大丈夫って事だろう。
再び市丸の方を見れば、すでに市丸は部屋から消えていた。
あの野郎・・・
絶対にゆるさねぇ!!!
日番谷は、ギュ!と握った拳に力を込めた。
つづく
後書き 〜 言い訳 〜
ここまで読んで下さり
心より深くお礼申し上げます。
これにこりず、次話も読んで頂けますと幸いです。
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
再掲載 2010.11.02
制作/吹 雪 冬 牙
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