遙 か な る 蒼 天 〜 過 去 編 〜 第 一 章 出 会 い・ギ ン 編



「今日も虚退治〜♪明日も虚退治〜♪明後日も明明後日も〜虚退治〜♪」

聞いた事のない歌を口ずさみながら、流魂街を瞬歩で駆け抜ける死神。
15.6才の少年のようにも少女のようにも見えるが、時たま見え隠れする大人の雰囲気。
短い金糸の髪が、太陽の光にはじけてまばゆく光る。
彼女の名前は、 
死神に支給される黒い死覇装を身に纏い。
その上からは、隊長のみが着用を許されている白い羽織。
特にの羽織は袖がない。
そして背中には、自分の隊名が印されている。
まるでその責任を背負うかのように、羽織りの背に刻印されていた。
背中には、死神が持つ事が許されている純白の鞘の斬魂刀が背負われている。
その隣を同じ速度で走る、無表情の青年。
蒼い髪。
後ろ髪が少し長く、低い位置で髪を一つに縛っている。
彼の死覇装の左腕には、副官の証である副官章がつけられていた。
副官章には、隊を象徴する花(隊花)である、アザミが刻印されていた。
彼の名前は藤森 優。
の直属の部下である。

「…気持ちよく歌われてる所、すみませんが。」

言いづらそうに、へと顔を向ける。
どこか音程外れなの歌。
その声につられて、たまに足がもつれそうになる。
苦情を言おうとした時だった。
突然、が足を止めた。

「どうしました?隊長。」
「・・・来るッ!」

小さく呟くと、は空を見上げた。
真っ青な空。
その空がぱっかりと口を開けたかのように開いた。

「虚ですね。」

大量に出て来る虚。
その影をどこか間抜けな拍子で話す藤森。
は、楽しげにニヤリと口もとを上げた。

「つまんないのー。雑魚が2.4.6...20体くらい?」
「そのようですね。援軍呼びますか?」
「その冗談はつまらないよ、優。」
「これは失礼致しました。」

ムウ…としたつまらなさそうな表情を藤森に向けている。
背中に背負う純白の斬魂刀に手をかけると、勢いよく引き抜いた。
まるでクリスタルで作られているかのような、透明度の高い日本刀。

「始解する必要もないね。」
「御意。」

藤森も斬魂刀を引き抜きながら、軽く頭を下げた。
それを視界の端に映しては、虚に立ち向かうと軸足に力を入れて踏み込もうとした時だった。

「ん?」

ふと足を止めて、西へと視線を動かす。

「どうしました?隊長。」

何かを感じ取るかのように、ジッと睨み付けるの視線。
その隙を虚が見逃す訳がない。
と藤森へと容赦ない攻撃を仕掛けてきた。
だが、は簡単にそれを避け、虚に背を向けた。

「優、後は頼む!!」
「え?あのッ、」

言うが早いか、は瞬歩ですでに姿を捕らえる事が出来なかった。
藤森は呆れたようにため息をついて、目の前にある虚を見つめた。

「はぁ…俺、一人に全てを退治しろとは…随分と人使いの荒い隊長だ。」

だが言葉とは裏腹に藤森の表情は活き活きとした表情を見せていた。
ペロリと唇を舐めると、グッと足に力を入れ、虚へと向かって行った。



が向かった先。
一つの虚ともう一つの霊圧を感じた。
それは感じた事のない霊圧。
不安定ながらもしっかりと自分を強調するかのような、霊圧。
はその霊圧目指して、瞬歩で移動した。
念のために自分の霊圧を完全に消して・・・。
しばらくして、大きな虚の姿が見えてきた。

「わーお。最下大虚(ギリアン・メノスグランデ)だ。ん?」

てっきり新人の死神が虚と対峙しているものかと思った。
その霊圧の強さで。
は、近くに降り立ち最下大虚の前にいる傷だらけの少年を見つめた。
手に持つは、脇差し程の小さな木の棒。
あれで勝てるはずがない。
が助けに入ろうとした瞬間だった。
その少年が、の方へと視線を向けた。

私に気づいた!?



霊圧を完全に消してると言うのに。



少しだけ口を開いて、驚いたような表情の少年。
虚は、そんな少年に鋭い爪を突き立てた。
寸での所で交わした少年の瞳がさらに大きく見開かれた。
後ろからもう1体現れた虚。
その手に持たれていたのは・・・

「乱菊!!!」

ギンは唇を噛みしめて、ぐったりとした乱菊を見つめた。
だが、それも一瞬の出来事だった。
気が付けば乱菊を持っていた虚の手が宙へと投げ出されていた。

なんや?

ギンは驚き、先程までいた死神がいた場所を見つめた。
何もいない。
ふと自分の前に影が出来て、目の前を見ると・・・
いつの間にか死神が自分の前に立っていた。
太陽の光のような、金糸の髪。
白い羽織をはためかし、片手には刃。
片手には気絶した乱菊が抱えられていた。

「よく頑張ったじゃん、坊主。」

振り返った死神は、ニィ…っと笑みを浮かべた。
強い視線。
春の陽気なような暖かな・・・この感じ。
そんな目の前に現れた死神に魅入るように、ギンの頭の中は何かボウ…と霞がかかったような感覚に陥った。
だが、次の瞬間。

「坊主!」

鋭い声に、一瞬にして現実に引き戻された。
死神に視点を合わせると、死神は、乱菊を放って投げた。
咄嗟に乱菊を受け止めるが、尻餅をついてしまった。

「何しますの!?」

すると死神は、背中に背負っていた白い鞘をギンの前へと突き刺した。
腰を落としたまま、見上げるギン。

「選手交代。」

それだけ言うと、死神は目の前の虚へと足を踏み込んだ。
だが、何が起きたのか分からなかった。
確かにずっと見ていた。
目など瞑っていない。
瞬間的な瞬きはしたかもしれない。
でも、その瞬間で目の前の虚は死神が持っていた刃で貫かれていた。
まるで手品のように、また死神が自分の目の前に現れた。
刃を上から下へと清めると同時に虚は消えて無くなってしまった。
呆然と今の状況を理解出来なくて、ギンは見つめる事しか出来なかった。





後書き 〜 言い訳 〜
 
 
ここまで読んで下さり
心より深くお礼申し上げます。
 
 

 
文章表現・誤字脱字などございましたら
深くお詫び申し上げます。
 

掲載 2011.02.16
制作/吹 雪 冬 牙


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